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幕間
堕ちた名家
しおりを挟む「まさか、あの子が番になるなんて……」
「何かの間違いじゃないのか…一体何が…」
夫婦は国へ帰る途中、馬車の中で項垂れていた。
自分達が虐げてきた娘が龍王の番に選ばれた。何の冗談かと思った。
生まれた瞬間から気味の悪い子供であった。
自分達には似ていない顔、色全てが不気味だった。
最初は呪いや物の怪が悪さをしたかと呪術に精通した者や巫子を頼ったりもしたが、至って健康体、不自然な要因も無かった。
夫婦は困りに困った。
双子の片割れは普通の子として生まれた事も夫婦には暗い影を落とす。
こんな子が我が一族から生まれたと噂になれば良からぬ事が起こるかもしれない。
いっそ殺してしまおうと頭を過ぎるが、役所には双子の姉妹だと妊娠中から判明して知られている。赤子が何らかの理由で死んだ場合、遺体の検分を龍族に任せなければならなかった。そもそも妊婦に加護が与えられるので死産にはならない。誕生を誤魔化すのは不可能だった。
夫婦はまず双子を取り上げた産婆に金を握らせ、他言無用だと言い聞かせた。
使用人には箝口令を出し屋敷内以外で麗華の容姿は秘匿される事になる。
周囲や国に麗華の事が知られれば今の立場を失うかもしれぬと恐れた。
人は自分と違うモノに対して非常に冷酷だ。麗華は病弱で滅多に外出出来ないという事にしよう、と2人で決めた。
そして、過剰な程気にした夫婦はある都で評判の祈祷師に見てもらった際に言われた言葉に戦慄する事になる。
「旦那様達のお子様についてだが、栄光と破滅を連れて来るじゃろう…。先の事はまだ分からぬ。しかし、慎重にせねば良くない事が起こる」
その言葉に夫婦は震え上がった。
栄光と破滅とは。
瑞麗が破滅を運んで来る筈がない。
あの子は栄光を運んでくれる存在に違いない。
では、破滅は?
まさか。
「おい。破滅とは麗華の事ではないか?」
「…そうかもしれません」
何せ普通ではない子だ。
きっとあの子の存在が露見すれば家は終わる。
そう本気で思った。
だから、麗華という存在を徹底的に排除した。
予言めいた言葉と周囲の視線。本気で疎ましく思った。
生きてさえいれば、成人まで過ごせばあの娘を処分する。そう決意させた。
それが、どうしてこんな事に。
辿り着いた自分達の国。
帰国早々に王に呼ばれ麗華の事について厳しく取り調べをされた。
雅国から龍王の番が出た事は誉れであったが、その家族が番を不当に扱っていたという醜聞が報告されたからだ。
これには雅国が慌てた。
普通の番でも大問題だが、今回はもっと不味い。
この世で一番大事にされなければならぬ龍王の番が家族から虐待を受けていた。とんでもない醜聞だ。
内容によっては雅国自体にも何かお咎めがあるやもしれぬ。何より頂点にいる龍族達の印象が最悪だ。
何がなんでも早急に対処せねば。
龍は番を何より大事にする生き物だ。
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