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エピローグ
エピローグ 7
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喫茶店の窓から見える景色は、全てが夏の色に包まれていた。
私自身、夏という季節は嫌いではないけれど、ここ数年の異様な暑さだけはどうしても勘弁してほしいとうんざりしながら過ごしている。
窓から見える風景の奥で、ちょうど道路の補修工事をしている人たちの姿が目に映り、こんな炎天下の下で大変だなと、同情と心配の念が湧き上がった。
「――九城先生、どうかされました?」
ぼんやりとしながら外を眺めていた私の正面で、怪訝そうな声があがった。
「いいえ、ちょっと頭の中が疲れてるのかしらね。ぼぅっとしちゃってたわ。外はすごく暑そうね、帰りたくないな。憂鬱になりそう」
顔を前へと戻し、対峙するかたちで座る相手――私の担当編集を務めてくれている前園さんへと向き直る。
二年前から、新しく私の担当に就いてくれた比較的新人の女の子。
ボブカットと丸い眼鏡姿が、高校時代に一緒に創作をしていた泉さんの面影を連想させてくる。
「ああ、そうですよね。最近はずっとスケジュール詰まってましたし、この後も結構余裕はないかもしれないかなぁ……。でも、先生の作業ペースなら全然、問題ないと思います。仕事が早いしクオリティも高いって、わたしの周りじゃ先生はすごく評判良いんですよ」
「あら、嬉しいけれど、それはちょっとプレッシャーね」
わたしを元気づけようとするみたいに、明るく告げてくる前園さんへ笑って返しながら、私は目の前に置かれたアイスコーヒーを一口喉へ流し込んだ。
「えー、先生がプレッシャー感じるなんてあるんですか? 意外ですね。いつも凛としてるイメージなのに」
「それはそうでしょう。私だって、みんなと同じ普通の人間なんだから」
「いやぁ、何があっても常にマイペースってイメージが強いんですけど……。今日だって、初めてシナリオを担当したゲームの発売日なのに、全然浮足立つ感じじゃないですよね? エゴサとか、したくなりませんか?」
「いいえ。特には。それを言うなら、自分一人で書いた小説の方が反応は気になるわ。ゲームのお仕事は思っていたより楽しかったけれど、一人で作ったわけでもないし、私はあくまで一つの役割分担を果たしただけって感覚かしら」
「ストイックですねぇ」
作家、九城風香として初めて挑戦したゲームの物語を創る仕事は、自画自賛になるけれど、かなりうまくできたという手ごたえがあった。
ずっと温めていた推理小説がヒットし、二作目が発売になってから暫くして、大手のゲームメーカーからシナリオを書いてほしいという打診が来たときは、どう返事をしたらいいものかと数日間ほど悩んでいたものの、自分の新しい可能性を試せる良い機会だと覚悟を決め、承諾の返答をしたのは正解だったと言えるだろう。
「それで、お疲れのところ誠に申し訳ないのですが、メールでもお伝えしたようにそろそろ次回作のプロットなんかを考えてほしいなぁ、なんて思いまして。できましたら、推理小説の第三作目……なんて書いていただけますでしょうか?」
喫茶店の窓から見える景色は、全てが夏の色に包まれていた。
私自身、夏という季節は嫌いではないけれど、ここ数年の異様な暑さだけはどうしても勘弁してほしいとうんざりしながら過ごしている。
窓から見える風景の奥で、ちょうど道路の補修工事をしている人たちの姿が目に映り、こんな炎天下の下で大変だなと、同情と心配の念が湧き上がった。
「――九城先生、どうかされました?」
ぼんやりとしながら外を眺めていた私の正面で、怪訝そうな声があがった。
「いいえ、ちょっと頭の中が疲れてるのかしらね。ぼぅっとしちゃってたわ。外はすごく暑そうね、帰りたくないな。憂鬱になりそう」
顔を前へと戻し、対峙するかたちで座る相手――私の担当編集を務めてくれている前園さんへと向き直る。
二年前から、新しく私の担当に就いてくれた比較的新人の女の子。
ボブカットと丸い眼鏡姿が、高校時代に一緒に創作をしていた泉さんの面影を連想させてくる。
「ああ、そうですよね。最近はずっとスケジュール詰まってましたし、この後も結構余裕はないかもしれないかなぁ……。でも、先生の作業ペースなら全然、問題ないと思います。仕事が早いしクオリティも高いって、わたしの周りじゃ先生はすごく評判良いんですよ」
「あら、嬉しいけれど、それはちょっとプレッシャーね」
わたしを元気づけようとするみたいに、明るく告げてくる前園さんへ笑って返しながら、私は目の前に置かれたアイスコーヒーを一口喉へ流し込んだ。
「えー、先生がプレッシャー感じるなんてあるんですか? 意外ですね。いつも凛としてるイメージなのに」
「それはそうでしょう。私だって、みんなと同じ普通の人間なんだから」
「いやぁ、何があっても常にマイペースってイメージが強いんですけど……。今日だって、初めてシナリオを担当したゲームの発売日なのに、全然浮足立つ感じじゃないですよね? エゴサとか、したくなりませんか?」
「いいえ。特には。それを言うなら、自分一人で書いた小説の方が反応は気になるわ。ゲームのお仕事は思っていたより楽しかったけれど、一人で作ったわけでもないし、私はあくまで一つの役割分担を果たしただけって感覚かしら」
「ストイックですねぇ」
作家、九城風香として初めて挑戦したゲームの物語を創る仕事は、自画自賛になるけれど、かなりうまくできたという手ごたえがあった。
ずっと温めていた推理小説がヒットし、二作目が発売になってから暫くして、大手のゲームメーカーからシナリオを書いてほしいという打診が来たときは、どう返事をしたらいいものかと数日間ほど悩んでいたものの、自分の新しい可能性を試せる良い機会だと覚悟を決め、承諾の返答をしたのは正解だったと言えるだろう。
「それで、お疲れのところ誠に申し訳ないのですが、メールでもお伝えしたようにそろそろ次回作のプロットなんかを考えてほしいなぁ、なんて思いまして。できましたら、推理小説の第三作目……なんて書いていただけますでしょうか?」
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