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断絶ハサミ、伊東尚子編
怪しげな雑貨を売る子供と熊
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「おはよう尚ちゃん」
明るいⅬED照明に瞼を焙られ、幹久君の声が耳を通過すると、寝ていた意識がふと戻った。
どうやら私は寝てしまっていたらしい。彼が言うに行為が終わった後、力尽きるように寝ていたとの事。目覚まし時計に目を向けると早朝五時。まだ日の出さえしていない朝冷える時間帯に、幹久君は黒のボクサーパンツ一枚のみを纏い、私の前に仁王立ちしている。
「ごめん。俺、これから朝の仕込みがあるから帰らないといけないだ。時間無かったからシャワー借りたよ。シャンプーボトルの熊掃除郎も売ってるんだね。尚子ちゃんってほんと、キャラ物が好きなんだね」
彼は部屋に散らかる私の縫いぐるみ達に目を向けていた。
部屋干しされている衣類。食べ散らかされた数日前のコンビニ弁当の残骸。
昨夜はメンタルが崩壊していて気付かなかったけど、これ、絶対彼氏を呼べる部屋じゃないよね。後悔の念が私に浮かぶ。
幹久君が来てくれるならもっと前から部屋を綺麗にしておくべきだった。こんな私を見られてメッチャ恥ずかしい。私の事嫌いにならないかな。てか、勝手にシャワーを使われた事は構わないけど、私のシャンプーボトルを可愛いと褒められるのは、凄く照れ臭い。
幹久君はこんな私の汚い部屋を見ても、嫌な素振りを全く見せない。少し安心したと同時に嬉しさが込み上げてきた。恥ずかしいが九割、そして一割は素直な私が見せれてほっとしていた気持ち。
……と言うか、そんな事はどうでも良くなってしまう程に、彼の筋肉質な肉体は私の視線を奪っていた。
夜は電気も消していたのもあって、まじまじと見えなかったが、改めて見る幹久君の体は締まっていてエロい。低血圧気味の私にとって朝から目には強すぎる刺激的な肉体。一気に目が覚めてしまった。逆に血圧が上がり過ぎて朝食にバナナは食べられないかも知れない。……いや、待って、血圧が高いなら朝バナナは食べた方が良いんじゃなかったっけ?
脳裏に浮かぶ数多のバナナ。私は恥ずかしさのあまり「もう!」っと枕を幹久君に投げた。
すると腕の勢いで私の体を隠していた掛け布団がはだけてしまった。
私は全裸だった。あの時は夜で電気も付けず暗かったから大丈夫だったけど、照明によって照らされる自信のない胸を彼にはっきり見られ、急に恥ずかしくなり。すぐさま布団の中に潜り込み、蹲った。
急いでブラを着けようと慌てて毛布の中を手探り、掴んだブラを見て驚愕。赤面してしまった。
昨夜は下着の上下が違っていたのだ。上は黒で下はベージュ。
マジ最悪だ。
真っ暗の中、泣きじゃくって気付いて無かったけど、幹久は気付いていたのかな……?
さっきの私は素を見せたいとか言ってたけど、流石にこれは恥ずかし過ぎる。
人生最初で最後のロストバージン、その大切な夜にブラ上下違いとは。心の悲鳴は叫び過ぎて世界一周しそうだった。
そんなテンパる私を他所に、幹久君は制服を着て帰る準備をしている。
咄嗟に私の本心がちょっと声を漏らした。
「もう、いっちゃうの?」
「ごめんね。もう時間があまりないんだ。後五分だけだけど傍にいるよ」
幹久君は笑顔を見せ、着替え終えると、ベッドの上で毛布を被り蹲る私の横に座ってくれた。
紺色の作務依を纏い、手拭いで前髪を隠す幹久君。仕事着姿もこんなにカッコイイんだ。
彼が駆けつけてくれたから起こったプチデート。こんなに短いデートだったなら、もっと早く起こして欲しかったな。今日は日曜日。私の仕事は休みだけど、幹久は和菓子屋の跡継ぎで役員である為、休みも不定期。食品小売業は土日が稼ぎ時だし、しかも和菓子は日持ちのしない食材の為、幹久は毎朝毎朝仕込みや雑務で追われている。そんなことは分かっている。分かっているんだけれど! 私はもう少し幹久君と一緒に彼氏彼女らしい事がしたかった。
まるで主人が出掛けて寂しい子犬のような気持ちで私は彼を見ていると、ふとテーブルの上にある白い紙箱が目に留まった。
「あれ? 何それ?」
「あ、これ? 展示会の余り物だけど一応和菓子持ってきてたんだ。まだ寝起きだろうから朝食には重たいかもしれないけど、お腹が空いたら食べて」
彼が箱の蓋を開けると中には夜な夜な饅頭と栗色の求肥に包まれた大福が顔を出した。
十三夜庵は土産品として夜な夜な饅頭が世間に知れ渡っているけど、和菓子屋としては高級な部類に認知されている。
彼が見せてくれる箱の和菓子は見るからに美味しそうだった。私は舌の上に溜まる生唾を飲んだ。
「ありがとう」
「この栗色の大福は俺が考えた新作なんだ。隠し味にかぼちゃが混ぜてる。百貨店限定の和菓子なんだけど、親父から値段設定の権限まで貰って一生懸命作ったんだ。名前は「神無月」出来たら感想を聞かせてくれると嬉しいな」
「じゃあ早速。頂いちゃおうかな?」
幹久君は微笑むと付属されていたプラスチック製のフォークの袋を開き、大福を器用に一口サイズに切り分け私の口元に差し出した。
「ほら、あーんして」
私は全身毛布を包んだまま毛布から顔を出し、恥ずかしい状態で口に入れてもらった。
ぷにっと歯が要らない程の柔らかい食感の求肥。それを噛み締めると求肥から弾けるように漏れ出した半ペースト状のチョコと餡子の合せ餡。舌に乗せれば引き立て役に徹したカカオの苦みが微かに擦る。そして微かに感じるかぼちゃ本来の甘味が良い味を引き出している。苦みとコクは甘さを際立てるように、優しく口の中に広がった。
超美味しい。
幹久君の作った和菓子は紛れもなく一級品。彼が再びフォークであーんしてくれれば、甘味以上に幸せも広がってしまう。
「美味しい~」
「良かった! 尚子ちゃんなら何円くらいで買いたくなる?」
「うーん。千円かな~」
本気のつもりだったが幹久君は驚いて笑った。
「はは! 初めての企画が通った商品でそこまで強気に行けなかったな~」
「値段付けるって難しいんだね。でも本当にそれくらい美味しいと思ったよ」
「そう言って貰えて嬉しいよ。良かったらまだあるから食べて」
私は嬉しそうな顔をする幹久君からフォークを受け取ると、新作和菓子を口に頬張った。美味しさと幸せな気持ちが部屋一杯に広がる。こんな時間がいつまでも続いてくれればいいと心底思った。
だけど幹久君には時間が無かった。まるでシンデレラが十二時の鐘を気にするように、時間が気になった私は、モグモグ大福を食べながら目覚まし時計に目を向ける。
すると時計の後ろ壁に貼っていたカレンダーと、そこに書かれた赤いマジックペンの太文字に目が留まり、大事な要件を思い出した。
