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しおりを挟む「アレス国第三王子シェイン・アレス殿下、並びにご婚約者様のセレーナ・スターリン侯爵令嬢のご入場です!」
目の前の扉が開かれると中は既にたくさんの人がいる。そしてその人達は私達のことを見ている。私は少しだけ緊張しながらも、シェインと共に会場の中へと歩みを進めた。
◇◇◇
忙しい毎日を過ごしているとあっという間にドルマン国に向けて出発する日となった。
私がカリスト領から国境に着くまでは三週間かかったが、今回は二週間で着く予定だ。私の場合は乗り合い馬車を乗り継いでいたので時間がかかったが、王族専用の馬車でしっかりと予定を組めばドルマン国の王都までは二週間で着くそうだ。
行きと帰り合わせておよそ一ヶ月の旅程だ。そして帰ってきたらすぐに私達の結婚式となる。出発する日までにやることが山ほどあり大変だったが、無事に終わらせることができて一安心である。
学園のことや魔法薬の取引など心配なことはあるが、学園長から心配せず自分のするべきことを全うしてくるようにとのお言葉をいただいた。何かあれば学園長自ら対応してくれるそうなのでとても心強い。
私は建国記念パーティーのことだけに集中しようと気持ちを改めたのだった。
◇◇◇
二週間の旅程と言っても余裕を持って予定が組まれているので、観光もしながらゆっくりと進んでいった。
そして到着まであと数日となった頃、この日は疲れているのかなんだかシェインの口数が少ないなと思っていたら突然問われたのだ。
カリスト侯爵家とアルレイ伯爵家の現状を知りたいかと。
問われた私は一瞬ぽかんとしてしまったが、シェインが私を心配して事前に調べてくれたんだなと思い至った。以前に平気だと伝えていたのだが、心配性のシェインのことだからずっと気にしていたのだろう。
私としては本当に平気なので聞かなくてもいいのだが、せっかく調べてくれたのだから聞くことにした。それにお義母様、カリスト前侯爵夫人のことだけは気になっていたのだ。
あの頃追いつめられていた私は、なんでもマイナスに捉えてしまっていた。だが正常な思考を取り戻した今、カリスト前侯爵夫人は私に跡継ぎのプレッシャーをかけていたのではなく、純粋に孫の誕生を楽しみにしていただけだったと気がついたのだ。それに会う度に私のことを気にかけてくれていたことを思い出した。
『体調が悪そうだけど大丈夫?』
『今日はとても天気がいいわよ』
『何か困っていることはない?』
いつも穏やかな笑顔で話しかけてくれていたことに気づけないほどあの頃の私は追い込まれていた。だから私は前侯爵夫人の言葉全てを"そんなんで跡継ぎが産めるの?"と勝手に変換してしまっていたのだ。
もしもあの頃の私が前侯爵夫人に相談していれば何か変わっていたかもしれないと思ったこともある。ただもう全てが今さらなのだが、前侯爵夫人にだけは申し訳なさがある。今回のパーティーでもしもお会いすることがあれば謝りたいと思っていたのだ。
その他の人達のことは本当に興味はないがパーティーで会う可能性を考えると聞いておいた方がいいなと思い、シェインに聞かせてほしいとお願いしたのだった。
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