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【 儚く消えて 】
四大国 前編
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そこは一階建ての小さなドーム建築。全体は黒に近い鈍色に塗装され、入り口は四方に4カ所あるだけだ。
一見すればこの都市にある何の変哲もない建物だが、この周辺は一切の立ち入りが禁止されている。部外者が入り込めば、問答無用で斬り殺されても文句が言えない場所であった。
中に入ると、そこには完全武装した20人程の兵士が詰めている。全員が無国籍。この都市の、この建物を警護するために集められた特殊武官達だ。
カルターは無言で、王家の証明書――四角で囲まれた牛の彫刻が輝くルビーのメダルを掲げる。
兵士達もまた無言。だが彼らは静かに礼をして道を開ける。
その先には分厚い金属で作られた、銀行の金庫室を思わせる大きな扉があった。
そしてカルターは結局、一言も発せぬままその扉の奥へと消えていった。
扉の先は細い通路。そしてその先にまた扉。今度は迎賓館を思わせる、樫作りの豪勢なものだ。
(全くご苦労なこった。どうせ外に出れば、会合の内容について部下らと話しあう。ここまで厳重な場所を作らんでも、適当な迎賓館で良いではないか……)
眼には見えないが、幾重にも張られた厳重なセキュリティが施された通路を進み、扉を開く。
そこはもう、別世界であった。
部屋自体は普通の小部屋。だが漂う空気が違う。
これは強大な魔力による感覚。この世界では力の弱い者、愚かな者は生きられない。国家としては尚更だ。
ティランド連合王国の前国王もそうであった。全身から漂う強大な魔力は自然と周囲の人間を畏怖させた。その力に誰もが従い、自分も憧れたものだ。
そしてここに集まったのは、人類最大国家のトップ。皆、先王同様の怪物たち。
しかし僅かの怯みも見せられない。ここは間違いなく戦場なのだ。新米の王だからと手を抜くなど有り得ない。少しでも弱みを見せれば、たちまち取って食われるだろう。
そこには既に、今回集まるべき4人の人間が揃っていた。
中央の四角いテーブルを囲むようにソファが配置され、3人の人物が座っている。壁の隅にはペンやインクが置かれた小さなテーブル備え付けられ、そこにも一人の男が座っていた。
「ようやく全員が揃いました。それでは会合を始めましょう。カルター殿、どうぞお座りください」
そう促したのはカルターの正面にいる男。背は高く肩幅も広い。少し色の入った肌に面長で切れ目。額には3つの黒い点が縦に入り、異様な福耳と艶やかな黒髪を似合わないおさげにしている。
世界四大国の一つ、東の大国ジェルケンブール王国の国王、クライカ・アーベル・リックバールト・ジェルケンブールだ。
促されるまま、黒い革のソファにずしりと腰を落とす。
カルターが座った右側に居るのは、南の大国――軍事大国とも呼ばれるムーオス自由帝国の皇帝、ザビエブ・ローアム・ササイ・ムーオス。
左に座るのが北の大国、ハルタール帝国の女帝、オスピア・アイラ・バドキネフ・ハルタール。
「議題は言うまでもないでしょうな、魔王の一件。今世界の関心の全てがこれに注がれていると言っても過言ではありますまい。我が国では毎日この記事ばかりですよ。ハハハハハ」
そう言ったのは ザビエブ皇帝だ。
漆黒の肌に230センチの長身。背が高いのでシルエットは痩せ気味に見えるが、それでも普通の人間より肩幅がある。赤みを帯びた白目は南方国家の普通の人間だが、相和義輝が見たら、こちらの方が魔族っぽいと思うだろう。
「そちらに注目が集まるのは良き事。それまでは、我らに対する中傷と糾弾が主であったからの」
こちらは北方全域を支配する オスピア女帝。
僅か131センチと小さく、その背丈より長い淡い金髪と淡い緑の大きな瞳。立派な礼服を着ているが、あまりにも似合っていない。
だがその小さな姿に反し僅かの子供らしさも見せず、凛とした佇まいには畏敬すら感じられる。
世界中央にティランド連合王国、北全域にハルタール帝国、東をジェルケンブール王国、南方にムーオス自由帝国。この4つを指して世界四大国を呼ぶ。
全てが中央の定めた1等国であり、世界にはこの4つしか1等国は存在しない。
この他には7つの門を守護する7国家、壁沿いにある小国家、そして四大国同士の国境に点在する中立国があるが、彼らは実質人類の命運を決められるような立場にはない。
世界を支配し動向を決めるのはこの四大国であり、他の国はそれぞれの意見を補正し動く手足にすぎないのだ。既に東、中央、南の3人の指導者は代が変わっているが、壁の建造を決めたのも、魔族領侵攻を決定したのもこの4か国である。
一見すればこの都市にある何の変哲もない建物だが、この周辺は一切の立ち入りが禁止されている。部外者が入り込めば、問答無用で斬り殺されても文句が言えない場所であった。
中に入ると、そこには完全武装した20人程の兵士が詰めている。全員が無国籍。この都市の、この建物を警護するために集められた特殊武官達だ。
カルターは無言で、王家の証明書――四角で囲まれた牛の彫刻が輝くルビーのメダルを掲げる。
兵士達もまた無言。だが彼らは静かに礼をして道を開ける。
その先には分厚い金属で作られた、銀行の金庫室を思わせる大きな扉があった。
そしてカルターは結局、一言も発せぬままその扉の奥へと消えていった。
扉の先は細い通路。そしてその先にまた扉。今度は迎賓館を思わせる、樫作りの豪勢なものだ。
(全くご苦労なこった。どうせ外に出れば、会合の内容について部下らと話しあう。ここまで厳重な場所を作らんでも、適当な迎賓館で良いではないか……)
眼には見えないが、幾重にも張られた厳重なセキュリティが施された通路を進み、扉を開く。
そこはもう、別世界であった。
部屋自体は普通の小部屋。だが漂う空気が違う。
これは強大な魔力による感覚。この世界では力の弱い者、愚かな者は生きられない。国家としては尚更だ。
ティランド連合王国の前国王もそうであった。全身から漂う強大な魔力は自然と周囲の人間を畏怖させた。その力に誰もが従い、自分も憧れたものだ。
そしてここに集まったのは、人類最大国家のトップ。皆、先王同様の怪物たち。
しかし僅かの怯みも見せられない。ここは間違いなく戦場なのだ。新米の王だからと手を抜くなど有り得ない。少しでも弱みを見せれば、たちまち取って食われるだろう。
そこには既に、今回集まるべき4人の人間が揃っていた。
中央の四角いテーブルを囲むようにソファが配置され、3人の人物が座っている。壁の隅にはペンやインクが置かれた小さなテーブル備え付けられ、そこにも一人の男が座っていた。
「ようやく全員が揃いました。それでは会合を始めましょう。カルター殿、どうぞお座りください」
そう促したのはカルターの正面にいる男。背は高く肩幅も広い。少し色の入った肌に面長で切れ目。額には3つの黒い点が縦に入り、異様な福耳と艶やかな黒髪を似合わないおさげにしている。
世界四大国の一つ、東の大国ジェルケンブール王国の国王、クライカ・アーベル・リックバールト・ジェルケンブールだ。
促されるまま、黒い革のソファにずしりと腰を落とす。
カルターが座った右側に居るのは、南の大国――軍事大国とも呼ばれるムーオス自由帝国の皇帝、ザビエブ・ローアム・ササイ・ムーオス。
左に座るのが北の大国、ハルタール帝国の女帝、オスピア・アイラ・バドキネフ・ハルタール。
「議題は言うまでもないでしょうな、魔王の一件。今世界の関心の全てがこれに注がれていると言っても過言ではありますまい。我が国では毎日この記事ばかりですよ。ハハハハハ」
そう言ったのは ザビエブ皇帝だ。
漆黒の肌に230センチの長身。背が高いのでシルエットは痩せ気味に見えるが、それでも普通の人間より肩幅がある。赤みを帯びた白目は南方国家の普通の人間だが、相和義輝が見たら、こちらの方が魔族っぽいと思うだろう。
「そちらに注目が集まるのは良き事。それまでは、我らに対する中傷と糾弾が主であったからの」
こちらは北方全域を支配する オスピア女帝。
僅か131センチと小さく、その背丈より長い淡い金髪と淡い緑の大きな瞳。立派な礼服を着ているが、あまりにも似合っていない。
だがその小さな姿に反し僅かの子供らしさも見せず、凛とした佇まいには畏敬すら感じられる。
世界中央にティランド連合王国、北全域にハルタール帝国、東をジェルケンブール王国、南方にムーオス自由帝国。この4つを指して世界四大国を呼ぶ。
全てが中央の定めた1等国であり、世界にはこの4つしか1等国は存在しない。
この他には7つの門を守護する7国家、壁沿いにある小国家、そして四大国同士の国境に点在する中立国があるが、彼らは実質人類の命運を決められるような立場にはない。
世界を支配し動向を決めるのはこの四大国であり、他の国はそれぞれの意見を補正し動く手足にすぎないのだ。既に東、中央、南の3人の指導者は代が変わっているが、壁の建造を決めたのも、魔族領侵攻を決定したのもこの4か国である。
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