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Episode-15 シルバーウィーク
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9月は3連休が2回あります。3連休以外でも山荘に行く予定です。
西湖はエンジン付きのボートは禁止です。帆走か櫂走に限られます。
夏休みにカナディアンカヤックを体験したところ、娘が大喜び。山荘に行くと、必ず利用するようになりました。
湖はきれいで、カヤックは健康的な運動です。お弁当を持って、カヤックでピクニックに行くことが、最近の家族のブームです。
それ以外では、娘のお気に入りは四輪バギーで、飽きもせず山荘の周りをグルグル回ります。
私と夫は公道が走れるので、娘は「不公平、不平等、差別だ!」と騒ぎます。
土曜日の朝、夫よりも早く目覚めた私は、東の窓に立ち、朝日が差し込むのを待っていました。
林越しに太陽が見え始めた頃、夫が起きました。少し眠そうですが、私の背後に立ちます。夫の両手が動いたので、その手は私の腰にくるものだと感じていました。
でも、違いました。
夫の指は私の紐パンの紐の先端をつまみ、ゆっくりと引いたのです。
紐が解けて、私が少し足を広げると、ショーツが床に落ちます。
同時に、私はプログラミングされていたように、お尻を突き出します。
夫が入ってきました。
私は窓に両手を付き、朝日を浴び、窓に強く息を吹きかけながら、夫の鼓動に合わせて動きました。
朝の儀式が終わって、夫に「何だか、すごくよかった」と伝えると、夫は「それじゃ、新年の朝もこれだな」と。
「除夜の鐘もね」
「里穂は俺に、今日は何回させるの?」
「まだ3回は大丈夫でしょ」
「まぁ、頑張るよ」
私がショーツの紐を結んでいると、夫が手伝ってくれました。
「ねぇ、真白さんだけど……」
「姐御がどうした?」
「真白さんとは2人で会わないでほしい」
「何それ!」
夫が笑います。
「何か、気になるぅ~」
「姐御とは、何もない。あるわけない」
「わかんないじゃん。
もし、真白さんとするなら3人でしよ」
「イヤだ。
絶対にイヤだ。
あり得ない!」
夫は完全否定しましたが、ちょっと心配。
娘が四輪バギーで走り回っていた土曜日の夕方、夫が前後の脈絡なく告白。
2人は南側のウッドデッキで、娘のライディングを見ています。
「舞がいなければ、結婚はしなかった。
俺に家庭があるとは、あり得ないことだ。
ありがとうね、里穂」
私は、意味がわかりません。
「妊娠しなかったら、結婚はしなかったの?」
「いや、妊娠しても、結婚はしなかったと思う。里穂以外ならね。
俺には里穂が必要だった。でも、必要だからって理由では結婚はできない。
俺みたいな人間は、闇の中に生きるべきだ。
明るいところを歩いてはいけない」
私は困惑します。
「何を言っているのか、よくわかんないよ」
「いまでこそ、監視は緩んだが、当時はもっときつかった。
仕事はなく、金もない。人との接触は、その道のプロと行きずりの女だけ。
誰にも迷惑をかけずに生きるなら、それ以外の方法はなかった。
言葉を忘れるほどの長い沈黙。
耐えきれないほどの寂しさと、誰かと接したら敵ではないかと思う猜疑の心」
「……」
「里穂は、独りぼっちだと言った。1人で生きていると。そして、承認欲求の強さを感じた。
追い詰められていた俺と同じだった。
誰とも深くは関わらないと決めていたルールを破った。その代償が舞だ。里穂と舞がいなければ、俺はどこかの時点で里穂の前から姿を消していた。それが、里穂のためだから。
鬼畜から人間に戻るには、大きな動機が必要だった。
俺を救ってくれた里穂を、俺は見捨てたりしない。里穂を苦しめた以上、ヤツには代償を払ってもらう」
ヤツとは、社長のことでしょう。夫は怒っているのです。穏やかなのに怒っています。
「ヤツは承認欲求が強い里穂の心を利用し、もてあそび、自分のコントロール下に置こうとした。
許さない。絶対に」
何もかも動きはありません。ですが、水面下で何かが起きているように感じていました。私の単なるカンは、夫の背中を見ていて確信に変わりました。
私の会社には、男性社員が3人しかいません。その理由ですが、応募者は女性のほうが明らかに優秀だとか。
飛び抜けて優秀なエンジニアの1課長、それほど優秀ではないけど頑張り屋の那澤さん、出勤しても空気のような佐藤さん。
この佐藤さんは2課長によると、センサーに関しては優秀なエンジニアだとか。さらに、奥様がそこそこ有名な大人動画の女優さんだったとか。
前職では、会社の飲み会で上司がこのことを話題にして、からかったそうです。その上司を一撃でノックアウトしたとか。
暴力行為で事実上の解雇になり、私たちの会社に転職したんだそうです。
那澤さんと佐藤さんが会社の帰りに飲みに行って、那澤さんが「妻が不倫相手に抱かれている姿が頭に浮かぶんですよ。見ていないのに、何かリアルで……」と悩みを打ち明けると、佐藤さんは「俺はかみさんが出演した全作品を見ているぞ。俺は彼女のファンだからな。まさか結婚してもらえるとは思わなかった」と答えたそうです。
さらに、佐藤さんは「俺がショックだったのは、かみさんが10歳もサバ読んでいたこと。最初の作品が22歳でデビューとなっていたんだが、実際は32歳だった。熟女ものに興味のない俺としては、騙されたとリアルに感じた。パッケージ見て、涙が出たよ」と。
それ以降、那澤さんはフラッシュバックに悩まされることがなくなったとか。
本当かどうかは知りませんが……。
最初の3連休。金曜日の夜に出発、月曜日までお休みです。
今回は、日曜日以外はまったりする予定です。
土曜日はお昼頃まで寝ているつもり。朝寝坊って、最高の癒やしですよね。
夫は私よりも先に目覚めていました。枕を挟んで、私の首の下に夫の腕があったので、夫は私を起こさないように、まったく動きませんでした。
私は、不完全な覚醒と同時に夫に抱きつきます。夫も腕を背中に回してくれて、その腕に力を入れてくれます。
「元気になってない。
それって、私に魅力がないから?
