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婚約者候補
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王族が内輪でもめ事を起こすと、国が乱れる。
婚外子が突然出てきたり、暗殺が起こったりと良くないことばかり。
出来るだけ、そのようなことが起きないようにと、王族の結婚も選択の余地が残されている。
国を支えていくための結婚でもあるため、政略が関わってくることは必然であり、王妃の教養が無いわけにはいかないため、自由恋愛とはいかないが、準備されているものの中から選ぶ権利は与えられているのだ。
王太子 シャルル・ルールにも、四人の婚約者候補が準備された。
美しい金髪と青い目、素晴らしい教養を持ちながら、少々高飛車なエリザベス・シュヴァリエ公爵令嬢。
黒の瞳を持ち、神秘的な美しさを放つ、才媛ナタリー・ミシェル侯爵令嬢
真っ赤な髪と緑の瞳で快活で、交友関係が広いアデリーヌ・ルグラン 侯爵令嬢
そして、ピンクの髪と茶色の瞳を持ち、小柄なマリア・コンフィール伯爵令嬢
上記三人がいれば、マリアは必要ないのではないかと思う。
人によっては妹枠だと頷く人もいるが……というか、妹枠ってなんだ。
自分が小柄で童顔なのは知っている。それを分かっているからこそ、立ち居振る舞いに気を配り、幼く見えないようにしているというのに。結局見た目か。
シャルルは、この候補四人と平等に接し、婚約者を選ばなければならない。
ちなみに、女性の方に選択権が無いところが微妙なところだ。
マリアも、王から打診があり、父から辞退は許さないと厳命を受けている。世知辛い。
そんな候補たちとシャルルは、今日も薔薇が咲き誇る美しい庭園で優雅にお茶を飲んでいる。
マリアは「ほほほ」と笑う令嬢たちからこそっと抜けだして、薔薇を眺める。
こんな状態でなければ美しい薔薇をただ眺めていられるのに。
「マリア?気分がすぐれないのか?」
放っておいてもらって全然かまわないのだが、シャルルはマリアに声をかけてくる。
ざわざわ少し離れたところに移動していたので、シャルルも一人、他の令嬢方と離れてマリアの様子を見に来たようだ。
マリアは、遠目にはシャルルに話しかけられてうれしいと言わんばかりの笑顔で答える。
「いや、もう帰りたくて」
通常ならば不敬な発言だが、シャルルは情けない顔になってため息を吐く。
「そう言うなよ。どうにか、エリザベスとの仲を取り持ってくれよ」
自分でしろよ。
呆れた視線を向けそうになって、慌ててにっこりと笑顔を作る。
こんな軽口をきいているが、シャルルと幼馴染だとか幼き頃に知り合ったことがあるなどという話はない。
候補者としての顔合わせの時に、シャルルがエリザベスを気に入っていると気が付いて、ならばと声をかけたのが事の発端だ。
もう、彼女一人に絞られているならば、他の候補者たちも解散で良いだろう。
さっさと決めろと、丁寧に回りくどく伝えたマリアに、シャルルは恥ずかしそうにもじもじし始めた。
「エリザベスに決めているように見えるか?分かってしまうのだろうか。し、しかし、私が彼女を選んだら、エリザベスは断れない立場になるのだろう?彼女の気持ちを考えないと……」
女性に選択肢が無いと言っていたが、断る機会を作ろうとしていたようだ。
――素晴らしい。
ああ、とても崇高で慈悲深い精神だ。
自分の相手に伝えられずにグダグダしなければ。
そのグダグダが、周りまわってマリア他候補に多大な迷惑をかけていなければ。
「その、殿下がもじもじしている間に、こっちの婚期が遅れていくのですが」
マリアは第三者目線で見ることが出来ないところが辛いところだ。本当に辛い。このいい年して恥ずかしそうにする男を蹴飛ばすことが出来ないことが。
マリアだって、いい結婚がしたい。
愛する人と結婚したいのではない。『いい結婚』がしたいのだ。
そのためには、王太子殿下の婚約者候補などという肩書をさっさと捨て去ってしまわなければならない。
マリアとしては、できれば、男爵くらいの平民に近い――富豪ならば平民でも可――下位貴族で、社交の必要が無く、しがらみもない気楽な家に嫁ぎたい。そして、相手が優しく誠実で精悍な方だったらなおよい。
