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口寄せ口紅、古賀玲奈編
間話、石橋瑠美子はこじらせる。
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フリーマーケット開催二時間前。吾輩はとある女性と会うために単身でこの日本にやってきた。まぁ、用件を済ませたら魔法界に引き返し、魔道具一式と二人の魂が入った傀儡人形を持って、再び現地入りだがな。
今現在、モンブラン・ブレッセル城ではミントと七殿が魔道具に不備がないか最終確認をしている。前回の失敗の件もあって時間ギリギリまで入念にするつもりだろう。これは良い傾向だ。失敗が人を成長させると言うが、ここまで来たからには頑張ってもらわんとな。
吾輩が性欲満たす体に戻るまで後一歩の所まで来た。当初のアルフィーノメタル輸送計画は吾輩にとって念願から悲願に替わっていた。
幹久と祝い酒を交わしてから一週間。吾輩達は幹久と対談を繰り返し、日本の情報収集に時間を費やしていた。そして幹久から話を聞けば聞く程、この日本と言う世界の全貌が掴めて来た。
なんと。日本と言うのは一つの世界ではなく、二百近い数ある国の一カ所と言う事だそうだ。規模が大きいと言うのは良い事。魔道具に興味があり、取引出来る現地民が多いに越したことない。
だが、幹久の話から推定すると、どうやらこの世界で猫が喋る事に違和感を持たれるようだ。確かに、翌々考えてみたら、ハロウィンだかなんだか知らぬが、巷で見て来た人達は着ぐるみやメイクを施しているだけの人族ばかり。獣人族など、まだ一匹も見てはおらん。きっと日本の現地民にとってはさぞ珍しい存在なのだろう。
今回交渉する相手は人間の女性だ。相手に違和感なく会話を成立させる為、吾輩は傀儡人形を使い、人間の姿に擬態する案を思いついた。
外見はどんな人間にするか悩んだ。男か? 女か? 歳は? 身長は? あそこのサイズは? そこで頼りになるのは鮮度のある情報だ。幹久からお勧めの書籍が多くある書店を紹介してもらい、吾輩は七色マントで身を隠し、書店へと足を進めた。
〇
書店にたどり着いた吾輩。外観は思っていたよりもカラフルな装飾されている店だった。
店の名はとらのあな。身も心も子猫ちゃんの煩悩で満たされている吾輩にとって、虎の穴とはなんとも歯がゆい響きだった。読者で言う所の、レンタルビデオ店の十八禁コーナーに行くかの如く、吾輩はソワソワした気持ちで店内に入って行った。
吾輩は店内で本を物色し始めた。殆どの書籍がビニールシートでパッケージされており、中身が読めない。吾輩は仕方ないと思い、表表紙に印字されているイラスト参考にする事にした。
そして目に留まったのは「女性向け新刊コーナー」という棚。そこに平積みされておった本の表紙の人物。吾輩はその人物をモチーフに傀儡人形の制作をミントに依頼し、今現在、吾輩は人物の姿となって現地入りする事にしたのだった。
〇
遺体の体に未練があると言えばそれまでだが、体を入れ替えると言うのは少し抵抗がある。
則天門で所沢氏には疑われてしまうと思ったが、なんの事はない、所沢氏は吾輩の声を聞くだけで吾輩の正体を見破った。爺のくせに、意外に侮れないな。
ミントに依頼した体の完成度。若干不安に思っていたが、奴は手が器用と言うか、細かい式術が書けると言うか、申し分ない完成度だった。なんで二次元の絵が下手くそで、造形はできるのだ?…まぁ良い。正しく本の通り、これなら何処からどう見ても怪しまれる事はないだろう。
だが、周りの現地民は、少なからず吾輩をマジマジと見ている。少し体が細身で高身長過ぎたのがいけなかったのか? これでは巨体の時となんだか変わった気がしないが、まあ気にし過ぎるのも良くないな。速やかに用件を済ませばいいだけの事だ。
ちなみに今回の任務は、この地での出店するフリーマーケットの主催者、石橋瑠美子と呼ばれる女性に挨拶と出店料の二千円を渡す事だ。
前回のフリーマーケットは魔道具によって主催者の記憶を改ざんし、なんとか出店する事にこじつけられたが、一度は管理神にバレそうになった我が身。やはり、無暗に世界の理を捻じ曲がて干渉するべきではない。
今回。先方にフリーマーケットを申し込むにあたって、名前と住所を全て書面に書く必要があった。天界出身の吾輩にとって苗字や住所などあるわけない。
そこで、幹久の苗字と住所をお借りして、吾輩は庵上マダナイと名乗る事にし、書面に記載してコンビニにあるファックスと言う、この世界の転送系魔道具を使い、申し込んだ。
ファックスの使用方法が分からず、幹久に確認を取るため五回も異世界を往復した事は恥ずかしいので、ミントには内緒だからな。
石橋瑠美子さんがどんな方かわかぬが、今回の販売が上手く行ったなら末永い取引きになって欲しい。そんな願いから、吾輩は今後の事も考えて瑠美子さんに進物する、とらのはな書庫で選んだ粗品も用意した。店内ポップには「店員お勧めナンバーワン!」っと書かれておったし、人族の方がナンバーワンと言い切っている物ならきっと瑠美子さんにも喜ばれる物に違いない。目的の為には手段を選ばず、念には念を入れる。これが極悪ミントを見て来て学んだ処世術だ。
ん? どうした読者よ。なに? どうして吾輩がこの世界の通貨、二千円を持っているかだって? ぬぬぬ。読者も中々目の付け所があるな、安心せい。この二千円は吾輩の二千円ではない。幹久の自宅にあった財布から取り出した二千円なのだ。
この世界の二千円をこの世界の人物に渡す。これなら魔道具を使う事もないし、他世界間の干渉が生まれず管理神にバレる事もない。実に頭が良い作戦だろ? 猫だからと言って侮るでない。
実はな、まだミントには言っておらぬが、幹久と話し合った結果。この世界に残した幹久の部屋の物は自由に使っていいと言う許可を得ておる。幹久の部屋にはスマホと呼ばれる魔道具。液晶ディスプレイと呼ばれる投影魔術板など、実に面白そうな、この世界の魔道具が沢山あった。
だが、その道具達を魔法界に持っていくには日本側の人間を捕まえ、契約式術を結び、万物の理を書き換えないと送れない。
最優先に手に入れるべきはアルフィーノメタルだ。故にこの道具達は日本の世界で活動を円滑にするツールとして考えた方がよいだろう。
とりあえず、幹久の部屋のアイテム達をあの性根が腐ったミントに教えると、それはそれでとても厄介だからな。どんな手を使おうとも自身の懐に入れる為、吾輩を奴隷のように使うだろう。だから読者よ、この話はひとまず極秘だ。幹久も秘密にしてもらう為、貢物して吾輩製の魔道具を数点横流ししたら奴も潔く了承してくれた。
幹久も早く魔法界で夜な夜な饅頭で一儲けし、童貞処女と遊びたい。
吾輩も早く体を戻し可愛い子猫ちゃんとニャンニャンしたい。
二人の利害が一致したこそ、生まれた男同士の約束なのだ。
この道具を使って念願のニャンニャンハーレムを実現させるのだ!
