281 / 377
【 魔族と人と 】
再突入戦 前編
しおりを挟む
爆撃は南から北へと移動し、新たな穴を開けていった。
そしてその穴から、スパイセン王国とティランド連合王国の残存兵が突入を開始する。
これまで外で待機していた北東軍。スパイセン王国軍が6万人、ティランド連合王国軍は20万人だ。
だが双方とも、侵入と同時に石獣からの総攻撃を受けていた。
「怯むなー! クラキア様は、まだ中で生きておいでなのだー!」
「戦闘国家の意地を見せよ! 耐火重盾隊、突入!」
両国軍共に、必至に橋頭保を確保しようと奮戦するが、坑道内の戦闘では相手が一枚も二枚も上手だ。いやそもそもが、人と石獣とでは戦力比が違いすぎる。
ただ無謀な突撃を繰り返し、いたずらに死者を増やしているだけであった。
そしてそれらの報告と南方の状況も全て、浮遊城にいるリッツェルネールの元へと届けられていた。
「南方は侵入すらままならず、北方は両国ともに著しい損害をだしている……か」
玉座の間の通信士達には、各地からの通信がひっきりなしに入って来る。
それをケインブラがまとめて報告するわけだが、状況は予想通り容易いものではない。
「確か明かりや通信貝などに反応しているとあったね。松明などはどうなんだい?」
「確か報告にあったな。炎や外部の穴など、自然光に反応した形跡は無しとある」
ケインブラは、戦闘開始からここまで数十万の通信の中から、おおよそ必要と思われる情報を頭に2万件ほど頭に入れている。
その中には数件、炎や外に空いた穴からの光に関する報告が確かに存在する。
「――なるほど。なら前線各隊とムーオスに連絡を」
「何か手があるんですか?」
少し楽しそうに聞くミックマインセに対し――、
「相手の動きが変わらないのなら、簡単な作業だよ」
リッツェルネールはそう答えた。
◇ ◇ ◇
魔王魔力拡散機。
倉庫に設置されたこの柱を使い、相和義輝は領域全体を把握していた。
全軍合わせて50万人を超える数が侵入していたが、今では数か所に点在する程度。全部合わせても5万人はいないだろう。
それも全部、北側の部隊だ。
南から入った兵士達は、石獣との戦闘とは違う形で大量に死んでいた。
一点を中心に、坑道を通って何かが広がる感じ。
それはまるで死神の腕。途中で触れられた人間は、バタバタと倒れ絶命していった。
おそらくあれは……。
「魔王が予想した通り、ゲルニッヒかな」
「やっぱり生きていたか。あいつはそう簡単にやられたりはしないよな」
言いながら心が高揚するのが分かる。大丈夫だと心に言い聞かせていたが、それでもやっぱり不安だったのだ。
こうして残るは北の残存兵。侵入した数からすれば、たった一割ほどか。
だが順調にいけば、これすらも残らないはずだった。それ程までに、闇の中での石獣は強かった。
しかし一部で強固な抵抗を受け、結果として全滅には至らなかった。
だがそれでも、最初の予想では問題ないはずだった。
石獣の力を見誤っていたのは俺も同じだ。想定では、数日間をかけてじっくり殲滅する予定だったのだから。
ところが、また新たな穴を開けられた。
修復した翌日にだ。これは完全に誤算といえる。
そして今、石獣たちは中に残った人間は無視して、外周に空いた穴で侵入者と戦闘中。
石獣は強いが、複雑な命令は出来ない。
攻撃対象を人間にすれば中の人間へも向かうが、それでは大量に侵入されて元の木阿弥。
今はこのまま当初の命令を継続するしかない。
――とりあえず、状態は落ち着いたのだろうか?
人類軍は新たな侵入口を開けたが、人間の明かりを攻撃しろという命令はそのままだ。
坑道は言うまでも無く真っ暗。明かりが無ければどうしようもないだろう。
松明を使えば侵入できるだろうが、数十万人が松明片手に坑道に入るような真似を普通はしない。
そして、数千人程度なら石獣の敵ではない。
魔道の光で照らしながら侵入しようとする人類軍は、早々に石獣に襲撃され屍を増やしている。
――少し休むべきだろうか?
この戦いが始まってから、今何日目なのだろう。
開戦以来ずっと地下。力尽きて寝てしまった以外は起きっぱなしの休みなし。そろそろ体力は限界に近い。
だが何もせずにじっとしていられるほど優勢ではない。こうして柱に魔力を送り、常に人類の動向を確認しなければ落ちつけもしないのだ。
副産物として、炎の竜巻の精霊たちは元気一杯である。
しかし領域の修復は、やはりかなりの負担だった。正直もうやりたくない。
だがまあ予定は変わったが、今現在人間の侵入は抑えられている。
中に残った人間は首無し騎士辺りに任せて、少しは休養を取るのも大切な気がする。
こんな長期戦は生まれて初めてなので、配分が分からないのが辛い所だ。
人間はよく、こんな状況で戦えるものだな。
そんな事を考えていた瞬間だった。
そう、瞬間。一瞬にして、領域境界にいた石獣たちの命が消え去った。
そしてその穴から、スパイセン王国とティランド連合王国の残存兵が突入を開始する。
これまで外で待機していた北東軍。スパイセン王国軍が6万人、ティランド連合王国軍は20万人だ。
だが双方とも、侵入と同時に石獣からの総攻撃を受けていた。
「怯むなー! クラキア様は、まだ中で生きておいでなのだー!」
「戦闘国家の意地を見せよ! 耐火重盾隊、突入!」
両国軍共に、必至に橋頭保を確保しようと奮戦するが、坑道内の戦闘では相手が一枚も二枚も上手だ。いやそもそもが、人と石獣とでは戦力比が違いすぎる。
ただ無謀な突撃を繰り返し、いたずらに死者を増やしているだけであった。
そしてそれらの報告と南方の状況も全て、浮遊城にいるリッツェルネールの元へと届けられていた。
「南方は侵入すらままならず、北方は両国ともに著しい損害をだしている……か」
玉座の間の通信士達には、各地からの通信がひっきりなしに入って来る。
それをケインブラがまとめて報告するわけだが、状況は予想通り容易いものではない。
「確か明かりや通信貝などに反応しているとあったね。松明などはどうなんだい?」
「確か報告にあったな。炎や外部の穴など、自然光に反応した形跡は無しとある」
ケインブラは、戦闘開始からここまで数十万の通信の中から、おおよそ必要と思われる情報を頭に2万件ほど頭に入れている。
その中には数件、炎や外に空いた穴からの光に関する報告が確かに存在する。
「――なるほど。なら前線各隊とムーオスに連絡を」
「何か手があるんですか?」
少し楽しそうに聞くミックマインセに対し――、
「相手の動きが変わらないのなら、簡単な作業だよ」
リッツェルネールはそう答えた。
◇ ◇ ◇
魔王魔力拡散機。
倉庫に設置されたこの柱を使い、相和義輝は領域全体を把握していた。
全軍合わせて50万人を超える数が侵入していたが、今では数か所に点在する程度。全部合わせても5万人はいないだろう。
それも全部、北側の部隊だ。
南から入った兵士達は、石獣との戦闘とは違う形で大量に死んでいた。
一点を中心に、坑道を通って何かが広がる感じ。
それはまるで死神の腕。途中で触れられた人間は、バタバタと倒れ絶命していった。
おそらくあれは……。
「魔王が予想した通り、ゲルニッヒかな」
「やっぱり生きていたか。あいつはそう簡単にやられたりはしないよな」
言いながら心が高揚するのが分かる。大丈夫だと心に言い聞かせていたが、それでもやっぱり不安だったのだ。
こうして残るは北の残存兵。侵入した数からすれば、たった一割ほどか。
だが順調にいけば、これすらも残らないはずだった。それ程までに、闇の中での石獣は強かった。
しかし一部で強固な抵抗を受け、結果として全滅には至らなかった。
だがそれでも、最初の予想では問題ないはずだった。
石獣の力を見誤っていたのは俺も同じだ。想定では、数日間をかけてじっくり殲滅する予定だったのだから。
ところが、また新たな穴を開けられた。
修復した翌日にだ。これは完全に誤算といえる。
そして今、石獣たちは中に残った人間は無視して、外周に空いた穴で侵入者と戦闘中。
石獣は強いが、複雑な命令は出来ない。
攻撃対象を人間にすれば中の人間へも向かうが、それでは大量に侵入されて元の木阿弥。
今はこのまま当初の命令を継続するしかない。
――とりあえず、状態は落ち着いたのだろうか?
人類軍は新たな侵入口を開けたが、人間の明かりを攻撃しろという命令はそのままだ。
坑道は言うまでも無く真っ暗。明かりが無ければどうしようもないだろう。
松明を使えば侵入できるだろうが、数十万人が松明片手に坑道に入るような真似を普通はしない。
そして、数千人程度なら石獣の敵ではない。
魔道の光で照らしながら侵入しようとする人類軍は、早々に石獣に襲撃され屍を増やしている。
――少し休むべきだろうか?
この戦いが始まってから、今何日目なのだろう。
開戦以来ずっと地下。力尽きて寝てしまった以外は起きっぱなしの休みなし。そろそろ体力は限界に近い。
だが何もせずにじっとしていられるほど優勢ではない。こうして柱に魔力を送り、常に人類の動向を確認しなければ落ちつけもしないのだ。
副産物として、炎の竜巻の精霊たちは元気一杯である。
しかし領域の修復は、やはりかなりの負担だった。正直もうやりたくない。
だがまあ予定は変わったが、今現在人間の侵入は抑えられている。
中に残った人間は首無し騎士辺りに任せて、少しは休養を取るのも大切な気がする。
こんな長期戦は生まれて初めてなので、配分が分からないのが辛い所だ。
人間はよく、こんな状況で戦えるものだな。
そんな事を考えていた瞬間だった。
そう、瞬間。一瞬にして、領域境界にいた石獣たちの命が消え去った。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
第三王子に転生したけど、その国は滅亡直後だった
秋空碧
ファンタジー
人格の九割は、脳によって形作られているという。だが、裏を返せば、残りの一割は肉体とは別に存在することになる
この世界に輪廻転生があるとして、人が前世の記憶を持っていないのは――
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい
増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた
3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ
いくらなんでもこれはおかしいだろ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる