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彼2
間男
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水曜日。
そろそろメッセージの一つくらい送るべきだろう。
今日か明日、食事にでも誘おうか。
陽介は仕事の予定をチェックするが、明日が10日ごとのシステムチェック日になっている。毎回の事なので、そう大した仕事でもないが、エラーが出て残業になる事が多い日だ。
今日も……どうなるか分からない。誘っておいて、やっぱり駄目だったというのは、初めての誘いでは避けたいところだ。
陽介は、深いため息を吐く。
ぐだぐだ悩まずに、挨拶の一つくらい送ってしまえばよかった。
週の半ばまで何もなければ、なんで今更挨拶だけのメッセージ?となるだろう。
次は週末。
また先週のような週末を過ごしたいと言っているようなものじゃないか?
悩みに悩んで、今日の仕事終わりに誘ってみようと決心した。
――というのに。
陽介の仕事が終わった時には、咲綾は帰ってしまった後だった。
当たり前だ。特に忙しくない時期、約束も無ければ無駄な残業などせずに帰る。
今から連絡して、彼女の家に行けないだろうか。
まだ、そこまで遅くない。
食事はとってしまったかもしれないが、顔を見るくらいなら……。
そう思ってスマホを持ち上げた時、ちょうどメッセージを受信して震えた。
『今週の金曜日、空いてますか?今度は私の家に、夕飯を食べに来てくれませんか?』
咲綾からだった。
陽介が一人悩んでいるうちに、彼女から連絡をくれた。
陽介はすぐに返信をする。
『楽しみにしてる』
駆け引きなどなく、今の気持ちを伝えればいい。あれからの、最初のメッセージが金曜日の誘いなんてとか、考えていたからずるずるとこんなことになっている。
別に、今日だって誘っても良かったはずだ。
トラブルが起きたらだめになるかもしれないけど、少しでも会いたいと伝えておけばよかった。
あーだこうだと格好つけようとするから。
陽介が自嘲していると、もう一度スマホが震える。
『お泊りもしてくれますか?』
文面を呼んで、少しだけ驚いた後、陽介は微笑む。
もしかしたら彼女も、陽介と同じような悩みを持っていたのかもしれない。
『喜んで』
金曜日。
会社を出て、自分の家に着替えなどを取りに帰る。
会社から家が近いのは便利だ。いつもと違う荷物を持って会社に行かずに済む。
咲綾からは、自宅の住所を聞いているので、直接向かう。
彼女の自宅は、駅で数駅先だった。
彼女の部屋の階まで上がってきて、連絡せずに来てはいけなかっただろうかと思う。食事の支度をしてくれるというので、その段取りもあるだろう。
今更遅いかなと思いながら、スマホを持ち上げる。
その時、視線の先でドアが開く。
「マジで味見だけだとか、信じらんねえ。ちょっとくらい、マジで食わせてくれたって良いのに」
若い男が、卑猥な内容を口にしながら出てきた。
どうやら、女の家に来て、すぐに追い返されているようだ。
あんなことを言いながら女の部屋から出てくる男と顔を合わせるのは気まずいなと思い、エレベーターの影の階段に向かう。
「無理よ。瀬戸さん来るかもだから、鉢合わせしないうちに帰ってよ」
その男性の声に応える声が、聞き慣れた声がして、陽介は振り向く。
「はいはい……っと」
帰りかけた男が、一瞬、首だけ玄関に突っ込む。
その光景に、陽介は目が離せなかった。
扉で遮られて、二人の様子は見えなかったが、あの体勢は。
「まあ、いっか。一応、ごちそうさま。またな」
見たものが信じられなくて、男が陽介に気がつく前に、すぐに階段に足をかける。
彼は、会社で咲綾と仲良くしていた男だ。
あのタイミングは、どう見たってキスをしていただろう。
味見だけって……何をしたんだ。
脳内で乱れる咲綾が浮かんでしまう。
マジで食うって……。
ぐっ、と知らず知らずのうちにこぶしを握り締めていた。
味見だとか、ごちそうさまだとか、見た目通りに軽薄な言動をする。
陽介と鉢合わせするのはまずいと言っていた。
このまま、この関係を保って行く気なのか。
遊びなのは、さっきの男か、陽介か。
じわじわと不安だった心が膨れ上がってくる。
昼休憩の時、あの男と一緒だった。
そう言えば、社内で一番仲の良い男じゃないだろうか。記憶があいまいだが、確か、同期か?
