上 下
39 / 65
第四章 異種族間の誤解を解くには

36

しおりを挟む
 その後のことは正直よくわからない。
 ただ、幾人かの行方不明者が見つかったとか、騎士団と隣国が協力したとか……そんな感じの話がいくつか上がったくらいだろうか?

 犯人については複数の誘拐犯ってだけの発表に留められ、発見された行方不明者たちはいずれも衰弱していて学生だった人は退学になったという噂も流れた。
 真偽の程はわからない。
 なんせここの学校、授業がハイレベルだから早々にリタイアする人が後を絶たないもんだからさ!

 行方不明だったのか、自主的に辞めていったのか、そこは難しいところである。
 少なくとも私が親しくしている人にはいないってことで。

 さて、この一連の問題が片付いて大団円!
 ってワケには勿論いかない。
 いかないったらいかないのだ。

 理由は私が定めた『ご褒美』である。

「……ってことでおじさんどうするゥ?」

「どうするって、お前……」

 ミア様が求めるウィクリフによって記され、そして消された部分――おそらく聖女の記述がある部分ってことでひいおじいちゃんにお願いしたところ、全部覚えている・・・・・・・から写本ということで来月には届くということで解決。
 まあそれを読んでどう思うか、その処分をどうするかってことは……ミア様にお任せでいいんだろう。

 でもイアス様の方はだめだ。
 私自身知っている相手であるし、教えるだけならいいけどいや教えられるわけないじゃん!?
 いや、図書館でおじさんに会った時は変装させてたから事なきを得たんだけど、いつまでもそれでいいのかって言われると……。

「ここは無難にうちの先祖でしたーってオチにしとく? なんで知りたがっていたのかってのがあるけど……」

「……おそらく、うちの一族の血が混じったことで常人じゃない力を得たってことを彼らも理解しているんじゃないか。それがなんであるか知ろうとしているなら、逆に親戚だとはっきり告げればカタルージア側からサナディアまで手が伸びてくるかもしれない」

「うっ……」

 うちの一族が人間族の間諜にやられるってことはないのはわかっているけど、やっつけすぎたり煙に巻きすぎても厄介なのは事実だ。

「理由を聞いてきてくれるか?」

「仕方ないなあ……ハルトヴィヒにも何かあるか聞かないといけないし」

 あの事件についても、イアス様から教えてもらえるかもしれないしね!
 大事な伯父のお願いだしってことで、私は早速翌日馬術部へ行って彼らとコンタクトを取った。

「ってわけで、念のため何故その人について知りたいか……というのを聞いた方がいいっておじさんが言うので」

「なるほどね、理由はわかった」

 イアス様は苦笑して私を招き、人気のない方へと……って、ハルトヴィヒがついてきてるから色気のある雰囲気ではないけどね!
 というかまあ、話している内容が内容なのでそんな空気になりようもないのだけど。

「見つけてどうなるって話じゃない。ただ君の系譜だというなら、ぼくらの家系で不思議な力が生ずる理由が知りたいと思って。……この力は便利だとぼくは思っている。ちなみにぼくは治癒力が高くてね……まあ、それだけなんだけど」

「はあ」

「おかげで暗殺を何度されてもこうしてピンピンしてる」

 いやそれ爽やか笑顔で言うことじゃないなあ!?
 思わず顔が引きつってしまった。

 ええ……王族って大変だなあ。

「……恐ろしいかい」

「え? いや別に」

 なんなら似た体質ですんで!
 さすがにそれは口に出せないけどさ。

(あ、あー、なるほどね)

 だけどそこで私の反応に裏も表もないことを察して目を丸くしたイアス様と、そんな主人と私の会話を聞いていたハルトヴィヒの反応から気づいてしまった。

「……イアス様は、もし人でない者の血が混じっていたら怖いなって思った……ってことですかね?」

「……え。いや、……うーん、似たような、でも違うかな」

「違う?」

「そう。僕は、僕のルーツがただ……知りたくて。いやでもそうか、人じゃない者が交じったんだろうなとは思ってたけど、その正体を知ったら僕は僕でいられるのかな」

「えっ、それは私にはわかりませんけど……今更知っても知らなくても変えようなくないです?」

 私の言葉にイアス様は困ったように笑った。
 上手に、笑って誤魔化すんだなあと思ったら……ちょっとこの子が、可哀想に思えた。

「もう少しだけ、悩んでみるね。そう待たせないって約束するよ」

「はい」

「……ハルトヴィヒ、彼女を送ってあげて」

「かしこまりました」

 そうか、その特異体質があるから王子を一人置いてハルトヴィヒはほいほい離れるワケか。
 離れたいわけじゃなくて、簡単に死なないと自覚している王子が自分は大丈夫だと強く言えばハルトヴィヒが強く出られるはずもない。

(……まあそれでもイアス様は人間だから、限界ってものがあると理解してくれてりゃいいけどね……)

 吸血鬼は万能じゃない。
 人間族に比べれば成長もかなりゆるやかだけど、いつかは死ぬんだ。だって生き物だし。
 その形質を少しだけ分け与えられて、人よりすごくてもいつかは死ぬってことを理解して生きてくれたらいいのになあと思う。

 でも王族っていう立場が人生を謳歌するだけじゃ許されない環境ってのを作っているのかと思うと、なかなか複雑だ。

(もし、彼が……理解者になってくれたらな)

 そしたら、そう遠くない未来、吸血鬼も受け入れてもらえるかもしれない。
 ああでもそんな簡単な話じゃないか。

 私がため息を漏らしたところで、ハルトヴィヒが歩みを止めた。

「どしたの?」

「……僕も、聞いていいか」

「え? ああ、ご褒美のヤツ? いいよー、質問聞いて答えられるものならね!」

「なら」

 ハルトヴィヒが緊張した表情で私をじっと見る。
 その顔はいつもの甘く人を誑かすような笑みじゃなくて、すっごく緊張して引きつっているようにも見えて、でもそれが逆に等身大の彼のような気がした。

(いつものヘラヘラしてるのより、そっちのがかっこいいのになあ)

 暢気にそんなことを思う私に、彼は意を決したように口を開く。
 そんな意気込まなくてもいいのになと思ったけど、さすがに茶化すようなことはしない。

「マリカノンナ!」

「うん」

「……お前の好きな色を、教えてくれ」

 勢いよく名前を呼ばれ、そして、問われた内容。
 それを理解して私は目を瞬かせた。

「……は?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」  行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。  相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。  でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!  それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。  え、「何もしなくていい」?!  じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!    こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?  どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。  二人が歩み寄る日は、来るのか。  得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?  意外とお似合いなのかもしれません。笑

【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る

堀 和三盆
恋愛
「お前を愛することはない」 「お前を愛することはない」 「お前を愛することはない」  デビュタントを迎えた令嬢達との対面の後。一人一人にそう告げていく若き竜王――ヴァール。  彼は新興国である新獣人国の国王だ。  新獣人国で毎年行われるデビュタントを兼ねた成人の儀。貴族、平民を問わず年頃になると新獣人国の未婚の娘は集められ、国王に番の判定をしてもらう。国王の番ではないというお墨付きを貰えて、ようやく新獣人国の娘たちは成人と認められ、結婚をすることができるのだ。  過去、国の為に人間との政略結婚を強いられてきた王族は番感知能力が弱いため、この制度が取り入れられた。  しかし、他種族国家である新獣人国。500年を生きると言われる竜人の国王を始めとして、種族によって寿命も違うし体の成長には個人差がある。成長が遅く、判別がつかない者は特例として翌年の判別に再び回される。それが、キープの者達だ。大抵は翌年のデビュタントで判別がつくのだが――一人だけ、十年近く保留の者がいた。  先祖返りの竜人であるリベルタ・アシュランス伯爵令嬢。  新獣人国の成人年齢は16歳。既に25歳を過ぎているのに、リベルタはいわゆるキープのままだった。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。 そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。 ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。 そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。 こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。

処理中です...