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第6話 自戒の誓い
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どうして婚約者のいる相手に手を出してはいけないのか。
何故、自分たちだけでなく家族まで咎められるのか。
アトキンス嬢はそういったことを切れ切れに口にしました。
今にも崩れ落ちてしまいそうな彼女を支える殿下も、また同じような表情でこちらを見ています。
「それは当然のことながら、倫理の問題は大前提ですが……先ほども申し上げましたが、これは契約なのです。契約に横槍を入れるものを排除しようとする、周囲に対してもそれを態度で示さねばワーデンシュタイン公爵家に対する信頼を損ねるのです」
「だが、そんな……恐ろしい真似をしなくとも良かったはずだ!」
「ええ。ですから私も婚約者として言葉を尽くしたつもりです。ただ、それで諫められないのであれば実力行使が伴うというものですわ、殿下。まあ、私は何もしなかったのですが……」
殿下はまだ王位を継ぐ者として教育を受けている分、私の言いたいことを理解なさっているのでしょう。
個人的な感情はともかくとして。
おそらくは、王子という身分と学生という立場、それらによって守られていることから考えが甘くなっているのでしょうが……むしろその分、厳しい目を周囲から向けられているとどうしてわからないのかしら?
そこが私には理解できませんでした。
(まあ、殿下も私のことが理解できないのでしょうからおあいこというやつなのでしょう)
他人同士、わかり合うために言葉を尽くすものだと私は教わって参りましたが……殿下はそれを怠ったのです。
私が声を発し、話し合いを求めても幼い頃から否定と拒否しか示さなかったのですから致し方ありません。
王家に忠誠を尽くす公爵家の一員として、良い婚約者であろうと努力はしてまいりました。
ですが私もまた人間なのです。
努力が一つも実を結ばねば、悲しくだってなるでしょう?
「確かに私は殿下の好みの女性ではなかったのでしょう。未来の王太子妃として、殿下の補佐を務めるべく学ぶことは多く、異性としての魅力に乏しかったやもしれません」
「そ、そうだ! だから私はカリナを……」
「けれど、それならば事前にご相談いただければよろしかったのに」
そうです、こんな大問題を起こす前にご相談いただければ。
アトキンス嬢に対して高位貴族の令嬢になれるよう教育を施した上で縁組みを考え、殿下の婚約者候補に名を連ねていただき陛下に納得していただければ婚約者を交代させることもできたかもしれません。
力関係やその他諸々、厄介なことはございますが……それでも殿下のお心を無視してどうしようなど思うほど、高位貴族の当主たちも鬼ではございません。
「全ては、道理を通していただければそれで済みましたのに」
「そ、そんなはずはない! お、お前が王太子妃の座を、未来の王妃の座を狙って純真なカリナを妬んだのだろう!? 私の愛を得られないがために!! 公爵はわかってくれるはずだ!!」
「……確かに父は愛妻家として有名で、私の母を病気で亡くして以降も再婚することがなく今に至ります。ですが、一つ言わせていただけると」
「なんだ!」
「アトキンス嬢をご実家ごと排斥するよう提言したのは、父ですわ。私はそれを拒否したのです。……だからこそ、今先ほどコリーナ様にも叱責をいただくようなことになってしまいましたが」
あの時、私が二人を見守ってあげましょうなんて言わなければ、このような事態にはならなかったのでしょう。
私の甘さが、このような事態を招いたのだと思うと反省しかありません。
本当に、今日の卒業生たちには申し訳ないことをしてしまったと思います。
これまでも私に対し、もっと毅然とした態度で片付けるべきであると言ってくれた方もいます。
放置するのであれば、そのリスクを考えるべきだと苦言を呈してくださった方もいます。
「ロレッタ・ワーデンシュタインは愚かな自分を省みて、これより家のために尽力すると誓います。どうぞ皆様、証人になってくださると嬉しいわ」
王子の婚約者として築いた名誉も、人脈も、この失態で失われたと考えましょう。
私はこれよりマイナスからのスタートだと自戒して、ワーデンシュタイン公爵家の跡取りとして学んでいかねばならないのですから。
何故、自分たちだけでなく家族まで咎められるのか。
アトキンス嬢はそういったことを切れ切れに口にしました。
今にも崩れ落ちてしまいそうな彼女を支える殿下も、また同じような表情でこちらを見ています。
「それは当然のことながら、倫理の問題は大前提ですが……先ほども申し上げましたが、これは契約なのです。契約に横槍を入れるものを排除しようとする、周囲に対してもそれを態度で示さねばワーデンシュタイン公爵家に対する信頼を損ねるのです」
「だが、そんな……恐ろしい真似をしなくとも良かったはずだ!」
「ええ。ですから私も婚約者として言葉を尽くしたつもりです。ただ、それで諫められないのであれば実力行使が伴うというものですわ、殿下。まあ、私は何もしなかったのですが……」
殿下はまだ王位を継ぐ者として教育を受けている分、私の言いたいことを理解なさっているのでしょう。
個人的な感情はともかくとして。
おそらくは、王子という身分と学生という立場、それらによって守られていることから考えが甘くなっているのでしょうが……むしろその分、厳しい目を周囲から向けられているとどうしてわからないのかしら?