そういうところに嫁ぐには、できるだけ若いうちの、世間の事なんて分かりませ~んと物知らずな風を装える若いうちが最適だ。
金持ちの息子を色仕掛けで篭絡し、『だってだって』言っている間に結婚にこぎつけ、『私、分かりません。ぐすん』と言ってもぎりぎり痛くない年頃で結婚したい。
マリアは伯爵家と言えども、四女。
ほぼ貴族でなくなることは分かっている。四女にまで爵位継ぎの子息が回ってくることはない。
そして、四女と言えども、伯爵令嬢。
伯爵令嬢を傷ものにしたと言って、ぐいぐい結婚にこぎつけることも可能だ。
今回、王太子の婚約者候補などというものに選ばれてしまったが、婚約者の決まっていない令嬢を高位とタイプ別に選んだだけだ。
何度考えても、マリアは必要ない。
さっさと切り上げて、本来の狩りに向かわなければならないというのに。
「どうアピールしたらいいか分からないのだ」
何故だか、恋の相談相手のようになっている。真面目に候補として本人から扱われるのも困るが、決して相談相手になりたいわけじゃない。
この情けない王太子のお守りをしている暇はない。
けれど、これを片付けないと次に行けない。
本当にイライラする。
「一人だけ、さりげなく特別扱いするのです。手を握ってみたり、花を送ってみたり」
先日も言ったことを繰り返すと、悲しそうな表情が返ってくる。
「したのだが、反応が無い」
今日のエリザベスの様子を思い浮かべて、首をかしげる。
「いつです?」
「前回のお茶会が終わった後、彼女が好きだというガーベラを花束にして贈った」
照れ笑いを浮かべながら言うのはいいが……。
「私にも届きましたが」
マリアは嫌そうな表情を隠せずに呟いた。
護衛が一人だけ佇んでいるが、表情に出てしまったのは一瞬だ。見られていないことを願おう。
「ああ。いつも世話になっているからな」
しかも、同じガーベラだ。ついでだと、マリアにはありありと分かるが、本命と同じものを感謝のしるしで他の人に贈ってどうする。
「私まで特別扱いしてどうするおつもりですか。私の結婚を邪魔する気ですか」
「花を贈っただけだろう」
エリザベスとマリアにだけ贈り物。
傍から見れば、『どちらにしようかな』状態だ。やめてくれ。
盛大なため息を吐きたいけれど、我慢して無理矢理大きく息を吸った。
罵詈雑言が出そうになるのをぐっとこらえて、シャルルから視線を外した時、遠くからこちらを見るエリザベスと目があった。
切な気な、悲し気な視線。
すぐさま反らされてしまたけれど、その視線の意味にはすぐに気が付く。
マリアは不敬にも思った。
――なんて趣味の悪い。これ?これでいいの?エリザベスなら、もっといいのがいると思うよ?
などと思うが、決して口には出さない。マリアにはその方が好都合だから。
エリザベスがそのつもりなら話が早い。
「このお茶会の後、エリザベス様にお時間があるか聞いてください」
「なぜ?――いや、そうだな。そうしよう」
思わず睨み付けてしまった。
シャルルは微妙にマリアから視線を外しながら懸命にも素直に頷いた。
「そこで、二人きりになって、断られても気にしないと言ってから告白をしてください」
「断られても気にしないのは無理なのだが」
「そこは格好つけてください」
「……なるほど」
そわそわと視線を泳がせながら返事をするシャルル。
こんなんでも普段はもっと他人に心情を読みとらせないようにいつも笑顔を浮かべているシャルルだ。告白の時くらい格好つけることくらいできるだろう。
「そろそろ決着をつけてください。フラれたら、私以外の人間を選んでくださいね。気が楽だというような理由で選んだら、逃亡します」
「ぐっ……分かっているとも」
分かっていなかったような返事だ。
本命に選択肢を与えるつもりなら、こちらにも選択肢が欲しい。王太子がマリアを選んだ途端、マリアは城に強制連行されて自分に意思を聞かれるなんて絶対にない。
即、王太子妃だ。
嫌だ。
マリアは一度息を吐いてから、テーブルの方に戻る。
シャルルは、ぶつぶつと何か考えながらその後についてくる。
