恋煩いから目を逸らす

玉響なつめ

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花摘む人の檻の中

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「あっ、あっ、も、もお、や、ああンっ、んぐっ」

 あの後――きちんと説明されることもなく引きずられるようにして、いやまあとりあえず両思いであることはわかったんだけど、それだけで混乱する私を連れて、圭人の家に連行された。
 わあ、初めて好きな人の家に来ちゃった……なんて感慨に耽ることも許されず、玄関で唇を奪われた。
 そしてそのまま、そう、まさかの玄関セックスになだれ込んでしまったのだ。

「いやっ、けい、けいとお……!」

「あー、くそっ……」

 ばちゅばちゅと音を立てて打ち付けられる、乱暴なセックスなのに私の体は感じきっている。
 圭人もいつもより気持ちよさそうで、余裕なんて微塵も感じられない。
 衣服を中途半端なままセックスなんてことはお互いにしたことがなかったし、立ったまま貫かれるなんてこともなかった。

 それだけ性急に求められて、それだけでいつもより濡れている自分を感じる。

「ほら」

「ひいっ」

 乳首を爪でひっかかれ、強い快感に喉が引きつるような声が出た。
 到底喘ぎ声なんて可愛いものじゃなくて、ろれつだって怪しくて、それでも圭人は私のそんな姿に目を細めて笑う。

「初めの頃はこんなに乳首は感じなかったのにな……今、締め付けてきたろ」

「いやっあ、あっ!?」

「あーくそ、出る……! なあ、ミズキ。今、ゴムしてないんだ……わかってるか?」

「んっ、あア、あー……! やだ、だめ、奥、おく突いちゃ、だめっだめだってば、あ、あ、」

「中、出したい」

「だめ、だめ、あかちゃん、できちゃう、できちゃうのお!」

「出したい」

 突かれる度に可愛くない喘ぎ声が押し出されるように出ていく。
 ゴムなしでハメられたことはわかっていたし、それがものすごく気持ちよくってながされたのは私自身。
 だけど、中で出すのはさすがにだめだ。
 でも熱っぽく訴えられる圭人のその吐息に、理性はぐらぐらと揺れる。

「なあ、中で出したら……気持ちいいだろうな」

「……ッ、!、!!」

「クッ……想像した? 今、すげえ締まった」

「や、やだあ……」

「なあ、出したい。お前ン中、たっぷり出して……孕ませたい。ずっと思ってたんだ。お前は、違うのか? なあ」

「んあっ、ぐりぐり、だめ、だめ、あ、あー! きもちいいの! それだめ! だめえ!」

「なあ」

「中出すのだめえ! あー!」

「くそ、だめだ、出る……! ミズキも、イけよ……!」
 
 ぶんぶんと首を振っても快楽は逃げてくれない。チカチカする、気持ちよすぎてもう頭なんて働かない。
 ぐちゅぐちゅと自分の中から音がしているのも、膣内をかき混ぜられるのも、圭人の余裕のない表情も、全部が私を快楽の渦に落とすのだ。
 それでも、中に出されるのは怖くて必死で訴える。
 
  唸るようにそう言った圭人は宣言通り私をイカせると彼は私の足に精子をぶちまけた。
 破かれたストッキングに粘着質なものが伝っていく感触に私は眉をしかめる。

 気持ちよかった。

 乱暴にされたのに、同意なんてしていないのに、キスをされて求められて、それだけでこんな風になるなんて私は馬鹿か。

 ……いや、乱暴にはされてないか。
 私が嫌だと本当に心の底から言えば、圭人は離してくれたと思う。
 今だって、中に無理矢理だそうと思えば出来たのに、律儀に外に出してるし。

「圭人……」

「まだするからな」

「えっ」

「……逃げないなら、休憩くらいしてやる」

 選択肢ないでしょう、そう思って頷けば圭人はとりあえず満足したようで、私の中から出て行く。
 それすら感じている自分が信じられなかったけれど、その場にへたり込む私を彼は抱き上げて運んでくれた。

 そもそも。

 新入社員時のセクハラ問題で私が困っている時、彼は助けてくれようとしていた。
 実はそれは知っている。ただ、彼が伸ばしてくれた手を信じられなかったため、断った私がいる。

「その後も色々声をかけてみたんだけど、お前はつっけんどんだったし。手を出されたくなかったんだろうなって思ったから、裏で動くことにしたんだ」

「そ、そうなの……」

 ……そこは、覚えていない。
 あの頃のことは、実は記憶が曖昧で、ええ……あれ?
 そういえば、圭人があの頃よく話しかけてくれていたなってことは覚えているんだけど。

「お前が恋愛ごとはイヤだと言っていたし、それなら囲って逃げられなくしてから……と思ってたんだ。仕事にやりがいがあるのかと思ってたが、そうでもなさそうだし。最近はあの使えない新人がいて俺もやりにくかったし、転職することにした」

「へえ……えっ!?」

「まあ転職とはちょっと違うんだが……そこの事情はおいおい説明する。とりあえず、元々あの会社は、親父の知り合いに頼んでの修行みたいなもんだったから、お前に嫌がらせしたあのオッサンを飛ばすために少しだけ時間が必要だったんだ。俺の事情を知っていたからか、なかなか尻尾を掴ませないし……お前はお前で俺を信じてくれないから個人で動くしかなかったし」

「ご、ごめん……?」

「いや、あの頃はもっと上手くできただろうと俺も反省している。ついでに、囲う前にきちんとお前の気持ちを掴むために言葉にすれば良かった。俺はお前に関しては間違えっぱなしだ」

 圭人はそう言って私をベッドで抱きしめる。
 つまり、それは、相当好かれていたってことだけど。

「ちょ、ちょっと待って、なんで脱がせ……」

「さっきまだヤるって言っただろう」

「聞いたけど! ん、んん……あっ、ちょ、ちょっと待って……」

 そりゃ会社に未練なんてない。

 希美ちゃんに対しても冷酷な物言いだったから、ちらっとも彼女に対して気持ちが揺らいだことはなくて、私だけが好きだった……んだろう、多分。

 だけど、展開が早すぎて追いつけない。

「ヤるならゴムして!」

「……チッ」

「舌打ちしない! ……に、妊娠は、結婚してからで、いいじゃない」

「……」

 半ばやけっぱちにそう言ってやれば、圭人が手を止めて私のことをマジマジと見てくる。
 その様子に、己惚れすぎたかと思って顔に熱が集まるのを感じた。

「な、なによ! ヤるだけの関係じゃないならそうなってもいいんでしょ!」

「よし、お前月曜日は俺と出社して人事に報告行くからな。そのつもりで身辺整理のこと考えろ」

「え? は? ちょ、ちょっと待って」

「待たない。じゃあ、ヤるか」

「ムード! もう少しムードってものを!!」

 圭人に押し倒されて、彼越しに天井が見える。
 その表情はまさしく肉食獣みたいなもので、私を押し倒すその腕がまるで檻みたいに思えた。

(捕まった)

 今更だけど。

 私は諦めて、目を閉じるしかない。
 願わくば、……恐れていたみたいに、彼が私を捨てる日なんて、来ませんように。

「来るわけねえだろ、バーカ」

 こぼれ落ちた私の本音に、圭人が悪態をついてキスをした。
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