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バスの中
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「保科星乃(ほしな ほしの)です」
彼女が名前を教えてくれる。
「あの、いつも同じバスだね」
「そうですね。いつも同じ...」
僕は口下手で気の利いたことは何も言えない。
「.......」
当然会話は続かない。僕は彼女との静かな時間が好きだったけど、彼女は本を読むふりをして気まずい沈黙をやり過ごしていたのかもしれない。
その時、はじめてそんなことに気がついた。
「僕は、桜井蓮(さくらい れん)です」
僕が名乗ると彼女はほっとした顔をする。
そんな顔をさせてごめん、何を話せばいいか分からなくて。ここの中では焦っていたが、そんな自分を表には出せない。
「...桜井くん、よろしくね」
「えぇ」
僕は短く返事をして頷いた。
そして、バスに揺られる。
その日も、僕らは無言でバスに乗り込み、同じ場所へと行く。
バスの座席で横に座る彼女をチラリと横目で見て僕は思った。
今日は隣に座るんだ。
今までは同じバスの中でも席は離れていた。まぁ、近くに座る理由がなかった。
横に座る彼女が、ふと視線をあげると目があった。
一瞬、見つめ合うように目が合ってしまい僕は恥ずかしくなって目を逸らしてしまった。
僕はそんな自分の態度にまた反省した。
彼女の前で、自分の殻を壊せないでいる自分に。
「私、2年生なの。桜井くんは1年生だよね?」
僕らの学校は制服で学年が分かるように学年ごとにデザインに違いがある。
そう、彼女は年上だ。
「えぇ」
「桜井くんは、何部なの?」
「帰宅部です」
「そうなの?意外だね。何か運動してるのかと思った」
「...どうして?」
「...うん...何となくね?」
そう言って彼女は曖昧に笑う。
その笑顔は綺麗だと思ったが、彼女は何かを探るような視線を僕に向けてきていた。
僕は、それを感じながら、
「星乃先輩、何部ですか?」
と聞き返した。
言ってから「ほしの」は下の名前だったと気がついて焦っていた。
「私は演劇部だよ」
「演劇部ですか...」
「そう、今度の劇もやるみたい。よかったら見に来てよ」
「...えぇ」
僕は彼女の提案を受け入れたが、それはきっと実現しないだろうと思っていた。
僕は学校が嫌いだし、学校行事にも興味がないから。
再び沈黙が訪れる。
だけど、僕はそんな沈黙を苦と思わなかった。
バスの中で横に座る星乃先輩が、少し体を寄せてくるのが心地よく思えたからだ。
それだけで僕の心は満たされていた。
先輩は喋ることがなくなると窓の外に目をやる。
そして、やがてバスが目的地に着く。
先輩が立ち上がると同時に、僕も同じように席を立った。
「あ、あの、先輩」
バスを下りようとする彼女の腕をとっさにつかんでしまった。
「...どうしたの?桜井くん」
彼女が不思議そうな顔をして僕を見上げてくる。
僕はその瞳に吸い込まれそうな気分になりながら、
「あ...いや、あの、今度一緒に帰らないか?とか...?」
僕は後半は首を傾げながら、彼女に声を掛けていた。
「...疑問系なの?」
彼女はおかしそうに言った。
「...」
「いいよ、部活がない日なら。バス停で待ってるね」
そう言うと彼女はバスの外へと消えていった。
僕はそんな彼女を目で追いながら、彼女の後ろ姿をじっと見つめるのだった。
彼女が名前を教えてくれる。
「あの、いつも同じバスだね」
「そうですね。いつも同じ...」
僕は口下手で気の利いたことは何も言えない。
「.......」
当然会話は続かない。僕は彼女との静かな時間が好きだったけど、彼女は本を読むふりをして気まずい沈黙をやり過ごしていたのかもしれない。
その時、はじめてそんなことに気がついた。
「僕は、桜井蓮(さくらい れん)です」
僕が名乗ると彼女はほっとした顔をする。
そんな顔をさせてごめん、何を話せばいいか分からなくて。ここの中では焦っていたが、そんな自分を表には出せない。
「...桜井くん、よろしくね」
「えぇ」
僕は短く返事をして頷いた。
そして、バスに揺られる。
その日も、僕らは無言でバスに乗り込み、同じ場所へと行く。
バスの座席で横に座る彼女をチラリと横目で見て僕は思った。
今日は隣に座るんだ。
今までは同じバスの中でも席は離れていた。まぁ、近くに座る理由がなかった。
横に座る彼女が、ふと視線をあげると目があった。
一瞬、見つめ合うように目が合ってしまい僕は恥ずかしくなって目を逸らしてしまった。
僕はそんな自分の態度にまた反省した。
彼女の前で、自分の殻を壊せないでいる自分に。
「私、2年生なの。桜井くんは1年生だよね?」
僕らの学校は制服で学年が分かるように学年ごとにデザインに違いがある。
そう、彼女は年上だ。
「えぇ」
「桜井くんは、何部なの?」
「帰宅部です」
「そうなの?意外だね。何か運動してるのかと思った」
「...どうして?」
「...うん...何となくね?」
そう言って彼女は曖昧に笑う。
その笑顔は綺麗だと思ったが、彼女は何かを探るような視線を僕に向けてきていた。
僕は、それを感じながら、
「星乃先輩、何部ですか?」
と聞き返した。
言ってから「ほしの」は下の名前だったと気がついて焦っていた。
「私は演劇部だよ」
「演劇部ですか...」
「そう、今度の劇もやるみたい。よかったら見に来てよ」
「...えぇ」
僕は彼女の提案を受け入れたが、それはきっと実現しないだろうと思っていた。
僕は学校が嫌いだし、学校行事にも興味がないから。
再び沈黙が訪れる。
だけど、僕はそんな沈黙を苦と思わなかった。
バスの中で横に座る星乃先輩が、少し体を寄せてくるのが心地よく思えたからだ。
それだけで僕の心は満たされていた。
先輩は喋ることがなくなると窓の外に目をやる。
そして、やがてバスが目的地に着く。
先輩が立ち上がると同時に、僕も同じように席を立った。
「あ、あの、先輩」
バスを下りようとする彼女の腕をとっさにつかんでしまった。
「...どうしたの?桜井くん」
彼女が不思議そうな顔をして僕を見上げてくる。
僕はその瞳に吸い込まれそうな気分になりながら、
「あ...いや、あの、今度一緒に帰らないか?とか...?」
僕は後半は首を傾げながら、彼女に声を掛けていた。
「...疑問系なの?」
彼女はおかしそうに言った。
「...」
「いいよ、部活がない日なら。バス停で待ってるね」
そう言うと彼女はバスの外へと消えていった。
僕はそんな彼女を目で追いながら、彼女の後ろ姿をじっと見つめるのだった。
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