女の魅力

ざっく

文字の大きさ
上 下
3 / 12

痴女の悪あがき

しおりを挟む
そうしてまた、電車は動き出す。
「ありがとうございます」
恥ずかしくて顔をあげられずに、俯いたまま小さくお礼を言った。
「いや。降りる駅ではなかった?大丈夫?」
「大丈夫です」
気遣ってくれる声に、それでも顔をあげることはできずに私は返事をした。

だって、胸が、彼の胸で押しつぶされている。

助けてくれた時に引かれた腕と、抱きとめられた時に支えてくれた腕は、早々に吊革につかまって私から離れていっている。
私も吊革につかまるべきだろうかと思うが、彼の前で思い切り腕を伸ばして吊革につかまる気にはなれない。
彼にさらに押し付けるような感じになりそうだ。
どうにか揺れる体を押さえつけようと、座席の手すりに視線をやるが、数人が壁になっていて、それも無理そうだ。
何より、彼の体に、こうして体を預けている状態が安定している。
下手にもぞもぞ動けば、下手をすれば喘ぎ声が漏れそうだ。
彼は、半袖の薄いカッターシャツと、多分下着でTシャツなどを着ているのだろう。
私は、紺のブラウスのみ。
なんというか、本当にすみません。
彼の逞しい胸板をダイレクトに感じてしまい、体温が上がっている気がする。
こんな状況にも関わらず、胸が高なってしまう私はきっと変態だ。
気持ちを落ち着かせるために、ゆっくりと息を吐き出した時に、お腹に傘の柄のようなものがあたっていることに気がついた。
今日雨降ったっけ?いや、降りそうだったから持っていたのかな。
なんにしても、胸に加えてお腹にも妙な感触が加わることは私の精神衛生上よろしくない。
これで快感を拾うようになってしまったら、後戻りができなくなる。
妙な危機意識を抱いて、辛うじて動く手をお腹のあたりに持って行く。
少し横に避けてもらおうとしたのだ。真面目に。本気で。そう思っていた。
断じて邪な思いからではないと神に誓う!

傘の柄だと思っていた物に手が触れた途端、彼の体が大きく揺れた。
「えっ?」
思わず、声がこぼれた。
お腹にあたっていたのは、大きく屹立した彼自身だったのだ。

「―――すまない」

本当に申し訳なさそうな声に視線を上げると、片手で顔を覆ってしまって、耳まで赤くした男性がいた。
その姿に、ときめいてしまった。
私にサドの気があるとは新発見だった。
「い、いえっ!大丈夫です」
手を触れたものの正体が分かって、私は慌てて手をひっこめた。
けれど、彼自身は全く治まる気配も見せずに、私のお腹を突き続けている。
「こちらこそ、すみません……」
小さな声で謝った。
そもそもの原因が私だから。
ノーブラで刺激され続けて、反応しない男性がいれば、それは余程私が女に見えないのだろう。
そう考えて、気がつく。
これこそ、私が求めていた反応だ。
彼は、女性としての私に反応したと言うことだ。
まあ、見た目とか全く無視して、胸を押し付けるだけのお粗末な色仕掛けのようなものだが、反応している!それだけで充分だ。
彼は私に女性を感じて、性欲を抱いていると考えていいのだろう。
反射で勃ってしまうこともあるとうことも聞いたことがあるが、彼の反応からして、きっと、そうだ。
何故か妙に安心してしまって、私は駅に着くまでゆっくりと彼の体に自分の体をぴったりとくっつけていた。

降りる駅のアナウンスが聞こえた。
「あの、ちょっと」
降りた途端歩き去られては追いつけないので、思わず手を引っ張ってしまった。
彼は驚いて、少し気まずそうな顔をしつつも、素直に一緒に降りてくれた。
人の流れからそれて、端に寄ったところで、私が引っ張っている手とは反対の手で、彼が私の肩を突いた。
私が彼を見上げると、それに応対するように彼は首を傾げた。
「痴漢したつもりはないんだが」
彼は開口一番そう言って、困り果てた顔で見下ろされた。
「ちっ、ちがくて!そうしたら、私だって痴漢みたいなもので!」
こんな格好で満員電車に乗るだなんて。
そうか、あの状況で私に引っ張られると、痴漢として訴えられると思ったのか。
だったら、無視して逃げればいいのに、彼は戸惑いながらもついて来てくれた。
その優しさと、申し訳なさで真っ赤になったまま頭を下げた。
「申し訳ありません!非常識な真似をして、反省しています!」
早口で謝罪すると、ほうっと、大きく息を吐く音が聞こえた。
「いや、よかったよ。どう話して分かってもらおうかと」
苦笑いしながら「どんな表現しても、厳しいなと思っていた」照れたように話す彼が、とても素敵で。

「あの、ホテルに行きませんか?」

またしても、考えなしの発言をかましてしまったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

私を返せ!〜親友に裏切られ、人生を奪われた私のどん底からの復讐物語〜

天咲 琴葉
青春
――あの日、私は親友に顔も家族も、人生すらも奪い盗られた。 ごく普通の子供だった『私』。 このまま平凡だけど幸せな人生を歩み、大切な幼馴染と将来を共にする――そんな未来を思い描いていた。 でも、そんな私の人生はある少女と親友になってしまったことで一変してしまう。 親友と思っていた少女は、独占欲と執着のモンスターでした。 これは、親友により人生のどん底に叩き落された主人公が、その手で全てを奪い返す復讐の――女同士の凄惨な闘いの物語だ。 ※いじめや虐待、暴力の描写があります。苦手な方はページバックをお願いします。

《 アルファ編 》 時を止めるって聖女の能力にしてもチートすぎるんじゃないんでしょうか? 

南 玲子
恋愛
聖女として召喚されたけれども、まさかの魔力ゼロ判定で捨てられた少女、倉島 桜17歳。クラマとして男装し騎士訓練場で働き始め、そこで知り合ったユーリス騎士団5番隊隊長と、図書館で知り合ったアルフリード第一王子からの求愛を受けたり、王位争いにも巻き込まれてしまったりと大騒ぎ。なんとか王家に伝わる3種の宝飾で、危機一髪難を逃れた。本物の聖女である事を隠して、今もなお騎士訓練所の仕事と、セシリア子爵令嬢として王宮での淑女教育を掛け持ちする事になった私。宰相の行方不明だった姪のクリスティーナ様が出てきてから、雲行きが怪しくなってきて・・・。 もういい、こんな城、出て行ってやる!桜はまさかの家出決行!桜の夢、田舎でのんびり子沢山は実現するのか?! アルファ編。分けて公開の予定でしたが、結局一挙に公開する事にしました。ごめんなさい。

転生皇太子は、虐待され生命力を奪われた聖女を救い溺愛する。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)

三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。 各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。 第?章は前知識不要。 基本的にエロエロ。 本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。 一旦中断!詳細は近況を!

処理中です...