上 下
11 / 12
第一章 語られぬ英雄

第五話 目的達成の勝利、その後の結果は敗北

しおりを挟む
 現世に戻った玲司は後ろを付いてくる月輪に尋ねる。
「何で付いてくる?」
「玲司、今の貴方には一つ重要な物が欠けています。それを補うまで暫く一緒に行動しましょう。なに、直ぐに覚えますよ。なんたって貴方は私の弟子なんだから」
「は? 何だよ欠けてるって?」
「玲司、日本人なのに日本の法律を忘れたのですか? 日本で武器の所持は資格がいるんですよ。持ってるんですか?」
「あっ・・・」
 玲司の左手には日輪から貰った太刀がある。
「警官に見つかったら直ぐにお縄です。街中で持ってるのを見られたら速通報されますよ。だからアイテムボックス? 収納魔法? どっちでもいいですね。それを教えます」
「何で昔教えなかった?」
「秀衡の時代、武装が当たり前だったから後回しにしたんです。戻ったら教えようと思っていたのに・・・」
「しゃあねぇだろ。神相手に戦って、死ぬだけマシだろ。最悪魂ごと滅される可能性もあったんだぞ」
「そんな柔な鍛え方してません。鍛え方と言えば、今テスタロッサと戦って勝てると思いますか?」
 玲司は振り返り月輪を無言で見返す。
「その沈黙は負けると思ってるけど口に出すのは嫌だ。隠れてコッソリ修行しようって所ですか。おや、次は解ってるなら聞くなですか。いい事を教えます。歴代の貴方が統合したら神と真っ向から戦えますよ」
「統合?」
「秀衡は自身を守るため記憶を封じて転生するようにしました。その記憶を一つに出来たら戦えます。一気に思い出すと身体に悪いんですが時間が無いので荒療治と行きますか。ついでに身体も鍛えましょう」
 月輪がそう言った瞬間玲司は何もない灰色の世界に一人立っていた。
 驚く玲次に月輪の声だけが降りてくる。
「現世から外れ時の概念すら支配した世界、神界。この世界は複数の神が干渉し現世と同じ時が流れる高天原と違い私一人が作り上げた世界。現世からしたら一瞬の出来事がここから出るまで永遠に続きます。この世界を破るには支配者より強くなければいけません。しかし支配者は時を戻す事も加速する事も出来ます。その干渉を破るには支配者と同等かそれ以上、個人が作り上げた神界は支配者が自由に物を創り時間を操る事が出来る。デメリットは神界の物は現世には持っていけない。神界で戦い敗れた場合現世でも敗れている」
「神界に閉じ込めるってのもありなのか?」
「お勧めしませんね。神界を維持するにも神力を消費しますから、話しを戻して荒療治とついでに鍛えます」
 月輪がそう言うと大勢の武士が現れ玲司に襲い掛かってきた。
「問答無用かよ」
「彼らに意志はありません。何せ私が創って貴方を殺せとだけ命じました。殺さなければ死にますよ」
「クソが!」
 玲司は太刀を抜いた。すると自分ではない自分、歴代の一人を思い出し太刀を右手に鞘を左手にした太刀と鞘の二刀流で敵を倒していく。
 敵の攻撃をひらりひらりと避け螺旋を描くかのように右に左に舞い斬っていく。
 戦いながら思い出す。南北朝時代舞踊が趣味の剣士だった紅月玲次郎兼貞は新田義貞に従い生田森の戦いで共に殿をし命を落とした。
『新田様早く撤退を!』
『行け。小太郎(新田義貞)! お前にはやる事があるだろう』
『・・・すまん! みんな!』
 追ってを前に笑みを浮かべて男は言う。
『さて、又太朗(足利尊氏)、小太郎が生きてると知ったらどんな顔するか。見れないのは残念だが仕方ない。小山田殿どうする?』
『決まっている。新田様を逃がすため死兵となり迎え撃つ』
『そんじゃ、野郎共! 命を捨てろ! ここが俺等の死に場所だ! 倒れる友を見捨てて敵を討て!』
 そう叫んで玲次は敵に突っ込んだ。
 その結果、玲次は小山田高家と共に足利軍の追撃部隊を食い止め新田義貞の撤退を成功させる。しかし玲次の願い虚しく、その後新田義貞は天皇に裏切られ戦に負け戦死した後、獄門に掛けられた。
 兼貞だった頃を思い出し学生の頃ふと目にした友の最期を思い出し玲司は泣きながら戦う。
 何度も敵を斬ったため刀身は問題ないが柄にはヒビが入り所々欠け壊れ、何度も敵を叩いた鞘は折れ使い物にならなくなったから飛び道具として投げ捨てた。
 壊れかけの太刀と体術を用いて敵を全滅させると玲司は言う。
「これか、これを思い出すから記憶を封じているのか」
「そう。貴方の記憶は敗戦の記憶。当時の敵達を倒して思い出したでしょう当時の思いを・・・その後の結果を貴方は知っている。さあ続けましょう。次の貴方が待っている」
 月輪がそう言うと新たな武士と様々な遮蔽物が現れる。中には先程はいなかった火縄銃を武装した者もいた。
「だいたい戦国時代くらいですね。彼らには力を合わせて殺すように言ってます。後、このままだと確実に死ぬから遮蔽物も出しました」
「軍が相手とか無茶振りにも程がある」
 玲司は手に持つ武器に目をやる。
 最高級の武器である太刀だがもはや使えないと判断した玲司は一際長い槍を持つ兵士を斬殺し槍を奪うと火縄銃を持つ兵士に太刀を投げ付け奪った槍を振るい思い出す。
 大阪の陣を影武者として生きた玲次郎幸村の意志を・・・

 武器が壊れる前に奪い捨て戦いながら玲司は数は減らないが徐々に武器が進化していくのを感じた。
 それを肯定する宣言を月輪が出す。
「そろそろ幕末です。一気に武器が進化しますよ」
 嘘だろ!
 甲冑の武士は太刀と拳銃を持つ侍になっていき玲司も同じように太刀と拳銃を持ち思い出す。
 江戸末期、商人に紛れ幕臣と共に日本に阿片の流入を抑えた玲次郎秀明の意志を・・・
 時代や場所が変わっていく村だった場所は町に町だった場所は村に都市や街道、畑や森林、進むごとに武器を奪い近代の武器を手にして思い出す。第二次世界大戦に敗れポツダム宣言後も侵攻してきたソ連に少ない物資で戦い進行を遅らせた玲司の前世、玲次郎の意志を・・・
 全ての敵を倒し肩で息をしていると場違いな月輪の、明るい声が聞こえてきた。
「前半戦クリア。それじゃ後半戦と行きましょう」
「ちょっと待て! 終わりじゃねぇのか!」
 嘆息した後、月輪は言う。
「何を言ってるんですか。今まではリハビリと記憶を思い出す事が目的、しかもまだ思い出してない奴がいるでしょ。まぁ、清輝はいいとして元凶たる自分自身。秀衡、後半戦で彼を思い出すでしょ」
 そう言うと現実で見た事ない武装した兵士が現れる。
「エルフ、ドワーフ、オーク、獣人! ファンタジーかよ!」
「何を言ってるんですか。玲司、彼らは遺伝子操作により創られたり異世界から連れて来られたりして生体兵器として存在してるんですよ。表には出てませんが・・・」
 今までと同じように玲次は物陰に隠れて隙を窺おうとしたがオークが片手で使う対戦車ライフルに逃げ場を破壊され、獣人に先回りされ、エルフの狙撃により誘導されドワーフが仕掛けた罠を必死にかいくぐりひたすら逃げ続けた。

 その様子をこことは別世界で月輪は見ていた。
 やはり勝てませんね。彼らに殺さず追い詰めろと命じなかったらとっくに死んでますね。まぁ、死んでもこの世界なら大丈夫なんですけど、しかし異種族に近代兵器はヤバイですね。験しに持たしましたが予想以上です。これは警告した方がいいですね。おや?

 とっくに万策が尽き破れかぶれにエルフに向けて放った一発の弾丸、エルフは特に警戒することなく常時張っているバリアにより弾丸は弾かれた。
 それを見て玲司は何発か弾丸を放ち放つ度に弾かれる弾丸を見て理解し思い出した。秀衡の意志を・・・
 陰陽師にして武士でもある秀衡は月輪から神核の一部を授かり神力を使えるようになった事で人を超えた戦い方が出来るようになった。それは転生した歴代の玲次郎が無意識に使っていた無尽蔵の体力や身体強化だけではなく、神力を使った攻撃や防御そして主神である月輪の能力それにより秀衡は神を殺す事が出来た。
 神力の使い方を思い出した玲司は神力を弾丸に込めて放つ。弾丸はバリアを貫きエルフを撃ち殺した。
 仲間が殺された事により月輪の命令は協力して殺せに変わったが、神力を使える者と使えない者、玲司の圧勝で勝負は付いた。

