霞んだ景色の中で

ざっく

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霞んだ景色

練習試合

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 いざゆかん!

 土曜日、千尋は自分に気合を入れながら
 学校に向かった。
 案の定、そこは人だかりができていた。
 本当は、少し早めに来て・・・ということは思ったのだが、偶然に西田先輩と行き会ったりなんかしたら、気まずすぎるので、時間ぎりぎりに来た。
 多分、剣道部員はすでに集まってウォーミングアップなどしているだろうなという時間に家を出た。
 避けてどうするという意見は今は聞きたくない。
 告白はする気でいる!頑張る!
 だけど、その前に嫌そうな顔をされたら、その決意は空気の抜ける風船よりも早く、ぴゅるるると飛んで行ってしまうだろう。
だから、試合終了までは見つかりたくない。
 ・・・・・・でも、試合は見たい。
 西田先輩の試合の姿。見たことがない。見たい。格好いいに違いない。見た過ぎる。
 ということで、小さな体を割り込ませて、下の窓からのぞいてみた。

 もう試合開始5分前だ。
 レギュラーだろう5人が、正座で座っているのが見えた。
 西田先輩もいる。5人の真ん中に大きな体がどんと座っていた。
 一番端っこが、多分、荒垣君。逆の端っこに、この間千尋を「こんなの」呼ばわりしていた、部長と呼ばれていた人が座っていた。
 目を閉じて、精神統一とかしていたのかもしれない西田先輩が、ふと目を開けて、こちらを見た。
 ちょうど直線上にいたためか、しっかりと目が合ってしまった。
 しまった!
 と思うものの、ここで引っ込むと、もう戻れないので、目をそらすだけにした。
 気づかれていないと思いたい!
 
 試合が開始されると、周りの女子の黄色い歓声が上がる。
 「先鋒、前へ!」
 審判の先生の声で、防具を被った荒垣君(多分)が、前に出てきた。
 「きゃあああぁぁん!」
 ぎょっとしたように、試合相手の生徒たちが周りを見ていたのが分かった。
 ですよね。私もちょっと、びびりました。

 剣道の試合は、早すぎていまいちよく分からない。ルールも知らない。
 だけど、最後に審判の先生が旗を上げる方なのだろう。
 荒垣君は勝った。ものすごい声援だった。
 次は、負け。
 なんとなく、周りの女子の熱がなくなった。
 最後の挨拶のためだけにいるのかもしれない。
 そして、西田先輩。
 防具を付けてしまって顔が見えないが、立ち姿が、他の誰よりも背筋が伸びて格好いいと思う。
 顔が見えないのをいいことに、さっきまでそらしていた視線を戻して、一挙手一動を追いかけた。
 あれ、まだ試合始まる前だけれど、負けておちこんでいるかのように、防具の顔部分を左手で覆って俯いてしまった。
 どこか痛いところでもあるのだろうか。
 部長が何か声をかけて、振り払うように竹刀を両手で持ち直し、構えた。

 掛け声とともに打ち合いが始まった。
 ・・・・・・と、思ったら終わった。
 西田先輩の方の旗があがったから、勝ったのだろうと思う。早すぎる。
 さすがに、ちょっとおもしろくない。
 でも、防具を脱ぐ姿を期待して、わくわくしながら見ていると、座っても脱がなかった。
 隣の人になんか話しかけられているけれど、脱いでくれない。あれえ?

 試合は結局、4対1で勝利した。
 4番目の人が勝った時点で決着はついていたのだけれど、練習試合という事で、全員試合をしたらしい。
 西田先輩が防具を取って、飛び散る汗とか、首を振る仕草を見たかったのに、他の人が試合をしている間に素早く脱いでしまったらしく、見逃してしまった。
 残念すぎる。どうして時間差で脱いだんだろう。
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