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【 戦争 】
針葉樹と蔓草の森 中編
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「ねえこれ世界一般の人間より弱くない?」
「魔王より弱いのは子供くらいかな? 大人げない真似はしちゃダメだって誰かが言ってたよ」
ああああ……夢も希望も崩れ去っていくよ。
これでは戦うとかそういった次元じゃない。身を守る事すら難しくなってきた。
「立場的なものはそうだね、被保護者かな?」
「被保護者? 俺が? 魔王が? 誰に? 何で?」
「魔人が魔王を保護するよ。それが昔交わした約束かな。覚えてないけど」
もし表情があったら笑顔で言っていそうな、そんな風に感じる言葉だった。
保護か……あのとき全ては魔人が決めたような事を言われた。そして、彼がこれから死ぬのだと言う事も大体感じ取っていた。
「なあ、先代の魔王はどうして死んだんだ?」
「それは魔王に近かった魔人しか知らないかな」
表情が無いからだろうか、あっけらかんとした物言いに感じる。少し他人事のような感じで、ちょっとだけ引っかかった。
「魔人は人間の侵略に対してどう思っているんだ?」
「成るように成れかなー? 魔人によって考えは違うけど、エヴィアは人間のする事には口は出さないよ」
魔人スースィリアも微動だにしない。これはエヴィアの言葉を肯定していると言う事なのだろうか?
「じゃあそろそろ出発しようかな。これから魔王が何をするにも準備が必要かな。急がば回れって誰かが言ってたよ」
そうか、そうだな。確かにこの草むらで座っていても何も進まない。
何をするにも情報、そして準備だ。これからの事を思うと何とも頼りない状態だけど、ここから一歩づつ進んでいかないとな。
しかし改めて自分の格好を見ると、上半身裸のこの状況は何ともみっともない。
他に身に着けているものといえば、ズボン、ベルト、ポーチ……それに腰には一本の剣。
オルコスの息子の剣、持ってきてしまったな。悠久の希望を求め、永劫の明日の世界へか……人類はどんな未来を思い描いていたのか。
そんな黄昏にも似た気分も、魔人スースィリアがひゅっと頭を下ろしてくるといっぺんに吹き飛んでしまう。
「いや、いいから歩こう。もう苔の世界は抜けたんだし、ゆっくりのんびり旅をしようよ」
「大丈夫だから乗るかな」
魔人エヴィアに腕を掴まれ強制的に乗せられてしまう。
ああ、俺もう死ぬの? 体力の限界はとうに過ぎてるよ。もう気力で生きてるだけだよ?
だが、乗ってみるとそんな心配は不要だった。
ゆっくり、ゆっくりと進む。
鎌首をもたげ、頭を振らず体を揺すらず、足だけでわしゃわしゃと進む。
確かにこれなら大丈夫だ。
ただ生物的な金属的な、見る分には少年心をくすぐられるが、乗ると痛い外皮が――
そう考えたとたん、体がずぶりと沈む。まるで柔らかいクッションのようだ。
「こんなことが出来るの?」
ここ数日は驚きの連続だったが、これは不意打ち的な驚きだった。
「このくらいなら出来るかな。」
そう言って広げたエヴィアの右手には指が10本ある!
「でも腕を増やすとかは無理かな。そうすると、もうエヴィアはエヴィアを保てなくなってしまうかな」
保てなくなってしまう。それはなんとなく判った。初めて彼女を見た時、その姿や命から彼女の名前を理解できた。それが崩れてしまうと言う事なのだろう。しかしそうなった時、一体彼女は何になるというのだろう。
空には鳥が羽ばたき、巨大な針葉樹の枝にはリスのような小動物や虫もいる。
風が葉を擦るカサカサという音に交じって、何処からか動物の鳴き声も聞こえてくる。
ここは命に溢れているな。
炎と石獣の領域から門までの道中、殆ど景色に変化のない荒野だった。人間の土地になり、人間に不要な生き物を全て殺したら、ここもああなって行くのだろうか。もっと時間があったら、人間の世界を見てみるのも良かったかもしれない。
それにしても風が心地いい。ふんわりとした柔らかい感じもあり、ついつい眠ってしまいそうだ。
しかし、ここもここで少し変わった所だ。
高い針葉樹に囲まれているが、蔓草は地面にだけ生えている。蔓科の植物なのに上を目指さないのだろうか。針葉樹に絡みつき上へ上へと目指していけば、もっともっと光を得ることが出来るはずなのに。
あまりの気持ちよさにウトウトする。どこかで囁きが聞こえてくる。
「大丈夫だよ魔王。あの上の光は私達には眩しすぎる」
「気にしてくれてありがとう、でもあの上の風は私達には冷たすぎる」
「またいつか会いましょう、優しい魔王」
いつの間にか眠ってしまったのだろうか……声は聞こえず、風で木の葉が擦れあう音しかしない。
ふと振り向く……そこはスースィリアの巨体が通った為、耕された地面が筋状に続いている。なんか蔓草大惨事だ!