これで、ようやく終わるだろう。
そして、ようやく、苦しい片想いも終わらせることが出来るはずだ。
婚外子が突然出てきたり、暗殺が起こったりと良くないことばかり。
出来るだけ、そのようなことが起きないようにと、王族の結婚も選択の余地が残されている。
国を支えていくための結婚でもあるため、政略が関わってくることは必然であり、王妃の教養が無いわけにはいかないため、自由恋愛とはいかないが、準備されているものの中から選ぶ権利は与えられているのだ。
王太子 シャルル・ルールにも、四人の婚約者候補が準備された。
美しい金髪と青い目、素晴らしい教養を持ちながら、少々高飛車なエリザベス・シュヴァリエ公爵令嬢。
黒の瞳を持ち、神秘的な美しさを放つ、才媛ナタリー・ミシェル侯爵令嬢
真っ赤な髪と緑の瞳で快活で、交友関係が広いアデリーヌ・ルグラン 侯爵令嬢
そして、ピンクの髪と茶色の瞳を持ち、小柄なマリア・コンフィール伯爵令嬢
上記三人がいれば、マリアは必要ないのではないかと思う。
人によっては妹枠だと頷く人もいるが……というか、妹枠ってなんだ。
自分が小柄で童顔なのは知っている。それを分かっているからこそ、立ち居振る舞いに気を配り、幼く見えないようにしているというのに。結局見た目か。
シャルルは、この候補四人と平等に接し、婚約者を選ばなければならない。
ちなみに、女性の方に選択権が無いところが微妙なところだ。
マリアも、王から打診があり、父から辞退は許さないと厳命を受けている。世知辛い。
そんな候補たちとシャルルは、今日も薔薇が咲き誇る美しい庭園で優雅にお茶を飲んでいる。
マリアは「ほほほ」と笑う令嬢たちからこそっと抜けだして、薔薇を眺める。
こんな状態でなければ美しい薔薇をただ眺めていられるのに。
「マリア?気分がすぐれないのか?」
放っておいてもらって全然かまわないのだが、シャルルはマリアに声をかけてくる。
ざわざわ少し離れたところに移動していたので、シャルルも一人、他の令嬢方と離れてマリアの様子を見に来たようだ。
マリアは、遠目にはシャルルに話しかけられてうれしいと言わんばかりの笑顔で答える。
「いや、もう帰りたくて」
通常ならば不敬な発言だが、シャルルは情けない顔になってため息を吐く。
「そう言うなよ。どうにか、エリザベスとの仲を取り持ってくれよ」
自分でしろよ。
呆れた視線を向けそうになって、慌ててにっこりと笑顔を作る。
こんな軽口をきいているが、シャルルと幼馴染だとか幼き頃に知り合ったことがあるなどという話はない。
候補者としての顔合わせの時に、シャルルがエリザベスを気に入っていると気が付いて、ならばと声をかけたのが事の発端だ。
もう、彼女一人に絞られているならば、他の候補者たちも解散で良いだろう。
さっさと決めろと、丁寧に回りくどく伝えたマリアに、シャルルは恥ずかしそうにもじもじし始めた。
「エリザベスに決めているように見えるか?分かってしまうのだろうか。し、しかし、私が彼女を選んだら、エリザベスは断れない立場になるのだろう?彼女の気持ちを考えないと……」
女性に選択肢が無いと言っていたが、断る機会を作ろうとしていたようだ。
――素晴らしい。
ああ、とても崇高で慈悲深い精神だ。
自分の相手に伝えられずにグダグダしなければ。
そのグダグダが、周りまわってマリア他候補に多大な迷惑をかけていなければ。
「その、殿下がもじもじしている間に、こっちの婚期が遅れていくのですが」
マリアは第三者目線で見ることが出来ないところが辛いところだ。本当に辛い。このいい年して恥ずかしそうにする男を蹴飛ばすことが出来ないことが。
マリアだって、いい結婚がしたい。
愛する人と結婚したいのではない。『いい結婚』がしたいのだ。
そのためには、王太子殿下の婚約者候補などという肩書をさっさと捨て去ってしまわなければならない。
マリアとしては、できれば、男爵くらいの平民に近い――富豪ならば平民でも可――下位貴族で、社交の必要が無く、しがらみもない気楽な家に嫁ぎたい。そして、相手が優しく誠実で精悍な方だったらなおよい。
そういうところに嫁ぐには、できるだけ若いうちの、世間の事なんて分かりませ~んと物知らずな風を装える若いうちが最適だ。
