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第一章 オーウェン・ブラッドリィ
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アナ・ベイアには生まれてすぐに婚約者が決められた。
それは彼女が望んだものではなかったし、また相手であるオーウェン・ブラッドリィ伯爵令息の願いでもなかった。
要するに、大人たちが勝手に決めた相手であったのだ。
両家は爵位の違いこそあれど領地は隣り合わせであったし、父親同士が幼馴染みということもあって元々家族ぐるみの付き合いがあったのだ。
そこでちょうどと言ってはなんであったが、お互いの息子と娘で結婚して本当の親戚になったらいいと話が進んだのである。
幼い頃から言い聞かされていたこともあって二人はごくごく自然にその関係を受け入れていたし、一つ上のオーウェンのことをアナは素直に慕っていた。
成長するにつれて婚約の意味を理解し、恋慕う気持ちはなかったものの、穏やかに育んだ信頼を胸にいずれは夫婦として良い関係を築いていけるに違いないと思ったものだ。
オーウェンはブラッドリィ伯爵家の長男であり、跡取りだ。
金茶の髪は少しだけくせっ毛で、やや垂れた目が優しい印象を与える。
ちょうど伯爵領にある湖のように穏やかな色合いの青は、アナの好きな色になった。
アナはベイア子爵家の長女であったけれど、双子の弟であるヨハンがいるため嫁ぐことに問題は何一つなく、少しだけ内向的ではあるがそれでも勤勉で、ブラッドリィ家の夫婦からは良いお嫁さんが来てくれると褒められたものである。
彼女は赤の髪に新緑の目の色をしていたため、オーウェンとはいつも互いの色を入れるのに青と赤を選んでいた。
アナはブラッドリィ伯爵領によく足を運び、領内のことをオーウェンと学んだ。
「二人で領地経営を頑張ろうね」
「うん」
それは、他愛ない、子供らしい約束だった。
貴族としてはよくある婚約だったし、両親たちの関係も、金銭的なトラブルも何もない――絵に描いたように穏やかで、誰もが羨むようなほどに調った婚約であった。
しかし、成長と共に思春期を迎え、少しずつアナとオーウェンの関係にも変化が見えた。
幼い頃は互いにはにかみながらも好きだと言い合えていたものが、年頃になればやはり気恥ずかしさも出てくる。
互いに男女として体つきの変化もあれば、閨教育も始まってそこに恥じらいが生まれる。
そうなると顔を合わせるのにも照れが生じることもあり、ほんの少しだけ、すれ違いが生まれた。
しかしながらそれは年頃の男女であれば一度はそうなるもので、親たちも特段気にとめることもない。
時間がいずれ解決してくれる――その時は誰もがそう思ったのだ。
少なくとも、貴族の子息令嬢が社交目的でより深い知識を学ぶための学園にオーウェンが通い始めるまでは。
それは彼女が望んだものではなかったし、また相手であるオーウェン・ブラッドリィ伯爵令息の願いでもなかった。
要するに、大人たちが勝手に決めた相手であったのだ。
両家は爵位の違いこそあれど領地は隣り合わせであったし、父親同士が幼馴染みということもあって元々家族ぐるみの付き合いがあったのだ。
そこでちょうどと言ってはなんであったが、お互いの息子と娘で結婚して本当の親戚になったらいいと話が進んだのである。
幼い頃から言い聞かされていたこともあって二人はごくごく自然にその関係を受け入れていたし、一つ上のオーウェンのことをアナは素直に慕っていた。
成長するにつれて婚約の意味を理解し、恋慕う気持ちはなかったものの、穏やかに育んだ信頼を胸にいずれは夫婦として良い関係を築いていけるに違いないと思ったものだ。
オーウェンはブラッドリィ伯爵家の長男であり、跡取りだ。
金茶の髪は少しだけくせっ毛で、やや垂れた目が優しい印象を与える。
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「二人で領地経営を頑張ろうね」
「うん」
それは、他愛ない、子供らしい約束だった。
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しかし、成長と共に思春期を迎え、少しずつアナとオーウェンの関係にも変化が見えた。
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しかしながらそれは年頃の男女であれば一度はそうなるもので、親たちも特段気にとめることもない。
時間がいずれ解決してくれる――その時は誰もがそう思ったのだ。
少なくとも、貴族の子息令嬢が社交目的でより深い知識を学ぶための学園にオーウェンが通い始めるまでは。
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