寝起きブスだから?」
「里穂を見るたびに勃っていたら、死んじゃうよ」
「死んじゃえぇ」
私がキスをせがむと、夫は応じてくれます。
「元気じゃないけど、朝フェラする?」
「奥様のお好きなように」
夫の顔を悪戯っぽく眺めたあと、私は布団に潜り込み、下着を下げ、口に含みます。
夫は、すぐに元気になりました。
夫を口に入れたまま「気持ちいい?」と尋ね、夫が「すごく気持ちいい」と答えてくれます。
「このまま出す?」
「入れよっか?」
私は名残惜しそうに舐めてから、仰向けになります。夫が紐パンのサイドを解き、完全には脱がさず、足を広げさせ、前だけ落とします。
夫が入ってきました。
朝の覚醒しきれていない気怠さのある身体の中で、夫がゆっくりと動きます。キスして声を出し、声を出してキスする、を繰り返します。
夫の動きは、私の気怠さと同期するように全身に快感の波動を伝えます。
夫は、私を気持ちよくするセックスしかしません。私の状態を的確に分析し、最良の行為を選択してくれます。
この朝もそうでした。
特別なことは何もされていないのに、何度も背中を反らせ、何度も記憶が飛びます。
口を大きく開け、声が出ず、息を大きく吸ってから止め、一気に吐き出します。これを何度も繰り返し、失神しかけます。
夫が早くなります。
私の身体が完全に覚醒したからです。
俯せにされ、背後から入れます。
「味わって」
夫にそう言われて、私は「ずっと入れていて」と伝えます。
「それは無理」
「なら、舞が起きてくるまで。
出しちゃダメよ。終わっちゃうから」
「それじゃ辛いな」
「隙みて、出してあげるから大丈夫」
夫は上、私は下で少し上体を持ち上げ、互いに笑い合いました。
ゆるーく感じながら、夫を楽しんでいると、
ドアがドンドン。
「あー、いいとこなのに起きてきた。
本当にお邪魔虫だよねぇ~」
部屋着に着替えて、ダイニングに行くと、娘が冷蔵庫を覗いていました。
「起きないと思った」
娘は自分で朝食を作ろうとしていたようです。
「ちょっと待ってて。
朝ご飯作るから」
今日も何気ない日常が始まります。
花壇を作りながら、夫がポツリと。
「休みの日に何なんだけど……」
「何?」
「前の会社の在職期間中に自殺した人はいる?」
「社員が5000人以上いるから、何人かいると思う」
「印象に残った事件とか?」
「……、ないと思う」
「当人かもしれない」
「……、当人?」
「謎の3人目は、あの会社の内情をよく知っている。
仁科安寿さんのような存在は、アルカディア設立以前からあったようだ。
通常は、身元保証人に困るような身寄りのない新卒の女性が選ばれていた。亭主持ち、彼氏持ちは避けていた。
孤独な人が対象にされていた。入社後、新卒社員の中から選ばれるのではなく、応募者の中から該当者を探していた。
つまり、会社は組織的に動いていた。
専門の部署があり、仁科さんが所属していた部署がそうなんだが、会社の組織変更に合わせて、その担当部署名は頻繁に変わったらしい。
現在、この部署は関連会社に移った。
謎の3人目は、それを見失ったようだ」
「どういうこと?」
夫の移植ゴテが動きを止めました。
「もしかすると、3人目は仁科さん以前の被害者本人かもしれない」
「……」
「アルカディアが作られた時期ははっきりしないが、5年以上前だろう。
仁科さんのような存在は、会社設立から数年後にはいたらしい。
3人目は狭間社長ではなく、その部署の元締めを狙っている」
「その人から聞いたの?」
「いいや、非接触的方法しかやりとりできない。こちらの正体を知られることを避けつつ、向こうの正体を知る方法はない。
そして、正体を知る必要はない」
「どうして?」
「相当な手練れで、過去がない。つまり、犯罪か犯罪的行為がまったくないんだ。
この点が、俺や善波とは違う。
3人目を追跡することは不可能だ。
そして、俺たちの敵じゃない。敵の敵は味方だ」
私は不安でした。
「私たち、危険なの?」
夫が立ち上がり、腰を伸ばします。
私も立ち上がります。
「危険なのは、狭間だよ。
3人目にイケメン野郎のお友達をことごとく潰され、善波に無一文にされ、俺が米軍のドローンでも乗っ取って自宅にミサイルをぶち込めば、政権にどれだけ食い込んでいようと見捨てられるよ。
3連発フルコンボって感じかな」
私から社長への恐怖心が完全に消えた瞬間でした。
娘が「パパ、ガソリンがないみたい!」と叫んで、四輪バギーを止めました。
太陽が沈んでから、奈々さんから電話がありました。
「狭間の代理人だけど、辞任したって……」
「えっ!
