Lv.

雪鳴月彦

文字の大きさ
上 下
3 / 84
プロローグ

プロローグ 3

しおりを挟む
 生まれつきの白髪。

 肌も全身、みんな白い。

 唯一、瞳だけはほんのりと赤いがこれもアルビノの特徴で、脈絡膜の色素を欠いているのが原因。

 小学校や中学校では当然ながらすごく目立っていたらしくて、本人は見世物にされているみたいで毎日が不快だったと前に教えてくれたことがある。

 いじめられたりしていたとか、そういうことも含んで言っているのかなと解釈していたら、それは全くの逆で何故か女子からはかなりモテていたらしい。

 そして、それが凄く嫌だったと。

 まぁ、あたしもわかるんだ。その女子たちの気持ちは。

 白髪と言っても、老けて見えるとかお爺ちゃんみたいなイメージは微塵もないし、むしろミュージシャンにでもいそうなビジュアル系でかっこいいのだ。

 あ、こいつ絶対にモテるなっていうのが傍目にもわかるオーラを、ビシバシ飛ばしてるみたいな。

 でも、残念なことにお兄ちゃんには恋愛感情というものが欠落しているらしく、そういった周りの反応には無頓着。

 告白されても即お断りで、未だに交際経験はゼロだという。

「オレにとっては、不必要で価値が無い」

 だそうだけど、妹としては将来が不安になる。

 ――まぁ、変なのが付くことがないのは安心だけど。

 あたしとお兄ちゃんは、偽りの兄妹。

 お兄ちゃんが高校一年、あたしが小学五年のときにお互いの親が再婚して家族になった。

 白状してしまうと始めて見た瞬間に一目惚れだったのだけれど、そんなあたしの気持ちになんて気づく気配もなく八年が経過した。

 このまま現状を維持していれば、いずれはあたしまで行き遅れてしまいかねない。

「マリネは、自分のことだけを考えていれば良い。オレのことは気にするな」

 個人的マイナス思考へ船を漕ぎ始めていたあたしの意識を、お兄ちゃんのクールな声が呼び覚ます。

 自分のことだけ、とは大学受験に落ちて浪人中のこの現状を打破することに力を注げと言いたいのだろうか。

 それは余計なお世話と言うものだ。

 親が進学を勧めるから受験しているだけで、個人的に進学には興味ないんだし。

「気にするよー。あたし、自分の兄妹が孤独死して見つかる未来とかやだからね。ちゃんとしっかり計画性をもって生きてよ、大人なんだから」

 自分を棚に上げているのは承知の上で、そんな説教を言ってみる。

「孤独死? マリネはそんな些細なことを気にしているのか? これは意外だ。人に看取られて死ぬことと一人で誰にも気づかれずに死ぬことに、果たしてどれほどの違いがある? 火葬され骨になろうと腐乱して骨になろうと結果は同じ。こんなことを問題にする必要性がない」

「……誰にも気づかれないまま死ぬなんて寂しすぎるじゃん。それに、自分の身体が腐ってくのなんて普通はやだよ。他人に迷惑もかかるし」

 すっごく涼しい顔でグロいことを言ってくるお兄ちゃんに、あたしは表情をしかめる。

「嫌? 何故だ? 死んだ後には意識などない。良いとか嫌とか、そういった感情を持つ必要がないと言うのに、何を恐れる? それに、一人で死ぬのが寂しいというのはあまりにも勝手な決めつけだ。自分がそう思うからと言って、全員が同じ思想とは限らない。友人や家族に看取られるより、一人で静かに死ぬことを心から願う人間だって一定数は存在するし、そんな死に際のことなどどうでも良いと考えている人間もいることだろう。……強いて言えば、割合か。一人で死ぬ孤独死を嫌う傾向にある人間が大半を占めているから、孤独死は寂しいこと、または避けなければいけないことという思い込みが蔓延しているだけ。馬鹿馬鹿しい話だ」

 はぁ、とこれ見よがしなため息をついて、お兄ちゃんはまた背もたれへ身体を預けてしまった。

「でも、他人に迷惑かけたくないってのは常識だし」

「死体処理か? それこそ、専門の業者ややるべき立場の者が対応するだけだろう。報酬を貰っての作業だ、文句を言えるものではない。そもそも、生まれて一度も周囲に迷惑をかけずに人生を終える人間など存在しないのだからお互い様だ」

「……歪んでる。お兄ちゃんの思考は何かが歪んでる」

 悠然と構えるお兄ちゃんの顔へ、半眼になりながら呻いたときだった。

 突然、何の前触れもなくお店のドアがノックされた。

 反射的に、あたしたち兄妹は入口へと振り向く。

「誰か来たよ。返済の催促とかじゃないよね?」

 割と本気でビクつきながらあたしが言うと、お兄ちゃんは

「オレに借金はない。普通に仕事の依頼だろう。ドアを開けてくれ」

 と、あっさりとした返事をして座る姿勢を正した。

 言われた通りに入口へと向かい、恐る恐るドアを開ける。

「こんにちは」

 そこに立っていた人物は、女性だった。

 二十代半ばくらいの、髪の長い綺麗な人。

 まるで、どこかのビルで社長秘書でもしていそうな白い上質なスーツを着ているため、すごく知的に見える。

「えっと、依頼があって来たんだけど……中に入れてもらって良いかしら?」

 ポカンとなってしまったあたしに余裕を含む笑みを見せ、女性が訊いてくる。

「……あ、はい。どうぞ」

 ぎくしゃくとしながらドアを開き、エスコートするように中へ促すと、女性は

「ありがとう」

 と微笑みながらドアをくぐった。

「……」

 何の前触れもなく突然訪れた、見知らぬ女性。

 上品に歩くその女性を眺めるあたしは、この来客が便利屋史上――と言っても歴史は浅いけど――最も残酷で悲惨な仕事を運んできたことになんて、まだ全然気がつくことなどできるわけもなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大正石華恋蕾物語

響 蒼華
キャラ文芸
■一:贄の乙女は愛を知る 旧題:大正石華戀奇譚<一> 桜の章 ――私は待つ、いつか訪れるその時を。 時は大正。処は日の本、華やぐ帝都。 珂祥伯爵家の長女・菫子(とうこ)は家族や使用人から疎まれ屋敷内で孤立し、女学校においても友もなく独り。 それもこれも、菫子を取り巻くある噂のせい。 『不幸の菫子様』と呼ばれるに至った過去の出来事の数々から、菫子は誰かと共に在る事、そして己の将来に対して諦観を以て生きていた。 心許せる者は、自分付の女中と、噂畏れぬただ一人の求婚者。 求婚者との縁組が正式に定まろうとしたその矢先、歯車は回り始める。 命の危機にさらされた菫子を救ったのは、どこか懐かしく美しい灰色の髪のあやかしで――。 そして、菫子を取り巻く運命は動き始める、真実へと至る悲哀の終焉へと。 ■二:あやかしの花嫁は運命の愛に祈る 旧題:大正石華戀奇譚<二> 椿の章 ――あたしは、平穏を愛している 大正の時代、華の帝都はある怪事件に揺れていた。 其の名も「血花事件」。 体中の血を抜き取られ、全身に血の様に紅い花を咲かせた遺体が相次いで見つかり大騒ぎとなっていた。 警察の捜査は後手に回り、人々は怯えながら日々を過ごしていた。 そんな帝都の一角にある見城診療所で働く看護婦の歌那(かな)は、優しい女医と先輩看護婦と、忙しくも充実した日々を送っていた。 目新しい事も、特別な事も必要ない。得る事が出来た穏やかで変わらぬ日常をこそ愛する日々。 けれど、歌那は思わぬ形で「血花事件」に関わる事になってしまう。 運命の夜、出会ったのは紅の髪と琥珀の瞳を持つ美しい青年。 それを契機に、歌那の日常は変わり始める。 美しいあやかし達との出会いを経て、帝都を揺るがす大事件へと繋がる運命の糸車は静かに回り始める――。 ※時代設定的に、現代では女性蔑視や差別など不適切とされる表現等がありますが、差別や偏見を肯定する意図はありません。

