185 / 421
【 それぞれの未来 】
魔王とマリッカ 前編
しおりを挟む
マリッカが2頭連れてきた時点で判ってはいたが、移動は徒歩ではなく馬だ。
騎乗なんてのは生まれて初めての経験だが、言葉が通じるのはありがたい。
後ろにエヴィアもちょこんと乗っているので、まあ振り落とされることは無いだろう。
「それにしても、君達は人間に飼われているんだろ? 魔王を運んじゃっていいものかね」
『そだねー、いいんじゃない?』
馬の返事は何ともいい加減だ。深くは考えていないように見える。
まあ意志疎通は出来るが、根本的に知力が違うのだから仕方が無い。難しい思考はしないのだろう。
だが、いつか炎と石獣の領域で見たムカデよりも馬鹿っぽいのはどうなのよ。
しかし考えてみれば、馬に命令してもらえば人間の騎馬隊を無力化できたのではないだろうか? 今更ながらに、そんなことが頭をよぎる。
「出来たかな。でも魔王が命令しないからしなかったよ」
くそー、何という放任主義。
「常々思っているんだが――」
「そろそろ野営地です。そこで休憩しましょう」
少しエヴィアに聞きたい事があったが、先にマリッカから声がかかる。
確かに馬に乗りっぱなしは疲れる。休憩できるのはありがたいが――
「そういや聞いてなかったな。目的地までは何日かかるんだ?」
「8日間です。途中町にも寄りますが、基本は無人地を通ります」
なるほど……やはり警戒の為だろうな。
こんな大氷原ではなく、もう少し人間世界を見たかった気もするが仕方が無い。立場が立場だ、そこは弁えよう。
そんな事を考えていると、遠くの方に小屋が見える。
石造りだろうか、大きくはないが堅牢そうな建物だ。あそこが今夜の宿という事か。
入口は厩と一体型になっており、中に馬を止めて更に奥へと入る造りだ。住む場所というよりも、完全に旅人仕様だなこれは。
「どんな人間が、こんな場所を利用するんだ?」
誰が用意したのか分からないが、ちゃんと飼葉も準備してある。普段はどんな目的で使われているのだろうか?
「ここはかつての狩場の中継跡と聞いています。今では永らく放置されていましたが
貴方の為に準備したのですよ」
「それは助かるよ」
彼女はさっさと奥の扉を開け、やはり石造りの部屋へと入っていく。
後ろにくっついて入ると、中はそれなりに広い。中央には八角形の小さなテーブルが設置されており、その周囲を囲むように木の長椅子が置かれている。その奥には荷物を置くためだろうか、大きな棚が置かれ、その更に奥には金属製の2段ベッドが配置してある。
ただ外程では無いが、中も相当に寒い。ここで野営と言っても……。
そう考えていたが、マリッカはテーブルの下で何かをすると、部屋全体が温まってくる。
「これは暖房か? この世界にもあるんだ」
「どうやって生活していると思ったんですか? それにホテルにも設置されていたでしょう?」
「ホテルはそれほどには寒くはなかったしな。それにしても、やっぱりホテルを知っているか。それに君が来たことにも驚いたよ」
暖房の使い方は分かりませんでしたってのは、言わないでおこう……。
「そうですか? まあ自由に動けて魔王を護送できる人材は限られていますからね。私が選ばれたのは近くにいたからでしょう」
そう言って外套をばさりと脱ぐと、壁に掛ける。
今までよくわからなったが、やっぱり女性だ。
背はやはり160センチ程で、全体的に少しむっちりとした女性らしい肉付きが見て取れる。
髪も見えていた通りの白銀で、エヴィアと似た感じの丸みのあるショートカット。ただ前を伸ばしており、両目をその前髪で隠している。ちょっと変わった髪型だ。
下に着ていたのは、襟の立った白い軍服に青い膝上丈のスカート。軍服の襟と胸ポケットには階級章のようなマークが付いている。
