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battle in Paris(パリでの戦い)
[night of martial law Ⅲ(戒厳令の夜) ]
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こんな狭い所にジッとしていると7月7日の事を思い出さずにはいられない。
この日、俺たちの部隊はカーンの中心部を流れるオルヌス川北岸にある競馬場付近に居た。
夕方に空襲警報が鳴り始め、北の空を見上げた時には既に敵爆撃機の大編隊がそこまで来ていた。
「退避―‼」
退避命令が出たので俺たちは、防空壕に急いで非難した。
防空壕と言っても分厚いコンクリートで出来たものではなく、狭い溝を掘った上に天井板を乗せて、その上に土を被せてトンネル状にした簡単なもの。
当然爆弾の直撃には耐えられない。
だが、無いよりはマシ。
敵の爆撃を堕とすため競馬場付近の森に配置された88mm高射砲が火を噴くたびに、防空壕の土の壁が振動で少しずつ崩れていく。
一応壁の所々にも板が立てかけてあるが、あまり役に立つとは思えない。
敵爆撃機からの爆弾投下が始まると、防空壕内にいる兵士たちの緊張は高まり、光のない闇は人に不安を与える。
爆弾による地鳴りが近付くにしたがい、その恐怖はピークに達して行く。
不安に耐えかねた何人かが悲鳴を上げ、俺たちの防空壕の近くに爆弾が落ちた時に、ついに天井や壁の何カ所かが崩れ防空壕から奇声を上げて飛び出して行く兵士もいた。
外に出た者たちの多くは爆風や、爆風で巻き上げられた破片などに見舞われるか爆撃機の護衛に付いて来た戦闘機の機銃掃射によって倒される。
俺達歩兵は、じっと暗い防空壕に留まり待つことしか出来ない。
ようやく空襲が終わったとき、ゼーゼマンは崩れた天井の生き埋めになって死んでいた。
「ルッツ……」
誰かが俺を呼ぶ声が聞こえた気がして、耳を澄ます。
「ルッツ、どこに居るの?」
気のせいではない、これはジュリーの声だ。
「ジュリー」
俺はジュリーの名前を呼び、ホームに開けられた狭い穴から外に出て、マッチの火を点けた。
薄っすらと額に汗が光るジュリーの肌が、いつもより大人びて、そして妖艶に映し出される。
一度軍政局からホテルに戻ってから着替えて来たのだろう、濃いカーキ色のシャツにこげ茶色のズボンというボーイッシュな服装で、長いブロンズの髪も服装に合わせる様に頭の上に巻いていて見間違えるように可愛く感じた。
平和な世の中であれば映画やファッションモデルとしても充分働けるだろうと呑気に見惚れていたが、彼女の放った声は俺を緊迫した戒厳令の夜と言う現実の世界に呼び戻す。
「遅くなってゴメンなさい」
普通の声ではない。
何か思いつめたような切羽詰まった声。
「どうした!何かあったのか!?」
「……なにもない。アナタはそのまま。戦争は終わらない」
「戦争は終わらない?一体何なんだ?」
「知らない方が良い」
「何故!? 何があったんだ‼?」
「シッ……声が大きいわ」
ジュリーは人差し指を口の前で立て、俺の言葉を制止させると、暗闇の中でも良く分かるその青い大きな目をキョロキョロさせて辺りの様子を窺っていた。
「とりあえず、ここでは話は出来ないわ。隠れ家に行きましょう」
「隠れ家?ジュリー、君は一体……」
「着いて来る来ないの判断はアナタに任せるわ」
そう言うとジュリーは地下鉄のトンネルの中を、後ろも振り向かずにスタスタと歩き出す。
なにかヤバい臭いがプンプンするが、ジュリーから何としても話を聞き出したくて俺は後を着いて行く。
それに、もしここで分かれたら、もう二度とジュリーとは会えない気がしてならなかった。
真っ暗なトンネルの中でジュリーは器用に、外へ出る点検用の縦穴を見つけ出して登る。
いや見つけ出したのではなく、予め知っていたのだ。
でもルーアンに居るジュリーが、何故パリの地下鉄の点検用の縦穴の在りかを知っているんだ?
ジュリーの後に付いて登って出たところは、レンガの崩れた荒れた倉庫の傍だった。
「ここは?」
「安全な所。サルペトリエール病院の敷地内にある、今は使われていない倉庫と焼却場の間の通路よ」
なるほど道路側は高い塀で覆われていて、病院の方も使われていない倉庫が邪魔をして見通しが利かなくなっていて、通りには焼却場しかない。
つまり焼却場に用事がない限り、誰もこの通路を使う者は居ないと言う事になる。
夜間に焼却場を使う者は居ないから、隠れるのには好都合な場所だ。
「何故、そんな所に出る事を知っていた?」
ここまで用意周到なのは、“さすが”と褒めてあげたいところだが、用意周到にも度が過ぎる。
これじゃあまるで……。
この日、俺たちの部隊はカーンの中心部を流れるオルヌス川北岸にある競馬場付近に居た。
夕方に空襲警報が鳴り始め、北の空を見上げた時には既に敵爆撃機の大編隊がそこまで来ていた。
「退避―‼」
退避命令が出たので俺たちは、防空壕に急いで非難した。
防空壕と言っても分厚いコンクリートで出来たものではなく、狭い溝を掘った上に天井板を乗せて、その上に土を被せてトンネル状にした簡単なもの。
当然爆弾の直撃には耐えられない。
だが、無いよりはマシ。
敵の爆撃を堕とすため競馬場付近の森に配置された88mm高射砲が火を噴くたびに、防空壕の土の壁が振動で少しずつ崩れていく。
一応壁の所々にも板が立てかけてあるが、あまり役に立つとは思えない。
敵爆撃機からの爆弾投下が始まると、防空壕内にいる兵士たちの緊張は高まり、光のない闇は人に不安を与える。
爆弾による地鳴りが近付くにしたがい、その恐怖はピークに達して行く。
不安に耐えかねた何人かが悲鳴を上げ、俺たちの防空壕の近くに爆弾が落ちた時に、ついに天井や壁の何カ所かが崩れ防空壕から奇声を上げて飛び出して行く兵士もいた。
外に出た者たちの多くは爆風や、爆風で巻き上げられた破片などに見舞われるか爆撃機の護衛に付いて来た戦闘機の機銃掃射によって倒される。
俺達歩兵は、じっと暗い防空壕に留まり待つことしか出来ない。
ようやく空襲が終わったとき、ゼーゼマンは崩れた天井の生き埋めになって死んでいた。
「ルッツ……」
誰かが俺を呼ぶ声が聞こえた気がして、耳を澄ます。
「ルッツ、どこに居るの?」
気のせいではない、これはジュリーの声だ。
「ジュリー」
俺はジュリーの名前を呼び、ホームに開けられた狭い穴から外に出て、マッチの火を点けた。
薄っすらと額に汗が光るジュリーの肌が、いつもより大人びて、そして妖艶に映し出される。
一度軍政局からホテルに戻ってから着替えて来たのだろう、濃いカーキ色のシャツにこげ茶色のズボンというボーイッシュな服装で、長いブロンズの髪も服装に合わせる様に頭の上に巻いていて見間違えるように可愛く感じた。
平和な世の中であれば映画やファッションモデルとしても充分働けるだろうと呑気に見惚れていたが、彼女の放った声は俺を緊迫した戒厳令の夜と言う現実の世界に呼び戻す。
「遅くなってゴメンなさい」
普通の声ではない。
何か思いつめたような切羽詰まった声。
「どうした!何かあったのか!?」
「……なにもない。アナタはそのまま。戦争は終わらない」
「戦争は終わらない?一体何なんだ?」
「知らない方が良い」
「何故!? 何があったんだ‼?」
「シッ……声が大きいわ」
ジュリーは人差し指を口の前で立て、俺の言葉を制止させると、暗闇の中でも良く分かるその青い大きな目をキョロキョロさせて辺りの様子を窺っていた。
「とりあえず、ここでは話は出来ないわ。隠れ家に行きましょう」
「隠れ家?ジュリー、君は一体……」
「着いて来る来ないの判断はアナタに任せるわ」
そう言うとジュリーは地下鉄のトンネルの中を、後ろも振り向かずにスタスタと歩き出す。
なにかヤバい臭いがプンプンするが、ジュリーから何としても話を聞き出したくて俺は後を着いて行く。
それに、もしここで分かれたら、もう二度とジュリーとは会えない気がしてならなかった。
真っ暗なトンネルの中でジュリーは器用に、外へ出る点検用の縦穴を見つけ出して登る。
いや見つけ出したのではなく、予め知っていたのだ。
でもルーアンに居るジュリーが、何故パリの地下鉄の点検用の縦穴の在りかを知っているんだ?
ジュリーの後に付いて登って出たところは、レンガの崩れた荒れた倉庫の傍だった。
「ここは?」
「安全な所。サルペトリエール病院の敷地内にある、今は使われていない倉庫と焼却場の間の通路よ」
なるほど道路側は高い塀で覆われていて、病院の方も使われていない倉庫が邪魔をして見通しが利かなくなっていて、通りには焼却場しかない。
つまり焼却場に用事がない限り、誰もこの通路を使う者は居ないと言う事になる。
夜間に焼却場を使う者は居ないから、隠れるのには好都合な場所だ。
「何故、そんな所に出る事を知っていた?」
ここまで用意周到なのは、“さすが”と褒めてあげたいところだが、用意周到にも度が過ぎる。
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