吾輩の闘志は燃えていた。想像するだけで、妄想が止まらん。
まずは石橋瑠美子さんとの交渉だ。
なーに、敬語の使い方も幹久にレクチャーを受けたのでばっちりだ!
粗品とお金を用意した吾輩はフリーマーケットの会場に到着した。
大型商業施設の屋外駐車場。スタッフプレートを引き下げ。テキパキと仕事をこなす二人の女性を発見した。
「瑠美子さん。チラシの設置はこれで大丈夫でしょうか?」
「うん! OK!」
赤い眼鏡を掛け、髪をお団子一つ結びした三十代前後の女性。責任者のプレートが目に留まり、彼女が石橋瑠美子さんと理解した。
吾輩はその女性の後ろから声を掛ける事にした。
〇
始めまして、読者様。私は石橋瑠美子と申します。
本日はエデン倶楽部主催の環境フリマ、ウィズ福岡にお越し頂きありがとうございます。
と言っても今は設営中なので、只今、御見せ出来る物は何もありません。暫し、私の独り語りと共にご観覧して頂ければ幸いです。
大型商業施設に到着した私は、施設のイベント企画担当者に挨拶をすませ、エントランスホールにビニールシートを運ぶ作業を行っておりました。この後、駐車場の器材車から折り畳み机を運び、それぞれの出店者のブースにセッティングしていくと言う流れです。
いやー、正直言って大変です。何故なら同時期に東京で百鬼夜行イベントが進行中の為、人手が足りません。地方イベントと言う事もあって全てが二の次。派遣された幹部は私だけなんです。
本当は清水美樹《しみずみき》と言う同い年の相方がいるんですが、産休の為今回はやむなしです。
ですが、幸いな事に美樹の妹さんが、現在福岡に住んでいると言う事で、手伝いに駆けつけてくれました。
「瑠美子さーん! テーブル持って来ました!」
「ありがとうー! ガムテープで四角に囲っている所が、出店者様のブースだから、一つづつ置いて行って!」
「はーい!」
ロングヘヤーで凛とした顔立ち。とても十代には見えない大人っぽい子。ですが着ているトレーナーにはディフォルメされた熊掃除郎が大きくプリントされおり。可愛い物系が大好きなのは一目瞭然でした。
彼女の名前は清水沙也加《しみずさやか》ちゃん。なんでも福岡の地方アイドルグループに所属する。そこそこの売れっ子さんのようです。ですが、正直に言いますと、私、三次元には疎いもので、彼女の凄さがイマイチピンと来ていません。
しかし、沙也加ちゃんの整った顔立ちと、ハキハキした受け答え、偶に見せる満面の笑みはとても魅力的です。まだ会って一時間も経っていないのですが、彼女に魅了されるファンの方々の気持ちはなんとなく理解出来ます。
〇
あっという間に全てを折り畳み机を運び終える沙也加ちゃん。
私はガムテープを沙也加ちゃんに渡し、ブースの区画整理を手伝って貰う事にしました。
黙々と床に敷いたビニールシートにガムテープを貼って行く私達。
思えば六年前。初めて企画した時もこんな感じで忙しかったですかね。
新人だった頃、美樹と二人で企画して、なんとか本部から予算が下りて、始めたリユースイベント。物を大切にしたいと言う気持ちと、地球環境に少しでも貢献したいって想いで、頑張って続けて来たけど、フリマアプリの普及からか、年々出店者様も減ってきています。来年度の予算はまだ決定していません。今年は何とかモールを抑えれたけれど、来年は厳しいのかな……。
「瑠美子さん! こっちのバミり終わりました!」
「ありがとう、最後に受付のフライヤーを並べて終わりよ」
私達は今イベントのチラシと見取り図やお客様から預かっているフライヤーなどを並べていきます。
美樹が妊娠初期段階で、つわりが酷いにも関わらず、無理して作ってくれた今年のフライヤー。これで最後と思ってしまうと少し寂しいし考え深いですね。
私達は全てをチラシを並べ終えました。すると、沙也加ちゃんは疲れがどっと来たのか、受付に設置しいるパイプ椅子に崩れるように腰かけていました。
「お疲れ様。大丈夫? 沙也加ちゃん」
「お疲れです。ははは、お見苦しい所をすいません。最近時々ですが腹痛がしまして、ちょっと疲れましたね」
沙也加ちゃんはお腹を守るように、手を添えていました。
「そうだったの? ゴメンね、気付いてあげられなくて、力仕事とかさせちゃったよね」
「いえいえ、少し痛いだけですし、次期に収まります。お姉ちゃんと瑠美子さんが大切にしているイベントですもん。今日はこんな形で参加させて頂けれて光栄です」
「こちらこそ、今日は本当にありがとう。人手が足りなくて困ってたの。まさか、美樹の結婚と妊娠が立て続けに来たからね」
「姉がご迷惑をお掛けしてすいません」
「いえいえ! ホントは社内でこなさないと行けない事だし。沙也加ちゃんが謝る事ないわ。なんだか気を使わせてごめんなさい。ちなみに、美樹の赤ちゃんの性別はもう分かった?」
「男の子らしいです」
「キャー楽しみ~! 赤ちゃん用の靴下でも編んであげようかしら?」
「姉さん絶対喜びますよ」
すると沙也加ちゃんはニッコリ私に笑みを見せてくれた。どことなく、姉と似ている。
「いやーでも晴れて良かったですね。今日の出店って何組いるんですか?」
「何とか四十件って感じ」
「おお、楽しみですね」
「そうね。私的には、ギリギリ四十切らなくて助かったって感じかな。ノルマだったしね」
「そうだったんですか、ノルマがあるなんて、イベント企画ってのも大変なんですね」
「そうなのよ。でもね、ちょっとピンチだったのよ。毎年出店してる、曽根崎さんが事故で急遽キャンセルの連絡が入ったんだけど、入れ替わるように庵上さんって方から申し込みを頂いたの」
「良かったじゃないですか!」
「でもさぁ……見てよ、この住所」
私は沙也加ちゃんに庵上さんから届いたFAX用紙を見せた。
