霞んだ景色の中で

ざっく

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霞んだ景色

剣道部

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 放課後、すぐに剣道場に向かって、着いたのはいいのだが・・・・・・。
 「何あれ・・・・・・?」
 「バーゲン?」
 さすが、由美は発想が違う。

 普段来ることのない武道場校舎は見事な人だかりができていた。
 校門とは逆方向に建つ建物のため、選択科目も違う千尋は、入学後の案内以外で武道場には来たことがなかった。
 というか、部活で用事がある人以外は用事のない区域のため、閑散としているイメージだったのだが、今は女子生徒でひしめきあっている。
 「でも、目立たなそうでよかった」
 そのでっかい絆創膏で目立たないなんてことはあるわけがないと思いつつ、指摘すれば「帰る」と言い出すので、由美はその言葉については返事をしなかった。
 武道場に近づいていても、女子生徒ばかりで、剣道部員はいないようだった。

 それはそうだろう。早すぎるし。
 千尋たちだって、授業を終えて、すぐにこちらへ向かったのだが、この人たちは、どうやってここまで素早く集まることができたのだろうと、妙な関心が沸いてきたが、今はそんな場合ではないので、ひとまずその疑問は横に置いておく。
 武道場の中に入ることは禁止されているのか、女子生徒たちは中には入らず、窓やドアの前に居場所を確保しながら、きゃっきゃと騒いでいる。
 デパートとかで催し物の前に集まって場所取りしているようなものかな。
 ただ、こそこそするには最適な環境も、人捜しをしたい場合には、中をのぞくことも苦労しそうな状況にちょっとうんざりする。
 どうも、この状況では部員に近づけそうにない。
 どうしようかと由美を振り向いたところで、きゃああと、観客がわめいた。
 非常に失礼な物言いだが、千尋にはわめいたように聞こえたのだ。
 歓声と言うよりも、自分がここにいると我先に知らせようとしている声が多く、うるさい。

 「荒垣君!かっこいい!」
 「私、差し入れ持ってきたの」
 「今日帰りまでいるから!」
 「荒垣君!」
 ここにいる人たちは、みんな荒垣という人に会いに来ているらしい。
 荒垣・・・・・・・。

 「由美、聞いたことある?」
 「私がそんなことに興味を持つ人間だと思ってるの?」
 何故か怒られた。
 まあ、この人だかりが西田先輩を見に来た人でなかったのは良かった。
 これでは、見つけても近づくことさえもままならない。
 でも、武道場をのぞき見ることもままならないことは想定外だったが。
 人と人の間から、袴・・・剣道着を着ている人がいるのは見える。
 けれど、その人が背が高いのかも、髪型も見えない。声を聞くなど、この騒音の中では無理だ。
 名前と背が高くて声が好みという偏った情報しかない状況で、見つからないように探すって言うのは無理がある気がする。

 やっぱり、1週間後に来て、顧問の先生にでも「西田先輩に用事がある」と言った方がいいかもしれない。その時に現れるのが一人であることを願うばかりだ。
 そう思って、由美を振り返ると、由美がいなかった。
 「ちょ・・・・・・!?」
 なんと、由美が人混みをかき分けるようにして窓に近づいて行っていた。
 嫌そうにされるのもなんのその。するりするりと入っていて、なんと、手招きしている。
 そんなところに入って行くの無理!
 そう言いたいのに、そんなところにいる人の前で大声は出せないし、何より、由美の表情が怖い。
 仕方がなしに、千尋はぺこぺこと頭を下げながら由美の横に動いた。
 武道場下の窓なので、しゃがんで見上げる形になるが、ようやく、武道場の中が見えた。
 30人くらいの男子がみんな袴を着て整列している。その前で指示を出している人が部長だろうか。
 ここにこれだけの人間がのぞいているのに、部員がこちらに目を向けることはない。
 強いだけある部員の態度に感心してしまう。
 これだったら、西田先輩を探すためにじっくり眺め回したとしても、気づかれそうにない。

 「どう?いる?」
 「わかんない」
 実際、体格がいい人が多かった。見るからにみんな強そうだ。声も届かないし、こちらに近づいてくる人は一人もいない。名札なんてつけているわけがない。見るだけじゃ学年も分からないし、ここからでは、みんな背が高い。
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