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24:それではバイバイ、さようなら

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「く、口説く……口説く!? おい、ルイーズ! 貴様、浮気をしていたのか……!?」

「ご冗談はおよしくださいませ、バイカルト子爵令息。私は、貴方有責で、婚約破棄をするまで、一切男性とお付き合いなどしておりません!」

 あえて一言一言力強く、特に有責って部分を強く発言してやればエッカルト様は「ぐぬ」だか「うぬ」だか呻いて私を睨み付けた。
 睨む元気があるならば、とっとと就職先でも見つければいいのに!

 幸いな事に二つの公爵家からお咎めを受けたものの、バイカルト子爵家はお取り潰しにはならなかった。
 私への慰謝料や、寄親である公爵の顔に泥を塗ったことなどからお財布事情はかなり厳しそうではあるけれど……まあそこはこれから頑張っていけばなんとかなる話。

 エッカルト様は結局、バイカルト子爵家を追い出されることもなかった。
 というか、シャレンズ公爵夫人からお手紙をいただいたことによれば、慰謝料の支払いをさせるにあたって勿論親である子爵夫妻にも責任はあるけれど、一番問題なのは当人であるエッカルト様なのだから彼から徴収すべきである。
 ……ということで、下手に平民にして放り出しては今後逃げてしまうかもしれないし、慰謝料の支払いが終わる前にそれこそ野垂れ死んでしまうかもしれない。

 それなら『バイカルト子爵家の次男』のままで、シャレンズ公爵家が紹介した仕事に従事して貰った方が管理しやすい・・・・・・上に子爵家に対しも罰になるだろうとのことだった。

(怖いわあ)

 子爵夫妻は息子を売りに出したようなものだし、エッカルト様は重労働がきっと待っているに違いない。
 でも貴族であり続けたいなら断れない。

 だって平民になって生きていく術がエッカルト様にはないものね!

 いくら学園で騎士になるべく勉強していますって言ったところで成績は大して良くなかったし、兵士になりたい……といっても憧れの騎士から『才能がない』って言われてしまったらもう心も折れたことでしょう。
 そこで一念発起して頑張ろう! ってタイプじゃないもの、エッカルト様は。

「くっ……、それもこれも貴様のせいだ、カサブランカァ!」

「ええ~、あーしのせい~?」

 バッと顔を上げたエッカルト様が今度向けた矛先はラン姉様。
 まあ彼からしてみれば理想の女性が現れて『彼女は美しすぎるから根っからの貴族である義妹に虐められている!』ってよくわかんない正義感を発揮してしまったんでしょうね。
 自分の婚約者がそんなことをする人間かどうかも彼の中にはないくらい、私たちは〝婚約している〟こと以外接点がなかったんだと思うと、反省しなければと思う次第。

 でもラン姉様のせいにするのもどうかって話よね。
 姉様はずーっと私と仲良しであることを告げていたし実際虐げてなんかいないので、エッカルト様の妄想なんだから。

「マジキモ~」

「姉様、直接的過ぎますわ。さすがに傷つくのでは?」

「よくない? 別に」

 スンッと真顔でそんな道端のゴミを見るような目ではっきり言う所、好きです。
 エッカルト様が傷つこうと正直なところ、もう情が欠片もないので別にいいんですけど……そこで傷ついたからって泣き崩れられてもめんどうじゃないですか。

「……というか、カリル様。私、口説かれるんですの?」

「うん。婿入り先を探していたところに出会った可愛い子がちょうどフリーになったんだ。口説かないのも失礼だろう?」

「まあ!」

 私のことを抱きしめながら軽い口調でそんなことを仰るカリル様に若干呆れつつ、可愛いって言われるのは悪くない気分です。
 とはいえ、私も折角悪縁が切れたのですから慎重に見極めたいところ。

 いつまでもこうやって未婚の男女が触れあっているのはこの状況でも良くないと覆いますので、私はカリル様の腕から抜け出しました。
 あっさりと手を離したカリル様は、にっこりと余裕の笑顔です。

(これは、手強いかもしれないわね?)

 ランお姉様の淑女教育とどちらが手強いのかしら。

 そんなことを思いながら、私はエッカルト様へと向き直る。
 彼はどこか期待するような目で私を見たけれど、私は違うの。

「それではご機嫌よう、エッカルト様。貴方の未来が望むようになればいいですね」
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