だが、魔人エヴィアは「大丈夫かな」とだけしか言わなかった。
「食事かなー。蜜蟻の蜜だよー」
またそれか! 出会ってからそれしか口にしていない気がするぞ。というか何処にでもいるのな、その蟻。
「人間が解除していない領域には必ずいるかな。生命力が強いのは良い事だって誰かが言ってたよ」
領域か……。
「魔王より弱いのは子供くらいかな? 大人げない真似はしちゃダメだって誰かが言ってたよ」
ああああ……夢も希望も崩れ去っていくよ。
これでは戦うとかそういった次元じゃない。身を守る事すら難しくなってきた。
「立場的なものはそうだね、被保護者かな?」
「被保護者? 俺が? 魔王が? 誰に? 何で?」
「魔人が魔王を保護するよ。それが昔交わした約束かな。覚えてないけど」
もし表情があったら笑顔で言っていそうな、そんな風に感じる言葉だった。
保護か……あのとき全ては魔人が決めたような事を言われた。そして、彼がこれから死ぬのだと言う事も大体感じ取っていた。
「なあ、先代の魔王はどうして死んだんだ?」
「それは魔王に近かった魔人しか知らないかな」
表情が無いからだろうか、あっけらかんとした物言いに感じる。少し他人事のような感じで、ちょっとだけ引っかかった。
「魔人は人間の侵略に対してどう思っているんだ?」
「成るように成れかなー? 魔人によって考えは違うけど、エヴィアは人間のする事には口は出さないよ」
魔人スースィリアも微動だにしない。これはエヴィアの言葉を肯定していると言う事なのだろうか?
「じゃあそろそろ出発しようかな。これから魔王が何をするにも準備が必要かな。急がば回れって誰かが言ってたよ」
そうか、そうだな。確かにこの草むらで座っていても何も進まない。
何をするにも情報、そして準備だ。これからの事を思うと何とも頼りない状態だけど、ここから一歩づつ進んでいかないとな。
しかし改めて自分の格好を見ると、上半身裸のこの状況は何ともみっともない。
他に身に着けているものといえば、ズボン、ベルト、ポーチ……それに腰には一本の剣。
オルコスの息子の剣、持ってきてしまったな。悠久の希望を求め、永劫の明日の世界へか……人類はどんな未来を思い描いていたのか。
そんな黄昏にも似た気分も、魔人スースィリアがひゅっと頭を下ろしてくるといっぺんに吹き飛んでしまう。
「いや、いいから歩こう。もう苔の世界は抜けたんだし、ゆっくりのんびり旅をしようよ」
「大丈夫だから乗るかな」
魔人エヴィアに腕を掴まれ強制的に乗せられてしまう。
ああ、俺もう死ぬの? 体力の限界はとうに過ぎてるよ。もう気力で生きてるだけだよ?
だが、乗ってみるとそんな心配は不要だった。
ゆっくり、ゆっくりと進む。
鎌首をもたげ、頭を振らず体を揺すらず、足だけでわしゃわしゃと進む。
確かにこれなら大丈夫だ。
ただ生物的な金属的な、見る分には少年心をくすぐられるが、乗ると痛い外皮が――
そう考えたとたん、体がずぶりと沈む。まるで柔らかいクッションのようだ。
「こんなことが出来るの?」
ここ数日は驚きの連続だったが、これは不意打ち的な驚きだった。
「このくらいなら出来るかな。」
そう言って広げたエヴィアの右手には指が10本ある!
「でも腕を増やすとかは無理かな。そうすると、もうエヴィアはエヴィアを保てなくなってしまうかな」
保てなくなってしまう。それはなんとなく判った。初めて彼女を見た時、その姿や命から彼女の名前を理解できた。それが崩れてしまうと言う事なのだろう。しかしそうなった時、一体彼女は何になるというのだろう。
空には鳥が羽ばたき、巨大な針葉樹の枝にはリスのような小動物や虫もいる。
風が葉を擦るカサカサという音に交じって、何処からか動物の鳴き声も聞こえてくる。
ここは命に溢れているな。
炎と石獣の領域から門までの道中、殆ど景色に変化のない荒野だった。人間の土地になり、人間に不要な生き物を全て殺したら、ここもああなって行くのだろうか。もっと時間があったら、人間の世界を見てみるのも良かったかもしれない。
それにしても風が心地いい。ふんわりとした柔らかい感じもあり、ついつい眠ってしまいそうだ。
しかし、ここもここで少し変わった所だ。
高い針葉樹に囲まれているが、蔓草は地面にだけ生えている。蔓科の植物なのに上を目指さないのだろうか。針葉樹に絡みつき上へ上へと目指していけば、もっともっと光を得ることが出来るはずなのに。
あまりの気持ちよさにウトウトする。どこかで囁きが聞こえてくる。
「大丈夫だよ魔王。あの上の光は私達には眩しすぎる」
「気にしてくれてありがとう、でもあの上の風は私達には冷たすぎる」
「またいつか会いましょう、優しい魔王」
いつの間にか眠ってしまったのだろうか……声は聞こえず、風で木の葉が擦れあう音しかしない。
ふと振り向く……そこはスースィリアの巨体が通った為、耕された地面が筋状に続いている。なんか蔓草大惨事だ!
だが、魔人エヴィアは「大丈夫かな」とだけしか言わなかった。
「食事かなー。蜜蟻の蜜だよー」
またそれか! 出会ってからそれしか口にしていない気がするぞ。というか何処にでもいるのな、その蟻。
「人間が解除していない領域には必ずいるかな。生命力が強いのは良い事だって誰かが言ってたよ」
領域か……。
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