そこが私には理解できませんでした。
(まあ、殿下も私のことが理解できないのでしょうからおあいこというやつなのでしょう)
他人同士、わかり合うために言葉を尽くすものだと私は教わって参りましたが……殿下はそれを怠ったのです。
私が声を発し、話し合いを求めても幼い頃から否定と拒否しか示さなかったのですから致し方ありません。
王家に忠誠を尽くす公爵家の一員として、良い婚約者であろうと努力はしてまいりました。
ですが私もまた人間なのです。
努力が一つも実を結ばねば、悲しくだってなるでしょう?
「確かに私は殿下の好みの女性ではなかったのでしょう。未来の王太子妃として、殿下の補佐を務めるべく学ぶことは多く、異性としての魅力に乏しかったやもしれません」
「そ、そうだ! だから私はカリナを……」
「けれど、それならば事前にご相談いただければよろしかったのに」
そうです、こんな大問題を起こす前にご相談いただければ。
アトキンス嬢に対して高位貴族の令嬢になれるよう教育を施した上で縁組みを考え、殿下の婚約者候補に名を連ねていただき陛下に納得していただければ婚約者を交代させることもできたかもしれません。
力関係やその他諸々、厄介なことはございますが……それでも殿下のお心を無視してどうしようなど思うほど、高位貴族の当主たちも鬼ではございません。
「全ては、道理を通していただければそれで済みましたのに」
「そ、そんなはずはない! お、お前が王太子妃の座を、未来の王妃の座を狙って純真なカリナを妬んだのだろう!? 私の愛を得られないがために!! 公爵はわかってくれるはずだ!!」
「……確かに父は愛妻家として有名で、私の母を病気で亡くして以降も再婚することがなく今に至ります。ですが、一つ言わせていただけると」
「なんだ!」
「アトキンス嬢をご実家ごと排斥するよう提言したのは、父ですわ。私はそれを拒否したのです。……だからこそ、今先ほどコリーナ様にも叱責をいただくようなことになってしまいましたが」
あの時、私が二人を見守ってあげましょうなんて言わなければ、このような事態にはならなかったのでしょう。
私の甘さが、このような事態を招いたのだと思うと反省しかありません。
本当に、今日の卒業生たちには申し訳ないことをしてしまったと思います。
これまでも私に対し、もっと毅然とした態度で片付けるべきであると言ってくれた方もいます。
放置するのであれば、そのリスクを考えるべきだと苦言を呈してくださった方もいます。
「ロレッタ・ワーデンシュタインは愚かな自分を省みて、これより家のために尽力すると誓います。どうぞ皆様、証人になってくださると嬉しいわ」
王子の婚約者として築いた名誉も、人脈も、この失態で失われたと考えましょう。
私はこれよりマイナスからのスタートだと自戒して、ワーデンシュタイン公爵家の跡取りとして学んでいかねばならないのですから。
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