咲綾は、特にこの人と仲がいいという人はいないように見える。
どの人とも淡々と付き合っているイメージだ。
それが、あいつは違う。
だったら、なぜ陽介に声をかけてきたのか。
分からないことが多すぎて、嫌な想像ばかりが膨らんで、もう、止まらなくなっていた。
そろそろメッセージの一つくらい送るべきだろう。
今日か明日、食事にでも誘おうか。
陽介は仕事の予定をチェックするが、明日が10日ごとのシステムチェック日になっている。毎回の事なので、そう大した仕事でもないが、エラーが出て残業になる事が多い日だ。
今日も……どうなるか分からない。誘っておいて、やっぱり駄目だったというのは、初めての誘いでは避けたいところだ。
陽介は、深いため息を吐く。
ぐだぐだ悩まずに、挨拶の一つくらい送ってしまえばよかった。
週の半ばまで何もなければ、なんで今更挨拶だけのメッセージ?となるだろう。
次は週末。
また先週のような週末を過ごしたいと言っているようなものじゃないか?
悩みに悩んで、今日の仕事終わりに誘ってみようと決心した。
――というのに。
陽介の仕事が終わった時には、咲綾は帰ってしまった後だった。
当たり前だ。特に忙しくない時期、約束も無ければ無駄な残業などせずに帰る。
今から連絡して、彼女の家に行けないだろうか。
まだ、そこまで遅くない。
食事はとってしまったかもしれないが、顔を見るくらいなら……。
そう思ってスマホを持ち上げた時、ちょうどメッセージを受信して震えた。
『今週の金曜日、空いてますか?今度は私の家に、夕飯を食べに来てくれませんか?』
咲綾からだった。
陽介が一人悩んでいるうちに、彼女から連絡をくれた。
陽介はすぐに返信をする。
『楽しみにしてる』
駆け引きなどなく、今の気持ちを伝えればいい。あれからの、最初のメッセージが金曜日の誘いなんてとか、考えていたからずるずるとこんなことになっている。
別に、今日だって誘っても良かったはずだ。
トラブルが起きたらだめになるかもしれないけど、少しでも会いたいと伝えておけばよかった。
あーだこうだと格好つけようとするから。
陽介が自嘲していると、もう一度スマホが震える。
『お泊りもしてくれますか?』
文面を呼んで、少しだけ驚いた後、陽介は微笑む。
もしかしたら彼女も、陽介と同じような悩みを持っていたのかもしれない。
『喜んで』
金曜日。
会社を出て、自分の家に着替えなどを取りに帰る。
会社から家が近いのは便利だ。いつもと違う荷物を持って会社に行かずに済む。
咲綾からは、自宅の住所を聞いているので、直接向かう。
彼女の自宅は、駅で数駅先だった。
彼女の部屋の階まで上がってきて、連絡せずに来てはいけなかっただろうかと思う。食事の支度をしてくれるというので、その段取りもあるだろう。
今更遅いかなと思いながら、スマホを持ち上げる。
その時、視線の先でドアが開く。
「マジで味見だけだとか、信じらんねえ。ちょっとくらい、マジで食わせてくれたって良いのに」
若い男が、卑猥な内容を口にしながら出てきた。
どうやら、女の家に来て、すぐに追い返されているようだ。
あんなことを言いながら女の部屋から出てくる男と顔を合わせるのは気まずいなと思い、エレベーターの影の階段に向かう。
「無理よ。瀬戸さん来るかもだから、鉢合わせしないうちに帰ってよ」
その男性の声に応える声が、聞き慣れた声がして、陽介は振り向く。
「はいはい……っと」
帰りかけた男が、一瞬、首だけ玄関に突っ込む。
その光景に、陽介は目が離せなかった。
扉で遮られて、二人の様子は見えなかったが、あの体勢は。
「まあ、いっか。一応、ごちそうさま。またな」
見たものが信じられなくて、男が陽介に気がつく前に、すぐに階段に足をかける。
彼は、会社で咲綾と仲良くしていた男だ。
あのタイミングは、どう見たってキスをしていただろう。
味見だけって……何をしたんだ。
脳内で乱れる咲綾が浮かんでしまう。
マジで食うって……。
ぐっ、と知らず知らずのうちにこぶしを握り締めていた。
味見だとか、ごちそうさまだとか、見た目通りに軽薄な言動をする。
陽介と鉢合わせするのはまずいと言っていた。
このまま、この関係を保って行く気なのか。
遊びなのは、さっきの男か、陽介か。
じわじわと不安だった心が膨れ上がってくる。
昼休憩の時、あの男と一緒だった。
そう言えば、社内で一番仲の良い男じゃないだろうか。記憶があいまいだが、確か、同期か?
咲綾は、特にこの人と仲がいいという人はいないように見える。
どの人とも淡々と付き合っているイメージだ。
それが、あいつは違う。
だったら、なぜ陽介に声をかけてきたのか。
分からないことが多すぎて、嫌な想像ばかりが膨らんで、もう、止まらなくなっていた。
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