季節は巡りて【読者への挑戦状】

雨宮 徹
ミステリー
【「読者への挑戦」があります。】 僕――諫早周平は友人から離島でのバカンスに招待される。 離島には一風変わった館があった。僕たちは思う存分、バカンスを楽しんでいたが……。島は悲劇の舞台に変わっていく。 ※自らの推理を披露するコメントはご遠慮ください。皆さんが楽しむためなので、ご協力をお願いします。 ※犯人は論理的に指摘が可能です。ぜひ、本作に散りばめられた手がかりを根拠に推理をお楽しみください。 ※カクヨム、小説家になろう、エブリスタでも掲載しています。

浜辺で拾ったイケメンは後の超人気俳優でした

紫音
恋愛
夕暮れの浜辺で思いがけず出会った『彼』は、俳優としてデビューを控えたイケメン青年。一般人とは住む世界が違う彼に対し、私は叶うはずのない恋心を募らせていく……。

日本語しか話せないけどオーストラリアへ留学します!

紫音
恋愛
「留学とか一度はしてみたいよねー」なんて冗談で言ったのが運の尽き。あれよあれよと言う間に本当に留学することになってしまった女子大生・美咲(みさき)は、英語が大の苦手。不本意のままオーストラリアへ行くことになってしまった彼女は、言葉の通じないイケメン外国人に絡まれて……? 恋も言語も勉強あるのみ!異文化交流ラブコメディ。

家政夫くんと、はてなのレシピ

真鳥カノ
ライト文芸
12/13 アルファポリス文庫様より書籍刊行です! *** 第五回ライト文芸大賞「家族愛賞」を頂きました! 皆々様、本当にありがとうございます! *** 大学に入ったばかりの泉竹志は、母の知人から、家政夫のバイトを紹介される。 派遣先で待っていたのは、とてもノッポで、無愛想で、生真面目な初老の男性・野保だった。 妻を亡くして気落ちしている野保を手伝ううち、竹志はとあるノートを発見する。 それは、亡くなった野保の妻が残したレシピノートだった。 野保の好物ばかりが書かれてあるそのノートだが、どれも、何か一つ欠けている。 「さあ、最後の『美味しい』の秘密は、何でしょう?」 これは謎でもミステリーでもない、ほんのちょっとした”はてな”のお話。 「はてなのレシピ」がもたらす、温かい物語。 ※こちらの作品はエブリスタの方でも公開しております。

英雄になった夫が妻子と帰還するそうです

白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。 愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。 好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。 今、目の前にいる人は誰なのだろう? ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。 珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥) ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。

買った天使に手が出せない

キトー
BL
 旧タイトル『買った性奴隷が天使過ぎて手が出せない』  妹の結婚式後に飲酒運転の車にはねられた零。気がつくと知らない世界に若返って転生していた。  その世界で性奴隷として売られるが、順応性の高さと天然な性格が相まって買い主であるダイヤを振り回す。  不定期に番外編更新予定です。 ※予告なく性的な表現がふくまれることがあります。  誤字脱字がございましたら教えてもらえると助かります!  

異世界シャーロック

河村大風
ファンタジー
大学に入学したものの特に目標もなくグダグダと面白みのないラノベをwebサイトに投稿し、気づけば2留してしまっていた大学生、和戸村慈恩。 友人の助言で異世界の推理小説を書こうと決意した慈恩はネタ探しのためにブックオフへと向かう。が、その帰り道、不運なことに彼はトラックにはねられて死亡してしまうのだった。 なぜか存在する意識に困惑し目を開けるとそこは自分が今まで夢想し読んできた異世界が広がる。 しかし、その異世界は彼のよく知る異世界とは少し違うところがあった。 それはその世界に膨大な魔法知識を持ち、魔法によるトリックを完璧に推理する名探偵がいたことである。 シャーロック・ホームズ、現実世界の名探偵の名を持つ異世界の少女と出会った慈恩は異世界の様々な魔法殺人事件に遭遇することとなる。 その先に待つ異世界の謎、異世界へ転生してきた理由とは……

処理中です...