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【 大火 】
ケルベムレンの戦い 前編
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ゼビア王国の西、ラッフルシルド王国とケイネア王国、そして賛同した小国家群もまたハルタール帝国首都を目指して北東へと進軍をしていた。
鎧も無く、厚い冬コートに武器だけを持った民兵の軍団が国境を侵す様は、まるで領域攻略のようだ。
そしてその中には、重装備で固めた正規軍、そして人馬騎兵もいる。
どちらの国も、ゼビア王国からそれぞれ4騎を与えられていたのだった。
これらの国も200キロ程は順調に侵略し、存分に殺戮と略奪を行った。
だがラッフルシルド王国がハルタール帝国の都市、ケルベムレンを攻めた時、状況は一変する。
ケルベムレンは、最大直系7.3キロメートルの楕円形の台地に出来た街であり、周囲から40メートルほど高地にあった。土台は石垣で補正され、見た目はまるで都市規模の城の様だ。
ここには現在、ハルタール帝国軍18万人と民兵11万人が籠城していた。
対するはラッフルシルド王国軍77万人、民兵528万人、そして4騎の人馬騎兵。
スパイセン王国が攻略中の山岳都市エルブロシーと違い、ここは完全に要地だ。
周囲には広い平野部が広がり、その外周は高い山で塞がれている。
この平野への出入り口は3本しかなく、1本がラッフルシルド王国軍の侵入口、もう一本はハルタール帝国内部への道、最後は山中にある別の小さな街へと続いている。
これだけの大軍に冬の山を越えさせることは出来ない。何としてでも、この地を落とさなければ先へは進めないのだ。
「全民兵隊、突撃を敢行せよ!」
碧色の祝福に守られし栄光暦218年1月17日。
ラッフルシルド王国国王、サウル・ハム・ラッフルシルドの号令が戦場に響く。
全身を覆うのは黄金色の全身鎧。その右肩から腰に掛けては黒で竜の姿が彫られている。
兜の上には2本の牛の角。面壁は空いている様に見えるが、そこには水晶のレンズが嵌め込まれ、僅かに濃い茶色の髪と同じ色の瞳が覗いている。
手にする刃渡200センチの大型剣の柄の根元には、多数の紐による房。刀身も鎧に合わせた黄金色。見るからに派手な装束だが、これはこの国の正規軍全てがそうだ。勿論メッキではあるが、見た目の派手さなら北方国隋一であろう。同時に、勇猛果敢さでも名を馳せた兵団であった。
王の指示の下、街の周囲を包囲していた民兵隊が一斉に石垣へと殺到する。
街に入るための坂道は既に土魔法により潰されている。人馬騎兵は上ることが出来ず、また重武装の兵士も登れない。こういった戦場は民兵隊の出番だ。
輜重隊や後方の支援を除いても、その総数は400万を超える。その大集団の叫びは、声だけで街を飲み込んでしまいそうな勢いだ。
街はその雄たけびだけで戦意を失ったように沈黙し、一切の反撃をしてこない。その間に民兵は悠々と石垣に取り付き、長いはしごをかけ一斉に上り始める。
「よし、いいぞ! いいぞ!」
「これなら楽勝ね。もしかしたら、防衛隊なんていないのかしら」
「お前ら、油断するなよ」
小さな村から出てきた、まだ若い兵士達――いや、正しくは兵士ではない。単に武装しただけの市民だ。
彼らは抵抗無く登れる石垣に、何一つ疑問も持たずに上まで一気に登りきる。
この戦いで戦果を挙げれば、今までよりももっと良い生活が出来る。もしかしたら大活躍をして新たな血族を名乗る資格が得られるかもしれない……そんな、夢を抱いていた。
石垣を登りきった所は、ごく普通の平らな地。周囲には奥行き数百メートル程の畑があり、その内側が市街地だ。
畑の向こうに、彼らのような田舎者では滅多に見ることが出来ない近代的な金属ドームが見える。もし観光であれば、それだけでも十分に満足してしまっただろう。
だが、彼らがまず目にしたのはそれではない。畑となっていた部分にあるのは、巨大な落とし穴。深さは20メートル程だろうか。最初はカモフラージュされていたのだろう。奈落の底では、先行した者達の生き残りが苦痛に呻いている。
内堀ではなく落とし穴なのは、最初に偽装されたいたからだけでは無い。数百メートル間隔で、穴は橋により分断されていたからだ。
手前は広く、奥に行くほど狭くなる漏斗状の端。
恐怖で身がすくむが、後ろからは次々と味方の民兵たちが昇ってくる。何人かが慌てて振り向き警告を発するが、その声は味方の声にかき消されて届かない。
