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第六章 吸血鬼、暗躍できない。
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さて、その後話し合いを経て――というか、翌々日くらいにミア様とイアス様に私たちは呼び出されて『隠し事をしているだろう、白状しろ』と詰め寄られてしまったのだ。
何故かイナンナまでいるんだけど。
彼女は目を白黒させていた。可哀想に。
ちなみに私とジャミィルはハルトヴィヒからバレたのでは? と疑ったんだけど、意外や意外、ハインケル経由だった。
なんとあの悪魔、この学術都市で騎士団に所属しているらしい。
つまり、ハインケルは『騎士として』、うちのおじさんと子供たちがなにやら密談しているとセンセイに相談、センセイから王族二人に……という流れらしい。
「ちょっとセンセイ?」
「いやあ。面白そうなことしてるのに私たちを遠ざけるものだから、つい」
「つい、で面倒ごと増やす教師とかどうなのよ」
ほんとどうなのよ。
まあ教師としてよりもカレンデュラのエルフ個人としての行動だとわかってるけどね!
あとハインケル! 面白そうだからだろう、絶対に!!
とまあ、悪巧み……ってほどでもないけどある程度、情報を共有していた……ってことを説明せざる終えない状況になってしまって、私たちの気遣いは無駄になったというわけだ。
「なるほどね、確かにそういう意味では……知らない方がいいこともあるのだろう」
「でも知っていても問題はありませんわ。わたくしたちが態度にも言葉にも出さねば良いだけの話」
きっぱりと言ってのけるミア様はかっこいいけどね、その後ろでスィリーンが『できるかなあ』って自信なさそうにしてるの気づいてあげてほしい。
ジャミィルが天を仰いでるから。
「うちは……どちらかというとハルトヴィヒ、お前の方が心配だけどね……」
「殿下! ひどいですよ!?」
まあいずれにしても『マリカノンナ・アロイーズ・ニェハ・ウィクリフ』は人間族ではない、ということが彼らの共通認識となったのだ。
しかし驚きというかなんというか……私の心配をよそにミア様とイアス様は『損なことじゃないかと思っていた』で済ましちゃったんだよね。
盛大に驚いてくれたのはスィリーンとイナンナだった。
ある意味君らが正解だからね!?
「いやしかしそうか、王族であるお二人に並ぶ教養、それを持つ平民などそういるはずもない……見抜けなかっただなんて、未熟だわ……!!」
(そういうことじゃないと思う……)
スィリーンはイイコなんだけど、どうもなんかこう……ズレているよね。
ジャミィルが心配する気持ちも良くわかるよ……。
イナンナはイナンナで目を輝かせている。
「マリカノンナちゃんがすっごく綺麗なのって他の種族だったからなんだね! おじさんもかっこいいし……いいなあ、わたしね、他の種族と仲良くなれる日がきたらいいのにってずっと思ってたんだあ!!」
ああ、うん……。
そういえばイナンナの部屋には児童文学っぽい本がたくさん並んでいたもんね。
夢見る乙女っていうか、純真っていうか……こちらはこちらで心配になるなあ!
「……あのねえ、もし私が吸血鬼だったらどうするのよ!」
あまりにもみんなが普通に受け入れるモノだから、私は思わず強い口調でそう言ってしまった。
だってそうじゃない!?
びっくりして何言ってんだコイツみたいな目でこっちを見てくるけどさ、私はおかしくないと思うんだよね!?
「あのねえ! 私が語った歴史が本当かどうかなんてどうやって確かめるの。私が嘘を吐いている可能性だってあるんだからね? 人間族以外は凶暴じゃないってのが嘘だったら、アンタたち内部から食い荒らされるんだからね? わかってんの!?」
「あー、それはないな」
「ないわね」
「ないと思ってるよ」
「ないだろう」
「ないよお」
一斉に否定された。
な、なんだってー!?
