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【 それぞれの未来 】

夜の前哨戦 後編

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「あ、あれは……管制! こちら625。相手はカル……」

 まだ起動していなかった625号機の操縦席コクピットを、巨大な斧が切断する。
 その背後から、ようやく起動を終えた1騎の人馬騎兵が近づくが――、

「動きが鈍いな。まだ炉は温まっていないと見える」

 走る――ではなく、歩くといった様子だ。まだ完全起動には至っていない。
 だが、その手に持つ武器の威力は本物だ。

重甲鎧ギガントアーマーごときが!」

 高々と掲げられた長柄戦斧ハルバードがカルタ―めがけて振り下ろされる。
 だがそれは、下から打ち上げられた大斧により、真っ二つに切断された。

 カルタ―の下にある装甲騎兵にはほとんど衝撃が無い。
 打ち合ったのではなく、相手の武器を切り裂き弾き飛ばした――そう形容していいだろう。切断された長柄戦斧ハルバードの先端は、回転しながら地面に突き刺さる。
 だがそれよりも早く、カルタ―の巨大戦斧バトルアックス操縦席コクピットである人間部分の胴体を深々と貫いていた。

「これで3騎か。残りの1騎はまだ動けまい。鹵獲しておけ。無理ならぶっ壊せ!」


 戦闘国家ティランド連合王国の盟主にして、ティランド王国の国王、カルター・ハイン・ノヴェルド・ティランド。
 経済にうとく、政治は無知。所詮しょせんは将軍上がりとも揶揄やゆされる。
 だが一兵卒から将軍にまで、その戦闘力だけでのし上がり、今では超大国のトップに君臨する男。
 魔王相和義輝あいわよしきに破れこそしたが、間違いなく人類最強の一角と呼んで良いほどの豪傑であった。

 そしてそのセンスは、個人の技量には留まらない。

「陛下、第一目標の七か所、全て優勢との事です。奇襲は大成功です!」

 細かな指揮はグレスノームが行っているが、概要目標の設定と部隊編成の妙はカルタ―の技だ。
 連合王国軍の各部隊は、ジェルケンブール王国の駐屯地を襲撃。これを散々に打ち破っていた。
 人馬騎兵が本格稼働した地域には飛甲騎兵隊が投入され、数に任せて蹂躙する。
 ジェルケンブール軍にも飛甲騎兵はあるが、この闇世の中を、連合王国ほど低空で飛ぶ勇気は無かった。
 正確に言うのであれば、飛甲騎兵乗りにその勇気があっても、司令部から許可が降りなかったのだ。




 ◇     ◇     ◇




 ジェルケンブール王国本陣。
 各駐屯地よりも少し後方に位置し、正規兵40万人、民兵380万人をようする主力部隊だ。

 国王クライカは開戦から1時間も経たぬうちに支度を済ませ、作戦会議の場におもむいていた。
 会議室は土作りの部屋で、見た目上は立ち並ぶ兵舎と変わりは無い。飛行機関が発達した世界では、戦地で『ここが司令部ですよ』なんて目印は付けないものだ。
 だが中には美しい星や月が描かれた壁紙が貼られ、足元にはふかふかのベージュの絨毯。そして暖房も管理されている。

 全員が絨毯の上に胡坐あぐらで座る。この国の基本的な風習だ。
 各戦線からは忙しなく情報が入り、それを担当各位で協議する。
 飛甲騎兵隊を投入しないのも、ここで決まった事だった。慣れない土地での夜間戦で消耗するよりも、地上部隊を犠牲にしてでも夜明けまで待つ方を選んだ結果だ。
 奇襲より混乱に陥った前線に対し、司令部は冷静さを失ってはいなかったのだ。

「しかし、分かっていながらここまでやられるとはな。流石は軍事馬鹿だ。いくさいては、あちらの方が何枚も上手か」

 クライカ王としては面白くは無いが、現実は受け入れなければいけない。
 伸びきった戦線、迫る停戦協議の日……彼らも、今この時期に攻勢をかけて来る事は解っていた。
 それを踏まえて何重いくえにも張り巡らせた警戒網と防衛体制を敷いていたにも関わらず、わずか1夜で崩されたのだからたまらない。

「各駐屯地からの引き揚げは進んでいるな?」

「はい、予定通り殿しんがりを置いて、機動部隊は撤収しています。ですが追撃は予想よりも激しいものでして……」

「それも想定済みだっただろう。一体何をしているのか」
「何より人馬騎兵だ。無駄に孤立したまま戦わせるより、急ぎ帰還させよ」
「確認された全てが機動部隊か……これでは民兵は役に立たぬな」

 クライカ王に応じた参謀の一人に、他の将軍達が一斉に口を出す。
 多少まとまりには欠けるが、ある意味いつもの事だ。
 各々おのおのがバラバラにしゃべっていても、すべて把握し的確に判断する。それがジェルケンブール王国国王、クライカ・アーベル・リックバールト・ジェルケンブールの持ち味だったのだから。

 彼らの前には、低いテーブルに置かれた部隊配置図がある。
 要塞陣地の最前線、7つの駐屯地が全て同時に襲撃を受けた。報告によれば、攪乱の為の少数部隊ではなく本隊規模だ。ならば、夜明けと同時に帰る事は考えられない。決戦が行われると見て間違いないだろう。

「夜明けまでに後方の部隊も参集させよ。ここでティランド連合王国の主力部隊を叩き、この戦を終わらせようぞ」

「「「ハハッ!」」」

 終わりの期限が決まっている戦争だ。相手を滅ぼすまで戦うようなことは互いに考えていない。
 ティランド連合王国の主力が失われれば、もう事実上の停戦だ。後は、優位に領土分割の交渉に入れるだろう。
 だがもし敗れることになれば、停戦はぎりぎりまでもつれ込む。場合によっては、魔族領侵攻戦に出遅れる危険もある。
 そうなれば、四大国としての威信に深い影を落とし、場合によっては、この戦争自体が無駄になる危険すらあるだろう。外交関係もまた、戦争と同じほどに重要なのだ。

「浮遊城はどうなっている?」

「御神体の支度はつつがなく……しかし、本当によろしいのでしょうか?」

「国家存亡の機である。使えるのならば出すべきであろう。勿論、出さずに越したことは無かろうがな……」
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