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狩猟会3

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 プアーン!

 そんな女の子たちの会話を遮るように、鮮やかにラッパが鳴り響いた。
 狩りへ出発するのだ。
 女性達が見送る中、馬に乗った男性達が森へと入っていく。
 アレクシオはすでに任務に就いているため、リオを見て手を振ることなどはしてくれない。周辺を警戒しながら、傍に付き添う警備と何か話していた。
 こちらを全く見てくれないのは、やっぱり、少し寂しい。
 オリヴィアたちの兄弟や婚約者のいる者には、婚約者は行ってくるという合図を送るのだ。二本指を立てて、おでこから空へ突き立てる。

 初めて見た時、『アデュー』と兄がしているのかと思って大笑いしてしまった。・・・・・・ゲンコツがきた。
 この合図は、狩場へ赴くものが、残って自分の無事を祈る者への、必ず帰ると言う誓いであり、今から命を狩ると言うことを天に伝えるという二つの意味がある。
 合図を受け、女性たちは両手を組み合わせ、祈るのだ。

 アレクシオから、職務中だから、その合図はできないからと言われていたけれど、リオが祈るのは自由だと思う。だから、他の女性たちと合わせて、祈りをささげる。
 こちらをチラとも見ないアレクシオに、ちょっとくらい目を合わせてくれてもいいのにと思うけれど、キリッとした仕事姿も、眼福である。
 きっと、狩りが終わって、こちらに迎えに来てくださるときには、リオを見つけて、あの厳しい顔が、ふわりと笑みの形に崩れる。
 その瞬間のためなら、この寂しさなど我慢してみせる。
 その瞬間が、すでに待ち遠しい。
 差し出される冷たい紅茶をいただきながら、妄想を繰り広げた。

 「リオディーニ様が結婚されたとき、とても驚きましたわ」
 ファビーが言うと、アリルも同調して言った。
 「そう。どなたがリオディーニ様の心を射止めるのかって、みんな噂してましたのよ」
 まあ、と声を上げながら、リオは冗談を言われているのだと、笑った。
 「ふふ。リオディーニ様、冗談じゃないのよ?」
  オリヴィアがそう言って、何人かの紳士の名前を出されたが、さっぱりピンと来ない。
  まあ、若い女性には、多かれ少なかれ、求婚者は現れるものなのだろう。
  リオとしては、求婚者が来ないかも知れない!と、慌てていた頃が遠い昔のように思い出される。

  そんなたわいもない話で盛り上がり、どこぞのペットがお利口だとか、新しくできたお菓子屋さんのフィナンシェが絶品だとか、若い女性が集まれば、話題が途絶えることなく続いていく。
  そろそろ、狩りも終盤だろうかと森の入口に目を向けてから、アレクシオが戻ってきたときに、ここだと、近づいて来にくいかも知れないと気がつく。
 アレクシオは、自分の容姿が恐怖を与えることを理解し、若い女性には必要以上に近寄らないようにしている。
 不敬だと言ってしまうこともできるが、そんなことはしない。
 ---なんて優しい方なの。
 リオは、想像の中のアレクシオにさえ、素敵だわとため息を吐いた。
 近くに卒倒しそうな女性がいたら、アレクシオは遠慮して、テントへ向かってしまうだろう。
 そう考えて、父の方へ行くことを伝えようとして、気がついた。

 オリヴィアの顔が真っ赤だ。心なしか、息も荒い。
 「オリヴィア様?」
 声を掛ければ、だるそうに、目を上げて―――倒れた。
 「オリヴィア様!」
 瞬間、熱中症だと思った。
 そうだ、さっきから、トイレを気にして、オリヴィアは水分をほとんど摂っていない。
 「きゃああ!」
 モニカ達が騒ぎ始めて、何人かの近衛騎士が向かってきてくれる。
 「涼しい場所に移して!馬車の中に氷を準備して冷やしてください!」
 侍従がその指示に従い走っていく。
 冷たい飲み物を口元に持って行き、「飲みなさい!」と、大きな声を出せば、こくんと、ゆっくりと嚥下した。
 「馬車の準備ができました!」
 「オリヴィア様を運んで!」
 振り返ると、あたふたする近衛騎士達。
 どうやら、新入隊員ばかりが置いて行かれているらしい。
 担架を持ってきますのでなどと言って騒いでいる。
 なんてこと。
 眉間にしわが寄って、不機嫌さが隠せない。
 「マッシュ様!」
 大きな声を出せば、驚いたように走り寄ってくる人を見つけた。
 やっぱり、アレクシオは自分が狩りに付いていくならば、マッシュを残してくれていると思った。

 「女性を一人軽々と運べる方をこちらに!」

 リオが叫べば、すぐに心得たように近くを警備していた兵士がやってきた。
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