 戦いを終え月輪は玲司の前に現れると言う。
「よくやりました。まぁ神力を使えるんだから当然ですね。これでテスタロッサと戦えるでしょう」
「それよりさっさと収納魔法を教えろ。もう家に帰って寝たい」
「収納魔法という名称にします? まぁ私は何でもいいんですが、それでは教えましょう。と、言ってもこれ神様からしたら初歩の初歩、生き物が息をするように当たり前の事過ぎて教えるのが難しいんですよね。まあゆっくりやるんで見たら解るでしょう」
 月輪がそう言うと空間が歪み、月輪は歪んだ空間に手を突っ込み扇を取り出して戻した。
「解りました?」
「まぁ、解った」
「さすが私の弟子、貴方の理解力私は大好きです」
 月輪がそう言うと片手を軽く上げた。すると刀身だけの太刀が飛んできて月輪の前に来ると止まり月輪はそれを掴んだ。
「やはり刀身だけだとダメですね。柄や鍔は勿論鞘もそろえませんと・・・」
「さっきは解らなかったが、その太刀スゲェな」
「当然でしょう。当時の私が全神力を捧げて創ったのですよ」
 そう言うと現世に戻り玲司に言う。
「これをやると姉上に怒られますが、可愛い弟子のため仕方ありませんね」
 そう言った瞬間月輪は強い光を放ち光が消えると月輪が持っていた刀身だけの太刀に柄や鍔が付けられ太刀は鞘に納められていた。
「さ、どうぞ」
「どうぞじゃねぇ、お前」
「ああ言いたい事は解ります。今の私は人間並みの力しかありません。当分は高天原を出られませんね」
「当然だ。何考えてやがる」
「先程も言ったでしょ。可愛い弟子のためだと、でも一つ教えときましょう。私の能力でとても弱く不確かな物ですが未来視という物があります」
「は?」
「貴方と初めて会った時貴方がこの国を救う未来を視ました。普段はおぼろげでよく解らないのに、その時視たのは鮮明に強く覚えています。これは時の神の管轄なのではっきりと言えませんが歴史に重大な影響を与える人物は特異点と呼ばれ、何度歴史を繰り返してもその人物が生まれその結果を繰り返すらしいんです。簡単に説明しますと特異点だった織田信長が百回桶狭間の戦いをして百回勝つような物で、その時代の重要な人物、王様は勿論政治家だったり軍人だったり最近では芸能人や研究家なんかにも特異点がいます。そう言う特異点の未来は比較的視やすいのですが玲司、貴方は違います。貴方の未来は全く解りません」
「さっき視たって言わなかったか?」
「ええ視ました。視た結果全く解らなかったんです。何をどうしてこの国が滅びそうになり何で貴方がそれも神力を使って救うのか全く解りません」
「神力を使うのか?」
「何かもの凄いのと戦った後を感じました」
「テスタロッサじゃなく?」
「最初はそう思いましたが服装が全然違いましたね。当時なら甲冑もしくは着物ですが当時は視た事がない未来の服装、現代の軍服みたいな黒い服装をしていました」
「黒い軍服? 今でも全く解らんぞ」
「ですよねぇ。ですが、近い将来何かが起きて貴方がこの国を救う。それも神力を使う事から、神々の戦いが起きる」
「神々の戦い?」
「ええ。かつて神々の戦いがあったのは私が生まれる前、私の父上が現役だった頃らしいです」
「どんだけ昔なんだよ」
「さぁ、人類誕生前らしいですよ。まぁ父上は完全に隠居してますし昔の事は語りませんので解りませんが・・・」
「いまいち解らんが神の隠居ってどういう事だ?」
 月輪は少し考え込んで言う。
「まぁ、玲司ならいいでしょう。神は普段に力を抑えて生活しています。日常生活に強い力なんて必要ありませんからね。いざ戦いが起きると小さな変化、髪の色が変わるとか翼や尻尾が生えるとかして神本来の姿と力を現します。第二形態って奴ですね。大神やそれに近い神、後は戦闘系の神は大きく姿を変える第三形態がありますがそれを使うと暫く行動不能となるデメリットがあります」
「行動不能?」
「深い眠りについて目覚めるのに百年もしくはそれ以上要します」
「最終手段か」
「はい。ですが、大神は違います。大神は全ての力を使い不可能を可能としてしまいます。まぁその結果、精神生命体となり世界に溶け存在しますが姿を見る事も会話する事も出来なくなり、現世に関わる事が出来なくなるこれが神の隠居です」
「ある意味死んでるようなものか」
「酷い事言いますね。まぁ人間からしたらそうでしょう。ですが、神界つまり高天原で大神を継いだ姉上は何らかの方法で父上と会話出来るらしいですよ。ちなみに私も会話は出来ませんがたまに父上を感じる事があります。隠居しても見守ってくれてると感じます」
「・・・過保護とファザコンか」
「天罰下しますよ・・・まぁ隠居はこんな感じで神の形態が変わる事は内緒という事で」
「何で内緒にするんだ?」
「・・・人間にとって化け物みたいな姿に成る神がいますからね」
「へぇぇ」
 玲司は月輪をまじまじと見る。
「うざったい視線ですね。私と姉上っていうか日本の神は殆ど変わりませんよ」
「そうなのか」
「私と姉上は髪と眼の色が変わるくらいですね」
「第三形態は?」
「・・・おでこに三番目の眼が出来ます。姉上は知りません」
「へぇぇ、やっぱ第三形態って滅多に成らないのか?」
「滅多にっていうか私は一度も成った事ありませんよ。ただ神としてこう成るっていうのが解るだけです。まあ姉上は一度成っていますが」
「姿が解らないのに成った事は解るのか?」
「神力が桁違いに変わりますからね。愚弟が姉上を本気で怒らせてやばかったです」
 当時を思い出したのか月輪は遠い目をした。
「愚弟ね。なぁ月輪、俺はお前の弟に会った事がないんだが、隠居したのか?」
 月輪は悲しい笑みを浮かべて肯定する。
「はい。全く大神ではないのに隠居するほど力を使って、隠居した理由はそのうち分かるでしょう」
「話さないのかよ」
「はい。姉上に口止めされてますから・・・」
 まぁ神々の戦いが起きたら露見しますが、しかしあの子が危惧した通りいよいよ戦いが起きそうですね。
しおりを挟む

処理中です...