召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく

文字の大きさ
上 下
15 / 36

部屋へご案内

しおりを挟む
「なるほど。分かったわ。では、この家の通訳として働いてくれるのね?」
さっきの視線でどういうやり取りになったか分からなかったが、突然雇ってもらえるようになったようだ。
「は、はい……!亜優と申します。よろしくお願いします」
あまりにもあっさりと雇ってくれるので、嬉しさよりも戸惑いが勝ってしまう。
アッシュを見たり、周りの人たちの表情を見るが、慌てている様子はない。
こんな怪しさ満点な女を、いきなり雇い入れるのですか!?と、誰かツッコミを入れて欲しい。
「大丈夫。私は、息子の見る目を信頼しているわ」
亜優の表情を見て、彼女は軽やかな笑うい声をあげる。
「さあ、自己紹介をしなくては。私はアッシュの母親。マリン・ダグワーズよ」
マリンと名乗った女性は、華やかに笑って亜優に向き直る。
「夫――アッシュの父ね。彼も、別の壁の扉から外に出ているの。だから、挨拶ができなくてごめんなさいね」
アッシュの父親も外にいるのか。
どうやら、ダグワーズ家は代々伝わる軍人の家系で、こうやって魔物から人々を救ってきているらしい。
「あの人も、今回はちょっと長いけれど」
マリンは寂しそうに笑って、今度は執事を示して言う。
「彼は、この家を取り仕切ってくれている執事のシェア。彼に仕事のことを聞いて。あなたが必要だと思うことを手配してくれるわ」
シェアは、目尻にある皺をさらに増やしながら笑みを浮かべる。
「よろしくお願いします。では、早速お部屋のご準備などしなくては」
亜優が、準備など自分で!というより前に、マリンが返事をしてしまう。
「ええ。お願い」
急に進み始めた会話に、何から聞けばいいのか、頭の中に言いたいことがひしめき合う。
「部屋の場所は、後から教えてくれ」
「あ、はい」
アッシュから声をかけられて、亜優は返事をしたものの、どう教えるのかと思って、シェアを見上げる。
シェアは亜優の気になるところとは別のところが気になったようだ。
「アッシュ様、知って、どうなさるおつもりですか?」
シェアは眉間にしわを寄せて、不可解だといわんばかりにアッシュを見つめている。
「は?いや、知っておいた方が後々……」
ぼそぼそと説明するが、アッシュはマリンとシェアから冷たい視線を浴びてしまう。
「女性の部屋に行くつもりじゃないでしょうね?」
そんな大層なものなのだろうか。
まあ、使用人の部屋に主人の息子が行くのは目立つのだろうが。
「部屋を訪れるにはまだ早いと思わない?」
……まだってなんだ。まだって。
使用人になったら手を付けられるのは確定みたいな言い方に、亜優は少し眉を顰める。
アッシュは、そういう人だったのか。若い使用人には、とりあえず手を付けて見るような?
亜優がアッシュを見ると、彼もこちらを見ていて、目が合う。
「……なんか、誤解を受けている気がする」
亜優の表情に、アッシュがショックを受けたような顔をした。
アッシュが慌ててマリンに弁解をする。
「母さん、俺はそう言うつもりで部屋の場所を聞いたんじゃなくて、亜優がどこにいるかしっておきたいというか……」
アッシュを無視して、マリンは亜優の方を見る。
そして、亜優の誤解を理解して、ゆるく首を振りながら安心させるような笑みを浮かべた。
「あら。誤解を与えてしまったのかしら。大丈夫よ。息子は手あたり次第使用人に手を出しているのではなくて、あなたに手を出したいのだから」
「母さん!?」
アッシュの大声を聞きながら、自分の頬が熱を持ったのを感じた。
「は、はあ……」
手を出したがられていると聞いて、『そうですか』と返事をできるわけがない。
一応、亜優に話しかけられたので返事はしたが、何とも言いようがない。
マリンは、亜優からアッシュに視線を移し、小さな子を諭すように言う。
「アッシュ。そうがっつくものではないわ。とりあえず、彼女が落ち着くのを待ちなさい」
なんというか、身もふたもない。
それは、この家に亜優が慣れれば、良いと言っているようなものだ。
彼は、もう二の句が継げなくて、口を開いたり閉じたりしている。
そんな、どうしようもない雰囲気の中、シェアがニコニコと笑う。
「では、ご案内いたします」
シェアが亜優を促す。
妙に丁寧な態度に違和感を覚えながらも、亜優もこの場にはもういられなくて、足早に彼について行った。


部屋に案内されている間に、シェアはあちこちの部屋の場所について教えてくれる。
「こちらがアッシュ様のお部屋ですが、訪問されるときは、教えてくださると助かります」
特に、アッシュの部屋は一番に教わった。
メイドならまだしも、通訳という仕事で、ご子息のお部屋に伺うことは無いような気がする。

「い……行くときは、ですね」

ただ、折角ご案内をしていただいたので、亜優は引きつりながらも頷いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

魔力なしと虐げられた令嬢は孤高の騎士団総長に甘やかされる

橋本彩里(Ayari)
恋愛
五歳で魔力なしと判定され魔力があって当たり前の貴族社会では恥ずかしいことだと蔑まれ、使用人のように扱われ物置部屋で生活をしていた伯爵家長女ミザリア。 十六歳になり、魔力なしの役立たずは出て行けと屋敷から追い出された。 途中騎士に助けられ、成り行きで王都騎士団寮、しかも総長のいる黒狼寮での家政婦として雇われることになった。 それぞれ訳ありの二人、総長とミザリアは周囲の助けもあってじわじわ距離が近づいていく。 命を狙われたり互いの事情やそれにまつわる事件が重なり、気づけば総長に過保護なほど甘やかされ溺愛され……。 孤高で寡黙な総長のまっすぐな甘やかしに溺れないようにとミザリアは今日も家政婦業に励みます! ※R15については暴力や血の出る表現が少々含まれますので保険としてつけています。

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました

山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。  でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。  そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。  長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。 脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、 「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」 「なりすましヒロインの娘」 と同じ世界です。 このお話は小説家になろうにも投稿しています

私、異世界で監禁されました!?

星宮歌
恋愛
ただただ、苦しかった。 暴力をふるわれ、いじめられる毎日。それでも過ぎていく日常。けれど、ある日、いじめっ子グループに突き飛ばされ、トラックに轢かれたことで全てが変わる。 『ここ、どこ?』 声にならない声、見たこともない豪奢な部屋。混乱する私にもたらされるのは、幸せか、不幸せか。 今、全ての歯車が動き出す。 片翼シリーズ第一弾の作品です。 続編は『わたくし、異世界で婚約破棄されました!?』ですので、そちらもどうぞ! 溺愛は結構後半です。 なろうでも公開してます。

処理中です...