「そういえば、幹久君。来週誕生日だったよね?」
「あ、覚えてくれてたの? ありがとう、でもその日仕事で夜遅くなるんだ」
ここで食い下がるのはいつもの私。でもそれ以上に私はワガママで幹久君の事が大好きなんだ。繕っていない私の素顔が口を開いた。
「遅くてもいい。幹久の誕生日。一緒に過ごしたい」
彼は含み笑いをうかべ答えてくれた。
「……ありがとう。じゃあ仕事が終わったら一度電話入れるよ」
「うん、待ってる」
内心ガッツポーズが炸裂する。彼の誕生日を祝える幸せに心が落ち着かなかった。
私は彼を玄関で見送る為、全身に毛布を包み、サンダルを履いた。
「行ってらっしゃい。頑張ってね」
「ありがとう。尚子ちゃんも夜道は気を付けてね。あ、これ一応俺の家のスペアキー。電話もいつでも出れるようにしてるから」
初めて貰う、彼氏の部屋の合鍵。私は幹久君から鍵を受け取ると笑みが零れてしまった。
「うん。気を付ける。ありがとう」
「よし、じゃあ、行ってきます。あっ、頬っぺたに餅取り粉が付いてるよ」
彼は私の頬っぺたに手をやると、拭き取るように見せかけて私の顔を手で引き寄せ、唇を奪った。
急に来る幹久君の唇。玄関先でって恥ずかしい。私は全身びっくりして。真っ赤になり、すぐさま彼を追い出すように玄関の扉を閉めた。
彼を追い出したと同時に後悔の念が襲ってくる。
またやっちゃった、なんだよこれ……リア充爆発じゃん。
ツンデレと言えば聞えは良いが、結局素直に成れない強がりな私。恥ずかしくなると逃げたくなる衝動は私の悪い癖。これが彼との距離を作る原因なのに、変われたと思った矢先、結局自分を変えれない私にちょっと凹んでしまった。
私はベッドに飛び乗ると大きな縫いぐるみ熊掃除郎に昨夜のように顔面を押し当て、溢れる感情を足でバタつかせ、ベッドに八つ当たりする。
好き。超好き。だーい好き。
嬉しさを殴って八つ当たりする人間なんてきっと後にも先にも私くらいしかいないかも知れない。ホント大好き。
〇
一人になって少し落ち着いた私は再びベッドの上に座り、スマホのニュース動画を流しながら、残った幹久の新作和菓子を頬張り妄想にふけっていた。
そして作戦を練る。
幹久君と過ごす初めての誕生日。夜遅くなるから外食は無理だ。居酒屋行っても彼が次の日仕事だから飲めないし却下。やっぱり王道はケーキとプレゼント……でも幹久君は和菓子屋さんだし、洋食のケーキを買って用意しても喜んで食べてくれるだろうか?
毎日毎日、甘い和菓子を仕事で食べてる彼に素人の私がスイーツを買って喜んで貰うにはとてもリスキーで勇気がいる選択。
うーん、よし、ケーキはやめて、その分プレゼントを奮発しよう。
タイムリミットは来週の土曜日。平日じゃ仕事で夜遅くなるし。
彼の誕生日までプレゼントを買いに行ける日は今日しかない。
私は裸のまま勢いよく立ち上がった。
「ぐふぅ!」
一念発起して立ち上がったが体は悲鳴が走った。
腰、腕、肩、足、首、昨日の柔道。彼との夜の柔道。連戦の試合が災いして、筋肉痛による痛みが全身に迸る。痛い。
私は痛みに耐えながら重たい体を起こし、シャワーを浴び。服を着替え、メイクを施し、靴を履き、女モードで家を出た。
幹久君のプレゼントを買いにショッピングモールに向かった。
〇
私は浮かれていた。午後の天気は雨模様とスマホの通知機能がご丁寧に教えてくれていたに拘わらず、頭の中は幹久君の事で一杯だった。彼を愛する気持ちがエンジンのピストンのように脈を打ち、胸に蓄積するトキメキは運動エネルギーになって私にやる気をくれる。私は筋肉痛の全身に鞭を打って、ショッピングモールに足を運んだ。
路線バスを経由して片道三十分。ゴトゴトっと揺れるバスの車内。彼の誕生日プレゼントに何を選ぼうか悩んでいる時間は心もタイヤも飛び跳ねていた。まるで海外旅行に行く前の空港のように浮足立った心。ワクワクが止まらない。
〇
モールに着くと日曜日のお昼時と言う事もあって数多の人でごった返している。目に写るお洒落な洋服屋。女としての戦闘力を高めてくれる化粧品売り場。食べれば舌が喜ぶパステルカラーなスイーツショップ。モールの中は誘惑で一杯だ。憧れの女優さんが大きく映るポスターを見ていると、なんだか彼女が持っているバックが気になってしまう。柔道ばっかりやってきた私でも根は女子なんだと再認識した。
私は流れ行くまま女性物のアパレルショップに入った。トキメキと気合が空回りしているのは間違いない。私はお洒落そうな店員さんを捕まえて「彼の誕生日に何を着て行けば良いか教えて下さい!」っと安直な相談をしてしまったが為に、やる気になった店員さんと悩みに悩み、なんと三時間と言う途方もない労力を掛け、誕生日デートに着ていくお洒落な装いを選んでもらった。
幾つかの候補から最終的に選んだのは真紅のワンピース。ウエスト部分に絞りがあって、体のラインも女らしさを捨ていない作り、干物女の私が考えうる最大のお洒落だ。
ありがとう店員さん。これで私、戦えます。
昨夜は……あれはあれで良かったけど、正直言えばノーカウント。今度は勢いでHするんじゃなくて、自然な流れで彼と引っ付きもっつきしたい。私はある意味リベンジに燃えていた。
アスカさんが教えてくれた意見を参考に下着も購入。ちなみにエチエチな奴でも無ければ、履かないとかじゃないからね。言っときますけど、派手でも地味でもないフリル系の奴ですからね。
商品を選んでいるだけでデート当日のウキウキ妄想は熱気球のように大きく膨らむ。筋肉痛が無ければ雲の上をスキップ出来そうな程浮足立った心。ついついショッピングモール内で鼻歌を歌いながら歩いていると、男物のブランドショップが目に留まり、忘れていた本来の目的を思い出した。
私はいつもは見向きもしない男物のアパレルショップに入り、幹久君へのプレゼントに相応しい物がないか探した。何をプレゼントすれば幹久君は喜んでくれるだろうか? 私は悩みに悩みながら目に映る品を吟味していた。付き合って半年。彼を分析してきた情報を頼りに私は洋服を手に取った。
幹久君は和菓子を作る関係で衛生面に特に気を使っている。時計やブレスレット、ネックレスなどの身に着ける装飾品は殆ど付けている所を見た事が無い。バスに乗っている時からなんとなく思っていたが、プレゼントは洋服にしようと決めかかってていた。
これなんかいいんじゃないかな? っと手に取ったのは少しよさげのブランドのコート。流行り物ではないけど、これから寒くなる時期だから使ってくれそう。深い小豆色を選んだのは和菓子屋の幹久に対して半分ネタな気持ちでチョイスした。てか、私の買った真紅のワンピースと色合いが似ている。ちょっとだけお揃ろになるんじゃない?