ジャミィルが代表するようににやりと笑って言った。
「そもそもカレンデュラ先生にも話を聞いたが……、人間族には到底どうしようもない古式の魔法や魔族立ちが有する魔具。滅ぼそうと思えば簡単にできるだろう」
「……それは……ほら、足並みが揃わないとかそういう」
「愚かな皇帝の童話のようなことが過去にあったんなら、人間たちが増える前にアンタたちは行動を起こせたはずだ」
「そうだね。そしてそれをしなかったってことは、する必要がなかったか……或いは、無用の争いを避けてくれたかだ」
そしてイアス様が言葉を続けて、微笑んだ。
私はその連係プレイにぐうの音も出ない。
「そして今もそうやってわたくしたちが油断しないようにと気を遣うマリカノンナが悪い存在だなんて欠片も思えませんわ」
「ミア様がそう仰るなら、それに倣います」
「スィリーンはもう少し自分で考えるようになさいね……?」
ミア様とスィリーンにもそう言われて、私はもう脱力するしかない。
そんな私の腕に抱きつくようにして見上げてきたイナンナが、笑った。
「それを言うならわたしのことをとっとと食べちゃわなかった段階で、マリカノンナちゃんがイイコだってみんな気づいてるって!」
「イナンナ……」
はあー可愛い。
私はイナンナにもたれるようにして、降参するように両手を挙げた。
「わかった。わかったわよ……」
果たしてこういう暴露の仕方で良かったのか?
答えは今のところわからないけど、多分正解はないんだと思う。
センセイは笑うだけだった。
「それじゃあ夏は、カタルージアとサタルーナ、両方にちょっとずつ滞在ってことでいいかしら?」
「さんせーい!」
「そうそう、それなんだけどね」
センセイがふと思い出したように古い地図を私たちの前に出した。
それを全員で覗き込む。
「マリカノンナのおじに教わったとおり、その昔大陸を支配した皇帝が治める帝国があったわけだけど、サタルーナとカタルージア、そしてこの学術都市を合わせたこの土地がその帝国の帝都だったんだよね」
ほら、と指し示された内容に、私たちは顔を見合わせる。
センセイは笑顔のままだ。
「じゃあ、調査よろしくね! いやあ、サタルーナとカタルージアの両王家、それから私たちの仲間が上手いこと友情を築く日が来たら手伝ってもらうようにっていう長老たちの願いが要約叶うだなんてね~、感無量だよ。先年越しの悲願じゃないかな?」
「は? え?」
私、それ知らないんですけど?
もちろん、この場にいる誰もが混乱している。
この場におじさんがいたらとっちめてやるのに!!
「長老たちだって〝このまま〟ではいけないとは思っているのさ。ただ、どこかの種族が一つだけで行動を起こせる問題ではない」
「……それは」
「マリカノンナは、誰に何かを言われるまでもなく行動を始めた。そしてその行動は、確実に彼らに対して影響を及ぼした。最初は水たまりに石を投げ込む程度の変化で良いのさ」
センセイの言葉に、私は押し黙る。
周りも、黙った。
「君らは今を精一杯生きればいい。その中で、どうしたいのか試行錯誤してご覧。困った時には大人を頼れば良いのだし、失敗はいくらしたっていいのさ。死ななきゃね」
言ってることはいいことなんだろうけど、物騒であるこのエルフ。
私は苦笑した。
「じゃあ、今は夏期休暇を楽しむついでに友達を困らせる連中をプチッとすればいいってこと?」
「まあそうだね!」
「プ、プチっとはだめじゃないかな……?」
イナンナがさりげに注意してくれた。
うん、どうやら彼女がこの集団においての良心になってくれるのだろう。
「それじゃあ、私はこれからも地位向上を目指して頑張るかあ!」
「お、なんだそれ?」
「初めて聞いたな」
私の言葉にジャミィルとハルトヴィヒが反応した。
それに私はニヒッと笑みを返すだけだ。
そうだね、一つの種族だけではどうしようもないなら――巻き込んでいくしかないのよね。
そもそもその予定だったモノが、前倒しになったんだと考えよう。
私がここで活躍すれば、きっと誰も文句が言えない。
(そうよね、私はこんなに美少女で優秀な吸血鬼なんだから!)
地位向上は、案外そう遠くない未来成功するかもしれない。
まだまだ問題は山積みだし、私ははっきりと自分が『吸血鬼だ』と明かしたわけじゃないけど。
多分、全員が理解しちゃったとは思うけど!
