322 / 425
【 魔族と人と 】
復活 前編
しおりを挟む
碧色の祝福に守られし栄光暦218年10月19日。
真っ暗な闇の中で、クラキア・ゲルトカイムは目を覚ました。
――ここは……。
何も見えない暗闇の世界。地面は土だろうか? いや、もっと固い。岩石……覚えがある――というか、忘れるはずもない。ここは、炎と石獣の領域だ。
その上に大量の布が敷いてあり、そこに寝かされていたことに気づく。
感覚で分かる……鎧どころか服も身につけていない。下着もだ。
確か致命傷を負ったはずだったはずだ……そう考えて腹部を触ると、微かに塞がった傷口の様な感触がある。
本当に少しだけ。こんなに浅くはなかったはずだ。
――何かされたのかしら。でも、誰に?
だがそんな事よりも、ここが何処かの方が需要だ。それに戦況の方も気になる。
――明かりが欲しいけど、炎の魔法を使って良いものかしら?
いや、そんな訳は無いと考えを消す。ここが軍テントだったら大惨事だ。下手をすれば自殺になりかねない。
冷静に観察するが、空気の流れを感じない。坑道の中だろうか?
だがひんやりとした坑道と違い、ここは温かい。
右手を頭の上に伸ばしながら、ゆっくりと立ち上がる。
立ち上がっても天井に手は届かない。結構な高さがあるようだ。
匂いからは、生活臭を感じない。人の気配も感じない。やはり坑道の中で間違いないのだろうか?
声を発していいか悩みどころだ。少なくとも、自分は生かされている。
ではここは友軍の拠点かといえば、そんな訳が無いだろう。医療設備であれば、24時間体制だ。一寸先も見えない闇の中など有り得ない。
だが本当にそうか? 石獣により明かりが攻撃された跡なら? そして、ここにいた人間は全員死んでいるとしたら?
やはりのんびりはしていられない。万が一の時は理由を説明すればいい。
天井に向けて魔法を放つ――いや、放とうとした瞬間――
「目覚めたか」
暗闇の中から声が響く。いや、声というより音。石の中から響く様な、不気味な音が声のように感じられるといった方が良いだろう。
人ではない!? そう直感し、すぐさま魔法を使う。目標は天井ではなく、音のした方向だ。
一瞬広がって発生した炎の網が、声がした辺りにに収縮する。そしてその網が捕えたもの――それは、数日前に戦い、アルダシルを葬った蛸の様な魔族……いや、魔神だった。
壊したはずの八角柱は新品同様になっており、忙しなく動く触手の先端が見える。
照らされた世界は、まさしく坑道だ。円形に刳り貫かれたような地形。直径は5メートル程だろうか。大型武器であれば、多少戦闘に支障をきたす程か。
だがそもそも武器は無い。周りを見渡すと、服、下着にレオタード、それに鎧がきちんと整理されて置かれている。しかしやはり、武器は置いていない。
自分は思った通りの真っ裸。そして蛸の魔神は、煩わしそうに炎の網をいとも容易く剥がす。
どうしてこうして生かされたのかは分からない。だが絶対絶命だ。
「元気になったのなら……早く出て行って欲しいが……今は不可能だ」
「どういうつもりかしら……」
「この領域は……溶岩に…………包まれた。出口は……無い」
ゆっくりと言葉を選ぶように、意味ある音が伝わってくる。
溶岩? ……この領域を攻略するにあたって、その辺りの事は勉強済みだ。
前回の攻略戦では、魔王を倒した後に溶岩が噴出。領域への立ち入りは出来なくなったという。であるのなら……。
「魔王は死んだのかしら?」
その質問に、ラジエヴは熟考した。
元々言葉による会話を得意としているわけではない。魔王に連絡をする為に最低限覚えた程度だ。
それに魔王に関しては極秘事項が多い。魔王のシステムを維持するためには、人間に知られてはいけない事が多すぎるのだ。
1時間ほどが経過した頃、目の前の人間は座り込んでいた。まだ立ち上がって何かできるほど回復はしていない。当然だろう。
考えに考えた結果、完成した文面を読み上げる。
「魔王は死んだ。だが生きている」
その言葉を聞いて、クラキアは心の中でため息をついていた。
――意味が分からない……。
確実なのは、今は目の前の魔神が襲っては来ないと言う事だけだ。
だが神などは気まぐれなものだ。しかも魔族の神である。人間になど図りようがない。
早くも疲労がピークに達し、ごろりと横になる。
「先ほどの質問に答えていませんわね。私をどうするのです? 最初に断っておきますが、魔族を利することなど一切行いませんからね。不満があるのでしたら、どうぞご自由に」
「では栄養補給と排泄を済ませるとしよう」
「は? え? む、むぐぐううううう!」
口から触手を一本突っ込み、胃に直接栄養素を流し込む。
この領域に地底湖に住む小魚やエビ等を細かくペースト状にしたものだ。
そして尿道と直腸に別の触手を突っ込み、中の排せつ物を全て汲み取る。
既に経験済みの行為であり、ラジエヴは手慣れたものだ。
相和義輝はエヴィアが初めての相手だと思っていたが、そうでは無い。
最初のお相手は、ラジエヴの触手だったのである。
こうして魔人ラジエヴと、スパイセン王国国王クラキア・ゲルトカイムの奇妙な共同生活が始まった。
真っ暗な闇の中で、クラキア・ゲルトカイムは目を覚ました。
――ここは……。
何も見えない暗闇の世界。地面は土だろうか? いや、もっと固い。岩石……覚えがある――というか、忘れるはずもない。ここは、炎と石獣の領域だ。
その上に大量の布が敷いてあり、そこに寝かされていたことに気づく。
感覚で分かる……鎧どころか服も身につけていない。下着もだ。
確か致命傷を負ったはずだったはずだ……そう考えて腹部を触ると、微かに塞がった傷口の様な感触がある。
本当に少しだけ。こんなに浅くはなかったはずだ。
――何かされたのかしら。でも、誰に?
