霞んだ景色の中で

ざっく

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西田浩一の視界

練習試合

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 相川が待っていた?俺を?
 「斎川、相川が、俺を待ってるって言っていたのか?」
 頭が混乱しながらも、浩一は確認した。
 「はい。相川のことは知ってるんですねー。最初、荒垣待っているかと思って驚いてたら、西田先輩って言うから、大川部長がすげー叫び出して、慌てて帰ったんですよ~。」
 斎川の言葉の中に気になところがあって、そこも確認しようと口を開く。
 「相川は、荒垣のファンだろう?」
 「へ?いや、全くですよ。そういうの全然興味ないやつですね。俺が剣道部だっていうのもそんときに初めて気がついたみたいだし。友人共に、ミーハーとは対極にいるようなやつなんで、昇降口で見た時には、最初は誤解して、マジかって思いましたもん」
 「へー・・・ああ、悪い。練習に戻ってくれ」
 浩一が手を振ると、斎川は一礼して、素振りの列へ戻っていった。
 何の話をしていたか興味のあるやつが数人、斎川に寄って行って少し話したりしているのを眺めながら、後悔に体が沈んでいっている感覚を味わい続けていた。

 そんな状態で部長を止められるわけのなく・・・うざいので、非常に精神力を使う・・・荒垣に申し訳ないと思いつつも、部長が入った上位5人が窓側の面を使うことになった。

 練習試合は9時からだが、7時半に集合して、ウォーミングアップしてから対戦相手を迎えた。
 その時間には、やはり人だかりができていて、対戦相手がなんだなんだと周りを見回しているのに、心の中で謝っておいた。
 相手もそれなりに強豪校なのだが、この明らかなアウェーな雰囲気に呑まれているようだった。
相手校での練習試合なのだから、ある程度は理解していただろうが、ここまでの外野がいるとは思っていなかっただろう、すっかり、委縮している雰囲気が伝わってきた。
 もう、うちとの練習試合うけてくれないだろうな・・・諦めと一緒に、ため息を吐いた。
 相手のウォーミングアップを待って、お互いのメンバー表を交換する。
 通常は部長が負うべきものだが、ここは(仮)部長の浩一が代表して行う。
 今でも部長という名は冠しているものの、3年が出ていくよりはいいだろう。
 メンバーを確認して、準備につく。

 面の後ろに座って、とりあえず、今までの後悔や部長へのいら立ちや相手チームへの申し訳なさ・・・邪念が多いな!と思いながらも、それらを横に置いておいて、試合に集中しようと目を閉じた。
審判役の顧問の声に、目を開けると、正面の小窓に見覚えのある小さな顔があることに気がついた。
 相川だ。
 しっかりと目が合って、すぐさま目がそらされた。
 ・・・・・・思いっきり無視された。
 今のが一番、浩一的には痛かった。
 いや、避けられるような態度を取ったのは浩一だ。元々ひどいと思っていたが、斎川から話を聞いて、最悪だと思う。
 だったら、相川は何故、試合を見に来てくれたのだろう?
 決して浩一に視線を向けない相川をぼんやりと眺めながら、試合が終わったら話がしたいと思う。
 浩一に見られていることを気がついているのかいないのか、相川はあちこちに視線を飛ばして、審判の旗を見て勝敗を判断しているようだった。
 分かりやすいなと、思う。
 1対1で回ってきた順に、面をつけて立ち上がると、さっきまで全く視線が合わなかった相川が、嬉しそうにこっちを見ていることに気がついた。
 歩いても、横を向いても、視線が追いかけてくることがすごくよく分かる。

 ・・・・・・おいおい。
 面をつけても、そっちは見えるんだぞ。というか、見えなきゃ試合できないだろう?
 荒垣の試合が終わった途端に興味なさそうにしている外野の中で、相川だけが、うきうきと擬音がしそうなほど嬉しそうだ。

 真っ直ぐな目を向けられて、顔が赤くなったのを感じた。

 ―――――まいった。

 見えないと分かっているのに、片手で顔を覆い隠した。心の底から湧き出てくる照れくささや喜びとかが、体全体を震わせた。
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