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10:真実はいつだって驚きを伴って

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 ライル・ヴィンズ様は確かに見た目こそ少々厳つく、また平民出身ということで礼儀作法は得意でないご様子でした。
 ですが、きちんとこちらを思いやってくださっていることは会話していて十分理解できますし、また国が認めた英雄という立場になって尚驕ることなく日々鍛錬をしていらっしゃるというのはとても素晴らしいことと思います。

「ご存じの通り、俺はこのような見た目で華やかなことなどには疎く、また男爵の位をいただいてはおりますが土地もいただく予定はございません。ありがたいことに、この地を治めるヴィズィア辺境伯様が貢献となってくださり、将来的には養子縁組をする予定ではありますが……」

「はい、存じております」

 この場ではお姉様は基本的に喋らない。
 別にお姉様の話術に問題があるとかそういう理由ではなくて、私が次期侯爵という立場でお姉様の婚姻について責任を持つということになっているからだ。
 貴族の結婚は家と家の繋がり。

 ヴィズ男爵は功績をもって爵位を与えられたけれど、領地を治める学や人を使う立場には不慣れであることを考え、元々の上司である辺境伯様が後見人とし、あれこれと手助けしていらっしゃるという話は有名だ。
 そしてゆくゆくは辺境伯様の養子となり、辺境伯様のご子息を補佐する立場として生きていくのだという。

 こうして辺境という大切な土地を守る人材が盤石なものになるってわけですね!

「こちらの噂が聞こえてきたということで、それがどのようなものかはお恥ずかしながら存じません。ですが先ほどヴィズ男爵様が仰ったように、義姉とわたくしの仲は良好ですわ」

「……ふむ、なるほど」

「当家としてはヴィズ男爵様に求めることはさほど多くございません。私としては義姉が望む結婚をと思ったまでですので……」

「……望む結婚?」

「はい、そうですわ」

 私は貴婦人として最大限優雅に見える仕草で笑みを浮かべてみせる。
 どんな噂か私は知らない。
 だけど、きっと良くないものであるということはもう察している。

「実は義姉も平民出身ということで、普通の貴族令嬢とは好みが異なりますの。逞しく、強く生きていく、そのような方を望んでおられます」

「……平民出身ということは確かに聞き及んでいるが……」

「町中で暮らし、町中で生涯を過ごすおつもりだった義姉にとっては貴族社会は少々窮屈な鳥かごのようなものでしょう。その点、ヴィズ男爵様でしたらば最低限約束事を守れば、自由にさせていただけるだけの度量をお持ちとお見受けいたしました」

「……自由ってのは、たとえば?」

 ヴィズ男爵は薄く笑みを浮かべながら私の方をじっと見ています。
 ええ、ええ、噂が余りよろしくないものであるなら……そうねえ、たとえば『レディ・ルイーズは挫けない』にあったような、私がお姉様を虐めているという噂がたっているならば。
 私は彼女が質素な格好好きだからドレスは最低限に、家事が好きだから使用人は雇わずに居て構わない。結婚式もしなくていいとでも言えば……あらやだ、全部お姉様の希望通りじゃない。

「そうですわね、……ヴィズ男爵様は堅苦しい話し方は得意でないと仰いましたけれど、この場限りということで砕けた物言いをしてもお許しいただけませんでしょうか?」

「……うん?

「私が語ってもよろしいのですが、やはりお姉様本人が自身の言葉で語るのが重要かと思いましたの」

 怪訝そうな顔をするヴィズ男爵だけれど、私の言葉に思うところもあったのでしょう。
 すぐに頷いてくれました。
 それを見て私はお姉様に視線を向けると、嬉しそうな笑みを浮かべ……あ、ちょっと早まったかもしれない。

「あ、あー……ヴィズ男爵様、あの、お姉様はちょっと独特の喋り方を……」

「男爵サマ、マジさんきゅーね!! あーしも堅苦しいの嫌いっていうかさあ、ヤバイよね、っていうかやばくね? てか噂とかマジなくない? まあうちのルイーズたんが可愛すぎて神ってんならマジそれなって感じだけどー。あっ、てかあーしの好みだっけ? そうそう、ちゃんと話せる機会があるって助かる~マジ神~」

 これまで黙っていた反動なのか、私が男爵様に一言添える前にお姉様が怒濤の喋りを披露してしまった。
 案の定、男爵様は目を丸くしちゃってまあ。そりゃそうよねえ、私だってそんな時期もありました。

「……レディ・ルイーズ、これは一体……」
 
 彼は困惑した表情のまま、こちらを向いた。
 もうそこには勇猛果敢な軍人とは思えないお姿あるもんだから笑ってしまうかと思ったわ。

 勿論、私とお姉様と男爵の名誉のためにも、淑女としての笑みを絶やさずに済ましましたけどね!
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