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雪鳴月彦

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第一章:偽りの招待状

偽りの招待状 10

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 特にお兄ちゃんは、見た目のせいで注目度は高い。

 さっき貴道さんにしていた説明を全員聞いていただろうから、さらに踏み込んで詮索してくるようなことはない感じだけど、それでも物珍しさは拭えないのだろう。

「あの、皆さま。今一つ状況が把握できない事態ではありますが、ひとまず研究所の方へ移動なさいませんか? ここにいましても、六日の午前までは迎えの船もありませんので」

 どうしたものかと立ち尽くす招待客を見回して告げてくる川辺さんに、お兄ちゃんがため息交じりに同意を示す。

「賛成だ。こんな場所でいつまでも固まっていても、解決できる事柄は皆無だろう。サバイバルをしに来たわけでもないんだしな」

「そうですな。私も、休める場所で落ち着きたい。老体にこの暑さは堪えてしまう」

 お兄ちゃんの台詞を継ぐようにして老紳士の人は言うと、雲一つない青空を見上げて目を細めた。

「それでは、ご案内いたしますのでどうぞついてきて下さいませ」

 話がまとまったものと判断してか、軽い会釈とともに背を向け元来た道を引き返し始める川辺さん。

 あたしたちも、特に文句を言う人もなくその後について歩きだす。

「……ねぇ、恭一。これどう思う?」

 歩きだしてすぐ、あたしとお兄ちゃんの間に挟まれるかたちで歩いている絵馬さんが、小声で呟きを漏らしてきた。

「何がだ?」

「何って、この招待よ。あからさまにおかしくない? テーマパークがあるって言われて、そのモニターに選ばれたから来たのに。そんな話全然出てこない。それどころか、他の人たちなんか別の理由で集められてる感じだし。どうなってるのかしら」

 周囲を歩く人たちに気を遣ってか、絵馬さんの声は低い。

「ふん、オレには全く興味がないが、不自然と言えば否定はできないな。今わかっているだけでも、テーマパークのモニター、ボランティア団体シンポジウム、有名シェフの食事会、演奏会に高級ホテルのモニターと五通りの招待状が出回っている。にも関わらず、あの川辺という世話人が言うにはこの島にオレたち以外に人はいないらしい。つまりは、ホテルやテーマパークの従業員も、どこぞの有名シェフも存在していないということだ。この島の所有者にして招待主も不在で、この後に島へ渡る予定の客もなし。……おかしな展開になってきているな」

「……名前もそうだよね」

 話に混ざるように、あたしも思った疑問を口にした。

「手紙には九十九邸なんて名前が書かれてたのに、実際は研究所なんでしょ? そこ意外に目立った施設や建物もないって川辺さん言ってたし、イベントをやる余地がないじゃん。それに、電話の声の話も気になる」

「機械みたいな声ってやつね? そう、それも何か怖いわよね。そんな物を使って仕事の依頼をするなんて、どんな意図があれば必要性が出てくるのかしら。まさか、この現状が既に何かのイベントとか?」

「イベント?」

 言葉の意図が掴めずにあたしが首を傾げると、絵馬さんは補足するように話を続けてくれた。

「そう。これが既に謎解きミステリーみたいなゲームで、川辺さんや下手したら他の人も本当は関係者です、みたいなさ」

「あー、それなら何だか楽しそうですけど。でも、そうだとしたらあの招待状に書かれていた内容はフェイクってことになるんですか?」

「うーん、まぁそうかな。ちょっとしたサプライズ企画みたいな?」

 暑いのか、僅かに息を切らし額に浮かぶ汗をハンカチで拭いながら絵馬さんが言うと、お兄ちゃんが前を見たままそれを否定した。

「それはどうかな。何の前情報も無しに招待状を送りつけておいて、その招待する内容も全くの偽りだったとなれば、クレームが出ておかしくない」

「……それはそうかもしれないけどさ。じゃあ、恭一はどう考える?」

「始めからイベントなんて何もやるつもりがなかった、という見方もある。詩織たちを何らかの理由で集める、そのためだけの口実だな」

「えぇ? ちょっと何よそれ。気味悪いじゃない」
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