霞んだ景色の中で

ざっく

文字の大きさ
上 下
7 / 27
霞んだ景色

人ごみに紛れる

しおりを挟む
 結論、見つからない。

 「ねえねえ、荒垣さんって、どれ?」
 突然、由美が隣の女子生徒に声をかけた。
 「ええ?知らずに来たの?何しに来たのよ」
 「噂を聞いて、興味本位」
 「なるほど。・・・あの、隅にいる・・・今、前屈しているひとを押している方よ」
 聞かれた方は、くすくす笑いながら、一人の男子生徒を指さした。
 千尋は、由美の社交性の高さに脱帽しながらも、女生徒が指さす方向へ視線を向けた。
 なるほど。顔の整ったすらりとした体格の人が、前屈補助をしていた。
 「へえぇ。何年生?」
 「呆れた。本当に何も知らずに見に来ただけなのね。1年生よ。1年生で団体戦レギュラーに入って、個人戦でも3位入賞したんだから!」
 興味薄そうに、隅を眺める由美を、ライバルにはなり得ないと感じたのか、親切にいろいろ教えてくれた。
 「なるほど~。あとさ、西田先輩って知ってる?」
 「西田先輩?2年生の?」
 「そうそう!背がすっごく高いって聞いてさ」
 「おもしろがって見に来たの?暇なのね」
 その女生徒も、おもしろそうに由美を見た後、
 「私も2年だから分かるわ。ん~・・・あれ、いないわ。次期部長とか言われてるみたいだから、外で顧問と話してるかも。多分、剣道部で一番背が高いから、見かけたら分かるわよ」
 「ありがとーございます!探してみまあす」
 先輩だと分かったとたん敬語になった由美に、その先輩は笑いながら、どういたしましてと言った。
 今陣取っている場所を、教えてくれた先輩に譲って、由美は千尋を引っ張って人混みを抜けた。

 「由美は素晴らしいよ」
 「自分でも思うわ」
 ようやく人にもまれる場所から抜け出して、千尋はよれよれでため息をついた。
 バーゲンみたいで血がたぎったと、訳の分からない興奮状態にあったらしい。いい場所を確保し、安いから買うんじゃないのよ。欲しいから買うの。それを吟味するには、自分から動かなきゃ獲得できないのよ!などと、バーゲンのための格言を述べてきた。
 由美は別に苦学生でも何でもない。
 普通に両親がそろって、普通の家庭だったはずだが、あるとき突然、バーゲンの楽しさに目覚めて、バイトをしてまでバーゲンに行くという熱の入れようだ。
 競争のような状況で商品を漁るのが楽しいらしい。千尋には全く理解できないが。

 「あ、あれじゃない?」
 由美の視線をたどると、そこには、男子生徒と顧問であろう先生が話している姿があった。
 遠目でもすごく背が高いことが分かる。
 千尋の心臓が大きく音を立てた。
 「よし、回り込むわよ」
 明らかに面白がっている由美が千尋を引っ張って、声の聞こえる位置まで移動した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。

ラディ
恋愛
 一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。  家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。  劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。  一人の男が現れる。  彼女の人生は彼の登場により一変する。  この機を逃さぬよう、彼女は。  幸せになることに、決めた。 ■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です! ■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました! ■感想や御要望などお気軽にどうぞ! ■エールやいいねも励みになります! ■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。 ※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。

婚約破棄、しません

みるくコーヒー
恋愛
公爵令嬢であるユシュニス・キッドソンは夜会で婚約破棄を言い渡される。しかし、彼らの糾弾に言い返して去り際に「婚約破棄、しませんから」と言った。 特に婚約者に執着があるわけでもない彼女が婚約破棄をしない理由はただ一つ。 『彼らを改心させる』という役目を遂げること。 第一王子と自身の兄である公爵家長男、商家の人間である次期侯爵、天才魔導士を改心させることは出来るのか!? 本当にざまぁな感じのやつを書きたかったんです。 ※こちらは小説家になろうでも投稿している作品です。アルファポリスへの投稿は初となります。 ※宜しければ、今後の励みになりますので感想やアドバイスなど頂けたら幸いです。 ※使い方がいまいち分からずネタバレを含む感想をそのまま承認していたりするので感想から読んだりする場合はご注意ください。ヘボ作者で申し訳ないです。

【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~

瀬里
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)  ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。  3歳年下のティーノ様だ。  本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。  行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。  なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。  もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。  そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。  全7話の短編です 完結確約です。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

夜会の夜の赤い夢

豆狸
恋愛
……どうして? どうしてフリオ様はそこまで私を疎んでいるの? バスキス伯爵家の財産以外、私にはなにひとつ価値がないというの? 涙を堪えて立ち去ろうとした私の体は、だれかにぶつかって止まった。そこには、燃える炎のような赤い髪の──

それは報われない恋のはずだった

ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう? 私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。 それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。 忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。 「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」 主人公 カミラ・フォーテール 異母妹 リリア・フォーテール

もう一度だけ。

しらす
恋愛
私の一番の願いは、貴方の幸せ。 最期に、うまく笑えたかな。 **タグご注意下さい。 ***ギャグが上手く書けなくてシリアスを書きたくなったので書きました。 ****ありきたりなお話です。 *****小説家になろう様にても掲載しています。

処理中です...