里穂の不倫

半道海豚

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Episode10 新しい代理人

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 3月になると、私の不倫をめぐる夫と前職の社長との対立は、新たな段階に移行します。
 社長が新しい代理人弁護士を選任したのです。

 この弁護士もアポイントを取らずに、夫の会社にやって来ました。
 アポイントを取れば、夫が逃げると思っているようです。過去の代理人も同じでした。
 社内には、私と2課長がいました。ほかの社員は在宅勤務か、外出中です。
 最初に弁護士と応対した2課長が「どこか、行ってようか?」と私に尋ねたので、私は不安なあまり「いて、お願い」と頼みました。
 私の不倫話なんて聞きたくないだろうけど、怖かったんです。
 2課長はヘッドセットを付け、私にも促します。会議室の音声を聞くためです。

 弁護士は「狭間翔一さんの代理人となりました」と。
 このとき、名刺を出したようです。
 夫が「どうぞ」と着座を求め、続けて「社員が少ないので、お茶も出せず申し訳ありません」といういつもの台詞を言います。
 お茶なんか飲む時間はないぞ、という意味なんです。
「狭間社長から、和解の条件を預かっています。
 口頭での謝罪、文書での謝罪、謝罪を示す賠償金、いわゆる慰謝料です」
「いままでの代理人さんにも申し上げましたが、私は謝罪や慰謝料は求めていません」
「では何を?」
「これも毎度のことですが、事実確認をお願いしています」
「事実を確認して、どうされるのですか?」
「何も、それだけです」
「それでは解決にはなりません」
「解決するつもりはありません」
「ではどうされるのですか?」
「どうもしません」
「どうもしないとは?」
「言葉の通りです」
「社長は、解決を望んでいます」
「私は望んでいません」
「奥様とは再構築に向かっていると聞いています」
「私は、離婚する、しないの結論を出していません」
「結論されるのはいつですか?」
「社長からの事実確認後です」
「その事実確認ですが、御社で希望と伺っています」
「そうです」
「しかし、この会議室では、声が外部に漏れます。プライバシーが保てません」
「ではどうしろと?」
「社長の会社の来客用会議室はどうでしょうか?」
「検討するので、時間をください」
「あなたの代理人とよく相談してください」
「代理人はいません」
「……。
 脇坂真白弁護士ではないのですか?」
「彼女は、狭間奈々さんと新藤里穂の代理人です。
 私は依頼していません」
 これは、相当に意外だったようです。
「それは困りましたね。
 ここまで複雑な問題になってしまうと、法律家の手助けがないと……」
「複雑?
 単純ですよ。
 妻の不倫相手に当人の行為に関する事実を確認するだけですからね」
「……。
 お願いがあります。法律家の代理人を選任してください。
 一歩間違うと不法行為になりますよ」
「事実を確認するだけで、不法になる?
 奇妙ですね。
 でも、その提案を受け入れます。
 法律家の代理人を探しますので、少し時間をください」

 私は、社長の代理人弁護士が夫が主張する事実確認に対して、不倫を開始した時期、場所、回数などだと高を括っているように感じました。
 夫は、そんな甘い人ではありません。

 夫の代理人に真白さんが受任してくださり、私にメールがありました。
「受任したのは、新藤に違法な行為をさせないため。その兆候があったら腕ずくで止めるから安心して」
 このとき、私は違法とは脅迫とかだと思っていました。

 第1回目の事実確認は、私はリアルタイムには聞いていません。ですが、その日のうちに夫から自宅で音声データを聞かされています。

「こちらにおかけください」
 受付の派遣さんの声でしょう。夫と真白さんが会議室に入って行きました。
 真白さんがICレコーダーに時間と場所を記録します。
「メーティス本社411会議室に20XX年3月15日13時入室」
 411会議室は、4階の11号会議室で、建物の中心付近にあり、窓がなく、広くもなく、かつ貧相です。
 重要な来客を通すような部屋ではありません。夫に対する社長の底意がわかります。