「今時、FAXで送るなんて珍しいですね……え! 東京?」
「ね? ここ福岡よ? 飛び入りの申し込みで本当に来るのかしら? 半分嫌がらせじゃないか冷や冷やしている所なの」
「うひゃー。冷やかしじゃなければいいですね」
「まぁ、今更考えてても仕方ないし気にしてないわ。出店者さん達が来るまで休憩ね。沙也加ちゃんも無理しないでね。何かあったらすぐ呼んでよ。あ、そうだ。何か飲む? 私、飲み物買ってくるわ」
「お気遣いありがとうございます、なら紅茶をお願いします」
「オッケー! ちょっと待ってて!」
私は財布を持って自動販売機へと向かいました。
自販機の紅茶のボタンを押して紅茶取り出します。
すると、後ろから男性の声で「すみません」と聞こえるので、私は振り返りました。
振り返った先には私の唇が触れるか触れないかギリギリまで顔を近づけている男性の顔面が飛び込んで来るではありませんか。
私は衝動的に「きゃあ!」っと悲鳴を漏らし、紅茶を落とし、尻餅をついてしまいました。そして「イテテ……」っとお尻の痛みにイラつき、何よ! と気持ちを込めて男性を睨もうと目を細めて見上げました。……ですが細めたはずの瞼は、無意識の内に大きく見開いていまったのです。
初めて視界映る、その人の全体像。百九十センチはあるであろう、高身長の男性。鮮やかでムラのない金髪に彫が深く、整った顔立ち。そして、ここではない何処かで見た、見に覚えのある服装に私は衝撃を受け、声を漏らしてしまいました。
「えぇ?」
そのイケメン男性は女子オタなら誰でも知っている。刀剣演舞の山姥切国広のコスプレをしていました。腕に付けた甲冑の光沢感と細かさ。そして刀の柄と鞘に施された装飾。そして体の細い線の仕上がり具合とといい、本物と言って信じてしまう程のクオリティでした。
出店者繋がりでこの手の衣装を創作している方を知っていますが、ここまでの物を依頼したら軽く五~六十万はするはずです。あまりの完成度が高さと再現性、そしてその格好良さに私は動揺してしまいました。仕方ありません。なぜなら、私、刀剣演舞と言うコンテンツが大、大、大大好きだったんです。
「すいません! 急に後ろから失礼しました。大丈夫でしたか?」
私を心配そうに優しく手を差し出す山姥切国広……様。私は動揺と恥じらいが入り混じりながら「え、ええ………」っという声と共に恐る恐る手を添えました。
すると山姥切国広様は、優しく私の手を引いて腰を支え、なんの躊躇もすることなく、私をお姫様抱っこをしてしまうのです。
記念すべき人生初にして夢のような殿方にしてもらうお姫様抱っこ。
コスプレ撮影会ならまだしも、公共の場で当たり前のようにお姫様抱っこをし、笑顔で私にハニカム山姥切国広様。その肝の座り方に感服いたします。
えぇっ? どういうこと? なにこれ! どういうこと? 近い、近い、近過ぎるし! これ以上近付かないで! 恥ずかしくて息が出来ない! っと内心、私の脳が追い付いていません。
私が国広様の腕の中でテンパっていると、国広様は爽やかな声で私に声を掛けて下さいました。
「初めまして、石橋さん。私、先日ファックスをさせて頂いた庵上マダナイと申します。本日はどうぞよろしくお願い致します」
「え? え? え!? 庵上さん!?」
私は驚きの余り、鶏が絞殺される時のような裏声を漏らしてしまいました。
「あ! あ! 失礼しました。わ、私が主催者の石橋瑠美子です。ほ、本日はどうぞよろしくお願いします」
国広様改め、庵上さんは透き通るような笑顔を私に返すと、私を優しく起き上がらせ、茶封筒に入った出店料を私に差し出しました。
私は頭を下げ、テンパりながら出店料を受けとります。異色な衣装で堂々とする庵上さんに対して、挙動不審な私。
し、仕方ないじゃないですか、ただの物好きなオッサンだとか想像していた人物が超絶イケメンで、まさかまさかのお姫様抱っこをされたんですから。脳天をライフルで撃ち抜かれたような衝撃が取れません。
私も身内仲間で集まり、趣味でコスをやってはいますが、庵上さんは衣装も完成度も桁違いです。戦闘力五十三万です。叶恭子さん並みの神々しさです。ぶっちゃけ衣装の調達のルートを教えて欲しいくらいです。
そんな私の気持ちをよそに庵上さんは口を開きました。
「始めて福岡と言う場所に来たんですが、とてもいい所ですね。今日のイベント、とても楽しみにしています」
キラリと見せる白い歯。ハニカム爽やかな笑顔。二倍速で脈を打つこの胸のドキドキ。
尊い……。私の胸の内にある赤い実が弾けました。後にも先にもこれを恋と呼ばずになんと呼べばいいか私には分かりません。
「い、いえ、こちらこそ、遠い所からわざわざありがとうございます」
「無知な質問で申し訳ないのですが、このエデン倶楽部環境フリマウィズ福岡はどれくらいの頻度でやっているのですか?」
「え……? えっと年に一度です」
「それでは是非、来年も参加させて頂ける事を切に願います」
「え? あ、はい。そう思っていてだけで嬉しいです……」
畏れ多い庵上さんに興味を持って頂けて誠に恐縮なのですが、内心喜べません。出店者減少により、イベントは今年限りで終わりになるかもしれないのです。わざわざ遠路はるばる東京からお越しになって下さった庵上さんに、悲しいお知らせなんて言える訳ありません。
「あ、あと、すいません。本日、私は諸事情がありまして。イベント中は席を外すと思います。変わりに二人の妹達が店番をしていますのでお気にならないでください」
「わ、わかりました」
「あと、こちら、つまらない物ですが。石橋さんとは今後とも仲良くして頂きたく思いお持ち致しました。何卒よろしくお願いします」
庵上さんは何やら長方形の包み紙のような物を私に差し出しました。厚みと大きさから、察するに、コミック本でしょうか?
「これは、わざわざどうもありがとうございます」
「それでは失礼します。今後ともどうかよろしくお願いします」
庵上さんは会釈すると、笑顔で会場を離れて行きました。
彼が離れても胸の内のドキドキが収まりません。まるで芸能人にあったかのようなソワソワが体中を廻っていました。
そんな庵上さんが私と仲良くなりたいと言って渡す粗品っていったい何? 渡された包み紙が何なのか気になって仕方ありません。私は失礼も十分承知ですが、止まらない感情に理性が友わなず、気付けば袋を開け、中を確認していました。
「これは!?」
声に漏れてしまう驚き。そして袋の中身の本の表紙を見て驚愕します。
それは過去に私が大好きで、ハマりにハマっていた日常系BLコミック。「いとしの猫っ毛」だったのです。既に全巻持って何十回も読破している作品ですが、私にとって沼に落ちた原点の作品。それはまるで私の心を見透かしたようなプレゼントだったのです。
この本を目にした瞬間。私の心はラブ着火ファイヤ! 焚火にガソリンを掛けたように、ラブが萌えたぎりました。本を持つ両手が震え、フリマ会場を去る庵上さんの背中姿とBL本と交互に四度見します。
リアルBL! 尊い! 尊過ぎます!
私の目の前に現れたニ・五次元のBLメンズの庵上さん。私の心に鋭い弾丸を撃ち抜き、学生時代に封印したはずの腐女子の私がゾンビのように息を吹き返し、目覚めてしまいました。
庵上さんは受けなの!? 攻めなの!? どっちなの!? いや、待って、男オンリーだけ? それともどっちもいけるタイプなの? 私のこの胸のときめきが救われる可能性はあるのですか?
爆弾を乗せる暴走機関車のように、この妄想は止まる事が出来ません。
てか既に爆発しています。もう私の恋愛感情なんて二の次でいいです。
それくらい庵上さんは尊い存在なのです。
超絶イケメンなのに、ありのままの自分をさらけ出し、ありのまま自分のなりたい姿で生きていく。庵上さんの曇りない生き方に私は感銘を受けました。
お近づきになりたい! あわよくば庵上さんが絡み合う私性活《しせいかつ》を覗きたい!
気付いた時には私は足を走らせ、庵上さんを追い掛けていました。
一期一会。逆ナンパ。ラブストーリーは突然に。
ああ! ままよ! もう何とでも言ってください!
庵上さんを燃料にしたジェットエンジンは何処までも加速します。
飛ぶように走り出した私はあっと言う間に庵上さんを視界に捉え、彼を呼び止めました。
「庵上さん!」
庵上さんは振り向き、私を見つけて下さいました。
「石橋さん。どうしまいたか?」
くそ~。超カッコイイ。いざと言う時に何を話せばいいか分からない。オタクの性とでもいいますか、私は興奮交じりと呼吸で、脳に酸素が回っておらず、とっさに懐に持っていたフライヤーを庵上さんに渡しました。
「来週東京で! イベントがあるんです! フリマイベントとは関係ない、猫の里親募集を兼ねての猫カフェイベントなんですが、私この日、東京に居ます!、是非良かったら来て下さい! 特注のパンケーキもあるんで、必ずサービスします!」
すると、庵上さんはフライヤーを受け取って下さると同時に動揺していました。
そして震える手と震える声で一言言葉を零しました。
「猫カフェ、ですと……?」
?? 何故だか理解出来ないのですが、庵上さんは急に涙を流し、熱い抱擁を私に交わしたのです。
「あ、庵上さん!?」
私が全身真っ赤に硬直していると、庵上さんは止めどない涙と共に感情を爆発させていました。
「ありがとう! あなたは、私の女神様だ!」
この時の私の体温は八百度を超えていたと思います。それぐらい、冷静になれず、頭が蒸発するほどフラフラでした。
庵上さんは涙を拭うと「必ず行きます」と約束して下さり、この場を後にしました。
〇
この後、主催者にも関わらず、フリマイベントに実が入らなかったのは言うまでもありません。片付けから受付まで、沙也加ちゃんには多大なるご迷惑をお掛けして、本当にごめんなさい。
後の話ですが、この日を境に私の妄想は庵上さんに迫られるシーンが私の主食になってしまったのは言うまでもありません。
渡された二千円がまさか首里城が印刷されていた二千円札だったり、妹さん二人共とても可愛らしい容姿をしていたりと、庵上家は何もかも浮世離れしています。
ですが、それも全てオプションに過ぎないと思える程のカッコよさ。まるで漫画の世界から飛び出して来たかのような存在。私の人生で庵上さん以上に衝撃な出会いを与えた人物は後にも先にもきっと現れないでしょう。私は彦星を待つ織姫様のように、来週の猫カフェイベントを待ちに待ち焦がれました。
今現在、モンブラン・ブレッセル城ではミントと七殿が魔道具に不備がないか最終確認をしている。前回の失敗の件もあって時間ギリギリまで入念にするつもりだろう。これは良い傾向だ。失敗が人を成長させると言うが、ここまで来たからには頑張ってもらわんとな。
吾輩が性欲満たす体に戻るまで後一歩の所まで来た。当初のアルフィーノメタル輸送計画は吾輩にとって念願から悲願に替わっていた。
幹久と祝い酒を交わしてから一週間。吾輩達は幹久と対談を繰り返し、日本の情報収集に時間を費やしていた。そして幹久から話を聞けば聞く程、この日本と言う世界の全貌が掴めて来た。
なんと。日本と言うのは一つの世界ではなく、二百近い数ある国の一カ所と言う事だそうだ。規模が大きいと言うのは良い事。魔道具に興味があり、取引出来る現地民が多いに越したことない。
だが、幹久の話から推定すると、どうやらこの世界で猫が喋る事に違和感を持たれるようだ。確かに、翌々考えてみたら、ハロウィンだかなんだか知らぬが、巷で見て来た人達は着ぐるみやメイクを施しているだけの人族ばかり。獣人族など、まだ一匹も見てはおらん。きっと日本の現地民にとってはさぞ珍しい存在なのだろう。
今回交渉する相手は人間の女性だ。相手に違和感なく会話を成立させる為、吾輩は傀儡人形を使い、人間の姿に擬態する案を思いついた。
外見はどんな人間にするか悩んだ。男か? 女か? 歳は? 身長は? あそこのサイズは? そこで頼りになるのは鮮度のある情報だ。幹久からお勧めの書籍が多くある書店を紹介してもらい、吾輩は七色マントで身を隠し、書店へと足を進めた。
〇
書店にたどり着いた吾輩。外観は思っていたよりもカラフルな装飾されている店だった。
店の名はとらのあな。身も心も子猫ちゃんの煩悩で満たされている吾輩にとって、虎の穴とはなんとも歯がゆい響きだった。読者で言う所の、レンタルビデオ店の十八禁コーナーに行くかの如く、吾輩はソワソワした気持ちで店内に入って行った。
吾輩は店内で本を物色し始めた。殆どの書籍がビニールシートでパッケージされており、中身が読めない。吾輩は仕方ないと思い、表表紙に印字されているイラスト参考にする事にした。
そして目に留まったのは「女性向け新刊コーナー」という棚。そこに平積みされておった本の表紙の人物。吾輩はその人物をモチーフに傀儡人形の制作をミントに依頼し、今現在、吾輩は人物の姿となって現地入りする事にしたのだった。
〇
遺体の体に未練があると言えばそれまでだが、体を入れ替えると言うのは少し抵抗がある。
則天門で所沢氏には疑われてしまうと思ったが、なんの事はない、所沢氏は吾輩の声を聞くだけで吾輩の正体を見破った。爺のくせに、意外に侮れないな。
ミントに依頼した体の完成度。若干不安に思っていたが、奴は手が器用と言うか、細かい式術が書けると言うか、申し分ない完成度だった。なんで二次元の絵が下手くそで、造形はできるのだ?…まぁ良い。正しく本の通り、これなら何処からどう見ても怪しまれる事はないだろう。
だが、周りの現地民は、少なからず吾輩をマジマジと見ている。少し体が細身で高身長過ぎたのがいけなかったのか? これでは巨体の時となんだか変わった気がしないが、まあ気にし過ぎるのも良くないな。速やかに用件を済ませばいいだけの事だ。
ちなみに今回の任務は、この地での出店するフリーマーケットの主催者、石橋瑠美子と呼ばれる女性に挨拶と出店料の二千円を渡す事だ。
前回のフリーマーケットは魔道具によって主催者の記憶を改ざんし、なんとか出店する事にこじつけられたが、一度は管理神にバレそうになった我が身。やはり、無暗に世界の理を捻じ曲がて干渉するべきではない。
今回。先方にフリーマーケットを申し込むにあたって、名前と住所を全て書面に書く必要があった。天界出身の吾輩にとって苗字や住所などあるわけない。
そこで、幹久の苗字と住所をお借りして、吾輩は庵上マダナイと名乗る事にし、書面に記載してコンビニにあるファックスと言う、この世界の転送系魔道具を使い、申し込んだ。
ファックスの使用方法が分からず、幹久に確認を取るため五回も異世界を往復した事は恥ずかしいので、ミントには内緒だからな。
石橋瑠美子さんがどんな方かわかぬが、今回の販売が上手く行ったなら末永い取引きになって欲しい。そんな願いから、吾輩は今後の事も考えて瑠美子さんに進物する、とらのはな書庫で選んだ粗品も用意した。店内ポップには「店員お勧めナンバーワン!」っと書かれておったし、人族の方がナンバーワンと言い切っている物ならきっと瑠美子さんにも喜ばれる物に違いない。目的の為には手段を選ばず、念には念を入れる。これが極悪ミントを見て来て学んだ処世術だ。
ん? どうした読者よ。なに? どうして吾輩がこの世界の通貨、二千円を持っているかだって? ぬぬぬ。読者も中々目の付け所があるな、安心せい。この二千円は吾輩の二千円ではない。幹久の自宅にあった財布から取り出した二千円なのだ。
この世界の二千円をこの世界の人物に渡す。これなら魔道具を使う事もないし、他世界間の干渉が生まれず管理神にバレる事もない。実に頭が良い作戦だろ? 猫だからと言って侮るでない。
実はな、まだミントには言っておらぬが、幹久と話し合った結果。この世界に残した幹久の部屋の物は自由に使っていいと言う許可を得ておる。幹久の部屋にはスマホと呼ばれる魔道具。液晶ディスプレイと呼ばれる投影魔術板など、実に面白そうな、この世界の魔道具が沢山あった。
だが、その道具達を魔法界に持っていくには日本側の人間を捕まえ、契約式術を結び、万物の理を書き換えないと送れない。
最優先に手に入れるべきはアルフィーノメタルだ。故にこの道具達は日本の世界で活動を円滑にするツールとして考えた方がよいだろう。
とりあえず、幹久の部屋のアイテム達をあの性根が腐ったミントに教えると、それはそれでとても厄介だからな。どんな手を使おうとも自身の懐に入れる為、吾輩を奴隷のように使うだろう。だから読者よ、この話はひとまず極秘だ。幹久も秘密にしてもらう為、貢物して吾輩製の魔道具を数点横流ししたら奴も潔く了承してくれた。
幹久も早く魔法界で夜な夜な饅頭で一儲けし、童貞処女と遊びたい。
吾輩も早く体を戻し可愛い子猫ちゃんとニャンニャンしたい。
二人の利害が一致したこそ、生まれた男同士の約束なのだ。
この道具を使って念願のニャンニャンハーレムを実現させるのだ!