これ服装やマークにも微妙に見覚えがあるが、スカートについている三つ星に流線の模様は忘れようもない。確かコンセシール商国の紋章だ。
というか、軍服は誂えではなく普通の物なのだろう。押さえつけられた胸元が不自然なほどに、それこそぼわんと擬音が付きそうな程に主張している。今にもボタンを弾き飛ばして出て来そうな迫力だ。
見ていいものか……いや、なんとなく見るのが気恥ずかしくなって、つい目を背けてしまう。
(魔王も男ですね……)
そんな相和義輝の様子を見ながら、マリッカは魔王の脳内ポジションをスケベの位置に移動させた。
とりあえず、俺の外套になっていた部分はにゅるりと収納され、エヴィアも既に脱いでいる。先ずは座って一休みだ。
「身分証で予想はついたけど、君はコンセシール商国の人間だったんだな。リッツェルネールだったか……彼は息災かな?」
知り合いかどうかは分からないが、人間が残した資料では、それなりに偉かったと思われる。同じ国の軍人なら、知っていてもおかしくはなさそうだ。
「そう言えば顔見知りでしたね。報告書によると、最初は牢屋に入っていたとか。そこで会ったんですよね」
「ああ。今から考えれば出来レースだったんだろうが、それでも命の恩人だと考えているよ。こんな立場じゃなければ、会って挨拶したいところだ」
「確かに魔王という立場では、気軽に会って昔話とはいかないでしょうね。あの人は元気に動き回っていますよ。少々困るくらいです」
俺の言葉を冗談だと思ったのだろうか? マリッカは出会って初めての微笑みを見せた。
正面から見ると、右の瞳は完全に隠れているが、左は碧色の瞳が少し見えている。斜めに切ったいびつな髪型だ。
大きな瞳に少しふっくらとした頬。かなりの童顔に見える。そして少しでも下に視線を向けると、そこに聳える凶悪なブツ。視線に困る……。
騎乗なんてのは生まれて初めての経験だが、言葉が通じるのはありがたい。
後ろにエヴィアもちょこんと乗っているので、まあ振り落とされることは無いだろう。
「それにしても、君達は人間に飼われているんだろ? 魔王を運んじゃっていいものかね」
『そだねー、いいんじゃない?』
馬の返事は何ともいい加減だ。深くは考えていないように見える。
まあ意志疎通は出来るが、根本的に知力が違うのだから仕方が無い。難しい思考はしないのだろう。
だが、いつか炎と石獣の領域で見たムカデよりも馬鹿っぽいのはどうなのよ。
しかし考えてみれば、馬に命令してもらえば人間の騎馬隊を無力化できたのではないだろうか? 今更ながらに、そんなことが頭をよぎる。
「出来たかな。でも魔王が命令しないからしなかったよ」
くそー、何という放任主義。
「常々思っているんだが――」
「そろそろ野営地です。そこで休憩しましょう」
少しエヴィアに聞きたい事があったが、先にマリッカから声がかかる。
確かに馬に乗りっぱなしは疲れる。休憩できるのはありがたいが――
「そういや聞いてなかったな。目的地までは何日かかるんだ?」
「8日間です。途中町にも寄りますが、基本は無人地を通ります」
なるほど……やはり警戒の為だろうな。
こんな大氷原ではなく、もう少し人間世界を見たかった気もするが仕方が無い。立場が立場だ、そこは弁えよう。
そんな事を考えていると、遠くの方に小屋が見える。
石造りだろうか、大きくはないが堅牢そうな建物だ。あそこが今夜の宿という事か。
入口は厩と一体型になっており、中に馬を止めて更に奥へと入る造りだ。住む場所というよりも、完全に旅人仕様だなこれは。
「どんな人間が、こんな場所を利用するんだ?」
誰が用意したのか分からないが、ちゃんと飼葉も準備してある。普段はどんな目的で使われているのだろうか?