 会議室の外から、社長の爽やかで朗らかな声と笑い声が聞こえてきます。
 その声はドアが開くと大きくなり、入室後も数秒続きました。
「お待たせしてすみません。
 狭間翔一です」
「新藤健昭です。
 彼女は私の代理人で、脇坂真白弁護士です。
 それでは、早速、狭間社長と私の妻である新藤里穂との不貞に関する事実確認をお願いします」
 お茶を持ってきた派遣さんが不貞と聞いて慌てたらしく、ドアを開けかけてやめたようです。
 夫が「すぐに終わる。お茶はいい」と派遣さんに言います。派遣さんは夫に気圧されて、ドアをバタンと音を立てて閉めます。
「古い時期からの確認をします。
 1回目は突発的な不貞行為であり、妻の記憶が曖昧で確認できていません。ですので、2回目からになります。
 20XX年2月6日、15時42分22秒に貴社社屋から時間距離にして30分の場所にある擬装ラブホテルであるノーブルの12階1206号室に入室していますね。
 入室直後の15時42分32秒に新藤里穂は『夫に知られたら離婚されます。このようなことはやめませんか』と発言、狭間翔一さんは15時42分42秒に『きみの夫には知られないよ。私たちの関係はね。仮に知られたとしても、安心してほしい。私がきみを守るから』と発言。15時42分52秒に新藤里穂と31秒間にわたって接吻をし、15時43分21秒から新藤里穂の衣服を脱がせ始めましたね。
 間違いありませんか?」
 夫の声は大きくて、会議室内で反響し、確実に室外に漏れています。
 しかも建物の中心付近ですから、隣接する5つの会議室には丸聞こえでしょう。
 社長と代理人弁護士は、完全に沈黙。覚えているはずはないだろうし、そもそも秒単位で行動を把握されているなんて、思ってもいなかったでしょう。
 声を発したのは代理人弁護士でした。
「この確認を……」
「最後の不貞行為である、20XX年6月20日までの計17回について行います」
 これも建物を振るわせるような張りのある声です。
 代理人弁護士が焦ったようです。
「申し訳ありませんが、依頼人と相談するので、再度の面会ということにしていただけませんか?」
「承知しました。
 私は事実を確認したいだけです。
 初回を除く、残り17回の不貞行為について、どのような言動と行為を行ったかよく思い出してください。
 私は、狭間社長の全言動、全行為を把握しています。
 極めて事細かく。
 次の話し合いの目処が付いたら、連絡をお願いします」
 退席するのであろう、音が聞こえます。
 会議室のドアが開きます。
「それでは狭間社長、私の妻、新藤里穂との不貞行為についてよく思い出してください。
 決して、逃げないように」
 最後のほうは、夫の声は笑っていました。
 しばらくして、「たくさんの社員に聞かれたみたいだな。13時か、商談客の多い時間でもあるな」と真白さんと話していました。

 社長は夫の作戦に引っかかったんです。
 私の不貞は社内では知られています。隠しようがありません。だから、いいんです。仕方ありません。
 でも、……。
 夫のやり方には不満があります。
 でも、……。夫の敵にはなりたくありません。私は夫の味方です。

 会話の録音は続いています。
「姐御、次の面会はいつかな」
「あるわけないだろ。
 私はホッとしたよ。あのイケメン爽やかバカ男を新藤が殺るのかと思っていたから……」
「不倫ごときで、人は殺さないよ。
 ありゃ、ただのバカだね。
 生かす価値も、殺す価値もない」

