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14 ウラヌス公爵視点

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 アンゼリーヌ十歳の生誕パーティーにて――


 今日は国を挙げての盛大な催しが行われる日だ。アンゼリーヌ第二皇女殿下の十歳の誕生日を祝うパーティーが開かれる。皇族方の誕生日は毎年パーティーが開かれるのだが、十歳のパーティーだけは規模が違う。十歳になられた皇子皇女の重大発表の場なのだ。その発表は今後の社交界に影響を与えるほどで、国中の貴族達が注目している。
 もちろん私もその中の一人である。
 アンゼリーヌ第二皇女殿下は我が公爵家に連なるメイト伯爵家の娘が生んだ子だ。皇后である私の妹は皇帝陛下と婚姻してから三年間子に恵まれなかったため、皇妃を娶らなければならなかった。陛下と妹の婚姻は政略によるものだ。戦争で領土を広げるよりも国内の発展と安定を目指す陛下と、それを支持するウラヌス公爵家の婚姻であった。
 しかし子に恵まれないことから皇妃を娶ることになったのだが、皇妃に選ばれたのはバスピア侯爵家の娘だった。バスピア侯爵家は明言はしていないものの戦争賛成派だ。もし皇妃に子が生まれその子が皇帝になればこの国はどのような道を辿るか分かったものではない。それを阻止するためにもう一人皇妃を娶ることを陛下に提案し受け入れてもらったのだ。そして皇妃にと選ばれたのがアンゼリーヌ殿下の生みの母であるラフィーネ・メイト伯爵令嬢だった。
 しかし第二皇妃であったラフィーネはアンゼリーヌ殿下を出産した後の産後の肥立ちが悪く、そんな時に運悪く流行り病をもらいそのまま儚亡くなってしまった。
 幼くしてて母親を失ったアンゼリーヌ殿下だったが、まさか妹が殿下の母親になると言い出すとは思いもよらなかった。ウラヌス公爵家に連なる家の娘が生んだ子ではあるが実際には他人と何ら変わりない。そんな子どもを妹が育てられるのかと心配したが、その心配は杞憂に終わった。本当の母と娘のように寄り添う二人を見てひどく安堵したことを今でも覚えている。

 そんなアンゼリーヌ殿下もこの度十歳の誕生日を迎えられた。殿下はどんな未来を選んだのだろうか。


 そしてパーティーが始まった。
 会場には国中の貴族が集まっている。つい先月行われたマリアンヌ第一皇女殿下の生誕パーティーよりも人数が多いようだ。それもそのはずで、マリアンヌ殿下よりもアンゼリーヌ殿下の方が陛下から可愛がられているというのは国内の貴族なら誰もが知るところだからだ。

 パーティーが始まり私は友人と会話をしていた。妻は妻で友人と話し込んでいるようだ。そして友人との会話が終わり私が一人になった瞬間、一人の給仕がそっと何かメモを渡してきた。私はそのメモを確認する。


「…オルレシアからか」


 給仕の姿をしていたがあれは輿入れの際に妹が家から連れていった侍女の一人だったはずだ。名前はテレサだったか。確かその妹も侍女として連れていったなと思い出す。名前はケイトと言っただろうか。
 まぁ今はそんなことどうでもいいかと軽く頭を振りメモのことを考える。メモには暗号でパーティーが終わった後内密に会いたいということが書かれていた。


 (妹から呼ばれるなんてめずらしいな。何かあったのか?)


 妹は輿入れして以降自分から会いたいなどと言ってきたことがなかった。だから私からいつも会いに行くのだが。それなのにわざわざ腹心の侍女に変装までさせて会いたいと言ってきたのだ。きっと何かあったのだろう。私はそっとメモを閉じた。




 ◇◇◇




 パーティーが終わり私は帰る人たちの人混みに紛れ指定された場所へと向かう。そこにはすでに妹の姿があった。妹と言えど今や皇后だ。私より身分が上にもかかわらず私を待っているということは普通ではない。


 (一体何があったんだ)


「皇后陛下にご挨拶…」

「お兄様」


 私はただならぬ雰囲気に緊張で体を硬くさせた。だがそれを悟られぬように挨拶をしようとするが途中で遮られてしまった。淑女の鑑と呼ばれる妹が礼儀を無視するなんてよほどのことなのか。それにこの国の皇后としてではなく私の妹として話をしたいようだ。


「オルレシアどうしたんだ。お前らしくないぞ」

「ごめんなさい。私もまだ混乱しているのよ…」

「どういうことだ?」

「…今日はお兄様にお願いがあるの」


 お願いがあると言って妹は懐から小瓶を取り出した。その小瓶の中には茶褐色の液体が入っている。


「これは?」

「…これは私が毎日医者から飲むように言われて飲んでいるお茶よ」

「お茶?」

「ええ。お兄様にはこのお茶の成分を調べてほしいの。内密にね」

「…理由は教えてもらえるのか?」

「…」

「オルレシア」

「そうかもしれないし違うかもしれない…。まだ私も分からないの。でももしかしたらこのお茶に子どもをできないようにする何かが入っている可能性があると指摘されたの」

「なっ!」


 妹が言うことが本当であれば国を揺るがす大事件だ。皇帝陛下と皇后陛下の正統な血筋を絶やそうとしている反逆者がいるということ。しかし妹自身もまだ信じられないと思っているようだ。だが誰に指摘されたかは分からないが危険性がある以上調べないわけにもいかない。でも城の人間を使ってはどこかから話が漏れる可能性もある。だから妹の絶対的な味方である私に頼んできたのだろう。


「…それが本当だったら大変なことだぞ」

「だからお兄様に頼るしかないの。…お願いできないかしら」


 私は妹が子に恵まれず辛い思いをしてきたことを知っている。いくつになろうとも私にとっては可愛い妹だ。妹には幸せになってもらいたい。だから私には断るという選択肢は存在しない。


「分かった。すぐに調べるよう手配しよう。だからそんな不安そうな顔をするな」

「…ええ、そうね。ありがとうお兄様…」

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