この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 大火 】

裏切りの空

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 黒い穴に吸い込まれる、燃え盛る金属片。それがハルタールの小さな女帝を切り裂いて行く。
 だがそれは、切れども斬れども端から塞がり、かすり傷一つ残さない。
 包まれた炎によりその姿は遠巻きにしている兵士達からは見えないが、ククルストの義眼にはっきりと映る。裂かれた肉と肉の間から噴き出すもの。それは血ではない、極彩色の煙――魔力。

 ――ああ、そうだったんだね……。

 時間としてはわずか数秒。黒き闇と炎が消えた時、そこに残ったのは真っ赤にただれ、芯まで焼けて黒い煙を漂わせるククルストの巨体と、それを支える女帝の姿。

 オスピアの衣類はもはや一片すら残さず失われているが、その肌は傷一つなく美しいままだ。

「大義であったの……ククルスト。よくぞここまで生きた。約束通り、其方の遺体は彼の地に埋めようぞ。魂は、魔族の元へと行くがよい」

「有難き……しあわ……せに…………」

 女帝の体に微かに銀の鎖が浮かび上がると、ククルストの失われた瞳にかつて望んだ景色が映る。

 地平線の彼方まで生い茂る、緑映える大草原。柔らかな風が吹く暖かな世界。その中に、誰かが立っている。
 上半身は草原の色をした肌の子供の様。下半身は真っ赤な花で、そこから生えた根っこでぎこちなく歩いてくる。
 両手を広げ、満面の笑顔で自分の名を呼んでいる。

「ああ、君はそんな姿をしていたんだね。うん、分かるよ。目は見えなかったけど、何度も触れあったからね。ただいま……もうこれからは、ずっと離れないよ」

 ゴトゴトと、ククルストの2つの義眼が焼けた大地に落ちる。
 戦いの決着を知り、ハルタール帝国軍から歓声が巻き起こった。

 ――真っ直ぐな男であったの……。

 だからこそ、付け込まれたのだ。その心の隙に……あの男の囁きに…………。




 その上空400メートル――

「こちら飛行騎兵隊ラウ・ハルミール。目標を発見。これより全騎突入する。繰り返す――」

 音もなく飛来した空を飛ぶ騎兵隊。角ばった細長い胴に2枚のデルタ翼。先端には二匹のエイを十字に重ねた形の衝角が光る。全体は青く塗装され、7本の尾を持つ白き三つの星マークが見える。
 コンセシール商国飛甲騎兵隊、その数2千騎。それが一斉に、ゼビア王国残党軍に襲い掛かった。

「魔力注入!」
「魔力注入良し!」

 先端の衝角とデルタ翼の翼刃を輝かせながら、風切音だけを上げて呆然とする兵士達の群れに突入する。
 鎧袖一触――地を走る飛甲騎兵が、民兵はおろか鎧を着た兵士達すら、何の障害にもならず切り裂いていく。
 数百メートルを駆け抜け再度上昇した後には、真っ赤な線と大量の地肉が残るだけだ。

「な、なぜコンセシールが!」
「奴等、裏切ったのか!」
「条約違反じゃないか! 何を考えているんだ!」

 ゼビア王国軍は大混乱に陥った。自分達に兵器を売り、この戦争を支えた張本人から攻撃されるなど、夢にも思っていなかったのだ。

「人馬騎兵で防戦に入れ! 民兵は散開! 各個の判断で撤退せよ!」

 兵士達を守るために立ちふさがる人馬騎兵。そこへ、騎体後部のアンカーフックを下ろした飛甲騎兵隊が殺到する。
 そしてワイヤーが武器や手足に当たると反動でフックが回転し、手や足にガッチリと固定された。

「こ、こいつら、何を!?」

 人馬騎兵の操縦士も必死で操作するが、四方から、それも上から引かれては身動きが取れない。
 その動きを封じられた人馬騎兵の人体部分に、背後から衝角を輝かせた飛甲騎兵が突撃する。
 響き渡る金属を切り裂く音。そして真っ二つに引き裂かれた人型部分コクピットは、轟音を立てて大地に落下した。

 アンカーフックを装備した飛甲騎兵は商国の物だけだ。人馬騎兵を開発した時に、将来に向けての対抗手段を同時に考えていた結果であった。




 飛甲騎兵隊の襲撃を受けているのは、ここだけではなかった。
 ゼビア王国が各地に残した物資集積所や防衛拠点といった要地、更にはラッフルシルド王国やケイネア王国も同様に攻撃を受けていた。

 リッツェルネールからすれば、赤子の手を捻るより簡単だった。
 ゼビア王国や他の国は、人馬騎兵という強大な力を手に入れた。だが一方で、それは運用方法すら確立していない新兵器。その扱いは生産国であるコンセシールのアドバイスによって用いられた。

 更に長年の商売により蓄積された国家事情。これらを踏まえれば、どんなルートを通り何処を拠点にするか、もう地図を見ただけで分かる。
 後はそれらを潰しつつ、敗残兵の脱出口に要地を築き殲滅する。残るは微調整だけの簡単な仕事だけだ。

 彼が――というよりコンセシール商国軍が拠点としていたケルベムレソンの街の戦いは、予定の12日どころか、実質的には7日で終わってしまっていた。
 果敢に攻めたラッフルシルド王国軍であったが、マリクカンドルフの防衛陣を崩せず、逆に7日目に折角掛けた橋を落とされてしまったのだ。

 結果として、多数の民兵を街の包囲に残しつつ、人馬騎兵と本隊は進む羽目になった。だが当然ながら、出口の山には小さいながらも要塞が築かれている。そこで苦戦している間に予定日となり、その軍は背後から飛甲騎兵隊の襲撃を受け壊滅したのであった。

「では、俺は包囲している民兵どもをかたづけてくる。カリオン殿はどうする」

「ああ、もうリッツェルネールで良いですよ。当面はここで指揮する事になります。暫くは忙しくて動けないですね。言う必要も無いとは思いますが、ご武運をお祈りしていますよ」

 地図と配置図を確認しながらそう言う彼を見て、マリクカンドルフは少し人間的な違和感を感じていた。
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