 最後の会話は、迫真があって、恐ろしかったです。

 私と奈々さんが、真白さんの事務所に呼ばれたのは、夫の大暴れから4日後でした。
「向こうの代理人なんだけど、里穂さんが社長との行為を録音していると思っている。
 行為あたり100万で買い取ると言ってきた。
 そんなものはない、と答えたが、信じている様子はない」 
 私にも報告がありました。
「知らない固定電話からの着信があって、出てみると狭間社長でした。
 私を裏切ったな、って言われました」
 奈々さんは懸念を伝えます。
「彼の独占欲と性欲は異常です。それと、被害妄想もひどいんです。プライドの高さは、月まで届くほど……。
 私もこのままだとは思っていません。必ず、仕返しをしてくるんじゃないかって……。
 それで、……。
 私はたまたま里穂さんと夫とのことを知ったけど、里穂さん以外にもいた可能性が高いかなって。
 私は下の子を妊娠して以降、彼とはそういうことがなかったんです。
 とすれば、ほかにもいたんじゃないかって……」
 私は奈々さんとは違う見方をしました。
「社長の行動は分単位で管理されているから、ほかは難しいんじゃないかな。
 実際、簡単じゃないから。
 社長には男性の秘書が常に一緒だから、帰宅時に寄り道もできないはず。彼は、鞄持ちとか運転手なんて呼ばれていたけど、生真面目で秘密を抱えられるようなタイプじゃない。
 社内でするくらいしか、ないけど。まさかね。社長室で何て、考えられないし……。
 だけど……。奈々さんの疑問は当然と思うけど……」
 真白さんは、違う考えをしました。
「その鞄持ちくんは?
 両刀使いの可能性は?」
 奈々さんが「バイセクシャルですか?」と問い、真白さんが頷きました。
 奈々さんは「可能性はあるんじゃないかな。征服できれば、男でも女でも何でもいいのかも」と。
 真白さんがため息をつきます。
「新藤には伝えてあるけど、新しい代理人弁護士はかなり厄介な相手だと思う。
 実はちょっと調べたんだ。噂だけど、実質的に興信所に雇われているらしい。
 興信所の専属顧問弁護士といった感じかな。
 その興信所だけど、別れさせ屋が本業みたい。
 つまり、別れたい一方が、別れたくない一方をどうにかするんだね。
 知り合いのそのまた知り合いの弁護士に相談があったらしいんだけど、あるお嬢さんがクルマに連れ込まれて、強姦された。
 その様子を撮影して、浮気していることにされて彼氏と別れさせられた。彼氏と彼女は相思相愛で結婚を約束していた。だけど、彼氏の母親が反対だった。興信所に頼んで、彼女の粗探しを始めた。
 その過程で、興信所が別れさせ屋になったようなんだ。彼女を襲ったのは別れさせ屋だったらしい。
 両親からの相談だったが、彼女本人は忘れたがっていた。
 で、結局は藪の中。
 今回は2人が同時にターゲットになっているかもしれない。
 2人とも取り返す気なんじゃないかな。
 あのイケメン爽やかバカ野郎は」
 私は夫が心配でした。それが顔に出ていたのでしょう。真白さんが感情のない笑顔をしたんです。
「新藤は大丈夫だよ。
 むしろ興信所兼別れさせ屋のほうが心配なくらいだ」

 私には前職の社内の様子を伝えてくれる、現職社員が数人います。
 娘との夕食を終え、夫が帰ってくるまでのちょっと暇な時間に、総務部の係長から電話をもらいました。
 私がありきたりの挨拶をしたあと「主人が騒ぎを起こしたみたいで、ごめんなさい」と謝罪すると、彼女は「それも大問題だけど、別件も出てきたの。秘書課の誰かが社内妻らしいんだ。その社内妻探しで、盛り上がっている。
 社長、次の取締役会で解任されるかもしれないって、噂になっている。でも、筆頭株主だから無理じゃないかな」
「何があったの?」
「社長室に通じる隠し部屋があった」
「え!、何それ」
「ひどい水漏れがあって、調べていたら、水道屋さんが隠し部屋発見。
 窓がなくて、ラブホみたいだたって噂」
「何?
 よくわかんないんだけど」
「社内に社長専用ヤリ部屋があったわけ」
「ウッソ~」
「嘘じゃないよ。
 社内では、その部屋でヤラれていた社員捜しで、盛り上がっちゃっている。
 奥様と新藤さんの件までは、社長を信じる派がいたけど、もう無理だね」
「水漏れって?」
「ジャグジーの水が勢いよく出っぱなしで、浴室から流れ出ちゃっていた。
 履歴書を書けるうちに、職探ししなきゃ。ダンナからは会社に行くなって言われてるし」
「履歴書を書ける?」
「ジャーナリストとかライターとか、複数から総務に取材の申し込みがあったの。
 こんなことが知られたら、勤めていたなんて言えなくなるよ」