吾輩の闘志は燃えていた。想像するだけで、妄想が止まらん。
まずは石橋瑠美子さんとの交渉だ。
なーに、敬語の使い方も幹久にレクチャーを受けたのでばっちりだ!
粗品とお金を用意した吾輩はフリーマーケットの会場に到着した。
大型商業施設の屋外駐車場。スタッフプレートを引き下げ。テキパキと仕事をこなす二人の女性を発見した。
「瑠美子さん。チラシの設置はこれで大丈夫でしょうか?」
「うん! OK!」
赤い眼鏡を掛け、髪をお団子一つ結びした三十代前後の女性。責任者のプレートが目に留まり、彼女が石橋瑠美子さんと理解した。
吾輩はその女性の後ろから声を掛ける事にした。
〇
始めまして、読者様。私は石橋瑠美子と申します。
本日はエデン倶楽部主催の環境フリマ、ウィズ福岡にお越し頂きありがとうございます。
と言っても今は設営中なので、只今、御見せ出来る物は何もありません。暫し、私の独り語りと共にご観覧して頂ければ幸いです。
大型商業施設に到着した私は、施設のイベント企画担当者に挨拶をすませ、エントランスホールにビニールシートを運ぶ作業を行っておりました。この後、駐車場の器材車から折り畳み机を運び、それぞれの出店者のブースにセッティングしていくと言う流れです。
いやー、正直言って大変です。何故なら同時期に東京で百鬼夜行イベントが進行中の為、人手が足りません。地方イベントと言う事もあって全てが二の次。派遣された幹部は私だけなんです。
本当は清水美樹《しみずみき》と言う同い年の相方がいるんですが、産休の為今回はやむなしです。
ですが、幸いな事に美樹の妹さんが、現在福岡に住んでいると言う事で、手伝いに駆けつけてくれました。
「瑠美子さーん! テーブル持って来ました!」
「ありがとうー! ガムテープで四角に囲っている所が、出店者様のブースだから、一つづつ置いて行って!」
「はーい!」
ロングヘヤーで凛とした顔立ち。とても十代には見えない大人っぽい子。ですが着ているトレーナーにはディフォルメされた熊掃除郎が大きくプリントされおり。可愛い物系が大好きなのは一目瞭然でした。
彼女の名前は清水沙也加《しみずさやか》ちゃん。なんでも福岡の地方アイドルグループに所属する。そこそこの売れっ子さんのようです。ですが、正直に言いますと、私、三次元には疎いもので、彼女の凄さがイマイチピンと来ていません。
しかし、沙也加ちゃんの整った顔立ちと、ハキハキした受け答え、偶に見せる満面の笑みはとても魅力的です。まだ会って一時間も経っていないのですが、彼女に魅了されるファンの方々の気持ちはなんとなく理解出来ます。
〇
あっという間に全てを折り畳み机を運び終える沙也加ちゃん。
私はガムテープを沙也加ちゃんに渡し、ブースの区画整理を手伝って貰う事にしました。
黙々と床に敷いたビニールシートにガムテープを貼って行く私達。
思えば六年前。初めて企画した時もこんな感じで忙しかったですかね。
新人だった頃、美樹と二人で企画して、なんとか本部から予算が下りて、始めたリユースイベント。物を大切にしたいと言う気持ちと、地球環境に少しでも貢献したいって想いで、頑張って続けて来たけど、フリマアプリの普及からか、年々出店者様も減ってきています。来年度の予算はまだ決定していません。今年は何とかモールを抑えれたけれど、来年は厳しいのかな……。
「瑠美子さん! こっちのバミり終わりました!」
「ありがとう、最後に受付のフライヤーを並べて終わりよ」
私達は今イベントのチラシと見取り図やお客様から預かっているフライヤーなどを並べていきます。
美樹が妊娠初期段階で、つわりが酷いにも関わらず、無理して作ってくれた今年のフライヤー。これで最後と思ってしまうと少し寂しいし考え深いですね。
私達は全てをチラシを並べ終えました。すると、沙也加ちゃんは疲れがどっと来たのか、受付に設置しいるパイプ椅子に崩れるように腰かけていました。
「お疲れ様。大丈夫? 沙也加ちゃん」
「お疲れです。ははは、お見苦しい所をすいません。最近時々ですが腹痛がしまして、ちょっと疲れましたね」
沙也加ちゃんはお腹を守るように、手を添えていました。
「そうだったの? ゴメンね、気付いてあげられなくて、力仕事とかさせちゃったよね」
「いえいえ、少し痛いだけですし、次期に収まります。お姉ちゃんと瑠美子さんが大切にしているイベントですもん。今日はこんな形で参加させて頂けれて光栄です」
「こちらこそ、今日は本当にありがとう。人手が足りなくて困ってたの。まさか、美樹の結婚と妊娠が立て続けに来たからね」
「姉がご迷惑をお掛けしてすいません」
「いえいえ! ホントは社内でこなさないと行けない事だし。沙也加ちゃんが謝る事ないわ。なんだか気を使わせてごめんなさい。ちなみに、美樹の赤ちゃんの性別はもう分かった?」
「男の子らしいです」
「キャー楽しみ~! 赤ちゃん用の靴下でも編んであげようかしら?」
「姉さん絶対喜びますよ」
すると沙也加ちゃんはニッコリ私に笑みを見せてくれた。どことなく、姉と似ている。
「いやーでも晴れて良かったですね。今日の出店って何組いるんですか?」
「何とか四十件って感じ」
「おお、楽しみですね」
「そうね。私的には、ギリギリ四十切らなくて助かったって感じかな。ノルマだったしね」
「そうだったんですか、ノルマがあるなんて、イベント企画ってのも大変なんですね」
「そうなのよ。でもね、ちょっとピンチだったのよ。毎年出店してる、曽根崎さんが事故で急遽キャンセルの連絡が入ったんだけど、入れ替わるように庵上さんって方から申し込みを頂いたの」
「良かったじゃないですか!」
「でもさぁ……見てよ、この住所」
私は沙也加ちゃんに庵上さんから届いたFAX用紙を見せた。
「今時、FAXで送るなんて珍しいですね……え! 東京?」
「ね? ここ福岡よ? 飛び入りの申し込みで本当に来るのかしら? 半分嫌がらせじゃないか冷や冷やしている所なの」
「うひゃー。冷やかしじゃなければいいですね」
「まぁ、今更考えてても仕方ないし気にしてないわ。出店者さん達が来るまで休憩ね。沙也加ちゃんも無理しないでね。何かあったらすぐ呼んでよ。あ、そうだ。何か飲む? 私、飲み物買ってくるわ」
「お気遣いありがとうございます、なら紅茶をお願いします」
「オッケー! ちょっと待ってて!」
私は財布を持って自動販売機へと向かいました。
自販機の紅茶のボタンを押して紅茶取り出します。
すると、後ろから男性の声で「すみません」と聞こえるので、私は振り返りました。
振り返った先には私の唇が触れるか触れないかギリギリまで顔を近づけている男性の顔面が飛び込んで来るではありませんか。
私は衝動的に「きゃあ!」っと悲鳴を漏らし、紅茶を落とし、尻餅をついてしまいました。そして「イテテ……」っとお尻の痛みにイラつき、何よ! と気持ちを込めて男性を睨もうと目を細めて見上げました。……ですが細めたはずの瞼は、無意識の内に大きく見開いていまったのです。
初めて視界映る、その人の全体像。百九十センチはあるであろう、高身長の男性。鮮やかでムラのない金髪に彫が深く、整った顔立ち。そして、ここではない何処かで見た、見に覚えのある服装に私は衝撃を受け、声を漏らしてしまいました。
「えぇ?」
そのイケメン男性は女子オタなら誰でも知っている。刀剣演舞の山姥切国広のコスプレをしていました。腕に付けた甲冑の光沢感と細かさ。そして刀の柄と鞘に施された装飾。そして体の細い線の仕上がり具合とといい、本物と言って信じてしまう程のクオリティでした。
出店者繋がりでこの手の衣装を創作している方を知っていますが、ここまでの物を依頼したら軽く五~六十万はするはずです。あまりの完成度が高さと再現性、そしてその格好良さに私は動揺してしまいました。仕方ありません。なぜなら、私、刀剣演舞と言うコンテンツが大、大、大大好きだったんです。
「すいません! 急に後ろから失礼しました。大丈夫でしたか?」
私を心配そうに優しく手を差し出す山姥切国広……様。私は動揺と恥じらいが入り混じりながら「え、ええ………」っという声と共に恐る恐る手を添えました。
すると山姥切国広様は、優しく私の手を引いて腰を支え、なんの躊躇もすることなく、私をお姫様抱っこをしてしまうのです。
記念すべき人生初にして夢のような殿方にしてもらうお姫様抱っこ。
コスプレ撮影会ならまだしも、公共の場で当たり前のようにお姫様抱っこをし、笑顔で私にハニカム山姥切国広様。その肝の座り方に感服いたします。
えぇっ? どういうこと? なにこれ! どういうこと? 近い、近い、近過ぎるし! これ以上近付かないで! 恥ずかしくて息が出来ない! っと内心、私の脳が追い付いていません。
私が国広様の腕の中でテンパっていると、国広様は爽やかな声で私に声を掛けて下さいました。
「初めまして、石橋さん。私、先日ファックスをさせて頂いた庵上マダナイと申します。本日はどうぞよろしくお願い致します」
「え? え? え!? 庵上さん!?」
私は驚きの余り、鶏が絞殺される時のような裏声を漏らしてしまいました。
「あ! あ! 失礼しました。わ、私が主催者の石橋瑠美子です。ほ、本日はどうぞよろしくお願いします」
国広様改め、庵上さんは透き通るような笑顔を私に返すと、私を優しく起き上がらせ、茶封筒に入った出店料を私に差し出しました。
私は頭を下げ、テンパりながら出店料を受けとります。異色な衣装で堂々とする庵上さんに対して、挙動不審な私。
し、仕方ないじゃないですか、ただの物好きなオッサンだとか想像していた人物が超絶イケメンで、まさかまさかのお姫様抱っこをされたんですから。脳天をライフルで撃ち抜かれたような衝撃が取れません。
私も身内仲間で集まり、趣味でコスをやってはいますが、庵上さんは衣装も完成度も桁違いです。戦闘力五十三万です。叶恭子さん並みの神々しさです。ぶっちゃけ衣装の調達のルートを教えて欲しいくらいです。
そんな私の気持ちをよそに庵上さんは口を開きました。
「始めて福岡と言う場所に来たんですが、とてもいい所ですね。今日のイベント、とても楽しみにしています」
キラリと見せる白い歯。ハニカム爽やかな笑顔。二倍速で脈を打つこの胸のドキドキ。
尊い……。私の胸の内にある赤い実が弾けました。後にも先にもこれを恋と呼ばずになんと呼べばいいか私には分かりません。
「い、いえ、こちらこそ、遠い所からわざわざありがとうございます」
「無知な質問で申し訳ないのですが、このエデン倶楽部環境フリマウィズ福岡はどれくらいの頻度でやっているのですか?」
「え……? えっと年に一度です」
「それでは是非、来年も参加させて頂ける事を切に願います」
「え? あ、はい。そう思っていてだけで嬉しいです……」
畏れ多い庵上さんに興味を持って頂けて誠に恐縮なのですが、内心喜べません。出店者減少により、イベントは今年限りで終わりになるかもしれないのです。わざわざ遠路はるばる東京からお越しになって下さった庵上さんに、悲しいお知らせなんて言える訳ありません。
「あ、あと、すいません。本日、私は諸事情がありまして。イベント中は席を外すと思います。変わりに二人の妹達が店番をしていますのでお気にならないでください」
「わ、わかりました」
「あと、こちら、つまらない物ですが。石橋さんとは今後とも仲良くして頂きたく思いお持ち致しました。何卒よろしくお願いします」
庵上さんは何やら長方形の包み紙のような物を私に差し出しました。厚みと大きさから、察するに、コミック本でしょうか?