お揃いのペア物を持った事がない恋愛未熟な私。脳裏に浮かぶ秋色を纏う二人の光景はまるで恋愛ドラマのワンシーンのようだった。想像するだけでムフフとニヤケ顔が零れてしまう。隠し切れないドキドキ。
遂に筋肉痛を忘れ、浮足立った足はステップ踏んでしまう。
私は商品をレジに持って行き、お会計を済ませた。そして男性スタッフの方にギフトラッピングを依頼した。余談だが、男性物のブランドショップと言う事だけあって、店員さんも中々ハンサムで清潔感がある方だった。
店員さんは快く了承してくれ、「五分お待ちください」との事。
私は了承し、時間を潰すように再び店内の男物の洋服を見ていた。
すると十メートル先にいる、紺色のパーカーを着た男に目が留まり、私は驚愕した。
嘘でしょ……?
百九十メートル近い身長。頬にライオンに襲われたような大きな傷がある、間違いなく、昨夜私を追い掛けたストーカー男だ。服装も昨夜と同じ格好のままだし、見間違えるはずがない。奴もこの洋服店で洋服を物色しているようだった。
最悪の鉢合わせ。脳裏に昨夜の恐怖が走馬燈のように襲ってくる。
ラッピングしてもらったプレゼントは後で取りに来ればいい。私はそう思い、恐る恐る男から逃げるように店内を後にしようとした。だがその時。
「お客様~!」っと後ろから突飛推しもない大きな声がして私は驚いた。
振り向くと手を振って大きな声を出しながら笑顔で私の元に駆け寄ってくれる先ほどの男性店員さん。
「ラッピング終わりました!」
予定よりも早いし、尚且つ梱包用紙には皺ひとつ無い。オマケに金色の光沢紙で折られたお手製の薔薇までもが添えれている。開けるには勿体ないと思える程、美しく包まれたギフトラッピング。多分、この店のマニュアルなのかも知れないけれど、先ほど私の服を買った店の女性店員さんと言い、このモールは接客がとても丁寧だ。もし私がセレブなマダムならリピートは不回避。もう百点満点中百二十点を上げたいくらいだった。
だが、but、しかし、この危機的状況においては最悪で、あからさまに目立つ行動でもあった。
私は店員さんからプレゼントの品を受け取ると、そっと奴の方に目を向けた。
最悪だ。
私は運命を呪った。目が合った瞬間、恐怖と言う名の冷たい何かが背中に飛び乗る。私の背筋はハリネズミの棘のように鳥肌が一斉に立ち上がった。
男は私に気付き、血に飢えたベンガルトラのような目付きでこちらを近づいていた。
逃げなきゃ! っと衝動的に足が動き、私は幹久君のプレゼントを片手に一目散に逃げた。
「待て!」っと怒鳴った男はデカい図体を荒野のバイソンのように走らせ、店内のハンガーラックをなぎ倒しながら私を追い掛けて来る。
私の動物的本能が捕まればタダでは済まないと訴え掛かけていた。
私はモール内を無我夢中で逃げた。だが脚は言うことを聞かず、全速力の半分のスピードしかでない。
男に出くわした不運に更なる不運が私を襲ったのだ。少しヒールの高い靴を履いていた事。買いすぎて邪魔になる荷物達。蔓延る全身の筋肉痛で足が訛りのように重い。
案の定、後ろを振り返ると、男は徐々に私との距離を縮めていた。
やばい! やばい! やばい! どうしょう? どうしょう?
逃げ惑うトムソンガゼルのように私の思考回路はフル回転。このままではいずれ追いつかれると思った私はあえて人通りの多い方向へ向きを変え、人の間を縫って走った。図体のデカい男は小回りが利かず、交差する人々に肩をぶつけてしっちゃかめっちゃしている。
その甲斐あって、なんとか男の視界から巻く事に成功した。
ざまぁ見ろ! いい気味だ!
〇
そして逃げ走りながら目の前に見えて来たのは、大勢の人がごった返すエントランス中央の大きな広場。ビニールシートを引いて、要らなくなった子供服や玩具を売っている家族連れ。テーブルを引いて、手作りアクセサリーを売っているご婦人達が目に映った。
どうやら、今日は催事としてフリーマーケットが行われているようだ。
私はとっさに身を隠そうと、一心な思いでその人込みの中へ飛び込んだ。
すると、中でも一際人込みが密集する一つのブースに目が留まる。何を売っているのか数多の人で見えないけれど、バーゲンセールでもやっているのかと思う程に、かなりの密集度の人だかりがあった。
珍しい物でもあるのだろうか? 群衆は動物園のパンダを見ているかのように、スマホのカメラを起動しては、ぞろぞろと押し寄せていた。
人を隠すは人の中。一か八かと思った私は人だかりに体を突っ込み、身を隠す事にした。
頭を低くし、人込みにねじ込む私の体。無理やり詰め込む詰め放題のように体を押し進めると、底が抜けたようにポツンと開けた空間に辿り着ついた。突然の緩急だった為、肩の重みが抜けたと同時に私は勢いよく転んでしまった。
イテテと転んだ目線の先にあったのは異彩を放つ一区間の販売ブース。一畳半サイズ程の赤紫色絨毯には金色の呪文のような模様がびっしり書かれてある。そして、その絨毯の上には古臭いレトロ雑貨が乱雑に置かれていた。雑貨の前では一人の少女が椅子に座り、なにやら難しそうな異国の本を読みながら足を交差し、私を見ていた。
「大丈夫? あなた?」
小女は本を閉じ、立ち上がると私に声を掛け、手を引いてくれた。
少女は異質な空気を漂わせていた。鍔の広い魔女帽を被った全身真っ黒の姿見。大きく明るい黄色い瞳に褐色肌。トリートメントは何を使っているのか尋ねたくなるくらい光沢感のある綺麗で長い黒髪をしている。身長から見るに小学生低学年。ただ、可愛いと言うより美しい言葉の方がしっくりくる、小さなクレオパトラのように整った顔をした美少女だった。
いや、ちょっと待って、それ以上にインパクトのある存在が、彼女の後ろに佇んでいた。
白と黒の斑柄。やけにお腹が出たブテっと肥った巨体に黄色いリボンを首に巻いた熊。
間違いない、熊掃除郎だ。
巷で噂の身長二メートルを超えた熊掃除郎。ネットで見た河を掃除していた映像と瓜二つ、目の前には本物と思ってしまう程の完成度の高い掃除郎がゆるキャラのように立っていた。
数多の野次馬は少女と商品には目もくれず掃除郎に釘付けだった。迫力と知名度と物珍しさあってか、人々のスマホはパシャパシャ引っ切り無し。この熊さんが本物かどうかは分からないけど、あれだけ世間を騒がせたボランティアべアーにそっくりなんだ。可愛い物には目がない私。こんな緊急事態でなければカメラ構えて記念に収めたいくらいだ。
てかなんでこんな所に掃除郎が? ハロウィンイベントの催し物か何か? くそ! なんでこんな時に! とりあえず、視線が集まるこの場所なら安全だと思った私は男に追われている事を少女に説明し、少しだけこの場に居させて欲しいとお願いをした。
すると少女と掃除郎は何やら耳打ち相談をして了承してくれた。どうやら二人は身内らしい。
「ここで会ったが何かの縁。あなたのお名前を聞いても良いかしら?」
受け答えがお上品な少女。私が少女に名前を名乗ると、彼女はハニカみ、尖った八重歯が顔を出していた。
「尚子。いい名前ね。なんなら私達がその男を巻くのを手伝ってあげようかしら?」
「え? ホントに?」
「その替わりと言っちゃなんだけど、ここにある商品を一つだけ買って貰えないかしら? この人だかり、何故だか私の商品には目に暮れず、マダナイにご執心なの」
その理由は察しが付く。どうやら話を聞く限り掃除郎の着ぐるみの中にはマダナイさんと言う人が入っているらしい。マダナイさんは着ぐるみの口を開いてあたかも本当に喋っているように喋りだした。
「現金な娘だ。まるで火事場の火消し売りのようだ」
マダナイさんの口がリアルに動くと、野次馬は「おー!」っと微かに歓声があがりスマホのシャッター音が飛び交った。
「横からチャチャを入れるんじゃないわよ。いいーじゃない、これも立派な人助けよ」
少女とマダナイさんが言い合いを始めた。親子なのだろうか? まるで友達のように対等な関係性だけど、今時の現代っ子ってこんな感じなのかな? まあいい。子供の優しい心遣いは嬉しけれど、今私を襲って来ている相手は恐ろしい大男。何かあってからでは遅いし、マダナイさんは別として、小さい女の子を危険な目に合わせる訳にはいかない。私は首を横に振った。
「子供を危険に合わせられません。この場を少しお借りして男を撒ければ結構です。商品も後で一つ買います」
すると少女は嬉しそうに目を輝かせていた。
「よし! その話に乗ったわ! マダナイ! 追手が見えなくなるまで尚子を匿うわよ!」
「はい?」
少女とマダナイさんは背後に山積みにされた雑貨を漁り出した。
「早速この七色マントが役立ちそうね。マダナイ、式術を展開して尚子に被せて!」
「ほいほい」
すると、マダナイさんが投網漁のように何かを広げる仕草したかと思えば、私の頭に布が覆いかぶさった。すると私達を見ていた人だかりから大きな歓声と拍手があがるではありませんか。何故歓声と拍手が上がったのか、私にはすぐには理解出来きず、まるで笑われたかと思ってしまい、なんだか恥ずかしかった。
頭に被さる布。布と言っても触らないとそこにあるかも分からない程の透明な布。サラッとシルクのような滑らかな肌触りの物が頭から覆いかぶさった感覚があるのだが、視界には虹色の反射が微かに見える気がする程度。まるでラップに包まれたかのような不思議な布だった。
だが、その布の不思議は私の想像より、はるかに摩訶不思議の布だった。
……私の体が見えない。
その布を通して私を手を見ると私の腕が映っていないのだ。と言うか全身が完全に消えている。触れば確かに私の腕や体、そして持っている紙袋もちゃんとある。なんなのこれ? まさかこれが、夢にまで見たドラえもんの透明マント?
こんな物がこの世にあるのかと私が身が震える程驚いていると、少女は口を開いた。
「それは魔法の力が込められたマント。この布を被っている限り外からは一切貴方が見えないから安心して」
少女の冗談か、はたまた、ファンタジーなのか現実なのか、一言では理解しがたい回答に私の頭は更に困惑した。
「この布、魔法なんですか? 貴方は一体」
少女は凛とした黒髪を耳に掛けると翡翠色のピアスを見せ、誇らしげに笑みを浮かべた。
「あ、自己紹介が遅れたわね。私、魔法使いのミント。異界から魔法売りに来た魔女よ」
異世界から来たと答える魔法使いの少女。少女達の話を聞けば聞く程、私はとんでもない人達と出会ってしまったのだと後に理解した。
明るいⅬED照明に瞼を焙られ、幹久君の声が耳を通過すると、寝ていた意識がふと戻った。
どうやら私は寝てしまっていたらしい。彼が言うに行為が終わった後、力尽きるように寝ていたとの事。目覚まし時計に目を向けると早朝五時。まだ日の出さえしていない朝冷える時間帯に、幹久君は黒のボクサーパンツ一枚のみを纏い、私の前に仁王立ちしている。
「ごめん。俺、これから朝の仕込みがあるから帰らないといけないだ。時間無かったからシャワー借りたよ。シャンプーボトルの熊掃除郎も売ってるんだね。尚子ちゃんってほんと、キャラ物が好きなんだね」
彼は部屋に散らかる私の縫いぐるみ達に目を向けていた。
部屋干しされている衣類。食べ散らかされた数日前のコンビニ弁当の残骸。
昨夜はメンタルが崩壊していて気付かなかったけど、これ、絶対彼氏を呼べる部屋じゃないよね。後悔の念が私に浮かぶ。
幹久君が来てくれるならもっと前から部屋を綺麗にしておくべきだった。こんな私を見られてメッチャ恥ずかしい。私の事嫌いにならないかな。てか、勝手にシャワーを使われた事は構わないけど、私のシャンプーボトルを可愛いと褒められるのは、凄く照れ臭い。
幹久君はこんな私の汚い部屋を見ても、嫌な素振りを全く見せない。少し安心したと同時に嬉しさが込み上げてきた。恥ずかしいが九割、そして一割は素直な私が見せれてほっとしていた気持ち。
……と言うか、そんな事はどうでも良くなってしまう程に、彼の筋肉質な肉体は私の視線を奪っていた。
夜は電気も消していたのもあって、まじまじと見えなかったが、改めて見る幹久君の体は締まっていてエロい。低血圧気味の私にとって朝から目には強すぎる刺激的な肉体。一気に目が覚めてしまった。逆に血圧が上がり過ぎて朝食にバナナは食べられないかも知れない。……いや、待って、血圧が高いなら朝バナナは食べた方が良いんじゃなかったっけ?
脳裏に浮かぶ数多のバナナ。私は恥ずかしさのあまり「もう!」っと枕を幹久君に投げた。
すると腕の勢いで私の体を隠していた掛け布団がはだけてしまった。
私は全裸だった。あの時は夜で電気も付けず暗かったから大丈夫だったけど、照明によって照らされる自信のない胸を彼にはっきり見られ、急に恥ずかしくなり。すぐさま布団の中に潜り込み、蹲った。
急いでブラを着けようと慌てて毛布の中を手探り、掴んだブラを見て驚愕。赤面してしまった。
昨夜は下着の上下が違っていたのだ。上は黒で下はベージュ。
マジ最悪だ。
真っ暗の中、泣きじゃくって気付いて無かったけど、幹久は気付いていたのかな……?
さっきの私は素を見せたいとか言ってたけど、流石にこれは恥ずかし過ぎる。
人生最初で最後のロストバージン、その大切な夜にブラ上下違いとは。心の悲鳴は叫び過ぎて世界一周しそうだった。
そんなテンパる私を他所に、幹久君は制服を着て帰る準備をしている。
咄嗟に私の本心がちょっと声を漏らした。
「もう、いっちゃうの?」
「ごめんね。もう時間があまりないんだ。後五分だけだけど傍にいるよ」
幹久君は笑顔を見せ、着替え終えると、ベッドの上で毛布を被り蹲る私の横に座ってくれた。
紺色の作務依を纏い、手拭いで前髪を隠す幹久君。仕事着姿もこんなにカッコイイんだ。
彼が駆けつけてくれたから起こったプチデート。こんなに短いデートだったなら、もっと早く起こして欲しかったな。今日は日曜日。私の仕事は休みだけど、幹久は和菓子屋の跡継ぎで役員である為、休みも不定期。食品小売業は土日が稼ぎ時だし、しかも和菓子は日持ちのしない食材の為、幹久は毎朝毎朝仕込みや雑務で追われている。そんなことは分かっている。分かっているんだけれど! 私はもう少し幹久君と一緒に彼氏彼女らしい事がしたかった。
まるで主人が出掛けて寂しい子犬のような気持ちで私は彼を見ていると、ふとテーブルの上にある白い紙箱が目に留まった。
「あれ? 何それ?」
「あ、これ? 展示会の余り物だけど一応和菓子持ってきてたんだ。まだ寝起きだろうから朝食には重たいかもしれないけど、お腹が空いたら食べて」
彼が箱の蓋を開けると中には夜な夜な饅頭と栗色の求肥に包まれた大福が顔を出した。
十三夜庵は土産品として夜な夜な饅頭が世間に知れ渡っているけど、和菓子屋としては高級な部類に認知されている。
彼が見せてくれる箱の和菓子は見るからに美味しそうだった。私は舌の上に溜まる生唾を飲んだ。
「ありがとう」
「この栗色の大福は俺が考えた新作なんだ。隠し味にかぼちゃが混ぜてる。百貨店限定の和菓子なんだけど、親父から値段設定の権限まで貰って一生懸命作ったんだ。名前は「神無月」出来たら感想を聞かせてくれると嬉しいな」
「じゃあ早速。頂いちゃおうかな?」
幹久君は微笑むと付属されていたプラスチック製のフォークの袋を開き、大福を器用に一口サイズに切り分け私の口元に差し出した。
「ほら、あーんして」
私は全身毛布を包んだまま毛布から顔を出し、恥ずかしい状態で口に入れてもらった。
ぷにっと歯が要らない程の柔らかい食感の求肥。それを噛み締めると求肥から弾けるように漏れ出した半ペースト状のチョコと餡子の合せ餡。舌に乗せれば引き立て役に徹したカカオの苦みが微かに擦る。そして微かに感じるかぼちゃ本来の甘味が良い味を引き出している。苦みとコクは甘さを際立てるように、優しく口の中に広がった。
超美味しい。
幹久君の作った和菓子は紛れもなく一級品。彼が再びフォークであーんしてくれれば、甘味以上に幸せも広がってしまう。
「美味しい~」
「良かった! 尚子ちゃんなら何円くらいで買いたくなる?」
「うーん。千円かな~」
本気のつもりだったが幹久君は驚いて笑った。
「はは! 初めての企画が通った商品でそこまで強気に行けなかったな~」
「値段付けるって難しいんだね。でも本当にそれくらい美味しいと思ったよ」
「そう言って貰えて嬉しいよ。良かったらまだあるから食べて」
私は嬉しそうな顔をする幹久君からフォークを受け取ると、新作和菓子を口に頬張った。美味しさと幸せな気持ちが部屋一杯に広がる。こんな時間がいつまでも続いてくれればいいと心底思った。
