雪が雫になるように、心が水に溶けるように

夜のバス停

先輩は笑顔で誘ってくる。
「えぇ..いいですよ..」
僕はその笑顔に引き込まれて承諾するのだった。
そのコンサホールはとても広々としていた。5000人くらいは人が入るだろうか。
席は半分以上は空いていた。
舞台の上では何かの劇が行われている。
席は2階席で僕たちの隣には3人の女子がいた。
そのうちの一人がこちらを向く
「...」
その顔を見て、僕は大いに動揺した。
隣にいたのはユーナだった。
ユーナは仮面をフードで隠していた。
隣の子達は彼女の友達だろうか。友達いたのか。
「..あ..」
先輩はユーナの存在に驚いていた。
ユーナは先輩の方をちらっと見ると視線を外すのだった。
そして意外なことに静かに劇を見始めた。
僕たちも黙って劇を見ることにする。
劇は1時間半ほどで終わり、客たちからは静かに拍手が上がった。
僕にはよく分からない内容だった。シェイクスピアのリア王らしい。
先輩はこういう芝居がやりたいのだろうか。
「..,どうだった？」
先輩は僕に聞いてくる
「そうですね...」
僕が迷っていると先輩が
「難しいよね...」
と言うのだった
「..すみません..」
僕は謝る。
「いいよ。私はこういう古い劇が好きなの。今までどれだけたくさんの人が演じてきたんだろう。そして演技や演出で悩み、練習し、作品をみんなで完成させて人に見てもらう。すごいことじゃない？」
先輩が熱く語りだす。僕には正直よく分からんかった。
「勇者ちゃんはどうだった？」
先輩が僕越しにユーナに聞く。
ユーナは少し黙ると
「...面白かった...私が生まれたアルカンのようだ」
と言った。
「どこ、それ？」
僕は聞き覚えのない国名に突っ込む。
ユーナは少し黙り込むと
「大陸の多くを支配する大帝国だ...が、国が乱れている」
と言った。
「へぇ...そんなところがあるんだ...」
先輩は興味深そうに聞くのだった。
「ところでお前は何でこいつに構う？」
ユーナは先輩をまっすぐ見る
「えっ？あぁ、えっとね...」
先輩は少し照れた顔で
「..桜井くんが、私の勇者だから...かな...」
と言ったのだった。
その言葉にユーナは一瞬黙ると
「そうか...」
と言うのだった。
僕たちはコンサートホールを出て、外に出たのだった。
外は暗くなり始めていた。
「寒いなぁ...」
先輩が呟く
「そうですね...」
僕は頷く
ユーナは友達らしき2人とは別々の方向に帰っていった。
「桜井くん、一緒に帰ろう？」
星乃先輩が僕にそう言う。僕らはバス停までは同じ帰り道なのだ。
バスに揺られ、いつものバス停に着く。
バスが行ってしまうと、弱い電灯だけの暗い場所だ。
僕はそこで別れるものだと思っていた。
先輩は僕にキスをした。
彼女の唇は柔らかくて暖かかった。
僕はキスを受けながらも驚きを隠せないまま、彼女を見つめていた。
星乃先輩はキスをすると
「私...桜井くんのことが好きだよ...」
と言った。
僕は突然のことに言葉を失っていた
「ごめん..こんなことしちゃダメだよね...」
先輩は俯く
僕は先輩の肩を軽く掴んで
「先輩...僕は..」
と言うと
「いいの...。無理しないで..」
彼女はそう言うと走って行ってしまったのだった。
僕は星乃先輩の背中を見つめるしかできなかった。