Lv.

雪鳴月彦

文字の大きさ
上 下
50 / 84
第二章:断罪決行

断罪決行 25

しおりを挟む
「あの死体、体格からして木ノ江医師と判断しても良さそうではあるが……、マネキンの首を移植されているせいできちんとした本人確認ができない。果たしてどこへ持ち去ったのか」

 川辺さんにより閉められるドアの音を背後に聞きながら、あたしは歩を進めるお兄ちゃんを追う。

「まさか、下の物置にあるかもとか想像してるの?」

「そう思うから、こうして向かっているんだ」

 規則的な足音を鳴らし、一階へ。

 確か、マネキンが置かれていたのは階段横の部屋だったはずだ。

 それはお兄ちゃんも覚えていたようで、迷うことなくそちらのドアへ手をかけた。

 カチャリと金属音を鳴らし、ドアが開かれる。

 窓のないその部屋の中は相変わらず暗く、廊下から差し込む光で薄く奥が照らされ様々な雑貨が視界に映る。

 その中の一つ、問題のマネキンは最初に見た通りの位置、部屋の右隅に直立していた。

「……?」

 だけど、その頭部が何かおかしい。

 ゾクリと背筋に痛みにも似た寒気が走り身体が固まる。

 マネキンの頭部。そこにはスキンヘッドの無機質な頭が付いているはずなのに、ここからぼんやりと見えるその部分には髪が生えているように見える。

 まさか、という嫌な予感が込み上げ唾を飲み込む余裕すらもてなくなる。

「……」

 そっと、お兄ちゃんの腕が入口横の壁へと伸びた。

 パチンという乾いた音と共に、室内に明かりが灯る。

 そして、薄闇の中違和感を放出していたマネキンの姿が明確になり。

「…………っ!」

 あたしは声すら出すことができないまま、その場で意識を失ってしまった。

 最後に見た光景は、マネキンの首とすり替えられた木ノ江さんの生首。

 漫画やアニメなんかで見かけるような、安らかな顔じゃない。

 ほとんど白目を剥いた両目を大きく見開き、口は苦悶に満ちたようにいびつな形に歪んでいた。

 昨日見ていたあの朗らかで優しそうな人物と同じ顔とは到底思えないそのギャップに、脳が混乱してしまう。

 ベッドの死体同様、ガムテープで留められた接合部からは滲み出た血が滴りマネキンの胴体を赤く染め、まるで、異界に蠢く化物を目の当たりにしたような恐怖を味わった。



 その後、その化物に追われる悪夢にうなされあたしが飛び起きるのは、この三時間ほど後のこととなる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

後宮の記録女官は真実を記す

悠井すみれ
キャラ文芸
【第7回キャラ文大賞参加作品です。お楽しみいただけましたら投票お願いいたします。】 中華後宮を舞台にしたライトな謎解きものです。全16話。 「──嫌、でございます」  男装の女官・碧燿《へきよう》は、皇帝・藍熾《らんし》の命令を即座に断った。  彼女は後宮の記録を司る彤史《とうし》。何ものにも屈さず真実を記すのが務めだというのに、藍熾はこともあろうに彼女に妃の夜伽の記録を偽れと命じたのだ。職務に忠実に真実を求め、かつ権力者を嫌う碧燿。どこまでも傲慢に強引に我が意を通そうとする藍熾。相性最悪のふたりは反発し合うが──

【完結】残酷館殺人事件 完全なる推理

暗闇坂九死郞
ミステリー
名探偵・城ケ崎九郎と助手の鈴村眉美は謎の招待状を持って、雪山の中の洋館へ赴く。そこは、かつて貴族が快楽の為だけに拷問と処刑を繰り返した『残酷館』と呼ばれる曰くつきの建物だった。館の中には城ケ崎と同様に招待状を持つ名探偵が七名。脱出不能となった館の中で次々と探偵たちが殺されていく。城ケ崎は館の謎を解き、犯人を突き止めることができるのか!? ≪登場人物紹介≫ 鮫島 吾郎【さめじま ごろう】…………無頼探偵。 切石 勇魚【きりいし いさな】…………剣客探偵。 不破 創一【ふわ そういち】……………奇術探偵。 飯田 円【めしだ まどか】………………大食い探偵。 支倉 貴人【はせくら たかと】…………上流探偵。 綿貫 リエ【わたぬき りえ】……………女優探偵。 城ケ崎 九郎【じょうがさき くろう】…喪服探偵。 鈴村 眉美【すずむら まゆみ】…………探偵助手。 烏丸 詩帆【からすま しほ】……………残酷館の使用人。 表紙イラスト/横瀬映

闇の残火―近江に潜む闇―

渋川宙
ミステリー
美少女に導かれて迷い込んだ村は、秘密を抱える村だった!? 歴史大好き、民俗学大好きな大学生の古関文人。彼が夏休みを利用して出掛けたのは滋賀県だった。 そこで紀貫之のお墓にお参りしたところ不思議な少女と出会い、秘密の村に転がり落ちることに!? さらにその村で不可解な殺人事件まで起こり――

死者からのロミオメール

青の雀
ミステリー
公爵令嬢ロアンヌには、昔から将来を言い交した幼馴染の婚約者ロバートがいたが、半年前に事故でなくなってしまった。悲しみに暮れるロアンヌを慰め、励ましたのが、同い年で学園の同級生でもある王太子殿下のリチャード 彼にも幼馴染の婚約者クリスティーヌがいるにも関わらず、何かとロアンヌの世話を焼きたがる困りもの クリスティーヌは、ロアンヌとリチャードの仲を誤解し、やがて軋轢が生じる ロアンヌを貶めるような発言や行動を繰り返し、次第にリチャードの心は離れていく クリスティーヌが嫉妬に狂えば、狂うほど、今までクリスティーヌに向けてきた感情をロアンヌに注いでしまう結果となる ロアンヌは、そんな二人の様子に心を痛めていると、なぜか死んだはずの婚約者からロミオメールが届きだす さらに玉の輿を狙う男爵家の庶子が転校してくるなど、波乱の学園生活が幕開けする タイトルはすぐ思い浮かんだけど、書けるかどうか不安でしかない ミステリーぽいタイトルだけど、自信がないので、恋愛で書きます

何故、私が.......

神々廻
ミステリー
最近、殺人鬼が貴族の青年を中心に殺し回っていると言う噂が広まる。 貴族の青年だけを狙うと聞いていたのだが、何故か私の従者が狙われてしまい、それを目撃してしまった私は一命は取り留めたものの、足を刺されてしまった。 殺人鬼は誰?私に異常に執着して、段々とオカシクなって行く義弟?それとも........? 第4回ホラー・ミステリー大賞に応募してます。誤字が合ったら教えて頂けると嬉しいです!!

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

グリムの囁き

ふるは ゆう
ミステリー
7年前の児童惨殺事件から続く、猟奇殺人の真相を刑事たちが追う! そのグリムとは……。  7年前の児童惨殺事件での唯一の生き残りの女性が失踪した。当時、担当していた捜査一課の石川は新人の陣内と捜査を開始した矢先、事件は意外な結末を迎える。

処理中です...