だけど幹久君には時間が無かった。まるでシンデレラが十二時の鐘を気にするように、時間が気になった私は、モグモグ大福を食べながら目覚まし時計に目を向ける。
すると時計の後ろ壁に貼っていたカレンダーと、そこに書かれた赤いマジックペンの太文字に目が留まり、大事な要件を思い出した。
「そういえば、幹久君。来週誕生日だったよね?」
「あ、覚えてくれてたの? ありがとう、でもその日仕事で夜遅くなるんだ」
ここで食い下がるのはいつもの私。でもそれ以上に私はワガママで幹久君の事が大好きなんだ。繕っていない私の素顔が口を開いた。
「遅くてもいい。幹久の誕生日。一緒に過ごしたい」
彼は含み笑いをうかべ答えてくれた。
「……ありがとう。じゃあ仕事が終わったら一度電話入れるよ」
「うん、待ってる」
内心ガッツポーズが炸裂する。彼の誕生日を祝える幸せに心が落ち着かなかった。
私は彼を玄関で見送る為、全身に毛布を包み、サンダルを履いた。
「行ってらっしゃい。頑張ってね」
「ありがとう。尚子ちゃんも夜道は気を付けてね。あ、これ一応俺の家のスペアキー。電話もいつでも出れるようにしてるから」
初めて貰う、彼氏の部屋の合鍵。私は幹久君から鍵を受け取ると笑みが零れてしまった。
「うん。気を付ける。ありがとう」
「よし、じゃあ、行ってきます。あっ、頬っぺたに餅取り粉が付いてるよ」
彼は私の頬っぺたに手をやると、拭き取るように見せかけて私の顔を手で引き寄せ、唇を奪った。
急に来る幹久君の唇。玄関先でって恥ずかしい。私は全身びっくりして。真っ赤になり、すぐさま彼を追い出すように玄関の扉を閉めた。
彼を追い出したと同時に後悔の念が襲ってくる。
またやっちゃった、なんだよこれ……リア充爆発じゃん。
ツンデレと言えば聞えは良いが、結局素直に成れない強がりな私。恥ずかしくなると逃げたくなる衝動は私の悪い癖。これが彼との距離を作る原因なのに、変われたと思った矢先、結局自分を変えれない私にちょっと凹んでしまった。
私はベッドに飛び乗ると大きな縫いぐるみ熊掃除郎に昨夜のように顔面を押し当て、溢れる感情を足でバタつかせ、ベッドに八つ当たりする。
好き。超好き。だーい好き。
嬉しさを殴って八つ当たりする人間なんてきっと後にも先にも私くらいしかいないかも知れない。ホント大好き。
〇
一人になって少し落ち着いた私は再びベッドの上に座り、スマホのニュース動画を流しながら、残った幹久の新作和菓子を頬張り妄想にふけっていた。
そして作戦を練る。
幹久君と過ごす初めての誕生日。夜遅くなるから外食は無理だ。居酒屋行っても彼が次の日仕事だから飲めないし却下。やっぱり王道はケーキとプレゼント……でも幹久君は和菓子屋さんだし、洋食のケーキを買って用意しても喜んで食べてくれるだろうか?
毎日毎日、甘い和菓子を仕事で食べてる彼に素人の私がスイーツを買って喜んで貰うにはとてもリスキーで勇気がいる選択。
うーん、よし、ケーキはやめて、その分プレゼントを奮発しよう。
タイムリミットは来週の土曜日。平日じゃ仕事で夜遅くなるし。
彼の誕生日までプレゼントを買いに行ける日は今日しかない。
私は裸のまま勢いよく立ち上がった。
「ぐふぅ!」
一念発起して立ち上がったが体は悲鳴が走った。
腰、腕、肩、足、首、昨日の柔道。彼との夜の柔道。連戦の試合が災いして、筋肉痛による痛みが全身に迸る。痛い。
私は痛みに耐えながら重たい体を起こし、シャワーを浴び。服を着替え、メイクを施し、靴を履き、女モードで家を出た。
幹久君のプレゼントを買いにショッピングモールに向かった。
〇
私は浮かれていた。午後の天気は雨模様とスマホの通知機能がご丁寧に教えてくれていたに拘わらず、頭の中は幹久君の事で一杯だった。彼を愛する気持ちがエンジンのピストンのように脈を打ち、胸に蓄積するトキメキは運動エネルギーになって私にやる気をくれる。私は筋肉痛の全身に鞭を打って、ショッピングモールに足を運んだ。
路線バスを経由して片道三十分。ゴトゴトっと揺れるバスの車内。彼の誕生日プレゼントに何を選ぼうか悩んでいる時間は心もタイヤも飛び跳ねていた。まるで海外旅行に行く前の空港のように浮足立った心。ワクワクが止まらない。
〇
モールに着くと日曜日のお昼時と言う事もあって数多の人でごった返している。目に写るお洒落な洋服屋。女としての戦闘力を高めてくれる化粧品売り場。食べれば舌が喜ぶパステルカラーなスイーツショップ。モールの中は誘惑で一杯だ。憧れの女優さんが大きく映るポスターを見ていると、なんだか彼女が持っているバックが気になってしまう。柔道ばっかりやってきた私でも根は女子なんだと再認識した。
私は流れ行くまま女性物のアパレルショップに入った。トキメキと気合が空回りしているのは間違いない。私はお洒落そうな店員さんを捕まえて「彼の誕生日に何を着て行けば良いか教えて下さい!」っと安直な相談をしてしまったが為に、やる気になった店員さんと悩みに悩み、なんと三時間と言う途方もない労力を掛け、誕生日デートに着ていくお洒落な装いを選んでもらった。
幾つかの候補から最終的に選んだのは真紅のワンピース。ウエスト部分に絞りがあって、体のラインも女らしさを捨ていない作り、干物女の私が考えうる最大のお洒落だ。
ありがとう店員さん。これで私、戦えます。
昨夜は……あれはあれで良かったけど、正直言えばノーカウント。今度は勢いでHするんじゃなくて、自然な流れで彼と引っ付きもっつきしたい。私はある意味リベンジに燃えていた。
アスカさんが教えてくれた意見を参考に下着も購入。ちなみにエチエチな奴でも無ければ、履かないとかじゃないからね。言っときますけど、派手でも地味でもないフリル系の奴ですからね。
商品を選んでいるだけでデート当日のウキウキ妄想は熱気球のように大きく膨らむ。筋肉痛が無ければ雲の上をスキップ出来そうな程浮足立った心。ついついショッピングモール内で鼻歌を歌いながら歩いていると、男物のブランドショップが目に留まり、忘れていた本来の目的を思い出した。
私はいつもは見向きもしない男物のアパレルショップに入り、幹久君へのプレゼントに相応しい物がないか探した。何をプレゼントすれば幹久君は喜んでくれるだろうか? 私は悩みに悩みながら目に映る品を吟味していた。付き合って半年。彼を分析してきた情報を頼りに私は洋服を手に取った。
幹久君は和菓子を作る関係で衛生面に特に気を使っている。時計やブレスレット、ネックレスなどの身に着ける装飾品は殆ど付けている所を見た事が無い。バスに乗っている時からなんとなく思っていたが、プレゼントは洋服にしようと決めかかってていた。
これなんかいいんじゃないかな? っと手に取ったのは少しよさげのブランドのコート。流行り物ではないけど、これから寒くなる時期だから使ってくれそう。深い小豆色を選んだのは和菓子屋の幹久に対して半分ネタな気持ちでチョイスした。てか、私の買った真紅のワンピースと色合いが似ている。ちょっとだけお揃ろになるんじゃない?