 私は、腰が抜けそうでした。

 夫が帰ってきました。
 何て言おうかなぁ。

 私がモジモジしていると、夫から「話は聞くよ」と言ってくれました。
「どう話せばだけど……。
 本社屋の社長室付近から、秘密の部屋が見つかったんだって」
「金塊でもあったか、その手の話は税逃れの隠し金がらみだからな」
 さすがの夫も想定外みたいです。
「ラブホのような部屋」
「ヤリ部屋か?」
 私が頷くと、夫がフォークを止めて、私の顔をジッと見ました。
「そんな部屋入ってない!」
「それは無条件に信じる」
「なぜ?」
「そんな部屋でヤラれるほど、里穂はバカじゃない」
「社内妻だって」
「正真正銘、本物のバカだったんだな。
 あの男」

 翌日は出勤日で、会議室でお弁当を食べながら奈々さんと秘密のヤリ部屋のことを2課長に話したら、関係者でない2課長が笑い転げて「面白すぎる」を連呼してました。
 予測が当たってしまった奈々さんは、「子供に何て言えばいいの? モラハラの上に淫乱だったなんて」と、動揺しています。
 2課長は「お子さん2人は自分のクローンだと思えばいいよ。男がいなくても、子供は産めるよ。それが女」と。
 彼女の強烈な個性が光る助言では、誰も癒やされません。

 夫は狭間社長に対して、当然ですがよい感情を持っていません。ですが、だからといって、見下したりはしません。
「あの男の武器は金だ。
 あの男がいくらつぎ込むかで、あの男の怖さが変わってくる」
 でも、同時に「この件に関しては、あの男の武器は金しかない」と。
「厄介なことは、金があれば何でもできることだ。
 何をしでかすか、わからない」

 その通りです。

 だけど、それなのに社長を刺激する夫の真意がわかりません。
 私が社長に戻ることはありません。それは、確実です。でも、夫は信じてくれないようです。
 なぜ、信じてくれないのか、今夜話し合います。

 娘が寝ました。
 夫と話します。私の部屋に夫を呼びました。
 私はベッドに腰掛け、夫は私のデスクチェアに座ります。
「話って?」
「なぜ、信じてくれないの?
 私が裏切ったから?」
「裏切った?
 俺を?
 きみは俺をいつ裏切った?」
「不倫した」
「あぁ、あれね。
 裏切ったなんて思っていないよ。
 当初、里穂は主体的に考え行動していた。
 俺や舞に負担をかけたこともない。
 裏切りじゃない。
 遊んだだけだ」
「許してくれているの?」
「最初から怒っていない」
「……、
 でも離婚するって!」
「離婚するか否かは、舞に関係がある。舞に危害が及ぶ場合、里穂を切り捨てるしかなくなる」
「どういうこと?」
「狭間翔一は、ある種の変質者だ。
 企業経営者なんて、まともな人間はいない。正常な感性じゃ、やってられないからね。
 狭間翔一の特徴は、異常に高いプライドと強すぎる独占欲だ。
 狭間は里穂を手放さない。里穂の意志には関係ないんだ。里穂だって、舞を押さえられたら言うことを聞かざるを得ない。
 俺を潰し、舞を里穂から切り離せば、狭間の勝ちだ。
 俺は最初、狭間を単なるイケメン起業家だと考えていた。実際そうだろうが、内在する異常性に気付いてからは、そうは思っていない。
 邪悪な男だ」
「舞を掠うとか……」
「いいや、違法な行為を公然とはしない。
 そこが問題なんだ。
 合法的に里穂を拘束するつもりだ。
 おそらく、舞を使う。
 それしか、里穂を縛る方法がない。
 そして、舞は10年もしたら狭間の女にされる。
 俺は、それを止める」
「掠わないなら……」
「それがわからない。
 だから、警戒している。
 いま怖いのは、狭間でも代理人弁護士でもない。興信所と呼ばれている組織だ。
 こいつらは、合法・非合法のギリギリの線を狙ってくる。あるいは、闇サイトや裏サイトの住民を使うかもしれない。
 厄介だ」
「怖いよ」
「里穂の火遊びに、俺は介入しないよ。
 里穂の手に余るから、俺が出張ったんだ」
「ごめんなさい」
「愛してるよ。
 里穂を失うつもりはない」
「私も、あなたが好き。
 でも、そんな怖い人たちとどうやって戦うの?」

 3月は第3週が3連休。すべての週末で、山荘に行くことになりました。
 私たち家族のことを調べているという興信所の調査員が、娘の同級生宅を回っています。
 娘が夫の子ではないとか、私が前職で横領したとか、私たち家族の偽りの情報をそれとなく流しています。
 娘はまだ耐えていますが、限界に近付いています。不登校になるでしょう。
 私たちは、ジリジリと追い詰められています。

 真白さんは「新藤に任せておけばいい。この状態は長く続かない」と親身になってくれません。

 3月になってすぐ、真琴さんが帰宅途中に、黒のワンボックスワゴンに連れ込まれそうになりました。
 犯人は3人、真琴さんに捕まりかけた犯人の1人はガードレールの縁に顔面を強打し、重傷だそうです。
 真琴さんはナンバーを覚えており、残りの犯人も捕まりました。
 犯人はワンボックスのスライドドアを開けて、歩道を歩く真琴さんを車内に引きずり込もうとしたそうですが、真琴さんの腕をつかんだ男が、逆に車外の引きずり出されて、勝手に慌てて自分で転んで顔をガードレールに打ち付けたんだそうです。

 何だか、信じられません。
 この事件は裏サイト誘拐強姦未遂事件と呼ばれて、ネットで騒ぎになりました。
 犯人3人は裏サイトで知り合い、当日まで面識がなかったとか。
 主犯格が誰かから100万円を受け取り、成功報酬も100万円だったとか。
 ニュースでは真琴さんのお母様である真白さんが、「真の犯人はわかっています。その人物の所在と名前は警察に伝えてあります」と語っていました。
 間違いなく、狭間社長の名前を言ったのでしょう。

 夫が帰ってきました。真っ青な顔をしています。
「真琴が襲われるとは、思わなかった」
 実の娘が誘拐されかけるなんて、父親として我慢できないでしょう。
 でも、夫の怒りが伝わってきません。でも、怯えてもいません。
 なぜか、静かなんです。
「真琴が押さえた犯人だが、眉間の骨が砕けて、ガードレールが眼球を破裂させた。
 完全に失明する。
 重傷なんてレベルじゃない。『ちょっと足かけたら勝手に転んだんだよ』と言っていたが、本当かどうかわかったもんじゃない」
「……」
「真琴は怖かったはずだ。
 日本じゃ、人は殺せないからな。
 過剰防衛と判断されて、刑務所行きだ。
 それと、真琴に人を殺せるか、疑問だ」
「……」
 私は夫が何を言っているのか、理解できませんでした。

 夫は、舞と真琴さんを山荘にかくまう決断をしました。私もそのほうがいいと思います。
 私が一緒にいて、夫の子2人を守ります。

 真琴さんは、舞と同じ部屋で寝起きすることになりました。仕事は自分のマシンを夫のデスクに置いて、通常通りの在宅勤務をしています。
 内心は、恐怖で押し潰されそうなのではないかと……。
 舞は不登校生徒のためのWebを使った通信教育を受けています。

 真白さんが外国特派員協会で記者会見し、真琴さんの事件について「ある興信所が調査と称して、脇坂真琴の実父家族を誹謗中傷している件と、脇坂真琴の誘拐未遂事件は関係があります。
 私たちは、ある起業家がこれら事件の背後にいるものと推察しています」と言い切りました。
 その起業家の正体は、マスコミは突き止めています。ですが、証拠がありません。
 当然、名前は出ません。

 真白さんの思いきった記者会見での発言は、社長側の動きを止める効果があったようです。
 私たち家族は、ようやく平穏な生活に戻ることができました。
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