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しおりを挟むしばらく経つとようやく痛みが治まってきた。
私はゆっくりと床から起き上がりベッドに仰向けに寝転んだ。
「私、転生したんだ…」
痛みが治まった途端理解した。
先ほどの痛みは私の前世の記憶が流れ込んできたものだと。
前世の私は人生を終えた後この世界で生まれ変わったのだ。
どうやら今世の記憶も覚えてはいるようだが、性格というか内面は前世の自分に影響されているように感じる。
なぜなら私の今の状況をあり得ないと思うからだ。
先ほどまでの私は自分の居場所がなくなる不安から不遇な日々を受け入れていたが、今の私には到底受け入れられるものではない。
(旦那には相手にされず義母からはプレッシャーをかけられ使用人からは見下されて…。与えられた仕事だけをこなし毎晩来るはずのない旦那を待ち続ける毎日…ってこんなのやってられるか!あっ!)
「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」
貴族同士の結婚は簡単に離縁することができないのだが何事にも例外がある。
一つは結婚して三年が経っても子どもが出来ない場合。もう一つは白い結婚が三年続いた場合だ。
前者は離縁となり後者は婚姻無効となるのだが、三年が経っていればどちらも一人で手続きを行うことができる。
前世の記憶を思い出す前の私が三年というのを気にしていたのはこのためだ。もしかしたら旦那様から離縁か婚姻無効を宣告されてしまうのではないかと。
しかしいつも通り旦那様が夫婦の寝室に現れなかったことは今の私にとっては好都合だ。
「思い立ったが吉日ね!こんな屋敷からはさっさと出ていってやるわ」
早速私は準備に取りかかるために夫婦の寝室から出て自分の作業部屋へと向かった。
もう夜も遅いため使用人とすれ違うこともなく部屋へとたどり着いた。服を着替え鞄に荷物を詰める。鞄には空間魔法が掛けてあるのでたくさんの物を入れることができて便利だ。
「これもこれも…あ、これも持っていかなくちゃ」
一通り荷物を詰め終わった私はある作業に取りかかる。作業と言っても手慣れたものなのであっという間に終わった。
「できた!よし、これを飲んでっと…」
私は自分で作った魔法薬を飲み干した。すると効果がすぐに現れ、髪と瞳の色が変わっていった。
髪はくすんだ金色から茶色に、瞳も水色から茶色へと変化した。
「やっぱり染めるより魔法薬の方が簡単ね」
そう言って鏡を見ながら髪を一つに結わく。最後にローブを羽織り準備完了だ。
「さて、まずやるべきは教会に行って白い結婚による婚姻無効ね」
まだ日の出までには時間がある。今から街に向かえば朝一には教会に着けるだろう。
私が居なくなっても屋敷の人間はすぐには気付かず、気づいた頃には婚姻無効になった後だろう。
もしかしたらもっと長い時間気づかないかもしれないが。
私は作業机に手紙を置いてから部屋の窓を開けそこから鞄を抱え外へと出ていった。魔法で門番を眠らせて堂々と正門から出ていく。
私は二度とこの屋敷にもこの国にも戻るつもりはない。
これからは自分の生きたいように生きていく。
そして自分の居場所は自分で作るのだ。
「それではさようなら」
屋敷に向かって一言だけ告げてから、私はまだ暗い道へと歩みを進めるのだった。
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