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第三章 抗う者達

第八話 狙いはいつでもホームラン! 全てフルスウィング! 下

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 九回の表最初の打席は一番に戻りリッカは打席に立った。
 ちなみにリッカは今まで全て大振りの三振に終わっている。
 この打席もリッカはホームランを目指していた。
 アベレージヒッターであるレイジ相手に九回まで無失点は高い集中力と制球力を求められる。
 いつものアストリアなら集中を途切れさす事はなかっただろうが、気を抜いても討ち取れる一発狙いのド素人リッカが打席に達ワンアウト確実と集中が途切れたままボールを投げた。
 棒球のボールがど真ん中に行き、リッカはこのチャンスを逃すことなくフルスウィングしボールはレフト方面に飛び見事スタンドに入った。
「入った。ヤタ。ヤッター!」
 グラブで顔を格下アストリアは「やっちゃった」っと苦笑いをし、ガレシアは「入っちゃった」と見送り、ルシスは単純に凄いと思った。
 そしてレイジは顔を引きつらせて「ヤッベェ」と呟く。
 当然だが普通素人はホームランを打たない。ましてやノビのあるストレートやキレのある変化球を持つ百四十キロを超える速球を持つピッチャーからだとほぼ無理だ。
 バットを振らせる餌として「ホームラン打ったら何でも言う事聞いてやる」と言ったが本当に打つとは思いもしなかった。
 主として一度言った事を覆すのは格好悪いが、やりたいと言ったらどうしよう?
 そうこうするうちにリッカはホームベースを踏み、分身ではなく本体のレイジの下へ真っ直ぐやって来て言う。
「やりました! ホームラン打ちました!」
「ああ、そうだな」
「それで、ですね」
 照れてモジモジするのマジヤメテ! えっ? マジやっちゃうの?
「キス、して下さい」
「へっ?」
「キス、ダメですか?」
 少し不安そうに小さくリッカは言った。
「いや、ダメじゃないぞ。試合が終わったらな」
「・・・はい!」
 リッカは笑顔でそう返事をベンチに座った。
 リッカが離れてレイジは安堵の溜息を吐く。
 良かった。キスですんだ。しかしキスなんざいつもしてると思うが欲がないな。
 リッカがキスをお願いしたのには理由がある。確かにリッカはガレックを通じて何度もレイジとキスしているがレイジの方からリッカにキスした事は数えるほどしかない。自分の方からするよりも相手の方からキスされたいという乙女心がキスをお願いした理由だ。それとやりたいと言って退かれたら嫌だし嫌われたらもっと嫌だという理由もあった。

 ホームランを打たれたアストリアだったが調子を崩すことなくレイジを凡打に抑え九回裏を迎えたが、点を貰いリッカのお願いも簡単なものだったので迷いがなくやる気を出したレイジが三者連続三振に抑え、この試合レイジとリッカが勝利した。
 分身を全て無くしたレイジは同じように分身を無くしたガレシアとルシス、そしてアストリアとリッカに言う。
「やっぱ分身で試合をするとつまらんな」
「最初は面白いけど少ししたら飽きますね」
「だからいつも個人戦にしなさいって言ってるでしょ」
 面白くなかったという三人に巻き込まれたガレシアとリッカは苦い表情をした。
「さて、優勝賞品の黄金酒だが、実はガレックが持っている」
 人間として生きているガレックが持っている事にガレシアとリッカは驚愕する中レイジはガレックが持っている理由を説明する。
「何年か前にエルザとレベッカがリッカの友人としてきた事があったろ。その時に貰っている。まぁ、あいつの記憶からけしたが聞けば思い出すようにしてやる。それともご褒美の時に渡すか」
 レイジはニヤリと笑いリッカにだけ念話をする。
『今日の深夜ガレックの身体を使う。森なら人は来ねぇから、二人で一緒に飲むか?』
『は、はい!』
『うんじゃ、決まりだ』
「いつ渡すかはもう話したし始めてあった娘と離れるのは名残惜しいが、いつまでもここにいるわけにはいくまい。そろそろ現実世界に戻れ」
 そう言うとレイジは問答無用でガレシアとリッカを現実世界に戻した。
 二人がいなくなりルシスがレイジに尋ねる。
「私と姉さんの力、教えなくて良かったの?」
「創造と破壊の魔法か。別にいいだろ。野球を通して分かったろ。あいつは頭が良く勘もいい。自力で身に付けるだろ。尋ねられたら教えるさ」
「魔法を教えると言ってコミュニケーション取れば良かったのでは?」
 アストリアの指摘にレイジは固まった。
「思い付かなかったんですね」
 声を出さず悔しがるレイジに二人は呆れルシスがアストリアに提案する。
「レイジはほっといて黄金酒でも飲まないか?」
 そう言ってルシスは虚空から黄金酒を出した。
 この世界、レイジの深層世界ではレイジが口にしたものなら全て寸分違わず再現される。
「たまにはお酒もいいですね」
「じゃあいつもの場所に行きましょ」
 そう言ってアストリアが頷くと二人はいつもいる常夜の楽園へと向かった。

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