里穂の不倫

半道海豚

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Episode9 家族を団結させた大雪

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 雪は一晩降り続け、翌朝も勢いが弱まらず、15時頃になってようやく小降りになりました。日没少し前には晴れました。
 ですが、買い物に行けません!
 道路までだって、雪が深くて、歩いて行けないんです。道路に出ても、膝まである雪ではクルマはもちろん、歩くことさえできません。
 ニュースでは、中央道で数百台もの立ち往生を報じています。
 娘が「あの人たち、トイレどうするの~」と質問しましたが、私にもわかりません。
 娘には「パパがいなかったら、私たちも立ち往生だったね」と言いました。
 すると、「だから、お礼にチューしたの?」と。
 お礼なら、もっとすごいことをしてあげました。でも、「そうかな」と曖昧に答えておきました。

 クルマのタイヤがほぼ埋まっており、雪を何とかしないとどうにもなりません。
 道路は除雪してくれるでしょうけど、道路までの通路は私たち家族が確保しなければなりません。
 雪があまり積もらない地域なので、除雪車の数が少ないらしく、我が家の前がいつ除雪されるのかわかりません。
 でも、クルマを掘り出さないといけないし、クルマと道路までの通路もラッセルしないとなりません。
 除雪用のプラスチック製スコップは1つしかなく、穴を掘るためのスコップがあるだけ。
 少ない道具で、何とかしないと……。
 それと、冷蔵庫はほぼ空。持ってきた食材は、当日夜のための1食分のみ。保存食として、乾麺類や缶詰は少しですがあります。不運にも、お米が1食分しかありません。

 道路を2台のスノーモビルが走っていきます。
 娘が夫に「あれいいね!」と。
 家の周りはそんな状態で、お隣にだって行けません。きっと、遭難しちゃいます。
 雪は湿っていて、とても重いです。吹き溜まりに落ちた娘は胸まで埋まってしまいました。
 夫が1時間半かけて、道路までの通路をどうにか作りました。
 でも、道幅は人が通れる程度。クルマは無理です。

 夜になると娘が恐怖からか「また降ったらどうするの?」と尋ね始めます。
 夫が「もう降らないから大丈夫だよ」と言いますが、娘は不安なようです。
 それでも、雪かきで疲れたのか2階の自室で眠りました。

 私は夫とお風呂に入り、お布団を掛け2人でベッドに横になっています。

 始める前段の儀式のように、雪のことや雪の上の動物の足跡など、たわいのない会話を楽しんでいます。
 いつもスウェットで寝る夫ですが、今夜はパジャマを着せました。
 私は淡いブルーのパジャマの上だけ、シンプルな黒のショーツを着けています。
 お米はもうありません。そして、買い物には行けません。どうすればいいかを夫に尋ねたところで、夫にも答えはないでしょう。
 夫に優しくお尻を触られていても、私は不安でした。
 それでも、少しずついい雰囲気になっていきます。
 いよいよかなぁ~、とのタイミングで、ドアがドンドン。
 娘が起きてきたんです。
 夫が飛び起き、私のベッドから出ようとしたので、私が「いいよ、このままで」と制します。夫は枕にドンと頭を降ろします。
 私がベッドから出ると、パジャマの下を投げてよこしました。
 私はパジャマの下を受け取り、それをデスクチェアに掛けます。
 そしてドアを少しだけ開けます。
「どうしたの?」
「やっぱり怖いよ。
 1人じゃ寝られないよ」
 娘を私たちの部屋に入れます。
 娘は夫が私のベッドに寝ていてビックリ。しかも、私はパジャマを上しか着ていません。予想外だったのでしょう、娘が若干動揺します。
 パパのベッドで寝ていいよ。
 ママはパパと寝るから。
 娘が不審顔。それでも、夫のベッドに潜り込みます。
 私は電気を消して、自分のベッドに入りました。
「パパのベッド、冷たいよ」
「すぐに暖かくなるから、大丈夫」
 娘の質問と、私の答えはズレています。そんなこと承知です。
 私は娘が近くで寝ているのに、夫にピッタリくっついて寝ました。夫は緊張からか、硬直していました。それでも、お尻の触り方はいつも通りでした。

 朝、3人一緒に起きると、夫が顔を洗っているスキに、娘が「ママ、パパにパンツ見せて恥ずかしくないの」とパジャマの上だけ着てキッチンのシンクに寄りかかり、両手でマグカップを抱えてコーヒーを飲むに私に聞きました。
「どうして?
 全然恥ずかしくないよ」
「そうなんだ。ヘンなの」

 薪ストーブの残り火でダイニングは冷え切っておらず、またガラス越しの外光で部屋が暖まるのです。
 でも、朝食が不安です。
 お米とパンがないのです。

 夫が「何、食べたい」と朝食のメニューを尋ねます。
 娘が「焼きそば!」と叫びました。
 私が「朝から、焼きそばなの?」と異論を唱えると、娘が「いいじゃん」と言いました。
 2人とも焼きそば麺はもちろん、お肉がないことも知っていたから、無理な注文だと理解しています。
 夫は「焼きそばかぁ~」と一言。
 床下収納を開け、パスタを一袋出します。次にキッチンの吊り戸棚を開けて「あった」と。
「野菜は何があるかな」と言いながら、冷蔵庫を開け、私が鍋に使おうとクーラーボックスに入れて持ってきたキャベツ半分ともやしを取り出します。
 続いてニンジン。ニンジンは安かったから、買ってきただけでした。

 夫は、もやしを洗い、キャベツをざく切りにして、ニンジンはピーラーでざっくりと薄切りに。

 お肉の代わりはランチョンミート。
 味付けはお醤油で。

 娘に言われる前に「おいしい!」と叫びます。娘も「うん、おいしい!」って。

 今日も雪かきです。
 たいへんな重労働です。

 お昼は、ポテトのドリア風?
 ソースはレトルトのスパゲッティミートソース。材料は、ポテト、ミートソース、スライスチーズだけ。
 ポテトの皮を剥かずに薄く切り、ミートソースをかけて、その上にチーズを置き、オーブンで焼いただけ。

 私が「十分においしいけど、エビとかシーフードを使うともっとおいしいかも」と提案。
 娘が「ママ、帰ったら作って」とおねだりされました。
 3人で頑張って、クルマを掘り出し、道路までのルートを開きました。
 道路の除雪は夕方でした。除雪車が通ったあと、家の前に道路脇に沿った小高い雪の山脈ができてしまいます。
 凍る前にまたまたラッセルしました。

 買い物に行けるようにはなりましたが、クタクタで、そんな気になれず、夕食も夫にお願いしました。

 娘は夕食を食べると、疲れていたのでしょう、すぐに寝てしまいました。
 私と夫もいつもよりも早く2人の部屋に移り、寝る前に、2人で今日3回目のお風呂を楽しみました。
 30分以上入っていました。

 絨毯の上に胡座で座り、夫と向き合って私はウイスキー、夫はお水を飲んでいます。ウーロン茶がないんです。
 私が夫に尋ねます。
「ソープとか、行ったことあるでしょ。
 どんなお店が好き」
「行かないよ。
 仮に行きたくても時間がない」
「だから、聞いてるの。
 私がしてあげようかな、って」
「セクキャバ……、かな」
 私は立ち上がり、パジャマの下を履いていないお尻を夫に向け、パソコンを操作します。
「それは会社の機械だから、そういうことに使ってはダメだよ」
「少しだけ、黙認して」
 エッチな動画をすぐに見つけました。
「え~、こんなことするの~。
 できるかなぁ~」
 すぐにブラウザの履歴を消去し、ブラウザを閉じます。

 おバカな夫はもうやってもらう気でいます。
「今日はできないよぉ~。
 準備しないと」
 私はそうかわして、夫とさらに飲み続けます。

 私は夫を誘惑しながら、飲み過ぎました。ほぼ泥酔状態。だから、夫は私をベッドに寝かせ、布団を掛けて抱き合い、子供をあやすように背中をさすります。
「どうして、そんなに優しいのぉ~」と夫の胸を拳で打ちながら、私はなぜか大泣きしました。

 3連休最後の日、帰路は中央道を避けて、御殿場から東名高速に至るルートに変更しました。
 この3連休にしたことは雪かきだけでしたが、家族の絆は強まったと思います。
 私は、娘に夫と仲がいいことを見せることが怖くなくなりました。
 夫はそんな私の変化に戸惑っています。
 いい気味です。

 2月の第4週は水曜日が祝日です。社長である夫は、有給休暇の消化を奨励するため、月火または木金のどちらかを必ず休むように指示しました。
 夫は、どちらも出勤します。
 重ならないように、2課長は月火、1課長は木金がお休みです。
 2課長のお子様は2人とも小学生なのですが、学校を休ませてサイパンに旅行に行くとか。
 2課長は「成田まで50キロしかないし、ルートにもよるけど最短1時間くらいで行けるから、国内よりも海外旅行のほうが手っ取り早いんだよ」と。
 私が「学校、休ませちゃうんですか?」と尋ねると、彼女は「子供と一緒に旅行に行ける時期なんて、あっという間に終わっちゃうよ。ならば、行けるときに行かないと。それに、学校なんて行ったって何も学べやしないからね」と学校の意義を否定したんです。
 なんと、1課長が同意。
「学校は行きたいヤツが行けばいい。私は小5から中3まで不登校だった。
 高校は行ってないから高卒認定だし、まともに通った学校は大学だけだよ。
 うちは保育園だから、休ませて旅行に行くけど、小学生でもそうすると思う」
 1課長はスマホの画像を見せてくれました。
「大きなバイクに乗る。小さな男の子が写っています」
 私が「オートバイで行くんですか」と尋ねると、1課長は「カワサキのZRX1200」と。
 穏やかな1課長が、こんな大きなバイクに乗るなんて、ちょっと意外でした。
 奈々さんが「入社したばかりの私も休んでいいんですか?」と尋ねると、2人の課長は「当然だよ」とハモりました。
 奈々さんは「私は保育園を休ませて、一緒にアニメとか見てすごすな」と。
 2課長が「新藤さんも休んだほうがいい。少し疲れているみたいだし」と言い、2課長が「何か眠そうにしているときがあるよね」と。

 それは私のせいです。
 仕事とは無関係です。

 1課長が「問題は南岸低気圧だよ。あれが来ると大雪になる。この週は来そうな予感がするんだよね」と言いました。

 帰宅して娘に話しました。
「水木金土日の5日間お休みなんだ」
「うそ、ズルイ」
「でも、パパはお仕事だから行けないね。
 舞も学校あるでしょ」
「……」

 夫は1課長の意見を入れ、木金を休むことにしました。自宅にいるから何かあれば、すぐに出勤できるし、リモートでも会社のマシンを制御できるからです。

 娘が怒っています。
「ママも、パパも、ズルイ!」

 私と夫の5連休の直前になって、気象庁が「過去に例がない強い南岸低気圧が木金にかけて接近するので、不要不急の外出は避けてください。関東甲信越の全交通機関が止まる可能性があります」と発表したんです。
 夫は、社員全員に「木金は全員在宅勤務とする」と指示。オンプレのデータの一部をクラウドに移し、24時間好きなときに仕事ができるような態勢にしました。
 ニュースでは「首都圏完全麻痺か?」とか「首都全面凍結」何て、物騒な情報を流しています。
 娘の学校からはなかなか指示がなく、火曜の朝になって、木金はオンライン授業でもいいことになりました。
 前回は休日だったので、通勤通学の混乱は限定的だったのですが、子供の長靴では雪が入ってしまうことがわかりました。
 前回以上の雪ならば、通学なんて不可能です。

 結果、娘が学校から帰ったら、私と娘の2人で一足早く出発することになりました。
 娘は大喜びです。
 夫は「ガレージの行き場のないガラクタを全部運ぶから、レンタカーを借りる」そうです。
 レンタカーは、山荘近くの営業所に返すとか。
 会社では停電に備えて、2日間に仕事で必要なデータだけをクラウドにアップする作業でてんてこ舞いです。

 夫から出発を知らせるメールが来たのは、日付が変わり1時を過ぎていました。長時間の突然の停電を警戒して、社内のすべてのマシンを停止したそうです。
 でも、勤務予定者は自宅のネット回線が生きていれば、クラウドのデータを使って通常通り仕事ができます。
 夫は休みとは名ばかりで、緊急時の対応に備えて山荘からは出ないそうです。

 夫の到着は3時を過ぎていました。
 夫は意外と元気で、眠気にも襲われず、トラックを安全運転してきたそうです。

 当初の予報では、木曜日の昼12時頃から雪が降り始めるとのことでしたが、半日早まり、木曜日の深夜0時頃には風雪が強まるとか。

 私は前回の反省から、お米はもちろん、味噌や醤油、野菜やお肉、缶詰や乾麺、昆布、ひじき、干ししいたけ、切干し大根、高野豆腐、海苔などの乾物を大量に運んできました。

 私は、夫がガレージと呼んでいる場所に行ったことがありません。夫のお父様の形見が、そこにはあるのだと考えていました。
 事実、そうなのだと思います。
 ですが、一般的な形見とは違い、チェーンソー、電動工具、斧やスコップ、ポータブル発電機、スポーツカーに小型SUVなど種々雑多。
 そして、今回は何と50ccの四輪バギーが運ばれてきました。
 しかも、ナンバーが付いています。公道が走れるんです。確かに旧式っぽいものが多いのだけど、中には首をかしげるものも。
「トラックを返してくる」
「帰りは?」
「積んでいるあれで帰るよ」
「……。
 あれも、お父様の?」
「そう」
「ア・ヤ・シ・イ~」
「親父が買ったんだ。
 台湾製だよ」
 絶対嘘です。どう見ても新しいです。
 床下半地下の空間が、どんどん夫の秘密基地化していきます。
 私はただの物置として使いたいのに。

 レンタカーの営業所は、インターチェンジの近くにあります。ここからだと15キロくらい。結構遠いんです。

 夫が留守の間に、私が注文したローソファーが届きました。高さが調節できるローテーブルと中型モニターも配達されました。
 これは、私たちの部屋に置きます。

 午後になっても、大雪が降りそうな天候ではありません。しかし、数日前から低気圧が発生する条件が整って、昨日の段階ですでに台湾沖で発生していました。
 日本の近海で発生するので、予測が難しく、空振りすることもあります。
 東日本の太平洋沿岸に急接近しながら、急激に気圧が低下して、強い勢力の台風並みに発達するそうです。

 私たちは買い出しは行わず、家の周囲を点検して、クルマをガレージに入れました。
 夫は電源喪失に備えて、プロパンガスで動く小型発電機を点検しています。
 最悪の時には、この発電機で最低限の電力を48時間供給することができます。
 それと、薪をたくさん割ってくれました。薪ストーブ以外に、夫はお父様の遺品なのでしょうか、古めかしい電池で着火する灯油のストーブを使えるようにしました。
 娘も協力して、万端ではありませんが、できる限りの準備をしました。

 自然現象には、人は無力です。洞窟で暮らしていた頃も、いまも。ですが、家族が力を合わせれば乗り切れると思います。
 私たち家族は、力を合わせています。

 この夜、娘は早々に寝ました。私がお風呂に入り、続いて夫が。

 夫がお風呂に入っている間に、夫の折りたたみベッドを肩付け、このベッドのための高反発マットを床に敷きます。
 アロマキャンドルに火を着け、LEDランタンの光を赤にします。
 そして、照明はできるだけ弱くします。
 私は急いで着替えます。

 お風呂から出てきた夫は、「何?」と困惑した表情。
 私はセーラー風ビキニ下着を着けて、床に正座し、頭を下げて夫を向かい入れました。
「いつもお仕事、ありがとうございます。
 マッサージさせていただきます」
 セーラー風下着は、白を基調にし、セーラー服を模していて、とてもかわいいです。
 夫はすぐに襲ってこようとしました。
 私はそれをかわし、マットに俯せに寝かせます。
 両手と舌で夫の背中をマッサージし、夫を仰向けにして、シックスナインの態勢にして、夫を口に含みます。
 夫はされるがまま。
 夫の全身をマッサージしてから、私は夫の腰に跨がりました。
 夫はよほどよかったらしく、残念なほど早く……。

 アロマキャンドル以外をかたし、いつも通りにパジャマの上とショーツだけでベッドに入りました。
 夫に「よかった?」と尋ねると、「またして」と。
 雪を心配しながら、ベッドの中で起きています。
 当然、いろいろとされます。
 夫のモットーは観察と探究。私も徹底的に観察され、探究されています。
 こういうシチュエーションでは、夫は私の身体の裏側を刺激します。背骨に沿った背中、
うなじ、お尻など。
 私はただ夢中で、夫の口内に舌を入れ続けます。
 これなら、何時間でも愛し合えるのです。

 2人ともウトウトしかけた2時頃、突然、家が揺れました。
 風です。強風です。林の中なのに、とてつもない風が家を振るわせます。

 そして、ドアがドンドン。
 娘が起きてしまいました。
 部屋に入れると「怖いよ」と。
 夫が折りたたみベッドの用意をします。私と夫が激しく愛し合ったばかりの高反発マットを載せ、布団を敷きます。
 娘は恐怖で起きたものの眠いらしく、すぐにベッドに潜り込みました。

 娘の寝息を確認してから、私はまた夫の口に吸い付きました。
 娘が赤ちゃんの時でも、娘の近くではこんな行為はしなかったのに……。娘がいなくてもしなかったかも……。

 結局、3人とも眠ったり、目を覚ましたりで、相当な朝寝坊になってしまいました。
 娘はなぜか、明け方近くに自室に戻ったようでした。

 そして、一番に目を覚ました娘が、私たちの部屋に飛び込んできました。
「ママ、パパ、たいへんだよ!」
 私と夫は飛び起きて、娘に続いて2階に上がります。
 シャッターを開けた窓から見た景色は、白だけ。林の白樺の木々まで、雪が付着していて、真っ白。北側にあるはずの道路がどこなのかもわからない。
 しかも、大粒の雪が横殴りで吹き荒れているんです。
 夫が「まだ積もるぞ」と言うと、娘が不安そうに夫を見ます。
 ですが、娘はすぐに不安を感じる必要がないことを悟ります。
 夫の左手が、私のお尻を触っていたから……。
 私が夫に軽くキスすると、娘が「私の前ではやめて!」と。
 2人で大笑いします。
「沙耶ちゃんのママとパパは、毎朝、起きるとすぐにチュッてするんだって。
 貴理ちゃんのママとパパは、行ってらっしゃいとお帰りなさいは必ずチュッなんだって」
 娘は、娘なりに調べたみたいです。
「心美ちゃんのママとパパは、おしゃれなお店でお酒を飲むんだって。
 居酒屋だったら連れていってもらえるのに、不公平だって怒ってた。
 彩華ちゃんのママとパパは、一緒にお風呂入るんだって。
 信じられないよ」
 ここまでは、爽やか情報。
「だけど、璃梨華ちゃんのママは、パパとは一緒にご飯食べないんだって。
 花梨ちゃんのママは、花梨ちゃんとパパを置いて旅行にいちゃうんだって。
 みんな言ってたけど、ママがパパを嫌いよりも、チュッてしていたほうがいいって。見たくないけど、まだマシだって」
 夫が「なるほど」と妙に感心しています。

 娘はさらなる情報を。
「莉子ちゃんが学校に行っているとき、莉子ちゃんちにドロボーが入って、ママにひどいことをしていたんだって。
 急にパパが帰ってきて、そのドロボーをやっつけたんだって。
 ゴルフの棒で何度もぶったって。
 でもね、ママをドロボーから守っただけなのに、おまわりさんが来て連れていかれちゃったんだよ」
 私が夫を見ると、夫がニッて笑いました。
「不倫間男を泥棒に仕立てたわけか。
 あのデブのおっさん、やるねぇ」
 私は夫に「奥さんが新卒で就職したときの上司だったんだって」と。
 夫が「ふ~ん」と。
 続けて「離婚したの」と問われたので、「そこまでは知らないけど、ついこの間、ホームセンターで2人で仲良く買い物していたよ」と言い、「噂でしかないんだけど、その元上司には障害が残ったんだって。どんな障害かは知らないけど」と。
 娘が「ママ、めっちゃ詳しいじゃん」と言い、夫が「本当だね。ご近所ワイドショーは怖いね」って笑いました。

 この付近は停電していません。豪雪地帯ではありませんが、雪が降るのである程度の対策があるのでしょう。
 一方、首都はすでに広範囲が停電しています。私たちのマンションも停電範囲に含まれています。
 夫は会社にVPNの接続を試みましたが、できませんでした。
「ルータが死んでいる。
 停電したんだ」
 私は夫の会社で働くようになってから、いままでのキャリアではまったく知らなかった言葉を急速に吸収しています。
 夫は、社員全員に安否確認のメールを送りました。

 雪が降り止むのを待つしかありません。停電しない限り、この家は安全です。
 家の中で、3人が思い思いのことをして、雪がやむのを待つ予定です。
 夫は「何もすることがないし……」と自分のマシンで仕事をしています。
 私はダイニングに置いたノートパソコンで、ニュースを見ています。首都圏は雪によって、完全に麻痺。広域で停電が発生していて、徒歩以外の移動が困難な状況です。
 その徒歩も楽ではありません。積雪は都心でも50センチに達しています。
 多くの専門家が、この異常な状況の原因は地球温暖化と無縁ではない、と説明しています。
 となると、今年だけではない、ことになります。会社としては、抜本的な対策が必要です。気象に影響されにくい、仕事のあり方を考えないと……。

 社員からは安否確認の返信が続々届いています。みなさん、無事ですが「停電で暖房が使えず寒い」との報告もあり、心配です。
 奈々さんからは、停電はしていないけど、無言電話が2回あった、とメールが。非通知ではなく、番号は表示されているとのこと。でも、番号に心当たりがまったくないそうです。

 この出来事が、新たな問題の基点でした。

 南岸低気圧は移動と停滞を繰り返しながら、太平洋沿岸の広域に大雪をもたらし、15時頃に去りました。
 真冬の台風一過で、雪がやむと同時に晴れました。

 雪が深すぎて、家から出られません。夫がウッドデッキの除雪を始めました。雪の捨て場所を間違うと、さらなる作業量増につながりそうで怖いです。
 東ウッドデッキ階段の中段付近から、地面までのラッセルを始めなければなりません。
 除雪は、私たち家族史上最大の肉体労働になりそうです。

 2時間の除雪作業で、3人ともクタクタ。夕食は、食材を切るだけでいいキムチ鍋になりました。

 私は昼間、寒いのでスウェットワンピを着て、デニムのスリムパンツを履いていました。
 スウェットワンピは休日の里穂ちゃんの衣装なのですが、どうも夫は刺激されちゃったみたいです。
 娘が寝ると、すぐに求めてきました。
 もちろん、私はOKです!
 絨毯とローソファーで、私と夫によるプロレスが始まりました。
 夫は私のショーツを剥ぎ取り、一切の事前行為なく、挿入してきました。
 自分でもビックリしたのですが、私の身体は準備万端以上だったようで、簡単に受け入れてしましました。
 ですが抵抗感がないんです。
「私、濡れすぎてない?」
 夫は引き抜くと、余分な潤滑液を口で吸い出し、飲んでしまいました。
 初めてのことで、恥ずかしくて……。
 その後は激しすぎて、よく覚えていません。
 でも、2人の行為としては短かったです。

 私のベッドに移り、抱き合いながら、たわいのない話をしています。
 夫が「サラリーマンだった頃の同僚の話だけど……」と、滅多にしない彼の昔話を始めます。
「奥さんが浮気したんだ。
 それ自体はよくある話だし、別段珍しくはない。
 男のほうは独身で、奥さんに入れあげていたらしい。
 一方、奥さんのほうは、完全な遊びで、一時の快楽だった。寂しかったとか自分を正当化して、夫である同僚を非難し、離婚を拒否した。
 同僚は離婚するつもりだったが、その理由が、奥さんが本気じゃなかったってことらしい。
 いたいけな男を弄んだって。
 むしろ、金を貢がされていた男に同情していたくらいだった。
 だが、その男も異常で、ほぼストーカー化していたし、慰謝料を支払えば奥さんが買えると思っていたらしい。
 で、どうしたと思う?」
 夫が笑っています。
 私は沈黙。
「……」
「男を自宅に呼び出したんだ。
 話し合いを理由に。
 男は同僚の戸建てにノコノコやって来た。
 同僚はドアは開けたが、玄関ドアのU字ロックは外さなかった。
 ドアの隙間から玄関内が見える。
 その状態で、奥さんに襲いかかったんだ。
 奥さんは驚き、激しく抵抗したが、意表を突かれたこともあり、服を破かれ、下着はちぎられ、レイプされた。
 間男に見られているという異常なシチュエーションもあったんだろう、奥さんは同僚に挿入されてしまうと応じ始めた。
 嫌い合っている夫婦じゃないからね。
 間男は、ドアの隙間から、やめろとか何とか叫いていたらしい。
 同僚が果て、奥さんが玄関先で乱れた服で仰向けになり、荒く息をしている様子を見て、立ち去ったそうだ」
 私は驚きました。
「奥様、どうなったの?」
「同僚は離婚した。だけど、すがりつく元奥さんを性処理係兼家政婦として雇ったんだ。
 子供もいたしね。
 その先のことは知らない。
 俺は会社を辞めたし。
 でも、結果的に再構築したんじゃないかな」
「……」
「危機の乗り切り方はいろいろあるし、リスクもあるってことだよ。
 この方法、一歩間違えれば、まったくの逆効果だった。
 同僚は、博打を打ったんだ。
 そして、賭に勝った。
 女々しい男はいるが、女々しい女はいないんだ。男は例外なく女々しい。
 同時に、男らしい男はいないが、男らしい女はたくさんいる。
 これが、現実だ」

 私は夫が、前職の社長は女々しい男だと判断していると確信しました。
 大雪は私たち家族を団結させましたが、私たち家族の邪魔はまだいるのです。
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