お揃いのペア物を持った事がない恋愛未熟な私。脳裏に浮かぶ秋色を纏う二人の光景はまるで恋愛ドラマのワンシーンのようだった。想像するだけでムフフとニヤケ顔が零れてしまう。隠し切れないドキドキ。
遂に筋肉痛を忘れ、浮足立った足はステップ踏んでしまう。
私は商品をレジに持って行き、お会計を済ませた。そして男性スタッフの方にギフトラッピングを依頼した。余談だが、男性物のブランドショップと言う事だけあって、店員さんも中々ハンサムで清潔感がある方だった。
店員さんは快く了承してくれ、「五分お待ちください」との事。
私は了承し、時間を潰すように再び店内の男物の洋服を見ていた。
すると十メートル先にいる、紺色のパーカーを着た男に目が留まり、私は驚愕した。
嘘でしょ……?
百九十メートル近い身長。頬にライオンに襲われたような大きな傷がある、間違いなく、昨夜私を追い掛けたストーカー男だ。服装も昨夜と同じ格好のままだし、見間違えるはずがない。奴もこの洋服店で洋服を物色しているようだった。
最悪の鉢合わせ。脳裏に昨夜の恐怖が走馬燈のように襲ってくる。
ラッピングしてもらったプレゼントは後で取りに来ればいい。私はそう思い、恐る恐る男から逃げるように店内を後にしようとした。だがその時。
「お客様~!」っと後ろから突飛推しもない大きな声がして私は驚いた。
振り向くと手を振って大きな声を出しながら笑顔で私の元に駆け寄ってくれる先ほどの男性店員さん。
「ラッピング終わりました!」
予定よりも早いし、尚且つ梱包用紙には皺ひとつ無い。オマケに金色の光沢紙で折られたお手製の薔薇までもが添えれている。開けるには勿体ないと思える程、美しく包まれたギフトラッピング。多分、この店のマニュアルなのかも知れないけれど、先ほど私の服を買った店の女性店員さんと言い、このモールは接客がとても丁寧だ。もし私がセレブなマダムならリピートは不回避。もう百点満点中百二十点を上げたいくらいだった。
だが、but、しかし、この危機的状況においては最悪で、あからさまに目立つ行動でもあった。
私は店員さんからプレゼントの品を受け取ると、そっと奴の方に目を向けた。
最悪だ。
私は運命を呪った。目が合った瞬間、恐怖と言う名の冷たい何かが背中に飛び乗る。私の背筋はハリネズミの棘のように鳥肌が一斉に立ち上がった。
男は私に気付き、血に飢えたベンガルトラのような目付きでこちらを近づいていた。
逃げなきゃ! っと衝動的に足が動き、私は幹久君のプレゼントを片手に一目散に逃げた。
「待て!」っと怒鳴った男はデカい図体を荒野のバイソンのように走らせ、店内のハンガーラックをなぎ倒しながら私を追い掛けて来る。
私の動物的本能が捕まればタダでは済まないと訴え掛かけていた。
私はモール内を無我夢中で逃げた。だが脚は言うことを聞かず、全速力の半分のスピードしかでない。
男に出くわした不運に更なる不運が私を襲ったのだ。少しヒールの高い靴を履いていた事。買いすぎて邪魔になる荷物達。蔓延る全身の筋肉痛で足が訛りのように重い。
案の定、後ろを振り返ると、男は徐々に私との距離を縮めていた。
やばい! やばい! やばい! どうしょう? どうしょう?
逃げ惑うトムソンガゼルのように私の思考回路はフル回転。このままではいずれ追いつかれると思った私はあえて人通りの多い方向へ向きを変え、人の間を縫って走った。図体のデカい男は小回りが利かず、交差する人々に肩をぶつけてしっちゃかめっちゃしている。
その甲斐あって、なんとか男の視界から巻く事に成功した。
ざまぁ見ろ! いい気味だ!