その弁護士から、狭間と子供の面会を要求されていたんでしょ」
「そうなんだけど……。
子供はイヤがっているし、私も怖いし、でも面会権があるのは事実だし……。
彼に相談したら、任せろって……。
でも、電話だけでもしておこうと思って電話したら、当職は辞任しました、で終わり」
「でもよかったじゃない」
「うん」
電話を切り、夫にそのことを話しました。
「おい、また弁護士が辞任したのかよ、いい加減にしろよ」
本気で怒ったてから、ニタッて笑ったんです。
「善波のヤツ、クレジットやキャッシュカードのピンでも変えたんじゃないの。
その弁護士の。
で、ビビって手を引いた、そんなところだろうね」
「ピンって」
「暗証番号のこと」
「……、そんなことできるの?」
「善波ならね」
「奈々さんには、強力なボディガードがいるってこと?」
「ある意味、世界最強だろうね。
前のかみさんとは死別だから、女性との交際は諦めていたみたいなんだ。恋愛に積極的なタイプじゃないし、警察に目を付けられているからね。
部屋には前妻の位牌があるわけで、墓もある。死別は離別よりも条件が悪いから、子供と2人で平穏に暮らしていければいい、って言ってたよ。
だけど、年上で、清楚で、訳ありの3条件が揃った奈々さんが現れたから、気が変わったんだろう」
そのとき、ニュースサイトに号外が流れます。
「太平洋上を南下していたロシアの軍艦から、対艦ミサイルが発射されて、葉山の住宅に命中、だって」
「それはたいへんだ。
戦争にならなければいいけど。
その家の持ち主は、ロシアに修理代を請求するのかな?
爆発はしなかったはずだから、屋根に穴が空いた程度だろう。
でも、訓練用模擬弾でも、ミサイルが命中したら、それなりにビビるだろうね。
イケメンで、爽やかで、金を持っていてもね」
「……」
「真琴の件は、まだ誰が命じたのか、わかっていないからね。釘は刺しておかないと。バカでかい釘をね」
「……」
「2コンボは偶然だ」
私は数秒間息が止まりました。
私も世界最強のボディガードに守られているみたいです。
私は夫に「もし、あの家に誰かいて、怪我とかしたら……」と問うてみました。
「いまの俺は鬼畜だ。
そんなことは考慮しない。一応、無人だとは確認したが、リアルタイムで監視していたわけじゃない。
誰かいたかもしれないね。
だけど、俺はそんなことは気にしない」
私は絶句しました。
「この件は、長引かせたくない。
俺を鬼畜から人間に戻せるのは、里穂だけだ。俺には里穂が必要だ」
社長の代理人弁護士がまた変わりました。
夫は、また最初からやり直しです。
その最初の打ち合わせが、真白さんの事務所で行われ、私も同席しました。
「依頼人と奥様の不貞行為に関してですが、依頼人は十分な慰謝料、真摯な謝罪をさせていただきたいとのことです」
夫が溜息。
「またですか。
慰謝料と謝罪は不要です。
事実確認をしたいだけなので……」
今度の弁護士も比較的若い男性です。抑え込んでやろうという、挑戦的な雰囲気があります。
「その事実確認とは、何分何秒に何をやったとか、そんなことですか?」
「その通りです」
「意味ないでしょう。
慰謝料と謝罪を受けて、示談されたらどうですか?」
真白さんが夫の意向をフォローします。
「狭間さんもたいへんでしょう。
葉山の別荘にロシアの軍艦からミサイルを撃ち込まれたり、離婚担当の代理人が突然辞任したり、災難続きですね。
早く終わらせたいなら、事実確認に同意するしかありませんよ。
私の依頼人が意味があると判断しているんですから、狭間さんにはどうすることもできないんですよ」
「依頼人は解決を望んでいます」
夫は落ち着いています。
「私も1日も早く解決したいんです」
「ならば、示談に応じていただけませんか?」
「ですから、事実確認をしたいと言っている」
「損害賠償と謝罪では不足なんですか?」
「ですから、何度もお伝えしているわけですよ。
謝罪は不要だし、慰謝料もいらないとね」
「なぜ、事実確認が必要なんですか?
不貞については認めているのに」
「妻と離婚するかしないかを判断するためです」
「再構築を決めたんじゃないんですか?」
「いいえ」
「……、毎週のようにご家族で旅行されていますよね」
「さすがに常時監視しているだけあって、詳しいですね」
「……」
「私の娘が襲われましてね」
「……」
「実行犯に指示をした主犯がまだ捕まっていないんですよ」
「……」
「私が思い当たるのは、代理人さんの依頼人だけなんですけどね」
「……」
「私は、そう考えています」
「私の依頼人はビジネスマンであって、暴力行為、まして誘拐などあり得ません」
真白さんが微笑みます。
「どなたもお怪我がなくて何よりでしたね。
ミサイルが爆発しなかったので、たいした被害はないようだし。あれは艦対艦ミサイルだから、爆発すればあの程度の建物は完全に吹き飛んでいましたね。
あっ、私は元自衛官なんで、そういうことには詳しいんですよ」
「……。
奥様から新藤さんを説得していただけませんか?」
私は俯いたまま囁きました。
「申し訳ありません。
私は夫と行動を共にします。社長にはそう伝えてください。それと、私たち家族に危害を加えるなら、戦うと」
「危害?
奥様もですか?