金持ちの息子を色仕掛けで篭絡し、『だってだって』言っている間に結婚にこぎつけ、『私、分かりません。ぐすん』と言ってもぎりぎり痛くない年頃で結婚したい。
マリアは伯爵家と言えども、四女。
ほぼ貴族でなくなることは分かっている。四女にまで爵位継ぎの子息が回ってくることはない。
そして、四女と言えども、伯爵令嬢。
伯爵令嬢を傷ものにしたと言って、ぐいぐい結婚にこぎつけることも可能だ。
今回、王太子の婚約者候補などというものに選ばれてしまったが、婚約者の決まっていない令嬢を高位とタイプ別に選んだだけだ。
何度考えても、マリアは必要ない。
さっさと切り上げて、本来の狩りに向かわなければならないというのに。
「どうアピールしたらいいか分からないのだ」
何故だか、恋の相談相手のようになっている。真面目に候補として本人から扱われるのも困るが、決して相談相手になりたいわけじゃない。
この情けない王太子のお守りをしている暇はない。
けれど、これを片付けないと次に行けない。
本当にイライラする。
「一人だけ、さりげなく特別扱いするのです。手を握ってみたり、花を送ってみたり」
先日も言ったことを繰り返すと、悲しそうな表情が返ってくる。
「したのだが、反応が無い」
今日のエリザベスの様子を思い浮かべて、首をかしげる。
「いつです?」
「前回のお茶会が終わった後、彼女が好きだというガーベラを花束にして贈った」
照れ笑いを浮かべながら言うのはいいが……。
「私にも届きましたが」
マリアは嫌そうな表情を隠せずに呟いた。
護衛が一人だけ佇んでいるが、表情に出てしまったのは一瞬だ。見られていないことを願おう。
「ああ。いつも世話になっているからな」
しかも、同じガーベラだ。ついでだと、マリアにはありありと分かるが、本命と同じものを感謝のしるしで他の人に贈ってどうする。
「私まで特別扱いしてどうするおつもりですか。私の結婚を邪魔する気ですか」
「花を贈っただけだろう」
エリザベスとマリアにだけ贈り物。
傍から見れば、『どちらにしようかな』状態だ。やめてくれ。
盛大なため息を吐きたいけれど、我慢して無理矢理大きく息を吸った。
罵詈雑言が出そうになるのをぐっとこらえて、シャルルから視線を外した時、遠くからこちらを見るエリザベスと目があった。
切な気な、悲し気な視線。
すぐさま反らされてしまたけれど、その視線の意味にはすぐに気が付く。
マリアは不敬にも思った。
――なんて趣味の悪い。これ?これでいいの?エリザベスなら、もっといいのがいると思うよ?
などと思うが、決して口には出さない。マリアにはその方が好都合だから。
エリザベスがそのつもりなら話が早い。
「このお茶会の後、エリザベス様にお時間があるか聞いてください」
「なぜ?――いや、そうだな。そうしよう」
思わず睨み付けてしまった。
シャルルは微妙にマリアから視線を外しながら懸命にも素直に頷いた。
「そこで、二人きりになって、断られても気にしないと言ってから告白をしてください」
「断られても気にしないのは無理なのだが」
「そこは格好つけてください」
「……なるほど」
そわそわと視線を泳がせながら返事をするシャルル。
こんなんでも普段はもっと他人に心情を読みとらせないようにいつも笑顔を浮かべているシャルルだ。告白の時くらい格好つけることくらいできるだろう。
「そろそろ決着をつけてください。フラれたら、私以外の人間を選んでくださいね。気が楽だというような理由で選んだら、逃亡します」
「ぐっ……分かっているとも」
分かっていなかったような返事だ。
本命に選択肢を与えるつもりなら、こちらにも選択肢が欲しい。王太子がマリアを選んだ途端、マリアは城に強制連行されて自分に意思を聞かれるなんて絶対にない。
即、王太子妃だ。
嫌だ。
マリアは一度息を吐いてから、テーブルの方に戻る。
シャルルは、ぶつぶつと何か考えながらその後についてくる。
これで、ようやく終わるだろう。
そして、ようやく、苦しい片想いも終わらせることが出来るはずだ。
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