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雪鳴月彦

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第一章:偽りの招待状

偽りの招待状 3

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「さて。オレは警察じゃないからそんなことは知らない。……で? これをオレに読ませて、一体何をしてほしいんだ? まさか、代わりに行ってくれと言うんじゃないだろうな?」

 冗談じゃないぞと言いたげに、お兄ちゃんが目を細める。

「うーん、そうしてくれるんなら一番手っ取り早いんだけどね。さすがにそこまで厚かましいことは言えないから、私なりに妥協するわ」

 返された封筒をバッグにしまいながら、ニヤリと笑う絵馬さん。

「妥協?」

「そ。一人で行けとは言わないから、一緒に来てほしいの。知り合いがいてくれたら心強いしさ」

「……いっそ、無視して行かないっていう選択肢はないのか?」

「それも考えたけど、なーんか気にはなってね。行かないで後から面倒なこととかあっても嫌だし、このテーマパークがどんな所なのか、実際に見て確かめたいっていう好奇心もあったり」

 悪戯っぽい笑みを湛えて、絵馬さんはまたコーヒーに口を付ける。

「……そっちの仕事は? お前は学校の教師だろう?」

「お前って呼び方は失礼よ。学校の方には適当に理由をつけて休みをもらうつもりだから、心配しなくてもオーケーよ。そんなことで身動きが取れなくなるなら、始めからここまで相談しには来ないわ」

「確かに。まぁ、払うものさえしっかり払ってくれるなら引き受けても問題はないが、大丈夫なのか? 呼ばれているのは詩織だけだろう?」

 封筒のある場所、絵馬さんのバッグを指差してお兄ちゃんが指摘すると、問われた本人はとぼけたように小首を傾げてみせた。

「そうだけど、でも、一人で来ないと駄目とは書いてないじゃない? ということは、ルール上許されるはずよ。もし注意をされたら、きちんと連絡をまとめない相手側のミスになるわけだし。私に非は発生しない」

「……相変わらず、自分ルールは健在か。わかった、この程度の依頼は引き受けよう。ただし、万が一現地で揉めた場合は詩織が責任を持ってくれ。オレは関わらない。あと、それで帰された場合でも金は貰う」

「それは当然。お金はいくらくらいでやってくれるの? 他人じゃないんだし、少しくらいはおまけしてほしいけど」

 期待するような眼差しをお兄ちゃんへ向ける絵馬さんだったけれど、残念なことにお兄ちゃんは全く見ていない。

 何事かを考え込むように手元のコーヒーを見つめて、少し間を置いてから伏せていた瞳を絵馬さんへ戻した。

「報酬は、全てが終わった後で良い」

「え? 後払い?」

「ああ。こういう特殊な仕事は、正直想定していなかった。移動費にいくらかかるかもまだわからないし、現地でどんな活動をすることになるかも検討がつかない。だから、全ての片がついてから相応の金額を請求させてもらう。こっちも商売なんでな、特にまけてやろうという気持ちはないからその辺はシビアにいくぞ」

 事務的な口調でそう告げて、お兄ちゃんはコーヒーを飲み干す。

 それに対して絵馬さんは不満そうに唇を尖らせてみせたが、残念なことにお兄ちゃんの意見が覆ることもなく。

「ケチだね恭一は。マリネちゃん、こんなのと一緒になんていないで、彼氏でも見つけて離れた方がいいわよ?」

 割と真面目な表情で話を振ってくる絵馬さんに苦笑を返し、あたしは肩を竦める。

「むしろ、こんな兄だから放っておけないってのもありまして。一人にしておいたら、どんなんなるかわかったもんじゃないですもん。普段から掃除はしないし、料理もからっきしだし」

「あー、確かに妹からすれば心配だろうけどねぇ。ま、大抵の男は一人にしておくとまともに生活できない生き物だから」

 あたしと同じように苦笑して、絵馬さんは白い歯を見せる。

「それは一方的な決めつけだな。その気になれば、男の方が女より効率よく家事をこなすことは容易に可能だ。それに、オレはマリネがいなくとも掃除くらいはするし、料理もそれなりに作れる。今はその必要性がないからしていないだけだ」

「あら、大口叩いちゃって。素直じゃない男は誰にも相手にされないわよ?」

「別に、されなくて結構」

 ピシャリと告げ、お兄ちゃんはデスクの方へと戻っていく。

 その姿を目で追いながら、絵馬さんはおかしそうに口元を歪めていた。
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