でもまあ、そんなことはどーでもいいのだ。
私は、私にやれることをやるだけだ。
「それじゃあ、旅行を楽しもうか!」
***********************************************************************
これでこの話は一旦終了となります。(きりがいいので)
色々と話の展開としては続けられるのですが、一旦ここで!
また続きが書けるようになりましたらその時楽しんでいただけるよう頑張ります!
何故かイナンナまでいるんだけど。
彼女は目を白黒させていた。可哀想に。
ちなみに私とジャミィルはハルトヴィヒからバレたのでは? と疑ったんだけど、意外や意外、ハインケル経由だった。
なんとあの悪魔、この学術都市で騎士団に所属しているらしい。
つまり、ハインケルは『騎士として』、うちのおじさんと子供たちがなにやら密談しているとセンセイに相談、センセイから王族二人に……という流れらしい。
「ちょっとセンセイ?」
「いやあ。面白そうなことしてるのに私たちを遠ざけるものだから、つい」
「つい、で面倒ごと増やす教師とかどうなのよ」
ほんとどうなのよ。
まあ教師としてよりもカレンデュラのエルフ個人としての行動だとわかってるけどね!
あとハインケル! 面白そうだからだろう、絶対に!!
とまあ、悪巧み……ってほどでもないけどある程度、情報を共有していた……ってことを説明せざる終えない状況になってしまって、私たちの気遣いは無駄になったというわけだ。
「なるほどね、確かにそういう意味では……知らない方がいいこともあるのだろう」
「でも知っていても問題はありませんわ。わたくしたちが態度にも言葉にも出さねば良いだけの話」
きっぱりと言ってのけるミア様はかっこいいけどね、その後ろでスィリーンが『できるかなあ』って自信なさそうにしてるの気づいてあげてほしい。
ジャミィルが天を仰いでるから。
「うちは……どちらかというとハルトヴィヒ、お前の方が心配だけどね……」
「殿下! ひどいですよ!?」
まあいずれにしても『マリカノンナ・アロイーズ・ニェハ・ウィクリフ』は人間族ではない、ということが彼らの共通認識となったのだ。
しかし驚きというかなんというか……私の心配をよそにミア様とイアス様は『損なことじゃないかと思っていた』で済ましちゃったんだよね。
盛大に驚いてくれたのはスィリーンとイナンナだった。
ある意味君らが正解だからね!?
「いやしかしそうか、王族であるお二人に並ぶ教養、それを持つ平民などそういるはずもない……見抜けなかっただなんて、未熟だわ……!!」
(そういうことじゃないと思う……)
スィリーンはイイコなんだけど、どうもなんかこう……ズレているよね。
ジャミィルが心配する気持ちも良くわかるよ……。
イナンナはイナンナで目を輝かせている。
「マリカノンナちゃんがすっごく綺麗なのって他の種族だったからなんだね! おじさんもかっこいいし……いいなあ、わたしね、他の種族と仲良くなれる日がきたらいいのにってずっと思ってたんだあ!!」
ああ、うん……。
そういえばイナンナの部屋には児童文学っぽい本がたくさん並んでいたもんね。
夢見る乙女っていうか、純真っていうか……こちらはこちらで心配になるなあ!
「……あのねえ、もし私が吸血鬼だったらどうするのよ!」
あまりにもみんなが普通に受け入れるモノだから、私は思わず強い口調でそう言ってしまった。
だってそうじゃない!?
びっくりして何言ってんだコイツみたいな目でこっちを見てくるけどさ、私はおかしくないと思うんだよね!?
「あのねえ! 私が語った歴史が本当かどうかなんてどうやって確かめるの。私が嘘を吐いている可能性だってあるんだからね? 人間族以外は凶暴じゃないってのが嘘だったら、アンタたち内部から食い荒らされるんだからね? わかってんの!?」
「あー、それはないな」
「ないわね」
「ないと思ってるよ」
「ないだろう」
「ないよお」
一斉に否定された。
な、なんだってー!?