だがそんな事よりも、ここが何処かの方が需要だ。それに戦況の方も気になる。
――明かりが欲しいけど、炎の魔法を使って良いものかしら?
いや、そんな訳は無いと考えを消す。ここが軍テントだったら大惨事だ。下手をすれば自殺になりかねない。
冷静に観察するが、空気の流れを感じない。坑道の中だろうか?
だがひんやりとした坑道と違い、ここは温かい。
右手を頭の上に伸ばしながら、ゆっくりと立ち上がる。
立ち上がっても天井に手は届かない。結構な高さがあるようだ。
匂いからは、生活臭を感じない。人の気配も感じない。やはり坑道の中で間違いないのだろうか?
声を発していいか悩みどころだ。少なくとも、自分は生かされている。
ではここは友軍の拠点かといえば、そんな訳が無いだろう。医療設備であれば、24時間体制だ。一寸先も見えない闇の中など有り得ない。
だが本当にそうか? 石獣により明かりが攻撃された跡なら? そして、ここにいた人間は全員死んでいるとしたら?
やはりのんびりはしていられない。万が一の時は理由を説明すればいい。
天井に向けて魔法を放つ――いや、放とうとした瞬間――
「目覚めたか」
暗闇の中から声が響く。いや、声というより音。石の中から響く様な、不気味な音が声のように感じられるといった方が良いだろう。
人ではない!? そう直感し、すぐさま魔法を使う。目標は天井ではなく、音のした方向だ。
一瞬広がって発生した炎の網が、声がした辺りにに収縮する。そしてその網が捕えたもの――それは、数日前に戦い、アルダシルを葬った蛸の様な魔族……いや、魔神だった。
壊したはずの八角柱は新品同様になっており、忙しなく動く触手の先端が見える。
照らされた世界は、まさしく坑道だ。円形に刳り貫かれたような地形。直径は5メートル程だろうか。大型武器であれば、多少戦闘に支障をきたす程か。
だがそもそも武器は無い。周りを見渡すと、服、下着にレオタード、それに鎧がきちんと整理されて置かれている。しかしやはり、武器は置いていない。
自分は思った通りの真っ裸。そして蛸の魔神は、煩わしそうに炎の網をいとも容易く剥がす。
どうしてこうして生かされたのかは分からない。だが絶対絶命だ。
「元気になったのなら……早く出て行って欲しいが……今は不可能だ」
「どういうつもりかしら……」
「この領域は……溶岩に…………包まれた。出口は……無い」
ゆっくりと言葉を選ぶように、意味ある音が伝わってくる。
溶岩? ……この領域を攻略するにあたって、その辺りの事は勉強済みだ。
前回の攻略戦では、魔王を倒した後に溶岩が噴出。領域への立ち入りは出来なくなったという。であるのなら……。
「魔王は死んだのかしら?」
その質問に、ラジエヴは熟考した。
元々言葉による会話を得意としているわけではない。魔王に連絡をする為に最低限覚えた程度だ。
それに魔王に関しては極秘事項が多い。魔王のシステムを維持するためには、人間に知られてはいけない事が多すぎるのだ。
1時間ほどが経過した頃、目の前の人間は座り込んでいた。まだ立ち上がって何かできるほど回復はしていない。当然だろう。
考えに考えた結果、完成した文面を読み上げる。
「魔王は死んだ。だが生きている」
その言葉を聞いて、クラキアは心の中でため息をついていた。
――意味が分からない……。
確実なのは、今は目の前の魔神が襲っては来ないと言う事だけだ。
だが神などは気まぐれなものだ。しかも魔族の神である。人間になど図りようがない。
早くも疲労がピークに達し、ごろりと横になる。
「先ほどの質問に答えていませんわね。私をどうするのです? 最初に断っておきますが、魔族を利することなど一切行いませんからね。不満があるのでしたら、どうぞご自由に」
「では栄養補給と排泄を済ませるとしよう」
「は? え? む、むぐぐううううう!」
口から触手を一本突っ込み、胃に直接栄養素を流し込む。
この領域に地底湖に住む小魚やエビ等を細かくペースト状にしたものだ。
そして尿道と直腸に別の触手を突っ込み、中の排せつ物を全て汲み取る。
既に経験済みの行為であり、ラジエヴは手慣れたものだ。
相和義輝はエヴィアが初めての相手だと思っていたが、そうでは無い。
最初のお相手は、ラジエヴの触手だったのである。
こうして魔人ラジエヴと、スパイセン王国国王クラキア・ゲルトカイムの奇妙な共同生活が始まった。
0
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》
EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。
歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。
そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。
「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。
そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。
制刻を始めとする異質な隊員等。
そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。
元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。
〇案内と注意
1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。
3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。
4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。
5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

神々に見捨てられし者、自力で最強へ
九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる