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【 魔族と人と 】

再突入戦 前編

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 爆撃は南から北へと移動し、新たな穴を開けていった。
 そしてその穴から、スパイセン王国とティランド連合王国の残存兵が突入を開始する。
 これまで外で待機していた北東軍。スパイセン王国軍が6万人、ティランド連合王国軍は20万人だ。
 だが双方とも、侵入と同時に石獣からの総攻撃を受けていた。

「怯むなー! クラキア様は、まだ中で生きておいでなのだー!」

「戦闘国家の意地を見せよ! 耐火重盾アンチフレイム隊、突入!」

 両国軍共に、必至に橋頭保きょうとうほを確保しようと奮戦するが、坑道内の戦闘では相手が一枚も二枚も上手だ。いやそもそもが、人と石獣とでは戦力比が違いすぎる。
 ただ無謀な突撃を繰り返し、いたずらに死者を増やしているだけであった。




 そしてそれらの報告と南方の状況も全て、浮遊城にいるリッツェルネールの元へと届けられていた。

「南方は侵入すらままならず、北方は両国ともに著しい損害をだしている……か」

 玉座の間の通信士オペレーター達には、各地からの通信がひっきりなしに入って来る。
 それをケインブラがまとめて報告するわけだが、状況は予想通り容易いものではない。

「確か明かりランタンや通信貝などに反応しているとあったね。松明などはどうなんだい?」

「確か報告にあったな。炎や外部の穴など、自然光に反応した形跡は無しとある」

 ケインブラは、戦闘開始からここまで数十万の通信の中から、おおよそ必要と思われる情報を頭に2万件ほど頭に入れている。
 その中には数件、炎や外に空いた穴からの光に関する報告が確かに存在する。

「――なるほど。なら前線各隊とムーオスに連絡を」

「何か手があるんですか?」

 少し楽しそうに聞くミックマインセに対し――、

「相手の動きが変わらないのなら、簡単な作業だよ」

 リッツェルネールはそう答えた。




 ◇     ◇     ◇




 魔王魔力拡散機。
 倉庫に設置されたこの柱を使い、相和義輝あいわよしきは領域全体を把握していた。
 全軍合わせて50万人を超える数が侵入していたが、今では数か所に点在する程度。全部合わせても5万人はいないだろう。
 それも全部、北側の部隊だ。

 南から入った兵士達は、石獣との戦闘とは違う形で大量に死んでいた。
 一点を中心に、坑道を通って何かが広がる感じ。
 それはまるで死神の腕。途中で触れられた人間は、バタバタと倒れ絶命していった。
 おそらくあれは……。

「魔王が予想した通り、ゲルニッヒかな」

「やっぱり生きていたか。あいつはそう簡単にやられたりはしないよな」

 言いながら心が高揚するのが分かる。大丈夫だと心に言い聞かせていたが、それでもやっぱり不安だったのだ。

 こうして残るは北の残存兵。侵入した数からすれば、たった一割ほどか。
 だが順調にいけば、これすらも残らないはずだった。それ程までに、闇の中での石獣は強かった。
 しかし一部で強固な抵抗を受け、結果として全滅には至らなかった。

 だがそれでも、最初の予想では問題ないはずだった。
 石獣の力を見誤っていたのは俺も同じだ。想定では、数日間をかけてじっくり殲滅する予定だったのだから。

 ところが、また新たな穴を開けられた。
 修復した翌日にだ。これは完全に誤算といえる。
 そして今、石獣たちは中に残った人間は無視して、外周に空いた穴で侵入者と戦闘中。
 石獣は強いが、複雑な命令は出来ない。
 攻撃対象を人間にすれば中の人間へも向かうが、それでは大量に侵入されて元の木阿弥。
 今はこのまま当初の命令を継続するしかない。

 ――とりあえず、状態は落ち着いたのだろうか?

 人類軍は新たな侵入口を開けたが、人間の明かりを攻撃しろという命令はそのままだ。
 坑道は言うまでも無く真っ暗。明かりライトが無ければどうしようもないだろう。
 松明を使えば侵入できるだろうが、数十万人が松明片手に坑道に入るような真似を普通はしない。
 そして、数千人程度なら石獣の敵ではない。
 魔道の光で照らしながら侵入しようとする人類軍は、早々に石獣に襲撃され屍を増やしている。

 ――少し休むべきだろうか?

 この戦いが始まってから、今何日目なのだろう。
 開戦以来ずっと地下。力尽きて寝てしまった以外は起きっぱなしの休みなし。そろそろ体力は限界に近い。
 だが何もせずにじっとしていられるほど優勢ではない。こうして柱に魔力を送り、常に人類の動向を確認しなければ落ちつけもしないのだ。
 副産物として、炎の竜巻の精霊たちは元気一杯である。

 しかし領域の修復は、やはりかなりの負担だった。正直もうやりたくない。
 だがまあ予定は変わったが、今現在人間の侵入は抑えられている。
 中に残った人間は首無し騎士デュラハン辺りに任せて、少しは休養を取るのも大切な気がする。
 こんな長期戦は生まれて初めてなので、配分が分からないのが辛い所だ。
 人間はよく、こんな状況で戦えるものだな。

 そんな事を考えていた瞬間だった。
 そう、瞬間。一瞬にして、領域境界にいた石獣たちの命が消え去った。
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