「ここはかつての狩場の中継跡と聞いています。今では永らく放置されていましたが
貴方の為に準備したのですよ」
「それは助かるよ」
彼女はさっさと奥の扉を開け、やはり石造りの部屋へと入っていく。
後ろにくっついて入ると、中はそれなりに広い。中央には八角形の小さなテーブルが設置されており、その周囲を囲むように木の長椅子が置かれている。その奥には荷物を置くためだろうか、大きな棚が置かれ、その更に奥には金属製の2段ベッドが配置してある。
ただ外程では無いが、中も相当に寒い。ここで野営と言っても……。
そう考えていたが、マリッカはテーブルの下で何かをすると、部屋全体が温まってくる。
「これは暖房か? この世界にもあるんだ」
「どうやって生活していると思ったんですか? それにホテルにも設置されていたでしょう?」
「ホテルはそれほどには寒くはなかったしな。それにしても、やっぱりホテルを知っているか。それに君が来たことにも驚いたよ」
暖房の使い方は分かりませんでしたってのは、言わないでおこう……。
「そうですか? まあ自由に動けて魔王を護送できる人材は限られていますからね。私が選ばれたのは近くにいたからでしょう」
そう言って外套をばさりと脱ぐと、壁に掛ける。
今までよくわからなったが、やっぱり女性だ。
背はやはり160センチ程で、全体的に少しむっちりとした女性らしい肉付きが見て取れる。
髪も見えていた通りの白銀で、エヴィアと似た感じの丸みのあるショートカット。ただ前を伸ばしており、両目をその前髪で隠している。ちょっと変わった髪型だ。
下に着ていたのは、襟の立った白い軍服に青い膝上丈のスカート。軍服の襟と胸ポケットには階級章のようなマークが付いている。
これ服装やマークにも微妙に見覚えがあるが、スカートについている三つ星に流線の模様は忘れようもない。確かコンセシール商国の紋章だ。
というか、軍服は誂えではなく普通の物なのだろう。押さえつけられた胸元が不自然なほどに、それこそぼわんと擬音が付きそうな程に主張している。今にもボタンを弾き飛ばして出て来そうな迫力だ。
見ていいものか……いや、なんとなく見るのが気恥ずかしくなって、つい目を背けてしまう。
(魔王も男ですね……)
そんな相和義輝の様子を見ながら、マリッカは魔王の脳内ポジションをスケベの位置に移動させた。
とりあえず、俺の外套になっていた部分はにゅるりと収納され、エヴィアも既に脱いでいる。先ずは座って一休みだ。
「身分証で予想はついたけど、君はコンセシール商国の人間だったんだな。リッツェルネールだったか……彼は息災かな?」
知り合いかどうかは分からないが、人間が残した資料では、それなりに偉かったと思われる。同じ国の軍人なら、知っていてもおかしくはなさそうだ。
「そう言えば顔見知りでしたね。報告書によると、最初は牢屋に入っていたとか。そこで会ったんですよね」
「ああ。今から考えれば出来レースだったんだろうが、それでも命の恩人だと考えているよ。こんな立場じゃなければ、会って挨拶したいところだ」
「確かに魔王という立場では、気軽に会って昔話とはいかないでしょうね。あの人は元気に動き回っていますよ。少々困るくらいです」
俺の言葉を冗談だと思ったのだろうか? マリッカは出会って初めての微笑みを見せた。
正面から見ると、右の瞳は完全に隠れているが、左は碧色の瞳が少し見えている。斜めに切ったいびつな髪型だ。
大きな瞳に少しふっくらとした頬。かなりの童顔に見える。そして少しでも下に視線を向けると、そこに聳える凶悪なブツ。視線に困る……。
0
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~
結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は
気が付くと真っ白い空間にいた
自称神という男性によると
部下によるミスが原因だった
元の世界に戻れないので
異世界に行って生きる事を決めました!
異世界に行って、自由気ままに、生きていきます
~☆~☆~☆~☆~☆
誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります!
また、感想を頂けると大喜びします
気が向いたら書き込んでやって下さい
~☆~☆~☆~☆~☆
カクヨム・小説家になろうでも公開しています
もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~>
もし、よろしければ読んであげて下さい
髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜
あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。
そんな世界に唯一現れた白髪の少年。
その少年とは神様に転生させられた日本人だった。
その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。
⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。
⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)
転生幼女は幸せを得る。
泡沫 ウィルベル
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!?
今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる