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第20話 親の心子知らず
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王城に行くと、すぐさま王宮の陛下が過ごされる私的な庭園へと案内されました。
私は驚きのあまり、思わず足が震えてしまいました。
だってそこは、側近でも滅多に足を踏み入れることが許されないという庭なのです!
「……それだけ陛下は内々で話をしたいのだろうな」
お父様のその言葉に、私も無言で頷きました。
これまで私も幾度となく王子妃教育のために登城させていただきましたし、王宮内にある王妃様の私的な客間へ案内されたことだってあります。
それだけでも特別な待遇であったと思いますのに、今回のアベリアン殿下の件に関して、陛下もやはり思うところがおありなのでしょう。
お父様の言葉を借りるならば、陛下はアベリアン殿下ご自身で過ちに気づくか、愛しい人のために行動を起こせるか期待していたはずです。
それがこんな形になってしまったことは、きっと落胆のお気持ちに違いありません。
「よくきた、お前たち。すまんな、正式な話し合いの前にどうしても少し話しておきたくてここへ足を運んでもらったのだ。堅苦しい挨拶は良い、ここにいるのは愚息のことについて詫びる、ただの父親だ」
「……陛下……」
「本当にすまなかった、ロレッタ嬢。王として謝罪をするのはあまり褒められたことではないが……ここには他の目がないゆえ、な」
いつもは凜々しい陛下のお顔が、どことなく疲れておいでです。
私は何と答えて良いかわからず、ただお辞儀をするしかできませんでした。
「そなたが王子妃となるべく、王妃の厳しい教育にも耐えてくれたこと……感謝している。幼い頃から交流をせよと声をかけるだけで、あれの行動を咎めなかった我々にも、非があるのだ」
「……王妃様には、よくしていただきました。私もまた、意固地になるあまり殿下のお気持ちに添えなかったのです。ですから、私たちの関係に関しては、どちらが悪いというわけではないと思います」
そう、殿下と私、その関係だけならば。
彼女を愛妾に迎えたい、もしくは婚約者として私を認められないと殿下が誰かに相談していたら……話は変わっていたのではないかなと思うのです。
もしかすればイザークや、ウーゴ様、エルマン様は聞いていたかもしれませんが……それを自分たちだけでなんとかしようとしたのが、いけないことだったのです。
私たちの年齢は、ある程度大人と同様に見られることもありますが……実際には特になんの権力も無い、高位貴族という実家の後ろ盾を得ているだけの子供に過ぎません。
次期公爵という立ち位置にある私も、あくまでワーデンシュタイン家という、これまで父祖が築き上げていた家の権威が物を言っているだけなのです。
ですから、私も父祖の努力と領民の幸せを思えば自分の行動に責任を持たねばならないのです。
けれど、同時に自分たちが大人と同様に扱われることで『自分は大人と同じだけの権力がある』と思い行動してしまいがちでもあるのだと思います。
殿下たちもおそらく自分たちが考え行動を起こしたのは、彼らの中で『自分で責任がとれる』『なんとかできる』と思っていたからではないでしょうか?
(でも暴漢の件に関しては、自分たちだけで解決は無理でしょうに……)
あれは正式に法で裁くべき案件ですもの。
誰が主犯かを捜す前に、暴漢を捉えて罪を償わせなければ二次被害もありうるかもしれません。
勿論、その中で主犯についても言及していくべきと思いますが……私こそが主犯であると決めつけて行動した結果、真犯人を逃がしたとあってはアトキンス嬢の安否がそれこそ心配になってしまいますもの。
「これより、あやつらとその家族も含めて話をする。不快に思うこともあるだろう、それでも同席してもらえるだろうか」
「……勿論でございます、陛下」
「それから、王妃がロレッタ嬢に対し、婚約者として残ってほしいと言ってくるかもしれん。第二王子の妃にと」
「……それは……」
「そちらについては余の一存で、退ける。ゆえに反応は返さなくて良い」
「……かしこまりました」
陛下はそこまで話すと、淡く微笑まれました。
そして私の肩を軽く叩き『ご苦労であった』とお声をくださったのです。
「よく学び、アベリアンのために尽くしてくれた。そなたは自分を未熟と言うが、その年齢ではあのように付き合いの悪い相手に対し不満を抱かないなど無理からぬことだ。そしてそのせいで態度がきつくなっていったことも、ロレッタ嬢だけの責任ではない。だから思い詰めぬようにな」
「……ありがとう、ございます……」
殿下は、ご両親にアトキンス嬢のことを、私のことを相談なさったことはあるのでしょうか。
私は、お父様に相談したことがありませんでした。
(ああ、反省ばかりが思いつくわ)
やはり、殿下も私も……どちらが悪いのかといえば、二人とも意固地になっていたのが悪いということなのでしょうね。
私は驚きのあまり、思わず足が震えてしまいました。
だってそこは、側近でも滅多に足を踏み入れることが許されないという庭なのです!
「……それだけ陛下は内々で話をしたいのだろうな」
お父様のその言葉に、私も無言で頷きました。
これまで私も幾度となく王子妃教育のために登城させていただきましたし、王宮内にある王妃様の私的な客間へ案内されたことだってあります。
それだけでも特別な待遇であったと思いますのに、今回のアベリアン殿下の件に関して、陛下もやはり思うところがおありなのでしょう。
お父様の言葉を借りるならば、陛下はアベリアン殿下ご自身で過ちに気づくか、愛しい人のために行動を起こせるか期待していたはずです。
それがこんな形になってしまったことは、きっと落胆のお気持ちに違いありません。
「よくきた、お前たち。すまんな、正式な話し合いの前にどうしても少し話しておきたくてここへ足を運んでもらったのだ。堅苦しい挨拶は良い、ここにいるのは愚息のことについて詫びる、ただの父親だ」
「……陛下……」
「本当にすまなかった、ロレッタ嬢。王として謝罪をするのはあまり褒められたことではないが……ここには他の目がないゆえ、な」
いつもは凜々しい陛下のお顔が、どことなく疲れておいでです。
私は何と答えて良いかわからず、ただお辞儀をするしかできませんでした。
「そなたが王子妃となるべく、王妃の厳しい教育にも耐えてくれたこと……感謝している。幼い頃から交流をせよと声をかけるだけで、あれの行動を咎めなかった我々にも、非があるのだ」
「……王妃様には、よくしていただきました。私もまた、意固地になるあまり殿下のお気持ちに添えなかったのです。ですから、私たちの関係に関しては、どちらが悪いというわけではないと思います」
そう、殿下と私、その関係だけならば。
彼女を愛妾に迎えたい、もしくは婚約者として私を認められないと殿下が誰かに相談していたら……話は変わっていたのではないかなと思うのです。
もしかすればイザークや、ウーゴ様、エルマン様は聞いていたかもしれませんが……それを自分たちだけでなんとかしようとしたのが、いけないことだったのです。
私たちの年齢は、ある程度大人と同様に見られることもありますが……実際には特になんの権力も無い、高位貴族という実家の後ろ盾を得ているだけの子供に過ぎません。
次期公爵という立ち位置にある私も、あくまでワーデンシュタイン家という、これまで父祖が築き上げていた家の権威が物を言っているだけなのです。
ですから、私も父祖の努力と領民の幸せを思えば自分の行動に責任を持たねばならないのです。
けれど、同時に自分たちが大人と同様に扱われることで『自分は大人と同じだけの権力がある』と思い行動してしまいがちでもあるのだと思います。
殿下たちもおそらく自分たちが考え行動を起こしたのは、彼らの中で『自分で責任がとれる』『なんとかできる』と思っていたからではないでしょうか?
(でも暴漢の件に関しては、自分たちだけで解決は無理でしょうに……)
あれは正式に法で裁くべき案件ですもの。
誰が主犯かを捜す前に、暴漢を捉えて罪を償わせなければ二次被害もありうるかもしれません。
勿論、その中で主犯についても言及していくべきと思いますが……私こそが主犯であると決めつけて行動した結果、真犯人を逃がしたとあってはアトキンス嬢の安否がそれこそ心配になってしまいますもの。
「これより、あやつらとその家族も含めて話をする。不快に思うこともあるだろう、それでも同席してもらえるだろうか」
「……勿論でございます、陛下」
「それから、王妃がロレッタ嬢に対し、婚約者として残ってほしいと言ってくるかもしれん。第二王子の妃にと」
「……それは……」
「そちらについては余の一存で、退ける。ゆえに反応は返さなくて良い」
「……かしこまりました」
陛下はそこまで話すと、淡く微笑まれました。
そして私の肩を軽く叩き『ご苦労であった』とお声をくださったのです。
「よく学び、アベリアンのために尽くしてくれた。そなたは自分を未熟と言うが、その年齢ではあのように付き合いの悪い相手に対し不満を抱かないなど無理からぬことだ。そしてそのせいで態度がきつくなっていったことも、ロレッタ嬢だけの責任ではない。だから思い詰めぬようにな」
「……ありがとう、ございます……」
殿下は、ご両親にアトキンス嬢のことを、私のことを相談なさったことはあるのでしょうか。
私は、お父様に相談したことがありませんでした。
(ああ、反省ばかりが思いつくわ)
やはり、殿下も私も……どちらが悪いのかといえば、二人とも意固地になっていたのが悪いということなのでしょうね。
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