〇
そして逃げ走りながら目の前に見えて来たのは、大勢の人がごった返すエントランス中央の大きな広場。ビニールシートを引いて、要らなくなった子供服や玩具を売っている家族連れ。テーブルを引いて、手作りアクセサリーを売っているご婦人達が目に映った。
どうやら、今日は催事としてフリーマーケットが行われているようだ。
私はとっさに身を隠そうと、一心な思いでその人込みの中へ飛び込んだ。
すると、中でも一際人込みが密集する一つのブースに目が留まる。何を売っているのか数多の人で見えないけれど、バーゲンセールでもやっているのかと思う程に、かなりの密集度の人だかりがあった。
珍しい物でもあるのだろうか? 群衆は動物園のパンダを見ているかのように、スマホのカメラを起動しては、ぞろぞろと押し寄せていた。
人を隠すは人の中。一か八かと思った私は人だかりに体を突っ込み、身を隠す事にした。
頭を低くし、人込みにねじ込む私の体。無理やり詰め込む詰め放題のように体を押し進めると、底が抜けたようにポツンと開けた空間に辿り着ついた。突然の緩急だった為、肩の重みが抜けたと同時に私は勢いよく転んでしまった。
イテテと転んだ目線の先にあったのは異彩を放つ一区間の販売ブース。一畳半サイズ程の赤紫色絨毯には金色の呪文のような模様がびっしり書かれてある。そして、その絨毯の上には古臭いレトロ雑貨が乱雑に置かれていた。雑貨の前では一人の少女が椅子に座り、なにやら難しそうな異国の本を読みながら足を交差し、私を見ていた。
「大丈夫? あなた?」
小女は本を閉じ、立ち上がると私に声を掛け、手を引いてくれた。
少女は異質な空気を漂わせていた。鍔の広い魔女帽を被った全身真っ黒の姿見。大きく明るい黄色い瞳に褐色肌。トリートメントは何を使っているのか尋ねたくなるくらい光沢感のある綺麗で長い黒髪をしている。身長から見るに小学生低学年。ただ、可愛いと言うより美しい言葉の方がしっくりくる、小さなクレオパトラのように整った顔をした美少女だった。
いや、ちょっと待って、それ以上にインパクトのある存在が、彼女の後ろに佇んでいた。
白と黒の斑柄。やけにお腹が出たブテっと肥った巨体に黄色いリボンを首に巻いた熊。
間違いない、熊掃除郎だ。
巷で噂の身長二メートルを超えた熊掃除郎。ネットで見た河を掃除していた映像と瓜二つ、目の前には本物と思ってしまう程の完成度の高い掃除郎がゆるキャラのように立っていた。
数多の野次馬は少女と商品には目もくれず掃除郎に釘付けだった。迫力と知名度と物珍しさあってか、人々のスマホはパシャパシャ引っ切り無し。この熊さんが本物かどうかは分からないけど、あれだけ世間を騒がせたボランティアべアーにそっくりなんだ。可愛い物には目がない私。こんな緊急事態でなければカメラ構えて記念に収めたいくらいだ。
てかなんでこんな所に掃除郎が? ハロウィンイベントの催し物か何か? くそ! なんでこんな時に! とりあえず、視線が集まるこの場所なら安全だと思った私は男に追われている事を少女に説明し、少しだけこの場に居させて欲しいとお願いをした。
すると少女と掃除郎は何やら耳打ち相談をして了承してくれた。どうやら二人は身内らしい。
「ここで会ったが何かの縁。あなたのお名前を聞いても良いかしら?」
受け答えがお上品な少女。私が少女に名前を名乗ると、彼女はハニカみ、尖った八重歯が顔を出していた。
「尚子。いい名前ね。なんなら私達がその男を巻くのを手伝ってあげようかしら?」
「え? ホントに?」
「その替わりと言っちゃなんだけど、ここにある商品を一つだけ買って貰えないかしら? この人だかり、何故だか私の商品には目に暮れず、マダナイにご執心なの」
その理由は察しが付く。どうやら話を聞く限り掃除郎の着ぐるみの中にはマダナイさんと言う人が入っているらしい。マダナイさんは着ぐるみの口を開いてあたかも本当に喋っているように喋りだした。
「現金な娘だ。まるで火事場の火消し売りのようだ」
マダナイさんの口がリアルに動くと、野次馬は「おー!」っと微かに歓声があがりスマホのシャッター音が飛び交った。
「横からチャチャを入れるんじゃないわよ。いいーじゃない、これも立派な人助けよ」
少女とマダナイさんが言い合いを始めた。親子なのだろうか? まるで友達のように対等な関係性だけど、今時の現代っ子ってこんな感じなのかな? まあいい。子供の優しい心遣いは嬉しけれど、今私を襲って来ている相手は恐ろしい大男。何かあってからでは遅いし、マダナイさんは別として、小さい女の子を危険な目に合わせる訳にはいかない。私は首を横に振った。
「子供を危険に合わせられません。この場を少しお借りして男を撒ければ結構です。商品も後で一つ買います」
すると少女は嬉しそうに目を輝かせていた。
「よし! その話に乗ったわ! マダナイ! 追手が見えなくなるまで尚子を匿うわよ!」
「はい?」
少女とマダナイさんは背後に山積みにされた雑貨を漁り出した。
「早速この七色マントが役立ちそうね。マダナイ、式術を展開して尚子に被せて!」
「ほいほい」
すると、マダナイさんが投網漁のように何かを広げる仕草したかと思えば、私の頭に布が覆いかぶさった。すると私達を見ていた人だかりから大きな歓声と拍手があがるではありませんか。何故歓声と拍手が上がったのか、私にはすぐには理解出来きず、まるで笑われたかと思ってしまい、なんだか恥ずかしかった。
頭に被さる布。布と言っても触らないとそこにあるかも分からない程の透明な布。サラッとシルクのような滑らかな肌触りの物が頭から覆いかぶさった感覚があるのだが、視界には虹色の反射が微かに見える気がする程度。まるでラップに包まれたかのような不思議な布だった。
だが、その布の不思議は私の想像より、はるかに摩訶不思議の布だった。
……私の体が見えない。
その布を通して私を手を見ると私の腕が映っていないのだ。と言うか全身が完全に消えている。触れば確かに私の腕や体、そして持っている紙袋もちゃんとある。なんなのこれ? まさかこれが、夢にまで見たドラえもんの透明マント?
こんな物がこの世にあるのかと私が身が震える程驚いていると、少女は口を開いた。
「それは魔法の力が込められたマント。この布を被っている限り外からは一切貴方が見えないから安心して」
少女の冗談か、はたまた、ファンタジーなのか現実なのか、一言では理解しがたい回答に私の頭は更に困惑した。
「この布、魔法なんですか? 貴方は一体」
少女は凛とした黒髪を耳に掛けると翡翠色のピアスを見せ、誇らしげに笑みを浮かべた。
「あ、自己紹介が遅れたわね。私、魔法使いのミント。異界から魔法売りに来た魔女よ」
異世界から来たと答える魔法使いの少女。少女達の話を聞けば聞く程、私はとんでもない人達と出会ってしまったのだと後に理解した。
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