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 あの後は無事に他の討伐依頼も達成し魔物食材を手に入れることができた。その日のお店の料理はコカトリスの唐揚げにしたがとても好評であった。料理は完売となり店を閉めて片付けをする。
 ちなみにイシス様も食べに来てくれた。今までは閉店してもお店にいて色々話をしていたのだが、婚約も整った今は騎士団の引き継ぎで忙しいようだ。それでもお店を開ければ必ず食べに来てくれる。今日も食べ終わって二三会話した後すぐに騎士団へと戻っていったのだった。

 そして片付けが終わり一人厨房であの蜂蜜の使い道を考えている。
 そのまま食べてもいいしお茶に入れてもいいだろう。それにお菓子にしたり料理の隠し味にするのも有りだ。たくさんの使い道がありなかなか決めることができない。


「うーん、どうしようかな…。ん?」


 悩んでいると店の扉を叩く音が聞こえてきた。


「誰だろう?敵意は…ないみたい」


 気配から扉を叩く人物に敵意がないことを確認する。蜂蜜の使い道も悩むだけで結論が出なかったので気分転換も兼ねて扉へと向かった。


「はーい」


 扉を開けるとそこにはタキシードを来た若い男性が立っていた。おそらくどこかの家の執事だろう。


 (デジャブ?)


 以前ロイガート公爵家の執事であるレイノードさんがお店に来た時と状況が似ている。でもこの人はロイガート公爵家の執事ではない。だけど私に用事がある貴族なんて他にはないはずだ。


「えーっと、どちら様ですか?」

「突然申し訳ありません。こちらをお預かりして参りましたのでお受け取りください」


 そう言って差し出された一通の封筒。貴族様からの封筒など平民の私には受け取るの一択しか存在しない。
 若い執事から封筒を受け取って宛名を確認する。宛名は『ルナさんへ』となっていた。それに封筒は花柄で可愛らしいものだった。


 (私のことをルナさんって呼ぶ可愛らしい貴族令嬢に知り合いなんていたっけ?)


 そして差出人を確認すると差出人はベルフィーナ・イグサンとなっていた。


 (ベルフィーナ・イグサン…。イグサンって確か公爵家よね?それにベルフィーナって新しい王太子の婚約者の名前と同じ。…あ、もしかしてあの時の?)


 以前閉店間際にやって来たあの令嬢ではないだろうか。むしろそれしか心当たりがない。
 封筒を開けると中身はお茶会の招待状であった。当然断るわけにはいかないので参加する旨を記した返事を渡し若い執事は帰っていった。

 招待状に書かれている日にちは七日後だ。それまでに当日着る服と手土産を用意しなければならない。服はどうにかなるが問題は手土産だ。どうしようかと悩んでいるとふとジャイアントビーの蜂蜜が視界に入った。


 (そうだ!この蜂蜜を入れたお菓子なら貴族への手土産にしても見劣りしないはず!もしかしたらイグサン公爵令嬢ですら口にしたこたがないかもしれないわ。それと少量はお茶用に持っていくのもいいかも)


 さてどんなお菓子を作ろうか。できるだけシンプルなお菓子がいいだろう。その方が蜂蜜の美味しさが際立つはずだ。

 こうして私は試行錯誤しながらイグサン公爵令嬢とのお茶会に向けて準備をするのだった。
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