「そろそろ頃合いだな。奴らに教えてやれ、みじめな侵略者の末路というものをな」
これは最初から予想されたいた戦い。
統制の無い民兵に対し、ケルベムレン守備隊による猛攻が始まった。
鎧も無く、厚い冬コートに武器だけを持った民兵の軍団が国境を侵す様は、まるで領域攻略のようだ。
そしてその中には、重装備で固めた正規軍、そして人馬騎兵もいる。
どちらの国も、ゼビア王国からそれぞれ4騎を与えられていたのだった。
これらの国も200キロ程は順調に侵略し、存分に殺戮と略奪を行った。
だがラッフルシルド王国がハルタール帝国の都市、ケルベムレンを攻めた時、状況は一変する。
ケルベムレンは、最大直系7.3キロメートルの楕円形の台地に出来た街であり、周囲から40メートルほど高地にあった。土台は石垣で補正され、見た目はまるで都市規模の城の様だ。
ここには現在、ハルタール帝国軍18万人と民兵11万人が籠城していた。
対するはラッフルシルド王国軍77万人、民兵528万人、そして4騎の人馬騎兵。
スパイセン王国が攻略中の山岳都市エルブロシーと違い、ここは完全に要地だ。
周囲には広い平野部が広がり、その外周は高い山で塞がれている。
この平野への出入り口は3本しかなく、1本がラッフルシルド王国軍の侵入口、もう一本はハルタール帝国内部への道、最後は山中にある別の小さな街へと続いている。
これだけの大軍に冬の山を越えさせることは出来ない。何としてでも、この地を落とさなければ先へは進めないのだ。
「全民兵隊、突撃を敢行せよ!」
碧色の祝福に守られし栄光暦218年1月17日。
ラッフルシルド王国国王、サウル・ハム・ラッフルシルドの号令が戦場に響く。
全身を覆うのは黄金色の全身鎧。その右肩から腰に掛けては黒で竜の姿が彫られている。
兜の上には2本の牛の角。面壁は空いている様に見えるが、そこには水晶のレンズが嵌め込まれ、僅かに濃い茶色の髪と同じ色の瞳が覗いている。
手にする刃渡200センチの大型剣の柄の根元には、多数の紐による房。刀身も鎧に合わせた黄金色。見るからに派手な装束だが、これはこの国の正規軍全てがそうだ。勿論メッキではあるが、見た目の派手さなら北方国隋一であろう。同時に、勇猛果敢さでも名を馳せた兵団であった。
王の指示の下、街の周囲を包囲していた民兵隊が一斉に石垣へと殺到する。
街に入るための坂道は既に土魔法により潰されている。人馬騎兵は上ることが出来ず、また重武装の兵士も登れない。こういった戦場は民兵隊の出番だ。
輜重隊や後方の支援を除いても、その総数は400万を超える。その大集団の叫びは、声だけで街を飲み込んでしまいそうな勢いだ。
街はその雄たけびだけで戦意を失ったように沈黙し、一切の反撃をしてこない。その間に民兵は悠々と石垣に取り付き、長いはしごをかけ一斉に上り始める。
「よし、いいぞ! いいぞ!」
「これなら楽勝ね。もしかしたら、防衛隊なんていないのかしら」
「お前ら、油断するなよ」
小さな村から出てきた、まだ若い兵士達――いや、正しくは兵士ではない。単に武装しただけの市民だ。
彼らは抵抗無く登れる石垣に、何一つ疑問も持たずに上まで一気に登りきる。
この戦いで戦果を挙げれば、今までよりももっと良い生活が出来る。もしかしたら大活躍をして新たな血族を名乗る資格が得られるかもしれない……そんな、夢を抱いていた。
石垣を登りきった所は、ごく普通の平らな地。周囲には奥行き数百メートル程の畑があり、その内側が市街地だ。
畑の向こうに、彼らのような田舎者では滅多に見ることが出来ない近代的な金属ドームが見える。もし観光であれば、それだけでも十分に満足してしまっただろう。
だが、彼らがまず目にしたのはそれではない。畑となっていた部分にあるのは、巨大な落とし穴。深さは20メートル程だろうか。最初はカモフラージュされていたのだろう。奈落の底では、先行した者達の生き残りが苦痛に呻いている。
内堀ではなく落とし穴なのは、最初に偽装されたいたからだけでは無い。数百メートル間隔で、穴は橋により分断されていたからだ。
手前は広く、奥に行くほど狭くなる漏斗状の端。
恐怖で身がすくむが、後ろからは次々と味方の民兵たちが昇ってくる。何人かが慌てて振り向き警告を発するが、その声は味方の声にかき消されて届かない。
「そろそろ頃合いだな。奴らに教えてやれ、みじめな侵略者の末路というものをな」
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