上 下
45 / 71
家族(?)が増えました

43

しおりを挟む
 さて、鳥たちを回収したのは良いものの、ヨシヤは途方に暮れていた。
 なぜならば、鳥だと思っていたそれは確かに鳥だ。
 くちばしがあり、翼を持ち、……尾っぽが長い蛇であった。ぐんにゃりしている。

「とり……?」

 人間、己の理解力を越えたものを目の前にすると思考が停止してしまうものである。
 ヨシヤも例外ではなく、目の前の鳥が鳥であるが己の知る鳥とは違うことに困惑していたのである!

「ハ、ハナ」

 とりあえず、最愛の妻に意見を求めるように彼が仰ぎ見れば、彼女は異世界ガイドブックに視線を落としていた。
 そしておもむろに本を閉じると、にっこりと笑った。

「それ、コカトリスっていう種類らしいわ!」

「こかとりす」

 ヨシヤは思わず復唱した。
 そして彼はラノベやゲームで培った知識から、それがモンスターの名称であることを導き出して盛大に慄いた。

 とはいえ、救うと決めた命である。

「どうしたらいいかな!」

 とりあえず手当らしきものはした。
 綺麗な布で体を清め、それっぽく止血をしたが鳥本体も尻尾の蛇もぐんにゃりしたままだ。

 ヨシヤは動物を飼った経験はない。
 コカトリスなんてもっとない。

 ハナもそれは同様である。

「そうねえ……私も女神としての力がまだ弱いから治癒は……あっ!」

「ど、どうしたんだいハナ!」

「アーピス様の近くにこの子たちを連れて行きましょう!!」

 いそいそと夫婦揃って鳥……もといコカトリス三羽を抱え、家の裏手で今日も寛ぐ牛に歩み寄る。
 変わらず神々しい牛は彼ら夫婦がやってきても動じることはなく、ただ視線をちらりと寄越しただけでのんびりとしているではないか。さすが異界の神である。

 そんなアーピス様を中心にして三羽のコカトリスを配置すれば、じんわりと彼らの体が金色に輝き始める。
 それを目の当たりにして、ヨシヤはほうっとため息を吐いた。

「奇跡ってやつ?」

「そうねえ、最近よく目にしている気がするわ」

 妻のもっともな発言にそれもそうかとヨシヤは笑った。
 もう何が何だかわからないくらい、そういえば奇跡のような出来事に彼らは日々ぶち当たっているのである。
 感覚の麻痺とはこのことだろうか。

「アーピス様のお力はよくわからないけれど、生命の持つ根源的な力を高めてくださっているようだから……きっと、この子たちも助かるわ!」

「ならいんだけど……」

「といっても劇的に即回復ってわけにはいかないから、様子を見守りましょうね」

「うん」

 細めのコップに水をなみなみと注いでそれぞれの口元に置いておく。
 何を食べるのかイマイチわからなかったのでそこはなにもしなかったが気がつけば蟻たちが緑色の団子をちぎって置いてあげていた。
 主が救うと決めた命である。蟻たちも協力を惜しまない!
 ただし、その団子の主原料が何であるかは秘密である。

「そういや、こっちの卵はなんだろう」

「それはハシビロコウみたいよ」

「ハシビロコウ」

「ええ、ハシビロコウ」

 またもやヨシヤは目を丸くする。
 ハシビロコウ、それは世界でも稀な動かない鳥。そう謳っているのをテレビで見た記憶がある。
 あれは教育チャンネルだっただろうか、動物バラエティ番組だっただろうか。
 今となっては懐かしい記憶だが、それはもしかしなくても彼らが元いた世界の話である。

「ハシビロコウってアフリカにいるやつ?」

「そのハシビロコウね」

「……アフリカは、異世界だった……?」

「やあね、そんなことあるわけないじゃない!」

「だ、だよねー!!」

 ハナの言葉に思いっきりホッとしたヨシヤだったが、ならば何故と首を傾げた。
 そんな夫に彼女も首を傾げつつ「たまに、異世界から漂流物が流れ着くみたいねえ」なんて暢気に言っているではないか。

「そんな、海とか川じゃないんだから……」

「とりあえず、ねえ、ヨシヤさん」

「うん?」

 ハナが笑顔で抱いてくれている卵。
 だがよく見れば、ハナの笑顔が引きつっている。
 しかも若干、顔色が悪い気もするではないか。

 そのことに気がついたヨシヤが小首を傾げれば、彼女は卵を抱いたまま言葉を続けた。

「卵が動いてるんだけど、これってもしかしてもう生まれるのかしら……?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に来てミミズからのスタートだったけど人型に転生したらたくさんの嫁が出来て幸せです

