ある女教師の憂鬱

翠乃古鹿

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露出の日まで②

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 しばらく個室の中にこもっていた知子は、朝の改札口での別れ際に、渋谷から渡された小さな紙袋を開けた。
 布地の少ない、ほとんど紐のようなセクシーランジェリーが入っていた。
 何食わぬ顔で職員室に戻った知子に、学年主任の高津先生がそっと声をかけてきた。
「大丈夫ですか、綱島先生。痛み止めの薬もありますけど、必要なら言ってくださいね」
 彼女は、トイレに立った知子が中々戻ってこないことを心配してくれていた。
 今朝の駅構内で具合の悪そうな知子を心配してくれた年配の女性のように、彼女も知子が生理痛だと勘違いしたらしい。
 だが本当は、ペットボトルを男根がわりにして自慰に没頭していたと、高津先生が知ったら何と言うだろう……。
 知子は彼女の心遣いに感謝すると共に、自分の浅ましさに体を熱くしていた。
「ありがとうございます、高津先生。でも、もう大丈夫ですわ。ご心配かけました」
 顔を赤くして頭を下げた知子に、
「余計なお節介かもしれないけど、ごめんなさいね。でも、男の人はこんなこと分からないから。女性同士、助け合いましょう」
 と言って唇に指を当てると、自分の席に戻って行った。
 親切な高津先生の背中を見送りながら、知子は机の下で再びスカートを捲り上げ、背徳の露出に手を染めていた。
 授業の終了を報せるチャイムが鳴った。
 ようやく昼休みで校舎が騒がしくなった。
 購買部でサンドイッチと野菜ジュースを買って職員室に戻った知子を、池尻先生が待ち構えていた。
「あら珍しい。今日はお弁当じゃないのね」
 彼女は、ちゃっかりと知子の隣の席に座って弁当を広げていた。
 隣の机の男性教諭は食堂に行ったらしい。
「今日はちょっと寝坊しちゃって。それより亜里沙先生のお弁当、相変わらず豪華ね」
「いやいや、旦那が料理好きなのはいいんだけど、あまり凝ったことをされるとね……」
 照れながら文句を言っているが、顔は嬉しそうだ。
 知子は、池尻先生が夫に愛されているのだろうと思うと、彼女をうらやましく感じた。
(渋谷さんは、私のことを本当はどう思っているのだろう……)
 知子を抱いた男たちは、今まで誰一人として愛を語った者はいなかった。
 旦那さんの手作りだというおかずを頬張る池尻先生が経験しているセックスは、愛に溢れているのだろう。
 だが、彼女の何十倍もの回数を経験している知子のセックスには、愛はなかった。
 男たちは知子を肉便器と呼び、欲情のはけ口としか見ていない。
 唯一、渋谷だけが知子に愛を語ったのだ。
 池尻先生の質問攻めに会う前に、渋谷との出会いや今の関係を話すことにした。
 もちろん彼女に本当のことは言えない。
 虚実を織り交ぜ、知子の思い描く理想を脚色している。
「へー、高校の同窓生だったんだ」
「そうなの。それを聞いてビックリしちゃって。クラスが違ってたから、全然覚えていなくて……」
「でも、渋谷さんは、知子先生のことをよく覚えていたんでしょ?」
「……うん……」
 野菜ジュースのストローを口に含んだままで生返事をする知子に、
「なになに、他に何かあるのね」
 と彼女は興味津々の顔を近づけた。
「私は全く記憶がないんだけど。渋谷さんの話では、中学生の時に近所に住んでたらしいの。でもその頃は母の仕事で、二回くらい引っ越ししてるのよね。だから、いつの話なのか全然分からなくて……」
 それを聞いた彼女は、合点がいったような目で知子を上目遣いに見た。
「ふーん。もしかして、知子先生が渋谷さんの初恋の人だったりして。だから、知子先生のことをよく覚えていたのよ」
 彼女の鋭い指摘に、内心ドキとした。
 知子を初恋の女だと渋谷が言った日の、凌辱的セックスが頭に浮かんだ。
「まさか、そんな……」
 慌てて否定したが、彼女には聞こえていないようだ。
「渋谷さんと知り合って一カカ月なのよね? もしかしたら、そろそろ告白されるか、何かプレゼントを用意してるかも。うちの主人の時がそうだったわ。それとも、もう何かプレゼントをもらった?」
 知子を見る彼女は、何かの秘密を見つけた悪戯っ子のような顔をしていた。
「いやいや、全然そんなのはないわ……」
 そう言いながらも知子は、いま身につけている渋谷からの淫らなプレゼントを、彼女に見せたいという衝動に駆られた。
 それはトイレの個室で着替えた、下着の意味をなさないセクシーランジェリーだ。
 乳房の全てが露出し、女の割れ目もわずかな布で覆っているが、薄く透けている。
 スカートをまくりあげるだけで、その一端を見せることができる。
 そのまま後ろを向いて尻を突き出せば、肛門に埋め込まれた異物も確認できるだろう。
 自分の浅ましい想いに手が震えた。
「その渋谷さんて何をしている人なの?」
 彼女の何気ない問いで我に返った。
「何って……知り合ってまだ、一カ月だし」
 知子は、改めて自分は渋谷のことを何も知らないのだと思い知った。
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