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彼女2
週明け
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なんと、陽介と付き合うことになった。
夢のような週末を彼の家で二人で過ごした。
陽介は甘く咲綾の名前を呼んで、何度もキスをする。
日曜日の夕方、家に帰るのが嫌になるほど幸せな時間だった。
だけど、家まで送り届けてくれた彼は、啄むようなキスを顔中に落として、耳元で囁くのだ。
「また明日な」
胸がキュウッと苦しくなって、声が出せない咲綾に陽介は微笑んで手を振って背を向けた。
――格好良すぎる。
もう、何あの人。
格好良すぎて、心臓が苦しくなりすぎて辛い。
しかも、金曜日からの三日間で、しっかりと開発もされてしまった。
抱きしめられるたび、キスされるたびに反応するようになって、その内耳元で囁かれただけで濡れるようになってしまった。
今や目の前に居なくても、思い出すだけでその気になる。
開発されたというより、咲綾がすっかり快楽に溺れたともいう。
だって、彼の大きな手が気持ち良すぎるのがいけない。厚い筋肉も、低い声も、何もかも、咲綾の快感を引き出していくのだ。
彼が歩くエロマシーンなのがいけない!
陽介が聞けば呆れた顔をしそうな結論に至って、咲綾は一人頷く。
こんなに出勤が楽しみだったことなど未だかつてない。
学生の時の修学旅行の朝だって、ここまでドキドキワクワクしていなかったような気がする。
会社に入ると、彼が立っていて、咲綾に微笑みかけるのだ。
――いや、待てよ?
駅にすでに待たれているかもしれない。
そして、驚く咲綾に目を細めて「よお」って軽く挨拶なんかしちゃってくれるのだ。
そうかもそうかも!と浮かれてみた。
電車から改札を抜けて道路に出るまで、キョロキョロしたが、いなかった。
やはり会社からか。
「…………」
どこにもいない。階段にもいないし、廊下にもいない。
咲綾は眉間にしわを寄せながら総務のフロアに入る。
ちらりと陽介の席に視線を走らせると……いた。
普通に居た。座っていつも通り仕事をしている。
甘々な妄想は、しゅるるんっとしぼんだ。
彼に何を期待しているのだと、自分に呆れてしまう。この週末で甘やかされ放題だったので、今日からもそうだと思っていた。
フロアに入ってきた咲綾に微笑むわけもなく、それどころか視線さえ向けてもらえない。
しまった。
わくわくしすぎた反動で泣きそうだ。
朝からこんなところで泣くわけにはいかない。咲綾は口内の内側をぎゅっと噛んで涙をのみ込んだ。
そもそも、陽介は無表情で無口な人だ。
この週末がおかしかったのだ。
好きだと言ってくれた言葉や、交際が始まるということまで無かったことになるのは浮かれていた分落ち込み具合がひどすぎるので、そこは大丈夫と信じよう。
陽介はこれが普通。
そう、クールな関係というやつだ。
咲綾は自分を無理矢理納得させて、デスクに向かった。
その日は、特に何もなかった。
何もないことが悲しすぎるのだが。
会話はもちろん、視線さえも合わなかった!
彼がデスクを離れることはほとんどない。主任なので、システム管理課の一番奥の席で、咲綾とはずいぶん離れている。偶然を装うことができない距離だ。
お昼、わざわざ陽介に近づいて一緒に食べたかった。しかし、臆病な自分が顔を出す。
頷いてくれなかったら、泣いてしまうかもしれない。
嫌がられたら?断られなくても、迷惑そうな顔をされて、仕方が無いって諦めて了解されるかもしれない。
そんな風に無理強いしたいわけじゃない。
金曜日まではお付き合いしてもらえることも期待していなかった。
ちょっと贅沢になりすぎてしまった。
反省しなければ。
とてもとても悲しくても。
次の日も、何もなかった。
視線は合ったような気はするが、すぐにそらされて、微笑んでくれることは無かった。
あまりに辛すぎて、耕哉を呼び出した。
「彼氏から飽きられたらどうしたらいいっ!?」
「……飽きるほど会ってないだろう?」
だったら嫌われたってことっ!?原因が全く分からない!
『原因が分からないことが問題なのです』と、母が父に言っていたような気もする。ああ、分からない!これって、問題すぎる!?
耕哉には陽介と上手くいったことは日曜日の夜に家に帰ってから話してある。
「マジでいったの!?」
と驚愕していたが、本気になればやる子なのだ。
そういう意味じゃないと彼は呆然としていたが、耕哉の考えることはよく分からなかったりするので、後回しだ。
「じゃあ、彼氏と話をするにはどうしたらいいの?」
「普通に話しかけろよ」
普通ができないから悩んでいるのに!
口を引き結んで泣きそうな咲綾を見て、耕哉はため息を吐く。
「話しかけるだけができなくて、なんでお誘いができたんだよ」
そんなものは気合いだ。
当たって砕けてもいいと思っていった。一度だけでも抱いてもらえるなら、ラッキーだ。
なのに、今は砕けたくない気持ちが大きくなりすぎて身動きできない。
彼に冷たい対応をとられたら、その場で泣く自信しかない。
夢のような週末を彼の家で二人で過ごした。
陽介は甘く咲綾の名前を呼んで、何度もキスをする。
日曜日の夕方、家に帰るのが嫌になるほど幸せな時間だった。
だけど、家まで送り届けてくれた彼は、啄むようなキスを顔中に落として、耳元で囁くのだ。
「また明日な」
胸がキュウッと苦しくなって、声が出せない咲綾に陽介は微笑んで手を振って背を向けた。
――格好良すぎる。
もう、何あの人。
格好良すぎて、心臓が苦しくなりすぎて辛い。
しかも、金曜日からの三日間で、しっかりと開発もされてしまった。
抱きしめられるたび、キスされるたびに反応するようになって、その内耳元で囁かれただけで濡れるようになってしまった。
今や目の前に居なくても、思い出すだけでその気になる。
開発されたというより、咲綾がすっかり快楽に溺れたともいう。
だって、彼の大きな手が気持ち良すぎるのがいけない。厚い筋肉も、低い声も、何もかも、咲綾の快感を引き出していくのだ。
彼が歩くエロマシーンなのがいけない!
陽介が聞けば呆れた顔をしそうな結論に至って、咲綾は一人頷く。
こんなに出勤が楽しみだったことなど未だかつてない。
学生の時の修学旅行の朝だって、ここまでドキドキワクワクしていなかったような気がする。
会社に入ると、彼が立っていて、咲綾に微笑みかけるのだ。
――いや、待てよ?
駅にすでに待たれているかもしれない。
そして、驚く咲綾に目を細めて「よお」って軽く挨拶なんかしちゃってくれるのだ。
そうかもそうかも!と浮かれてみた。
電車から改札を抜けて道路に出るまで、キョロキョロしたが、いなかった。
やはり会社からか。
「…………」
どこにもいない。階段にもいないし、廊下にもいない。
咲綾は眉間にしわを寄せながら総務のフロアに入る。
ちらりと陽介の席に視線を走らせると……いた。
普通に居た。座っていつも通り仕事をしている。
甘々な妄想は、しゅるるんっとしぼんだ。
彼に何を期待しているのだと、自分に呆れてしまう。この週末で甘やかされ放題だったので、今日からもそうだと思っていた。
フロアに入ってきた咲綾に微笑むわけもなく、それどころか視線さえ向けてもらえない。
しまった。
わくわくしすぎた反動で泣きそうだ。
朝からこんなところで泣くわけにはいかない。咲綾は口内の内側をぎゅっと噛んで涙をのみ込んだ。
そもそも、陽介は無表情で無口な人だ。
この週末がおかしかったのだ。
好きだと言ってくれた言葉や、交際が始まるということまで無かったことになるのは浮かれていた分落ち込み具合がひどすぎるので、そこは大丈夫と信じよう。
陽介はこれが普通。
そう、クールな関係というやつだ。
咲綾は自分を無理矢理納得させて、デスクに向かった。
その日は、特に何もなかった。
何もないことが悲しすぎるのだが。
会話はもちろん、視線さえも合わなかった!
彼がデスクを離れることはほとんどない。主任なので、システム管理課の一番奥の席で、咲綾とはずいぶん離れている。偶然を装うことができない距離だ。
お昼、わざわざ陽介に近づいて一緒に食べたかった。しかし、臆病な自分が顔を出す。
頷いてくれなかったら、泣いてしまうかもしれない。
嫌がられたら?断られなくても、迷惑そうな顔をされて、仕方が無いって諦めて了解されるかもしれない。
そんな風に無理強いしたいわけじゃない。
金曜日まではお付き合いしてもらえることも期待していなかった。
ちょっと贅沢になりすぎてしまった。
反省しなければ。
とてもとても悲しくても。
次の日も、何もなかった。
視線は合ったような気はするが、すぐにそらされて、微笑んでくれることは無かった。
あまりに辛すぎて、耕哉を呼び出した。
「彼氏から飽きられたらどうしたらいいっ!?」
「……飽きるほど会ってないだろう?」
だったら嫌われたってことっ!?原因が全く分からない!
『原因が分からないことが問題なのです』と、母が父に言っていたような気もする。ああ、分からない!これって、問題すぎる!?
耕哉には陽介と上手くいったことは日曜日の夜に家に帰ってから話してある。
「マジでいったの!?」
と驚愕していたが、本気になればやる子なのだ。
そういう意味じゃないと彼は呆然としていたが、耕哉の考えることはよく分からなかったりするので、後回しだ。
「じゃあ、彼氏と話をするにはどうしたらいいの?」
「普通に話しかけろよ」
普通ができないから悩んでいるのに!
口を引き結んで泣きそうな咲綾を見て、耕哉はため息を吐く。
「話しかけるだけができなくて、なんでお誘いができたんだよ」
そんなものは気合いだ。
当たって砕けてもいいと思っていった。一度だけでも抱いてもらえるなら、ラッキーだ。
なのに、今は砕けたくない気持ちが大きくなりすぎて身動きできない。
彼に冷たい対応をとられたら、その場で泣く自信しかない。
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