何か勘違いしていませんか?」
真白さんが溜息をつき、夫が笑います。
「代理人さん、まったく理解していないようですね」
「……」
夫が代理人をにらみます。
「伝書鳩に用はない。
これ以上の時間の無駄は、忍耐の限度を超えますね。
今日はここまでにしましょう。
次は、事実確認に応じるという連絡を期待します」
その後の夫と真白さんの話です。
「ロシアのミサイルは、新藤の仕業?」
「そんな物騒なことはしない。
実際、ロシアはヒューマンエラーによる誤射だと発表している」
「そう説明するしかないよね。
誰かに操作されて、発射されました、とは口が裂けても言えないし……。
ロシア政府は特使を派遣して、日本に謝罪するそうだし……。
で、ユニセフへの寄付は?
ユニセフは狭間社長に対して、感謝の意を発表したけど、社長も会社も沈黙したまま。
金の出所は疑われているし、あの会社もさんざんな目に遭っている。
離婚担当弁護士のほうは、クレジットとキャッシュカードが突然使えなくなったと驚いていた。
まぁ、口座の残高がなくなったわけじゃないけど、かなり怖がっていたね。
それと、レイプ部長と課長を追い詰めたのも……」
「俺じゃない」
「本当?」
「部長と課長によるレイプ動画の被害者はたぶん、仁科安寿さんではない。
違うと思う。
課長が管理していた動画や画像を詳細に調べたんだが、被害者は5人だと思う。
フォルダは被害者別で分けられておらず、たぶん年代別に分類していたんじゃないかと思う。
最長期間の被害者は4年、最短は半年。この4年間の被害者が、動画の女性だと思う。
あの公開された動画の女性は顔が完全に消されていたけど、体格から仁科安寿さんではない。
最長期間の被害者である可能性が高い。
それと、クラウドのデータは消したが、その前に漁られたのかもしれない。
つまり、俺が預かっているデータ以外にもコピーがあるんだ」
「被害者の名前はわかる?」
「いや、クラウドには一切の文字情報がなかった。ファイル名はデジカメやデジカムが自動的に付与したものだ。
被害者の名前を類推させるものは何もない」
「被害者に共通する特徴とかはあるの?」
「一時期、同時に2人が被害に遭っていた。2人が同時に映っている動画と画像があった。
1人は20歳代前半から30歳代前半、もう1人は30歳代後半から40歳代後半。
推測だが、1人は20歳代前半、もう1人は40歳代だ」
私は沈黙が苦痛でした。
「顔を見たら、誰だかわかるかも」
夫が賛成します。
「確かに、里穂ならわかる可能性があるね」
真白さんが少し困った顔をしています。
「調べてどうするの?」
「部長と課長を追い詰めた動画の中の被害者は、たぶんアップロードをした本人じゃないかと思う。
自分以外の被害者の動画は最初から使うつもりはなかった。自分が映っている動画がほしかったんじゃないかな。
調べて見つけ出しておかないと、こちらに火の粉が降りかかる可能性がある。
もらい火事は困る。
何とかしないと」
真白さんが身を乗り出す。
「私は表側をどうにかしていく。
新藤がすることには関わらない。
新藤がすることは止めない」
夫が頷きます。
「わかった」
私が夫に付いていった理由ですが、もちろん浮気防止のためです。
後半の3連休は、金曜日、土曜日、日曜日です。マンションに帰る日曜日以外は、アクティブに遊ぶ予定です。
土曜日の夜、娘が就寝の時間になり、私たちも2人の部屋に入りました。
私はゆったりとした部屋着を着ていました。
夫が部屋に入ると同時にロックし、それはいつものことなので、気にしませんでした。
私は一応メールを確認しようと自分のノートパソコンに向かいます。
ノートパソコンのスリーブを解除しようと、エンターキーを押した瞬間、夫がショーツごと部屋着のボトムスを引きずり落としたんです。
「キャ!」
「気にせずメールチェックして」
一瞬ビックリしたものの、平常心は残っており、画面に目を向けると、夫が入ってきたのです。
「何~、どうしちゃったぁ~」
私はメールチェックしながら、夫にされています。返信文をタイプしながら、声を出します。
「あ!
ダメ。ちょっと待って」
夫は待ってくれません。
胸も蹂躙されています。
結局、絨毯の上に押し倒され、私は無抵抗で攻め続けられました。正常位でされ、バックでもされ、騎乗位は許されず、フェラは求められず、身体の隅々まで舐められました。
私に許されたことは、キスに応じることだけ。それ以外は完全な受け身。
愛されているのではなく、支配を受け入れているような感覚に陥ります。
でも、確実に愛されていることは伝わるんです。夫の指先、舌先、私の体内にある夫に愛があるんです。
夫が射精する瞬間、夫が私から出ました。
それが、何となく寂しかったんです。
2人で絨毯に仰向けになり、並んで寝ています。
「私、ピル、使ってみようかな」
「え!」
「最後の最後に外に出されるの悲しいし、いつでもしたいし……」
「う~ん」
「反対?」
「薬を飲むのは、なるべく避けたほうがいい」
「結構保守的だよね」
「里穂のこと考えているんだよ」
「わかっているけど、もっと感じたいじゃない」
「試してもいいけど、身体に合わなかったらやめるんだよ」
「わかった」
私がパジャマ代わりのTシャツを着るために、部屋着を脱ぐと、夫が乳首に吸い付いてきました。
「もう1回するの?」
「うん」
「ホント、私の胸好きだよね」
「大好き」
私はまだ、夫が謎の3人目と接触に成功したことを知りませんでした。
西湖はエンジン付きのボートは禁止です。帆走か櫂走に限られます。
夏休みにカナディアンカヤックを体験したところ、娘が大喜び。山荘に行くと、必ず利用するようになりました。
湖はきれいで、カヤックは健康的な運動です。お弁当を持って、カヤックでピクニックに行くことが、最近の家族のブームです。
それ以外では、娘のお気に入りは四輪バギーで、飽きもせず山荘の周りをグルグル回ります。
私と夫は公道が走れるので、娘は「不公平、不平等、差別だ!」と騒ぎます。
土曜日の朝、夫よりも早く目覚めた私は、東の窓に立ち、朝日が差し込むのを待っていました。
林越しに太陽が見え始めた頃、夫が起きました。少し眠そうですが、私の背後に立ちます。夫の両手が動いたので、その手は私の腰にくるものだと感じていました。
でも、違いました。
夫の指は私の紐パンの紐の先端をつまみ、ゆっくりと引いたのです。
紐が解けて、私が少し足を広げると、ショーツが床に落ちます。
同時に、私はプログラミングされていたように、お尻を突き出します。
夫が入ってきました。
私は窓に両手を付き、朝日を浴び、窓に強く息を吹きかけながら、夫の鼓動に合わせて動きました。
朝の儀式が終わって、夫に「何だか、すごくよかった」と伝えると、夫は「それじゃ、新年の朝もこれだな」と。
「除夜の鐘もね」
「里穂は俺に、今日は何回させるの?」
「まだ3回は大丈夫でしょ」
「まぁ、頑張るよ」
私がショーツの紐を結んでいると、夫が手伝ってくれました。
「ねぇ、真白さんだけど……」
「姐御がどうした?」
「真白さんとは2人で会わないでほしい」
「何それ!」
夫が笑います。
「何か、気になるぅ~」
「姐御とは、何もない。あるわけない」
「わかんないじゃん。
もし、真白さんとするなら3人でしよ」
「イヤだ。
絶対にイヤだ。
あり得ない!」
夫は完全否定しましたが、ちょっと心配。
娘が四輪バギーで走り回っていた土曜日の夕方、夫が前後の脈絡なく告白。
2人は南側のウッドデッキで、娘のライディングを見ています。
「舞がいなければ、結婚はしなかった。
俺に家庭があるとは、あり得ないことだ。
ありがとうね、里穂」
私は、意味がわかりません。
「妊娠しなかったら、結婚はしなかったの?」
「いや、妊娠しても、結婚はしなかったと思う。里穂以外ならね。
俺には里穂が必要だった。でも、必要だからって理由では結婚はできない。
俺みたいな人間は、闇の中に生きるべきだ。
明るいところを歩いてはいけない」
私は困惑します。
「何を言っているのか、よくわかんないよ」
「いまでこそ、監視は緩んだが、当時はもっときつかった。
仕事はなく、金もない。人との接触は、その道のプロと行きずりの女だけ。
誰にも迷惑をかけずに生きるなら、それ以外の方法はなかった。
言葉を忘れるほどの長い沈黙。
耐えきれないほどの寂しさと、誰かと接したら敵ではないかと思う猜疑の心」
「……」
「里穂は、独りぼっちだと言った。1人で生きていると。そして、承認欲求の強さを感じた。
追い詰められていた俺と同じだった。
誰とも深くは関わらないと決めていたルールを破った。その代償が舞だ。里穂と舞がいなければ、俺はどこかの時点で里穂の前から姿を消していた。それが、里穂のためだから。
鬼畜から人間に戻るには、大きな動機が必要だった。
俺を救ってくれた里穂を、俺は見捨てたりしない。里穂を苦しめた以上、ヤツには代償を払ってもらう」
ヤツとは、社長のことでしょう。夫は怒っているのです。穏やかなのに怒っています。
「ヤツは承認欲求が強い里穂の心を利用し、もてあそび、自分のコントロール下に置こうとした。
許さない。絶対に」
何もかも動きはありません。ですが、水面下で何かが起きているように感じていました。私の単なるカンは、夫の背中を見ていて確信に変わりました。
私の会社には、男性社員が3人しかいません。その理由ですが、応募者は女性のほうが明らかに優秀だとか。
飛び抜けて優秀なエンジニアの1課長、それほど優秀ではないけど頑張り屋の那澤さん、出勤しても空気のような佐藤さん。
この佐藤さんは2課長によると、センサーに関しては優秀なエンジニアだとか。さらに、奥様がそこそこ有名な大人動画の女優さんだったとか。
前職では、会社の飲み会で上司がこのことを話題にして、からかったそうです。その上司を一撃でノックアウトしたとか。
暴力行為で事実上の解雇になり、私たちの会社に転職したんだそうです。
那澤さんと佐藤さんが会社の帰りに飲みに行って、那澤さんが「妻が不倫相手に抱かれている姿が頭に浮かぶんですよ。見ていないのに、何かリアルで……」と悩みを打ち明けると、佐藤さんは「俺はかみさんが出演した全作品を見ているぞ。俺は彼女のファンだからな。まさか結婚してもらえるとは思わなかった」と答えたそうです。
さらに、佐藤さんは「俺がショックだったのは、かみさんが10歳もサバ読んでいたこと。最初の作品が22歳でデビューとなっていたんだが、実際は32歳だった。熟女ものに興味のない俺としては、騙されたとリアルに感じた。パッケージ見て、涙が出たよ」と。
それ以降、那澤さんはフラッシュバックに悩まされることがなくなったとか。
本当かどうかは知りませんが……。
最初の3連休。金曜日の夜に出発、月曜日までお休みです。
今回は、日曜日以外はまったりする予定です。
土曜日はお昼頃まで寝ているつもり。朝寝坊って、最高の癒やしですよね。
夫は私よりも先に目覚めていました。枕を挟んで、私の首の下に夫の腕があったので、夫は私を起こさないように、まったく動きませんでした。
私は、不完全な覚醒と同時に夫に抱きつきます。夫も腕を背中に回してくれて、その腕に力を入れてくれます。
「元気になってない。
それって、私に魅力がないから?
寝起きブスだから?」
「里穂を見るたびに勃っていたら、死んじゃうよ」
「死んじゃえぇ」
私がキスをせがむと、夫は応じてくれます。
「元気じゃないけど、朝フェラする?」
「奥様のお好きなように」
夫の顔を悪戯っぽく眺めたあと、私は布団に潜り込み、下着を下げ、口に含みます。
夫は、すぐに元気になりました。
夫を口に入れたまま「気持ちいい?」と尋ね、夫が「すごく気持ちいい」と答えてくれます。
「このまま出す?」
「入れよっか?」
私は名残惜しそうに舐めてから、仰向けになります。夫が紐パンのサイドを解き、完全には脱がさず、足を広げさせ、前だけ落とします。
夫が入ってきました。
朝の覚醒しきれていない気怠さのある身体の中で、夫がゆっくりと動きます。キスして声を出し、声を出してキスする、を繰り返します。
夫の動きは、私の気怠さと同期するように全身に快感の波動を伝えます。
夫は、私を気持ちよくするセックスしかしません。私の状態を的確に分析し、最良の行為を選択してくれます。
この朝もそうでした。
特別なことは何もされていないのに、何度も背中を反らせ、何度も記憶が飛びます。
口を大きく開け、声が出ず、息を大きく吸ってから止め、一気に吐き出します。これを何度も繰り返し、失神しかけます。
夫が早くなります。
私の身体が完全に覚醒したからです。
俯せにされ、背後から入れます。
「味わって」
夫にそう言われて、私は「ずっと入れていて」と伝えます。
「それは無理」
「なら、舞が起きてくるまで。
出しちゃダメよ。終わっちゃうから」
「それじゃ辛いな」
「隙みて、出してあげるから大丈夫」
夫は上、私は下で少し上体を持ち上げ、互いに笑い合いました。
ゆるーく感じながら、夫を楽しんでいると、
ドアがドンドン。
「あー、いいとこなのに起きてきた。
本当にお邪魔虫だよねぇ~」
部屋着に着替えて、ダイニングに行くと、娘が冷蔵庫を覗いていました。
「起きないと思った」
娘は自分で朝食を作ろうとしていたようです。
「ちょっと待ってて。
朝ご飯作るから」
今日も何気ない日常が始まります。
花壇を作りながら、夫がポツリと。
「休みの日に何なんだけど……」
「何?」
「前の会社の在職期間中に自殺した人はいる?」
「社員が5000人以上いるから、何人かいると思う」
「印象に残った事件とか?」
「……、ないと思う」
「当人かもしれない」
「……、当人?」
「謎の3人目は、あの会社の内情をよく知っている。
仁科安寿さんのような存在は、アルカディア設立以前からあったようだ。
通常は、身元保証人に困るような身寄りのない新卒の女性が選ばれていた。亭主持ち、彼氏持ちは避けていた。
孤独な人が対象にされていた。入社後、新卒社員の中から選ばれるのではなく、応募者の中から該当者を探していた。
つまり、会社は組織的に動いていた。
専門の部署があり、仁科さんが所属していた部署がそうなんだが、会社の組織変更に合わせて、その担当部署名は頻繁に変わったらしい。
現在、この部署は関連会社に移った。
謎の3人目は、それを見失ったようだ」
「どういうこと?」
夫の移植ゴテが動きを止めました。
「もしかすると、3人目は仁科さん以前の被害者本人かもしれない」
「……」
「アルカディアが作られた時期ははっきりしないが、5年以上前だろう。
仁科さんのような存在は、会社設立から数年後にはいたらしい。
3人目は狭間社長ではなく、その部署の元締めを狙っている」
「その人から聞いたの?」
「いいや、非接触的方法しかやりとりできない。こちらの正体を知られることを避けつつ、向こうの正体を知る方法はない。
そして、正体を知る必要はない」
「どうして?」
「相当な手練れで、過去がない。つまり、犯罪か犯罪的行為がまったくないんだ。
この点が、俺や善波とは違う。
3人目を追跡することは不可能だ。
そして、俺たちの敵じゃない。敵の敵は味方だ」
私は不安でした。
「私たち、危険なの?」
夫が立ち上がり、腰を伸ばします。
私も立ち上がります。
「危険なのは、狭間だよ。
3人目にイケメン野郎のお友達をことごとく潰され、善波に無一文にされ、俺が米軍のドローンでも乗っ取って自宅にミサイルをぶち込めば、政権にどれだけ食い込んでいようと見捨てられるよ。
3連発フルコンボって感じかな」
私から社長への恐怖心が完全に消えた瞬間でした。
娘が「パパ、ガソリンがないみたい!」と叫んで、四輪バギーを止めました。
太陽が沈んでから、奈々さんから電話がありました。
「狭間の代理人だけど、辞任したって……」
「えっ!
その弁護士から、狭間と子供の面会を要求されていたんでしょ」
「そうなんだけど……。
子供はイヤがっているし、私も怖いし、でも面会権があるのは事実だし……。
彼に相談したら、任せろって……。
でも、電話だけでもしておこうと思って電話したら、当職は辞任しました、で終わり」
「でもよかったじゃない」
「うん」
電話を切り、夫にそのことを話しました。
「おい、また弁護士が辞任したのかよ、いい加減にしろよ」
本気で怒ったてから、ニタッて笑ったんです。
「善波のヤツ、クレジットやキャッシュカードのピンでも変えたんじゃないの。
その弁護士の。
で、ビビって手を引いた、そんなところだろうね」
「ピンって」
「暗証番号のこと」
「……、そんなことできるの?」
「善波ならね」
「奈々さんには、強力なボディガードがいるってこと?」
「ある意味、世界最強だろうね。
前のかみさんとは死別だから、女性との交際は諦めていたみたいなんだ。恋愛に積極的なタイプじゃないし、警察に目を付けられているからね。
部屋には前妻の位牌があるわけで、墓もある。死別は離別よりも条件が悪いから、子供と2人で平穏に暮らしていければいい、って言ってたよ。
だけど、年上で、清楚で、訳ありの3条件が揃った奈々さんが現れたから、気が変わったんだろう」
そのとき、ニュースサイトに号外が流れます。
「太平洋上を南下していたロシアの軍艦から、対艦ミサイルが発射されて、葉山の住宅に命中、だって」
「それはたいへんだ。
戦争にならなければいいけど。
その家の持ち主は、ロシアに修理代を請求するのかな?
爆発はしなかったはずだから、屋根に穴が空いた程度だろう。
でも、訓練用模擬弾でも、ミサイルが命中したら、それなりにビビるだろうね。
イケメンで、爽やかで、金を持っていてもね」
「……」
「真琴の件は、まだ誰が命じたのか、わかっていないからね。釘は刺しておかないと。バカでかい釘をね」
「……」
「2コンボは偶然だ」
私は数秒間息が止まりました。
私も世界最強のボディガードに守られているみたいです。
私は夫に「もし、あの家に誰かいて、怪我とかしたら……」と問うてみました。
「いまの俺は鬼畜だ。
そんなことは考慮しない。一応、無人だとは確認したが、リアルタイムで監視していたわけじゃない。
誰かいたかもしれないね。
だけど、俺はそんなことは気にしない」
私は絶句しました。
「この件は、長引かせたくない。
俺を鬼畜から人間に戻せるのは、里穂だけだ。俺には里穂が必要だ」
社長の代理人弁護士がまた変わりました。
夫は、また最初からやり直しです。
その最初の打ち合わせが、真白さんの事務所で行われ、私も同席しました。
「依頼人と奥様の不貞行為に関してですが、依頼人は十分な慰謝料、真摯な謝罪をさせていただきたいとのことです」
夫が溜息。
「またですか。
慰謝料と謝罪は不要です。
事実確認をしたいだけなので……」
今度の弁護士も比較的若い男性です。抑え込んでやろうという、挑戦的な雰囲気があります。
「その事実確認とは、何分何秒に何をやったとか、そんなことですか?」
「その通りです」
「意味ないでしょう。
慰謝料と謝罪を受けて、示談されたらどうですか?」
真白さんが夫の意向をフォローします。
「狭間さんもたいへんでしょう。
葉山の別荘にロシアの軍艦からミサイルを撃ち込まれたり、離婚担当の代理人が突然辞任したり、災難続きですね。
早く終わらせたいなら、事実確認に同意するしかありませんよ。
私の依頼人が意味があると判断しているんですから、狭間さんにはどうすることもできないんですよ」
「依頼人は解決を望んでいます」
夫は落ち着いています。
「私も1日も早く解決したいんです」
「ならば、示談に応じていただけませんか?」
「ですから、事実確認をしたいと言っている」
「損害賠償と謝罪では不足なんですか?」
「ですから、何度もお伝えしているわけですよ。
謝罪は不要だし、慰謝料もいらないとね」
「なぜ、事実確認が必要なんですか?
不貞については認めているのに」
「妻と離婚するかしないかを判断するためです」
「再構築を決めたんじゃないんですか?」
「いいえ」
「……、毎週のようにご家族で旅行されていますよね」
「さすがに常時監視しているだけあって、詳しいですね」
「……」
「私の娘が襲われましてね」
「……」
「実行犯に指示をした主犯がまだ捕まっていないんですよ」
「……」
「私が思い当たるのは、代理人さんの依頼人だけなんですけどね」
「……」
「私は、そう考えています」
「私の依頼人はビジネスマンであって、暴力行為、まして誘拐などあり得ません」
真白さんが微笑みます。
「どなたもお怪我がなくて何よりでしたね。
ミサイルが爆発しなかったので、たいした被害はないようだし。あれは艦対艦ミサイルだから、爆発すればあの程度の建物は完全に吹き飛んでいましたね。
あっ、私は元自衛官なんで、そういうことには詳しいんですよ」
「……。
奥様から新藤さんを説得していただけませんか?」
私は俯いたまま囁きました。
「申し訳ありません。
私は夫と行動を共にします。社長にはそう伝えてください。それと、私たち家族に危害を加えるなら、戦うと」
「危害?
奥様もですか?
何か勘違いしていませんか?」
真白さんが溜息をつき、夫が笑います。
「代理人さん、まったく理解していないようですね」
「……」
夫が代理人をにらみます。
「伝書鳩に用はない。
これ以上の時間の無駄は、忍耐の限度を超えますね。
今日はここまでにしましょう。
次は、事実確認に応じるという連絡を期待します」
その後の夫と真白さんの話です。
「ロシアのミサイルは、新藤の仕業?」
「そんな物騒なことはしない。
実際、ロシアはヒューマンエラーによる誤射だと発表している」
「そう説明するしかないよね。
誰かに操作されて、発射されました、とは口が裂けても言えないし……。
ロシア政府は特使を派遣して、日本に謝罪するそうだし……。
で、ユニセフへの寄付は?
ユニセフは狭間社長に対して、感謝の意を発表したけど、社長も会社も沈黙したまま。
金の出所は疑われているし、あの会社もさんざんな目に遭っている。
離婚担当弁護士のほうは、クレジットとキャッシュカードが突然使えなくなったと驚いていた。
まぁ、口座の残高がなくなったわけじゃないけど、かなり怖がっていたね。
それと、レイプ部長と課長を追い詰めたのも……」
「俺じゃない」
「本当?」
「部長と課長によるレイプ動画の被害者はたぶん、仁科安寿さんではない。
違うと思う。
課長が管理していた動画や画像を詳細に調べたんだが、被害者は5人だと思う。
フォルダは被害者別で分けられておらず、たぶん年代別に分類していたんじゃないかと思う。
最長期間の被害者は4年、最短は半年。この4年間の被害者が、動画の女性だと思う。
あの公開された動画の女性は顔が完全に消されていたけど、体格から仁科安寿さんではない。
最長期間の被害者である可能性が高い。
それと、クラウドのデータは消したが、その前に漁られたのかもしれない。
つまり、俺が預かっているデータ以外にもコピーがあるんだ」
「被害者の名前はわかる?」
「いや、クラウドには一切の文字情報がなかった。ファイル名はデジカメやデジカムが自動的に付与したものだ。
被害者の名前を類推させるものは何もない」
「被害者に共通する特徴とかはあるの?」
「一時期、同時に2人が被害に遭っていた。2人が同時に映っている動画と画像があった。
1人は20歳代前半から30歳代前半、もう1人は30歳代後半から40歳代後半。
推測だが、1人は20歳代前半、もう1人は40歳代だ」
私は沈黙が苦痛でした。
「顔を見たら、誰だかわかるかも」
夫が賛成します。
「確かに、里穂ならわかる可能性があるね」
真白さんが少し困った顔をしています。
「調べてどうするの?」
「部長と課長を追い詰めた動画の中の被害者は、たぶんアップロードをした本人じゃないかと思う。
自分以外の被害者の動画は最初から使うつもりはなかった。自分が映っている動画がほしかったんじゃないかな。
調べて見つけ出しておかないと、こちらに火の粉が降りかかる可能性がある。
もらい火事は困る。
何とかしないと」
真白さんが身を乗り出す。
「私は表側をどうにかしていく。
新藤がすることには関わらない。
新藤がすることは止めない」
夫が頷きます。
「わかった」
私が夫に付いていった理由ですが、もちろん浮気防止のためです。
後半の3連休は、金曜日、土曜日、日曜日です。マンションに帰る日曜日以外は、アクティブに遊ぶ予定です。
土曜日の夜、娘が就寝の時間になり、私たちも2人の部屋に入りました。
私はゆったりとした部屋着を着ていました。
夫が部屋に入ると同時にロックし、それはいつものことなので、気にしませんでした。
私は一応メールを確認しようと自分のノートパソコンに向かいます。
ノートパソコンのスリーブを解除しようと、エンターキーを押した瞬間、夫がショーツごと部屋着のボトムスを引きずり落としたんです。
「キャ!」
「気にせずメールチェックして」
一瞬ビックリしたものの、平常心は残っており、画面に目を向けると、夫が入ってきたのです。
「何~、どうしちゃったぁ~」
私はメールチェックしながら、夫にされています。返信文をタイプしながら、声を出します。
「あ!
ダメ。ちょっと待って」
夫は待ってくれません。
胸も蹂躙されています。
結局、絨毯の上に押し倒され、私は無抵抗で攻め続けられました。正常位でされ、バックでもされ、騎乗位は許されず、フェラは求められず、身体の隅々まで舐められました。
私に許されたことは、キスに応じることだけ。それ以外は完全な受け身。
愛されているのではなく、支配を受け入れているような感覚に陥ります。
でも、確実に愛されていることは伝わるんです。夫の指先、舌先、私の体内にある夫に愛があるんです。
夫が射精する瞬間、夫が私から出ました。
それが、何となく寂しかったんです。
2人で絨毯に仰向けになり、並んで寝ています。
「私、ピル、使ってみようかな」
「え!」
「最後の最後に外に出されるの悲しいし、いつでもしたいし……」
「う~ん」
「反対?」
「薬を飲むのは、なるべく避けたほうがいい」
「結構保守的だよね」
「里穂のこと考えているんだよ」
「わかっているけど、もっと感じたいじゃない」
「試してもいいけど、身体に合わなかったらやめるんだよ」
「わかった」
私がパジャマ代わりのTシャツを着るために、部屋着を脱ぐと、夫が乳首に吸い付いてきました。
「もう1回するの?」
「うん」
「ホント、私の胸好きだよね」
「大好き」
私はまだ、夫が謎の3人目と接触に成功したことを知りませんでした。
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