「これは、わざわざどうもありがとうございます」
「それでは失礼します。今後ともどうかよろしくお願いします」
庵上さんは会釈すると、笑顔で会場を離れて行きました。
彼が離れても胸の内のドキドキが収まりません。まるで芸能人にあったかのようなソワソワが体中を廻っていました。
そんな庵上さんが私と仲良くなりたいと言って渡す粗品っていったい何? 渡された包み紙が何なのか気になって仕方ありません。私は失礼も十分承知ですが、止まらない感情に理性が友わなず、気付けば袋を開け、中を確認していました。
「これは!?」
声に漏れてしまう驚き。そして袋の中身の本の表紙を見て驚愕します。
それは過去に私が大好きで、ハマりにハマっていた日常系BLコミック。「いとしの猫っ毛」だったのです。既に全巻持って何十回も読破している作品ですが、私にとって沼に落ちた原点の作品。それはまるで私の心を見透かしたようなプレゼントだったのです。
この本を目にした瞬間。私の心はラブ着火ファイヤ! 焚火にガソリンを掛けたように、ラブが萌えたぎりました。本を持つ両手が震え、フリマ会場を去る庵上さんの背中姿とBL本と交互に四度見します。
リアルBL! 尊い! 尊過ぎます!
私の目の前に現れたニ・五次元のBLメンズの庵上さん。私の心に鋭い弾丸を撃ち抜き、学生時代に封印したはずの腐女子の私がゾンビのように息を吹き返し、目覚めてしまいました。
庵上さんは受けなの!? 攻めなの!? どっちなの!? いや、待って、男オンリーだけ? それともどっちもいけるタイプなの? 私のこの胸のときめきが救われる可能性はあるのですか?
爆弾を乗せる暴走機関車のように、この妄想は止まる事が出来ません。
てか既に爆発しています。もう私の恋愛感情なんて二の次でいいです。
それくらい庵上さんは尊い存在なのです。
超絶イケメンなのに、ありのままの自分をさらけ出し、ありのまま自分のなりたい姿で生きていく。庵上さんの曇りない生き方に私は感銘を受けました。
お近づきになりたい! あわよくば庵上さんが絡み合う私性活《しせいかつ》を覗きたい!
気付いた時には私は足を走らせ、庵上さんを追い掛けていました。
一期一会。逆ナンパ。ラブストーリーは突然に。
ああ! ままよ! もう何とでも言ってください!
庵上さんを燃料にしたジェットエンジンは何処までも加速します。
飛ぶように走り出した私はあっと言う間に庵上さんを視界に捉え、彼を呼び止めました。
「庵上さん!」
庵上さんは振り向き、私を見つけて下さいました。
「石橋さん。どうしまいたか?」
くそ~。超カッコイイ。いざと言う時に何を話せばいいか分からない。オタクの性とでもいいますか、私は興奮交じりと呼吸で、脳に酸素が回っておらず、とっさに懐に持っていたフライヤーを庵上さんに渡しました。
「来週東京で! イベントがあるんです! フリマイベントとは関係ない、猫の里親募集を兼ねての猫カフェイベントなんですが、私この日、東京に居ます!、是非良かったら来て下さい! 特注のパンケーキもあるんで、必ずサービスします!」
すると、庵上さんはフライヤーを受け取って下さると同時に動揺していました。
そして震える手と震える声で一言言葉を零しました。
「猫カフェ、ですと……?」
?? 何故だか理解出来ないのですが、庵上さんは急に涙を流し、熱い抱擁を私に交わしたのです。
「あ、庵上さん!?」
私が全身真っ赤に硬直していると、庵上さんは止めどない涙と共に感情を爆発させていました。
「ありがとう! あなたは、私の女神様だ!」
この時の私の体温は八百度を超えていたと思います。それぐらい、冷静になれず、頭が蒸発するほどフラフラでした。
庵上さんは涙を拭うと「必ず行きます」と約束して下さり、この場を後にしました。
〇
この後、主催者にも関わらず、フリマイベントに実が入らなかったのは言うまでもありません。片付けから受付まで、沙也加ちゃんには多大なるご迷惑をお掛けして、本当にごめんなさい。
後の話ですが、この日を境に私の妄想は庵上さんに迫られるシーンが私の主食になってしまったのは言うまでもありません。
渡された二千円がまさか首里城が印刷されていた二千円札だったり、妹さん二人共とても可愛らしい容姿をしていたりと、庵上家は何もかも浮世離れしています。
ですが、それも全てオプションに過ぎないと思える程のカッコよさ。まるで漫画の世界から飛び出して来たかのような存在。私の人生で庵上さん以上に衝撃な出会いを与えた人物は後にも先にもきっと現れないでしょう。私は彦星を待つ織姫様のように、来週の猫カフェイベントを待ちに待ち焦がれました。
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