佐原
ファンタジー
ある日ある男が転生した。しかも虫の姿で!スキル転生で最終進化すると他の種族になれる。これに目をつけたは良いもののなかなか人型になれない。ついに人型になったけど神より強くなってしまった。彼はやっと人型になったのでやっとゆっくり出来ると思ったので普通の生活を目指す。しかし前途多難である。

虐められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手に入れたので復讐することにした【再投稿版】

野良子猫
ファンタジー
高校二年の桜木 優希はクラス中で虐められていた。 誰の助けも得られず、ひたすら耐える日々を送っていた。  そんなとき、突然現れた神エンスベルによって、クラスごと異世界に転移されてしまった。  他の生徒に比べて地味な恩恵を授かってしまった優希は、クラスメイトに見捨てられ命の危機にさらされる。気が付くと広がる純白の世界で出会ったのはパンドラと言われる元女神だった。  元の世界へ帰るため、優希は彼女と契約を結ぶ。 「元の世界に帰るのは僕だけで十分だ!」 感情や感覚の一部を代償に、最強の力を手に入れた優希は、虐めてきたクラスメイトに復讐を決意するのだった。  *この物語の主人公は正義の味方ではありません。   「虐められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手に入れたのでとりあえず復讐することにした」の再投稿版です。設定やストーリーをいろいろ変更しています。    小説家になろうでも連載されています

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話

菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。 そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。 超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。 極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。 生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!? これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。

俺だけ皆の能力が見えているのか!?特別な魔法の眼を持つ俺は、その力で魔法もスキルも効率よく覚えていき、周りよりもどんどん強くなる!!

クマクマG
ファンタジー
勝手に才能無しの烙印を押されたシェイド・シュヴァイスであったが、落ち込むのも束の間、彼はあることに気が付いた。『俺が見えているのって、人の能力なのか?』  自分の特別な能力に気が付いたシェイドは、どうやれば魔法を覚えやすいのか、どんな練習をすればスキルを覚えやすいのか、彼だけには魔法とスキルの経験値が見えていた。そのため、彼は効率よく魔法もスキルも覚えていき、どんどん周りよりも強くなっていく。  最初は才能無しということで見下されていたシェイドは、そういう奴らを実力で黙らせていく。魔法が大好きなシェイドは魔法を極めんとするも、様々な困難が彼に立ちはだかる。時には挫け、時には悲しみに暮れながらも周囲の助けもあり、魔法を極める道を進んで行く。これはそんなシェイド・シュヴァイスの物語である。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
空想の中で自由を謳歌していた少年、晴人は、ある日突然現実と夢の境界を越えたような事態に巻き込まれる。 目覚めると彼は真っ白な空間にいた。 動揺するクラスメイト達、状況を掴めない彼の前に現れたのは「神」を名乗る怪しげな存在。彼はいままさにこのクラス全員が異世界へと送り込まれていると告げる。 神は異世界で生き抜く力を身に付けるため、自分に合った能力を自らの手で選び取れと告げる。クラスメイトが興奮と恐怖の狭間で動き出す中、自分の能力欄に違和感を覚えた晴人は手が進むままに動かすと他の者にはない力が自分の能力獲得欄にある事に気がついた。 龍神、邪神、魔神、妖精神、鍛治神、盗神。 六つの神の称号を手に入れ有頂天になる晴人だったが、クラスメイト達が続々と異世界に向かう中ただ一人取り残される。 神と二人っきりでなんとも言えない感覚を味わっていると、突如として鳴り響いた警告音と共に異世界に転生するという不穏な言葉を耳にする。 気が付けばクラスメイト達が転移してくる10年前の世界に転生した彼は、名前をエルピスに変え異世界で生きていくことになる──これは、夢見る少年が家族と運命の為に戦う物語。

Switch jobs ~転移先で自由気ままな転職生活~

天秤兎
ファンタジー
突然、何故か異世界でチート能力と不老不死を手に入れてしまったアラフォー38歳独身ライフ満喫中だったサラリーマン 主人公 神代 紫(かみしろ ゆかり)。 現実世界と同様、異世界でも仕事をしなければ生きて行けないのは変わりなく、突然身に付いた自分の能力や異世界文化に戸惑いながら自由きままに転職しながら生活する行き当たりばったりの異世界放浪記です。

処理中です...