上 下
10 / 22

しおりを挟む

「ルルちゃん、いつものやつを貰えるかい?」

「あらバルドさん。シップ薬ですね」

「ルルちゃんのはよく効くからな」

「ふふ、それならよかった。はいどうぞ」

「いつも助かるよ。じゃあまた」

「ありがとうございます」


 私は今辺境の地で薬師のルルとして暮らしている。

 三年前、城には戻らずに他の地でセドルと暮らしたいと父と母にお願いしたのだ。当然反対されたが何度も頼み込んで、最終的には身の安全を守るために魔道具で髪の色を変えること、侍女と護衛を連れていくことを条件に折れてくれた。
 準備期間のため半年ほど城でお世話になったあと、家族に見送られ辺境の地へと旅立ったのだ。

 私が第二の人生の場に選んだのは、帝国の北に位置するバートナー辺境伯領。ここで私は鑑定魔法と前世の知識を活かして小さな薬屋を営んでいるのだ。



 ◇◇◇



「ただいま」

「おかえりー!」

「いい子にしてたかしら?」

「うん!ね、レミア!」

「はい。セドル様は今日も元気に過ごしていらっしゃいました」

「そう。セドル偉いわね」


 セドルの柔らかい髪を撫でる。今は魔道具を使っているので私もセドルも髪の色は茶色だ。


「えへへ」

「レミア、いつもありがとう」

「いえ!ルルーシュ様のお役に立てることが私の幸せですから!」

「またそんなこと言って。でもあなたは新婚でしょ?」

「そ、そういう設定なんです!」

「そうだったわね。でもあなたとケビン、お似合いだと思うのだけど…」

「ル、ルルーシュ様!」

「ふふ、からかいすぎちゃったわね?」

「レミア、おかおがあかいよ?」

「もう!セドル様まで!」


 レミアとケビンは侍女と護衛だ。家族には二人だけでは少ないと言われたが、これ以上の人員を連れていては静かに生活ができないと訴え、なんとか納得してもらった。
 レミアとケビンはルルーシュが幼い頃から仕えてくれている。連れていくならこの二人だと決めていて、もしも断られたら諦めるつもりだったが、二人とも快く引き受けてくれた。
 ただ私は市井で暮らすので、侍女と護衛がいるのは目立ってしかたがない。だからレミアとケビンには新婚夫婦という設定で、私の家の隣に住んでもらっているのだ。普段はレミアにセドルを預け、私は仕事をしている。

 気づけばここでの生活も二年が経ち、生活にも慣れ順調に過ごしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

【完結】美人な姉と間違って求婚されまして ~望まれない花嫁が愛されて幸せになるまで~

Rohdea
恋愛
───私は美しい姉と間違って求婚されて花嫁となりました。 美しく華やかな姉の影となり、誰からも愛されずに生きて来た伯爵令嬢のルチア。 そんなルチアの元に、社交界でも話題の次期公爵、ユリウスから求婚の手紙が届く。 それは、これまで用意された縁談が全て流れてしまっていた“ルチア”に届いた初めての求婚の手紙だった! 更に相手は超大物! この機会を逃してなるものかと父親は結婚を即快諾し、あれよあれよとルチアは彼の元に嫁ぐ事に。 しかし…… 「……君は誰だ?」 嫁ぎ先で初めて顔を合わせたユリウスに開口一番にそう言われてしまったルチア。 旦那様となったユリウスが結婚相手に望んでいたのは、 実はルチアではなく美しくも華やかな姉……リデルだった───

悪役令嬢に転生したと思ったら悪役令嬢の母親でした~娘は私が責任もって育てて見せます~

平山和人
恋愛
平凡なOLの私は乙女ゲーム『聖と魔と乙女のレガリア』の世界に転生してしまう。 しかも、私が悪役令嬢の母となってしまい、ゲームをめちゃくちゃにする悪役令嬢「エレローラ」が生まれてしまった。 このままでは我が家は破滅だ。私はエレローラをまともに教育することを決心する。 教育方針を巡って夫と対立したり、他の貴族から嫌われたりと辛い日々が続くが、それでも私は母として、頑張ることを諦めない。必ず娘を真っ当な令嬢にしてみせる。これは娘が悪役令嬢になってしまうと知り、奮闘する母親を描いたお話である。

死んだ王妃は二度目の人生を楽しみます お飾りの王妃は必要ないのでしょう?

なか
恋愛
「お飾りの王妃らしく、邪魔にならぬようにしておけ」  かつて、愛を誓い合ったこの国の王。アドルフ・グラナートから言われた言葉。   『お飾りの王妃』    彼に振り向いてもらうため、  政務の全てうけおっていた私––カーティアに付けられた烙印だ。  アドルフは側妃を寵愛しており、最早見向きもされなくなった私は使用人達にさえ冷遇された扱いを受けた。  そして二十五の歳。  病気を患ったが、医者にも診てもらえず看病もない。  苦しむ死の間際、私の死をアドルフが望んでいる事を知り、人生に絶望して孤独な死を迎えた。  しかし、私は二十二の歳に記憶を保ったまま戻った。  何故か手に入れた二度目の人生、もはやアドルフに尽くすつもりなどあるはずもない。  だから私は、後悔ない程に自由に生きていく。  もう二度と、誰かのために捧げる人生も……利用される人生もごめんだ。  自由に、好き勝手に……私は生きていきます。  戻ってこいと何度も言ってきますけど、戻る気はありませんから。

虐げられモブ令嬢ですが、義弟は死なせません!

重田いの
恋愛
侯爵令嬢リュシヴィエールはここが乙女ゲームの世界だと思い出した! ――と思ったら母が父ではない男性との間に産んだという赤ん坊を連れて帰ってきた。彼こそが攻略対象の一人、エクトルで、リュシヴィエールは義弟をいじめて最後には返り討ちにあうモブだった。 最悪の死を回避するため、リュシヴィエールはエクトルをかわいがることを誓うが… ちょっと毛色の違う前世を思い出した系令嬢です。 ※火傷描写があります ※完結しました!ご覧いただきありがとうございます!

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います

菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。 その隣には見知らぬ女性が立っていた。 二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。 両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。 メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。 数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。 彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。 ※ハッピーエンド&純愛 他サイトでも掲載しております。

処理中です...