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彼女

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咲綾は、体の痛みで目を覚ました。

身体中が痛い。特に、人に見てもらうのは、少々憚られるあそこが。
カーテンの隙間から明るい日差しが差し込んできていて、時間は分からないがもう朝なのだと分かる。
少し視線をずらすと、咲綾を抱きしめて眠る陽介。
二人とも裸で手足をからめるようにして眠っていたようだ。彼の腕は少し重いが、素肌が気持ちいい。
彼の逞しい胸に頬を寄せて堪能する。
汗でしっとりした肌は、咲綾よりも体温が高くて、柔らかいのに固くて、大きくて広くて、とにかく素敵だ。
だけど、ずっとこうしているわけにはいかない。
喉が渇いた。
ものすごく声を出したと思う。
体の痛みはともかく、この喉の渇きではもう一度寝るのは無理だ。
残念だが、一度彼の腕の中から出ないといけない。
咲綾は痛む体を起こして、少しずつ彼の腕の中から抜け出そうと――
「どこに行く」
もう一度引き戻されてしまった。
それはもちろん構わない。むしろ、ごちそうさまでしたという感じだ。腕の中に力づくで戻されるなんて、ご褒美をもらったようなものだ。
「あ、みずを……」
声を出して、すぐに言葉を飲み込む。
今の、ものすごくしゃがれた声は好きな人に聞かれて良い声じゃない気がする。どんだけ喉を酷使したんだ。
「ああ……取ってくる。まだ転がってろ」
頷く咲綾をちらりと見て、陽介が素っ裸のまま部屋を出て行った。
ナチュラルな命令口調が素敵だ。ときめきすぎて胸がヤバい。
上半身だけ起こして部屋を見回す。
昨夜は薄暗くてよく見ていなかったが、機能性あふれる部屋だ。
つまり、飾りっ気が全くない。
パソコンと大きな座椅子、小さなテーブルがあってベッド。
深い青に統一されているように見えるけれど、それぞれ色合いが違って、メーカーは違うことが分かる。目についたものを買ったら、何か揃った。そんな感じだ。
咲綾はもう一度転がって、もう一人分横に移動する。
そこは、さっきまで陽介が寝ていた場所だ。
ほんのり温かくて、良い匂いがする。シーツをぎゅっと抱きしめたところで、陽介が戻ってきた。
咲綾を見て、ため息を吐く。
「……だから、匂いを嗅ぐな」
シーツを抱きしめていただけなのに。いや、嗅いでいたけど。
陽介は、ハーフパンツとTシャツを着ていた。明るくなった部屋の中で、自分だけ裸なのはさすがに少し恥ずかしい。
無言で水のペットボトルを渡されて、布団から腕だけ出して受け取る。

「…………」
「…………」

どうしよう。起き上がると、必然的に胸より上が出てしまう。シーツを胸で押さえていても、背中は丸見えだ。
起き上がる時には、こう、いろいろと見えそうにもなるだろうし。
咲綾の躊躇を感じ取ったのか、陽介はくくっと意地悪そうに笑う。
「今更照れてんのか」
今更感が満載なのは認めよう。誘ったのは咲綾だし。
しかし、この羞恥心と言うのはそういう理論など全く役に立たない奴なのだ。
彼は立ち上がってクローゼットを開ける。
中にはタンスなどによって綺麗に仕分けされている服が見える。
「ほら。これでも着てろ。昨日の服はまとめて洗濯機に入れるぞ」
彼が今着ているような服の上下を渡される。部屋着のスペアだろうか。
「下着はないが、数時間だ。我慢しろ」
咲綾の返事を期待せず、彼はそれ明け渡したら部屋から出て行く。
咲綾が恥ずかしがるのをからかいながらも、優先して一人にしてくれたことが嬉しい。どれだけ男前なんだろう。
起き上がって、貰った水を飲んでから服を持ちあげた。
「大きい……」
彼が来ていた分には普通サイズに見えたが、目の前で広げて見ると、ものすごく大きい。
Tシャツだけでワンピースのようになる。ハーフパンツも広げてみたが、これを履いたら、ウエストをずっと握っていないと落ちる。それは間抜けだ。
立ち上がって、Tシャツの丈を確認する。太腿の半分くらいまではある。下手なミニスカートよりも長い程度にはある。
折角出してもらったが、上だけで充分だ。
ハーフパンツを簡単にたたんで、咲綾も部屋から出た。

部屋から出た途端、コーヒーのいい香りがする。

くう、と小さな音が咲綾のお腹からなる。
夕飯を食べてないことに今更気が付いた。食べてない割に小さな音だったことに、自分で自分を褒めてあげる。

「シャワー使っていいぞ」

陽介がキッチンに立って作業をしながら言う。
咲綾がぱぱっと何か作って胃袋掴むという方法もあるのだろうが、掴めるほどの技量がない。今度がんばってみよう。

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