ジャミィルが代表するようににやりと笑って言った。
「そもそもカレンデュラ先生にも話を聞いたが……、人間族には到底どうしようもない古式の魔法や魔族立ちが有する魔具。滅ぼそうと思えば簡単にできるだろう」
「……それは……ほら、足並みが揃わないとかそういう」
「愚かな皇帝の童話のようなことが過去にあったんなら、人間たちが増える前にアンタたちは行動を起こせたはずだ」
「そうだね。そしてそれをしなかったってことは、する必要がなかったか……或いは、無用の争いを避けてくれたかだ」
そしてイアス様が言葉を続けて、微笑んだ。
私はその連係プレイにぐうの音も出ない。
「そして今もそうやってわたくしたちが油断しないようにと気を遣うマリカノンナが悪い存在だなんて欠片も思えませんわ」
「ミア様がそう仰るなら、それに倣います」
「スィリーンはもう少し自分で考えるようになさいね……?」
ミア様とスィリーンにもそう言われて、私はもう脱力するしかない。
そんな私の腕に抱きつくようにして見上げてきたイナンナが、笑った。
「それを言うならわたしのことをとっとと食べちゃわなかった段階で、マリカノンナちゃんがイイコだってみんな気づいてるって!」
「イナンナ……」
はあー可愛い。
私はイナンナにもたれるようにして、降参するように両手を挙げた。
「わかった。わかったわよ……」
果たしてこういう暴露の仕方で良かったのか?
答えは今のところわからないけど、多分正解はないんだと思う。
センセイは笑うだけだった。
「それじゃあ夏は、カタルージアとサタルーナ、両方にちょっとずつ滞在ってことでいいかしら?」
「さんせーい!」
「そうそう、それなんだけどね」
センセイがふと思い出したように古い地図を私たちの前に出した。
それを全員で覗き込む。
「マリカノンナのおじに教わったとおり、その昔大陸を支配した皇帝が治める帝国があったわけだけど、サタルーナとカタルージア、そしてこの学術都市を合わせたこの土地がその帝国の帝都だったんだよね」
ほら、と指し示された内容に、私たちは顔を見合わせる。
センセイは笑顔のままだ。
「じゃあ、調査よろしくね! いやあ、サタルーナとカタルージアの両王家、それから私たちの仲間が上手いこと友情を築く日が来たら手伝ってもらうようにっていう長老たちの願いが要約叶うだなんてね~、感無量だよ。先年越しの悲願じゃないかな?」
「は? え?」
私、それ知らないんですけど?
もちろん、この場にいる誰もが混乱している。
この場におじさんがいたらとっちめてやるのに!!
「長老たちだって〝このまま〟ではいけないとは思っているのさ。ただ、どこかの種族が一つだけで行動を起こせる問題ではない」
「……それは」
「マリカノンナは、誰に何かを言われるまでもなく行動を始めた。そしてその行動は、確実に彼らに対して影響を及ぼした。最初は水たまりに石を投げ込む程度の変化で良いのさ」
センセイの言葉に、私は押し黙る。
周りも、黙った。
「君らは今を精一杯生きればいい。その中で、どうしたいのか試行錯誤してご覧。困った時には大人を頼れば良いのだし、失敗はいくらしたっていいのさ。死ななきゃね」
言ってることはいいことなんだろうけど、物騒であるこのエルフ。
私は苦笑した。
「じゃあ、今は夏期休暇を楽しむついでに友達を困らせる連中をプチッとすればいいってこと?」
「まあそうだね!」
「プ、プチっとはだめじゃないかな……?」
イナンナがさりげに注意してくれた。
うん、どうやら彼女がこの集団においての良心になってくれるのだろう。
「それじゃあ、私はこれからも地位向上を目指して頑張るかあ!」
「お、なんだそれ?」
「初めて聞いたな」
私の言葉にジャミィルとハルトヴィヒが反応した。
それに私はニヒッと笑みを返すだけだ。
そうだね、一つの種族だけではどうしようもないなら――巻き込んでいくしかないのよね。
そもそもその予定だったモノが、前倒しになったんだと考えよう。
私がここで活躍すれば、きっと誰も文句が言えない。
(そうよね、私はこんなに美少女で優秀な吸血鬼なんだから!)
地位向上は、案外そう遠くない未来成功するかもしれない。
まだまだ問題は山積みだし、私ははっきりと自分が『吸血鬼だ』と明かしたわけじゃないけど。
多分、全員が理解しちゃったとは思うけど!
でもまあ、そんなことはどーでもいいのだ。
私は、私にやれることをやるだけだ。
「それじゃあ、旅行を楽しもうか!」
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